血糖が低くてもアクセルを踏み続ける薬―単剤で低血糖を起こす経口血糖降下薬の見分け方
第116回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
単剤の内服で低血糖の原因になる可能性が高いのはどれか。
- a.DPP-4阻害薬
- b.SGLT2阻害薬
- c.ビグアナイド薬
- d.スルホニル尿素薬
- e.αグルコシダーゼ阻害薬
対話形式の解説
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ドクターまとめ
経口血糖降下薬の低血糖リスクは、血糖値に関係なくインスリン分泌を促すかどうかでおおむね決まります。スルホニル尿素薬は膵β細胞のATP感受性カリウムチャネルを閉じて血糖非依存性にインスリンを分泌させるため、単剤でも低血糖を起こしやすく、作用が長いため遷延・再発しやすいのが特徴です。DPP-4阻害薬は血糖依存性の作用のため単剤での低血糖は少なく、ビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、αグルコシダーゼ阻害薬はインスリン分泌を介さないため単剤での低血糖はまれですが、いずれもSU薬やインスリンとの併用時には注意が必要です。αグルコシダーゼ阻害薬内服中の低血糖にはブドウ糖を用いること、腎機能の低下した高齢者ではSU薬による重症低血糖が起こりやすいことも重要です。作用機序から副作用を予測する考え方は、糖尿病診療での安全な薬剤選択の基盤になります。
解答・解説
正解はdです
経口血糖降下薬による低血糖のリスクは、その薬が「血糖値に関係なくインスリン分泌を増やすかどうか」でおおむね決まる。
考え方
・血糖値が低いときにもインスリン分泌を促す薬(血糖非依存性のインスリン分泌促進薬)は、食事量が少ないときや運動後などに血糖を下げすぎてしまい、単剤でも低血糖を起こしうる。スルホニル尿素(SU)薬と速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)がこれにあたる。 ・血糖値が高いときにだけインスリン分泌を促す薬(血糖依存性:DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)は、血糖が正常域まで下がると作用が弱まるため、単剤では低血糖を起こしにくい。 ・インスリン分泌を介さずに血糖を下げる薬(ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、αグルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬)も、単剤での低血糖はまれである。 ただし、どの薬もSU薬やインスリン製剤と併用すると低血糖のリスクが高まる点には注意が必要である。 以上から、単剤で低血糖の原因となる可能性が最も高いのはスルホニル尿素薬である。
選択肢考察
- ×a. DPP-4阻害薬
単剤では低血糖を起こしにくい。DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)は、食事に反応して腸管から分泌されるインクレチン(GLP-1、GIP)を分解する酵素である。DPP-4阻害薬はこの分解を抑えてインクレチンの作用を高めるが、インクレチンによるインスリン分泌促進は血糖値が高いときにのみ働く(血糖依存性)ため、血糖が下がるとインスリン分泌の上乗せも小さくなる。ただしSU薬と併用すると重い低血糖を起こすことがあり、併用時はSU薬の減量が推奨される。
- ×b. SGLT2阻害薬
単剤では低血糖を起こしにくい。SGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)は腎臓の近位尿細管でブドウ糖の大部分を再吸収する輸送体であり、これを阻害すると余分なブドウ糖が尿中に排泄されて血糖が下がる。インスリンを介さない機序であることに加え、血糖が低くなると濾過されるブドウ糖量自体が減ること、より下流のSGLT1による再吸収が代償的に働くこと、糖の喪失に応じて肝臓での糖産生が増えることなどから、低血糖は生じにくい。注意すべき副作用は、脱水、尿路・性器感染症、正常血糖でもケトアシドーシスを起こしうる点(正常血糖ケトアシドーシス)である。
- ×c. ビグアナイド薬
単剤では低血糖を起こしにくい。代表薬はメトホルミンで、主に肝臓での糖新生を抑えることで血糖を下げるほか、末梢組織でのインスリン感受性を改善する。インスリン分泌を直接増やさないため、単独で低血糖を起こすことはまれである。重要な副作用は乳酸アシドーシスであり、腎機能障害、脱水、大量飲酒、ヨード造影剤使用時などでは注意や休薬が必要である。消化器症状(下痢、悪心)も多い。
- ○d. スルホニル尿素薬
単剤で低血糖を起こす可能性が最も高く、本問の正解である。SU薬は膵β細胞のSU受容体に結合してATP感受性カリウムチャネルを閉じ、細胞膜を脱分極させてインスリン分泌を引き起こす。この作用は血糖値に関係なく働く(血糖非依存性)ため、食事を抜いたときや食事量が少ないとき、運動後、飲酒時などに低血糖を起こす。作用時間が長い薬剤が多く、低血糖が遷延したり、いったん回復しても再び低下したりしやすい。特に腎機能が低下した高齢者では薬剤の排泄が遅れ、重症低血糖を起こしやすいため、少量から慎重に用いる。
- ×e. αグルコシダーゼ阻害薬
単剤では低血糖を起こしにくい。小腸の刷子縁にあるαグルコシダーゼ(二糖類をブドウ糖などの単糖に分解する酵素)を阻害し、糖の消化・吸収を遅らせることで食後の血糖上昇を抑える薬である。インスリン分泌に影響しないため単独での低血糖はほとんどない。副作用は腹部膨満感、放屁の増加、下痢などである。なお、SU薬やインスリンと併用中に低血糖を起こした場合、砂糖(ショ糖=二糖類)では分解・吸収が遅れるため、ブドウ糖そのものを摂取させる必要がある。
経口血糖降下薬と単剤での低血糖リスク
・インスリン分泌促進系(血糖非依存性):スルホニル尿素薬(グリメピリド、グリクラジドなど)、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬:ナテグリニド、ミチグリニドなど)。いずれも単剤で低血糖を起こしうる。グリニド薬は作用発現が速く持続が短いため、SU薬より低血糖は起こりにくいが、機序が近く注意は必要である。 ・インスリン分泌促進系(血糖依存性):DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬(注射薬のほか経口薬もある)、イメグリミン。単剤での低血糖リスクは低い。 ・インスリン抵抗性改善系:ビグアナイド薬(メトホルミン)、チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)。チアゾリジン薬は低血糖はまれだが、体液貯留・浮腫・心不全の悪化、体重増加、骨折リスクに注意する。 ・糖吸収・排泄調節系:αグルコシダーゼ阻害薬(アカルボース、ボグリボース、ミグリトール)、SGLT2阻害薬。
低血糖の症状と対応
・交感神経症状:発汗、動悸、手指の振戦、不安感、空腹感。 ・中枢神経症状(神経糖欠乏症状):頭痛、集中力低下、異常行動、意識障害、けいれん。 ・高齢者や自律神経障害のある患者では交感神経症状が出にくく、いきなり意識障害で発症することがある(無自覚性低血糖)。 ・対応:意識があればブドウ糖(または砂糖)を経口摂取させる。意識障害があれば静脈からブドウ糖を投与する(グルカゴンの点鼻・注射も用いられる)。SU薬による低血糖は遷延・再発しやすいため、回復後も入院のうえ経過を観察することが多い。
POINT
・単剤で低血糖を起こしやすい経口血糖降下薬は、血糖非依存性にインスリン分泌を促すスルホニル尿素薬(およびグリニド薬)である。 ・SU薬による低血糖は遷延しやすく、腎機能の低下した高齢者で特に重症化しやすい。 ・DPP-4阻害薬は血糖依存性の作用のため単剤での低血糖は少ないが、SU薬との併用で重症低血糖をきたしうる。 ・ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、αグルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬はインスリン分泌を介さず、単剤での低血糖はまれである。 ・αグルコシダーゼ阻害薬内服中の低血糖にはブドウ糖を用いる。
