食べるたびに腫れて痛む―唾疝痛で見抜く唾石症
第100回医師国家試験 B問題 第20問
国試問題にチャレンジ
唾石症について正しいのはどれか。
- a.舌下腺に好発する。
- b.摂食時に疼痛が増強する。
- c.腺内唾石は口内法で摘出する。
- d.Sjögren症候群に合併しやすい。
- e.エックス線透過性のものが多い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
唾石症は唾液腺の導管や腺体内に結石ができる疾患で、唾液が粘稠でWharton管が長く上行する顎下腺に約8割が生じます。唾石が導管をふさぐため、食事で唾液分泌が増えると腺が急に腫れて痛む唾疝痛が特徴で、食後に軽快する経過を繰り返します。唾石の多くはカルシウムに富むエックス線非透過性で、治療は管内唾石なら口内法、腺内唾石なら外切開による腺摘出が原則です。舌下腺に多いのはがま腫であり、Sjögren症候群は自己免疫性の両側性疾患で唾石症との関連は乏しいことも併せて押さえておきましょう。「導管が詰まれば何が起こるか」という病態から症状・診断・治療を組み立てる視点は、唾液腺疾患全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
唾石症(sialolithiasis)は、唾液腺の腺体内や導管の中に結石(唾石)ができる疾患である。導管内に入り込んだ微小な異物・細菌塊・剥離上皮などが核となり、その周囲にリン酸カルシウムや炭酸カルシウムが層状に沈着して大きくなると考えられている。 本問では、唾石症の基本事項である「好発部位」「典型的な症状」「治療法(部位による摘出法の違い)」「関連疾患」「画像所見」の5点が問われている。
考え方
・好発部位: 顎下腺が圧倒的に多い(約8割)。顎下腺の唾液は粘稠でカルシウム濃度が高く、導管(Wharton管)が長く、口腔底へ向かって上向きに走行するため唾液がうっ滞しやすいことが理由である。 ・症状: 唾石が導管を塞ぐと、食事で唾液分泌が促されたときに唾液の出口がなくなり、腺が急に腫れて痛む。これを唾疝痛(だせんつう)という。食後しばらくすると腫脹・疼痛は軽快するのが典型的な経過である。 ・治療: 唾石がどこにあるかで方法が変わる。導管の前方(口腔底近く)にあれば口の中から導管を切開して摘出し、腺体内にあれば原則として頸部の皮膚を切開して腺ごと摘出する。 ・画像: 多くはカルシウムに富むため単純エックス線やCTで白く写る(エックス線非透過性)。 以上から、摂食時に疼痛が増強するという記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. 舌下腺に好発する。
誤り。唾石の発生部位は顎下腺(腺体および顎下腺管)が約80%と大多数を占め、耳下腺が十数%、舌下腺は数%にすぎない。顎下腺の唾液は粘液成分を含んで粘稠でありカルシウム濃度も高いこと、Wharton管が長く重力に逆らって上行することが好発の理由である。なお舌下腺に関連して頻度の高い疾患としては、唾液が組織内に漏出してできる貯留嚢胞であるがま腫(ラヌラ)が挙げられる。
- ○b. 摂食時に疼痛が増強する。
正しい。食事(特に酸味のある食物)によって唾液分泌が反射的に亢進すると、唾石で閉塞した導管より上流に唾液がたまり、腺体と導管の内圧が急上昇する。このため食事中から食直後に患側の顎下部(または耳下部)が急速に腫れ、強い痛みを生じる。これを唾疝痛と呼び、唾石症に特徴的な症状である。唾液が少しずつ排出されると数十分〜数時間で腫脹・疼痛は軽くなり、これを食事のたびに繰り返すのが典型的である。
- ×c. 腺内唾石は口内法で摘出する。
誤り。口の中から導管を切開して唾石を取り出す口内法(口腔内法)が適応となるのは、主に導管内(特に導管の前方〜中央部)にあって口腔底から触知できる管内唾石である。腺体の中にある腺内唾石は口腔内から到達しにくく、また慢性炎症で腺組織自体が障害されていることが多いため、原則として頸部皮膚を切開する外切開(頸部外切開)で顎下腺ごと摘出する(顎下腺摘出術)。近年は唾液腺内視鏡を用いた摘出や、腺と導管の移行部(腺管移行部)の唾石に対する口内法での摘出も行われるようになっているが、試験対策としては「管内唾石は口内法、腺内唾石は外切開で腺摘出」と整理しておけばよい。
- ×d. Sjögren症候群に合併しやすい。
誤り。Sjögren症候群は、唾液腺や涙腺にリンパ球が浸潤して腺が破壊される自己免疫疾患で、口腔乾燥や眼乾燥、両側耳下腺の反復性腫脹などを起こす。唾石症は導管内の異物や細菌を核とした石灰沈着によって生じる局所的な疾患であり、Sjögren症候群の合併症として唾石症が起こりやすいという関係は一般に認められていない。唾石症は通常片側性で、全身性疾患を伴わない健常成人(中年に多い)に生じることが多い。
- ×e. エックス線透過性のものが多い。
誤り。唾石の主成分はリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)や炭酸カルシウムであり、大部分はエックス線を通しにくい(エックス線非透過性)ため、単純エックス線写真(顎下腺唾石では咬合法撮影が有用)やCTで高吸収の陰影として描出される。石灰化が不十分な唾石はエックス線透過性となり単純写真で写らないが、その割合は全体の2割程度と少数派である。この場合は超音波検査、CT、唾液腺造影、唾液腺内視鏡などで診断する。
唾石症の概要
・好発: 顎下腺(約80%)>耳下腺>舌下腺。中年成人に多く、通常は片側性。 ・成因: 導管内に入った異物・細菌・剥離上皮などを核としてリン酸カルシウムや炭酸カルシウムが沈着する。唾液のうっ滞、唾液の粘稠度やカルシウム濃度の高さが関与する。 ・症状: 摂食時の患側唾液腺の腫脹と疼痛(唾疝痛)が特徴で、食後に軽快する。二次感染を起こすと急性化膿性唾液腺炎となり、発赤・発熱・導管開口部からの排膿を伴う。顎下腺管の唾石は口腔底の双手診で硬い結節として触れることがある。 ・検査: 単純エックス線(咬合法)、CT、超音波検査。エックス線陰性唾石には超音波や唾液腺造影が有用。唾液腺内視鏡は診断と治療の両方に用いられる。 ・治療: 小さな唾石は唾液分泌促進(酸味刺激、マッサージ)で自然排出を期待することもある。管内唾石は口内法で導管を切開して摘出、腺内唾石は外切開による唾液腺摘出術が原則。耳下腺唾石では顔面神経に注意が必要である。
関連する唾液腺疾患
・がま腫(ラヌラ): 主に舌下腺から唾液が漏出してできる口腔底の嚢胞。 ・Sjögren症候群: 自己免疫性の唾液腺・涙腺障害。抗SS-A/SS-B抗体、口唇腺生検でのリンパ球浸潤などで診断。唾液腺造影ではapple tree様の点状陰影を示す。 ・流行性耳下腺炎(ムンプス): 両側耳下腺の腫脹が多いが、摂食との関連は唾石症ほど明瞭ではない。
POINT
・唾石症は顎下腺に好発する(約80%)。 ・摂食時の唾液腺腫脹・疼痛(唾疝痛)が特徴で、食後に軽快する。 ・大部分はエックス線非透過性(透過性は約2割)。 ・管内唾石は口内法、腺内唾石は外切開で腺ごと摘出。 ・Sjögren症候群との関連はない。舌下腺に多いのはがま腫。
