StudyMed医師国家試験

眠っている間に上がる血圧―睡眠時無呼吸が隠す「夜と朝の高血圧」

第116回医師国家試験 A問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第116回 A問題 第1問

睡眠時無呼吸症候群による高血圧について,正しくないのはどれか。

  1. a.夜間高血圧となることが多い。
  2. b.肥満患者では減量を推奨する。
  3. c.α遮断薬が第一選択薬である。
  4. d.家庭血圧では早朝に高血圧となることが多い。
  5. e.持続的気道陽圧法〈CPAP〉で降圧が期待される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、睡眠時無呼吸症候群に伴う高血圧の特徴と治療の考え方を問う問題だ。ポイントは2つ。なぜ無呼吸で血圧が上がるのかという機序と、治療で何を優先するかという順番だ。まずは機序から考えてみよう。眠っている間に呼吸が止まると、体の中では何が起きるかな。
医学生医学生
酸素が下がって二酸化炭素がたまりますよね。それで苦しくなって目が覚める……という流れでしょうか。
ドクタードクター
その通り。無呼吸のたびに低酸素と高二酸化炭素血症が起こり、呼吸が再開するときには脳が短く覚醒する。これが一晩に何十回、重症なら何百回と繰り返されるんだ。そのたびに何が刺激されると思う?
医学生医学生
ストレス反応なので、交感神経ですか。生理学の講義で、化学受容器からの刺激で交感神経が亢進すると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。交感神経の亢進が中心的な機序で、血管収縮や心拍数増加が起こる。さらに、閉じた気道に向かって息を吸おうとするので胸腔内に強い陰圧がかかり、酸化ストレスや血管内皮障害、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の活性化も加わる。こうして血圧が上がるんだ。では、血圧が上がるのはいつの時間帯だろう。
医学生医学生
無呼吸が起こるのは寝ている間なので、夜間ですね。でも普通は寝ている間って血圧は下がるものですよね。
ドクタードクター
そこが大事なところ。健康な人は睡眠中に血圧が1〜2割ほど下がるdipper型をとる。ところが睡眠時無呼吸では夜間の降圧が不十分なnon-dipper型や、むしろ夜のほうが高いriser型になりやすい。だから夜間高血圧が多いという記述は正しい。
医学生医学生
夜に上がった血圧が、朝まで続くということですか。
ドクタードクター
まさに。夜間の高い血圧が起床時まで持ち越されるので、家庭血圧の朝の測定で早朝高血圧として見つかることが多い。外来の診察室では正常なのに、家で測ると朝だけ高い、いわゆる仮面高血圧のかたちをとることもあるんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、家庭血圧手帳の朝の値が高い患者さんに、指導医の先生がいびきや日中の眠気を問診していたのを思い出しました。あれはこれを疑っていたんですね。
ドクタードクター
良い場面に立ち会えたね。いびき、睡眠中の呼吸停止を家族に指摘される、日中の強い眠気、起床時の頭痛などは必ず聞いておきたい。では治療に移ろう。何から始めるべきだと思う?
医学生医学生
原因が無呼吸なので、無呼吸そのものを治すのが先ですか。肥満の人なら減量でしょうか。
ドクタードクター
正解。肥満は閉塞性睡眠時無呼吸の最大の危険因子で、首や咽頭のまわりの脂肪が上気道を狭くする。減量で無呼吸低呼吸指数が改善し、肥満自体が高血圧の危険因子でもあるから降圧効果も期待できる。あわせて就寝前の飲酒を控える、禁煙、睡眠薬の見直し、横向きで寝るといった指導も行う。
医学生医学生
中等症以上ならCPAPですね。でもCPAPって呼吸の治療なのに、血圧まで下がるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。CPAPはマスクから一定の陽圧をかけて上気道がつぶれるのを防ぐ治療だ。無呼吸がなくなれば低酸素も覚醒反応も起きないので、交感神経の過活動が抑えられ、特に夜間血圧を中心に降圧が期待できる。平均すると降圧幅は数mmHg程度と大きくはないけれど、使用時間が長いほど、また治療抵抗性高血圧の患者ほど効果が大きいとされている。
医学生医学生
交感神経が原因なら、薬はα遮断薬がよさそうな気もしてしまうんですが……。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴で、正しくない記述はα遮断薬が第一選択薬というものだ。降圧薬はCPAPなどを行っても血圧が目標に届かないときに追加するもので、睡眠時無呼吸に伴う高血圧に特定の降圧薬が優れているという確立したエビデンスはない。使うなら通常の高血圧と同じく、Ca拮抗薬やARB・ACE阻害薬、少量の利尿薬が基本になる。α遮断薬は褐色細胞腫の術前管理や、早朝高血圧に対する就寝前の追加投与など、限られた場面で使われる薬だよ。
医学生医学生
機序から薬を連想しすぎず、まず原因を治して、薬は一般の高血圧と同じように考える、ということですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。最後に臨床での注意点をまとめよう。睡眠時無呼吸は二次性高血圧の原因として頻度が高く、3剤以上の降圧薬でも目標に届かない治療抵抗性高血圧の背景によく隠れている。治療抵抗性、夜間・早朝高血圧、肥満を伴う高血圧をみたら、パルスオキシメトリなどの簡易検査でスクリーニングし、終夜睡眠ポリグラフ検査で確定する流れを思い出してほしい。
医学生医学生
心房細動や脳卒中のリスクも上がると聞いたことがあります。
ドクタードクター
そうだね。不整脈、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、糖尿病のリスクが高まるし、日中の眠気による交通事故も社会的な問題だ。夜間から早朝の血圧上昇は、この時間帯に多い心筋梗塞や脳卒中とも関係する。血圧だけを見るのではなく、睡眠という背景まで目を向けることが大切なんだ。

まとめ

睡眠時無呼吸症候群では、無呼吸に伴う低酸素と覚醒反応の反復によって交感神経が亢進し、夜間の降圧が乏しいnon-dipper型やriser型の夜間高血圧と、それが持ち越される早朝高血圧をきたしやすくなります。治療の基本は無呼吸そのものへの介入であり、肥満例での減量や節酒などの生活指導と、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸に対するCPAPによって降圧が期待できます。降圧薬はそれでも目標に届かない場合に追加するもので、特定の薬剤が優先されるわけではなく、α遮断薬が第一選択とされることはありません。治療抵抗性高血圧や早朝高血圧、肥満を伴う高血圧では二次性高血圧として睡眠時無呼吸を疑うことが重要で、その視点は心血管イベントの予防にもつながります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

睡眠時無呼吸症候群(SAS:sleep apnea syndrome)は、二次性高血圧の原因として頻度が高い重要な疾患である。SASの大部分は、睡眠中に上気道が閉塞して無呼吸・低呼吸を繰り返す閉塞性睡眠時無呼吸(OSA:obstructive sleep apnea)であり、本問もこれを前提に考える。

高血圧が生じる機序

無呼吸のたびに低酸素血症・高二酸化炭素血症が生じ、呼吸再開時には覚醒反応が起こる。これが一晩に何十回、何百回と繰り返されることで交感神経活動が亢進し、血管収縮や心拍数増加をきたす。さらに胸腔内の強い陰圧、酸化ストレス、血管内皮機能障害、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の活性化なども加わり、血圧が上昇する。

SAS関連高血圧の特徴

・本来は睡眠中に血圧が下がる(dipper型)が、SASでは夜間の降圧が不十分(non-dipper型)、あるいは夜間のほうがかえって高い(riser型)パターンをとりやすい。 ・夜間の高血圧が起床時まで持ち越され、家庭血圧の朝の測定で早朝高血圧として見つかることが多い。 ・降圧薬を3剤以上使っても目標に届かない治療抵抗性高血圧の背景にSASが隠れていることが多い。

治療の考え方

治療の基本はSASそのものへの介入である。肥満例では減量、さらに飲酒制限(とくに就寝前)、禁煙、睡眠薬の見直し、側臥位睡眠などの生活指導を行い、中等症以上のOSAには持続的気道陽圧法(CPAP)を導入する。CPAPで十分に降圧しない場合に降圧薬を併用するが、SAS関連高血圧に対して特定の降圧薬が優れているという確立したエビデンスはなく、通常の高血圧と同様の薬剤が用いられる。したがって「α遮断薬が第一選択薬」という記述は誤りであり、これが本問の正解(正しくないもの)となる。

選択肢考察

  1. ×a.  夜間高血圧となることが多い。

    正しい記述である。睡眠中に無呼吸と低酸素・覚醒反応が繰り返されることで交感神経が亢進し、本来下がるはずの夜間血圧が下がらない(non-dipper型)、あるいは上昇する(riser型)パターンをとりやすい。夜間高血圧は心筋梗塞、脳卒中、大動脈解離など夜間〜早朝に起こる心血管イベントのリスクを高めるため、注意が必要である。

  2. ×b.  肥満患者では減量を推奨する。

    正しい記述である。肥満は閉塞性睡眠時無呼吸の最大の危険因子であり、頸部や咽頭周囲への脂肪沈着が上気道を狭くする。減量により無呼吸低呼吸指数(AHI:1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数)が改善し、肥満そのものが高血圧の危険因子であることからも降圧効果が期待できる。減量に加え、節酒、禁煙などの生活習慣の改善もあわせて指導する。

  3. ○c.  α遮断薬が第一選択薬である。

    誤った記述であり、本問の正解である。SASに伴う高血圧の治療は、減量などの生活指導とCPAPによる睡眠時無呼吸そのものの治療が優先される。降圧薬はCPAPを行っても血圧が目標に達しない場合に追加するもので、SAS関連高血圧に対して特定の降圧薬を推奨する十分なエビデンスはない。用いる場合も通常の高血圧と同様の薬剤が基本となり、α遮断薬が第一選択とされることはない。α遮断薬は褐色細胞腫の術前管理や、早朝高血圧に対する就寝前投与など限られた場面で使われる薬剤であり、一般的な高血圧の第一選択薬(Ca拮抗薬、ARB/ACE阻害薬、少量の利尿薬)にも含まれない。

  4. ×d.  家庭血圧では早朝に高血圧となることが多い。

    正しい記述である。夜間の血圧上昇が起床時まで持続するため、家庭血圧の朝の測定値が高くなり、早朝高血圧として発見されることが少なくない。診察室血圧が正常でも家庭血圧で早朝の高値がみられる場合(仮面高血圧)には、SASを鑑別に挙げて問診(いびき、日中の眠気、睡眠中の呼吸停止の指摘など)を行うことが大切である。

  5. ×e.  持続的気道陽圧法〈CPAP〉で降圧が期待される。

    正しい記述である。CPAP(continuous positive airway pressure)は、マスクを通じて一定の陽圧をかけ、睡眠中の上気道の閉塞を防ぐ治療である。無呼吸と低酸素・覚醒反応がなくなることで交感神経の過活動が抑えられ、とくに夜間血圧を中心に降圧効果が期待できる。中等症以上のOSAに対する治療の第一選択であり、降圧幅は平均すると数mmHg程度と大きくはないが、使用時間が長いほど、また治療抵抗性高血圧の患者ほど効果が大きいとされる。

睡眠時無呼吸症候群の概要

・定義:睡眠中に10秒以上の呼吸停止(無呼吸)や換気量の低下(低呼吸)を繰り返し、日中の眠気などの症状を伴う病態。重症度は無呼吸低呼吸指数(AHI)で評価し、一般に5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症とされる。 ・分類:上気道の閉塞による閉塞性(OSA)が大部分を占める。呼吸中枢からの指令が途絶える中枢性(心不全に伴うチェーン・ストークス呼吸など)もある。 ・症状:大きないびき、睡眠中の呼吸停止(家族の指摘)、日中の過度の眠気、起床時の頭痛、夜間頻尿など。 ・危険因子:肥満、小顎・下顎後退、扁桃肥大、加齢、男性、飲酒など。 ・診断:簡易検査(パルスオキシメトリなど)でスクリーニングし、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で確定する。

合併症

高血圧のほか、心房細動などの不整脈、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、糖尿病などのリスクが高まる。日中の眠気による交通事故も社会的に問題となる。

二次性高血圧としての位置づけ

SASは二次性高血圧の原因として頻度が高く、とくに治療抵抗性高血圧、夜間・早朝高血圧、肥満を伴う高血圧ではスクリーニングを行うべきである。

治療

・生活指導:減量、節酒(就寝前の飲酒を避ける)、禁煙、睡眠薬の見直し、側臥位での睡眠。 ・CPAP:中等症以上のOSAに対する第一選択。 ・口腔内装置(マウスピース):軽症〜中等症例やCPAPが使えない例に用いる。 ・外科治療:扁桃肥大などの解剖学的原因が明らかな場合に考慮する。 ・高血圧が残る場合は降圧薬を追加する。

POINT

・SASによる高血圧は交感神経亢進が主な機序で、夜間高血圧(non-dipper型・riser型)と早朝高血圧が特徴。 ・治療の基本は減量などの生活指導とCPAP。CPAPで降圧が期待できる。 ・降圧薬はCPAPで不十分なときに追加し、特定の薬剤が推奨されているわけではない。α遮断薬が第一選択ではない。 ・治療抵抗性高血圧や早朝高血圧をみたらSASを疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。