網赤血球が「増えない」ことの意味―貧血の発生機序を4つに切り分ける
第99回医師国家試験 I問題 第16問(連問)
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連問の共通文
次の文を読み,16~18の問いに答えよ。 28歳の男性。全身倦怠感と歯肉出血とのため来院した。 現病歴:2週前から全身倦怠感を自覚していたが,3日前から起床時に歯肉に血がにじんでいるのに気付いた。 既往歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。体温37.2℃。脈拍98/分,整。血圧106/62mmHg。前胸部と下腿とに点状出血を認める。眼瞼結膜は蒼白。リンパ節腫脹はない。第3肋間胸骨左縁に2/6度の収縮期雑音を認める。肺野にラ音を聴取しない。腹部は平坦で,肝・脾を触知しない。神経学的に異常を認めない。 検査所見:尿所見:蛋白1+,糖(-),潜血2+。便潜血反応陰性。血液所見:赤血球205万,Hb 6.6g/dL,Ht 20%,網赤血球1%,白血球2,500(桿状核好中球1%,分葉核好中球26%,好酸球2%,好塩基球1%,単球9%,リンパ球61%),血小板2.1万,出血時間12分(基準7以下),プロトロンビン時間98%(基準80~120),APTT 31秒(基準対照32.2)。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL,アルブミン4.5g/dL,ハプトグロビン45mg/dL(基準19~170),尿素窒素18mg/dL,クレアチニン1.1mg/dL,尿酸4.6mg/dL,総コレステロール135mg/dL,総ビリルビン0.8mg/dL,AST 35U/L,ALT 30U/L,LD 350U/L(基準176~353),Na 140mEq/L,K 4.0mEq/L,Cl 100mEq/L。CRP 0.8mg/dL。
この患者の貧血の発生機序はどれか。
- a.失血
- b.赤血球寿命短縮
- c.赤血球産生低下
- d.赤血球の分布異常
- e.エリスロポエチン低下
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
貧血の発生機序は「産生低下」「破壊亢進」「喪失」「分布異常」に分けられ、その最初の手がかりは網赤血球の絶対数です。高度の貧血にもかかわらず網赤血球が増えていなければ、骨髄が反応できていない低増殖性貧血と判断できます。さらに白血球・血小板も減った汎血球減少で、脾腫や溶血所見がなければ、再生不良性貧血などによる骨髄での造血低下が考えられます。失血や溶血では網赤血球が増え、脾機能亢進症では脾腫を伴い、EPO低下による腎性貧血では他の血球系は保たれる点が鑑別の要点です。比率でなく絶対数で考える習慣は、貧血診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
28歳の男性が、2週間続く全身倦怠感と3日前からの歯肉出血を訴えて受診した。眼瞼結膜蒼白・頻脈(98/分)・胸骨左縁の収縮期雑音は、高度の貧血に伴う症状・所見である(雑音は心拍出量増加と血液粘稠度低下による機能性雑音と考えられる)。前胸部・下腿の点状出血と歯肉出血は出血傾向を示す。肝脾腫とリンパ節腫脹はない。 検査では、赤血球205万/μL・Hb 6.6g/dL・Ht 20%の貧血、白血球2,500/μL、血小板2.1万/μLであり、3系統すべてが減少した汎血球減少である。 ・好中球絶対数:2,500 ×(1+26)% = 675/μL(1,000未満で明らかに減少)。リンパ球比率61%は好中球が減ったことによる相対的増加である。 ・網赤血球絶対数:205万 × 1% = 約2.05万/μL(基準はおおむね5〜10万/μL)。Ht 20%という高度貧血であれば、骨髄が正常なら網赤血球は著明に増えるはずであり、比率1%はむしろ低すぎる。Htで補正した網赤血球(1%×20/45 ≒ 0.4%)でも明らかに低く、骨髄の赤血球産生が貧血に見合う反応をしていない(低増殖性貧血)ことがわかる。 ・溶血の指標:ハプトグロビンは正常範囲、総ビリルビン正常、LDも350U/Lと基準範囲内(上限に近いが正常)であり、有意な溶血は示唆されない。 ・凝固:PT・APTTは正常で、出血時間のみ12分と延長しており、血小板数の低下と整合する。 ・腎機能は正常(クレアチニン1.1mg/dL)。尿潜血2+は出血傾向による尿路出血が考えやすい。
診断へのプロセス
汎血球減少に網赤血球の絶対的低下を伴い、脾腫がなく、溶血や失血を示す所見に乏しいことから、骨髄での造血そのものが低下している病態が考えられる。若年者でこの像をとる代表は再生不良性貧血である。確定には末梢血塗抹で芽球や異形成の有無を確認し、骨髄穿刺・骨髄生検で低形成(脂肪髄)を確認する必要があり、急性白血病(特に白血球の増えないタイプ)、骨髄異形成症候群(MDS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)なども鑑別に挙がる。
設問の考え方
貧血の機序は「産生の低下」「破壊の亢進(寿命短縮)」「喪失(失血)」「分布の異常(脾臓への貯留など)」に大別され、それらを区別する最初の手がかりが網赤血球数である。骨髄が正常に反応できる貧血(失血・溶血)では網赤血球が増加し、産生そのものが障害された貧血では網赤血球が低下する。本例は後者に該当する。
選択肢考察
- ×a. 失血
急性・亜急性の失血では骨髄が正常に反応して網赤血球が増加するはずである。また失血だけでは白血球や血小板まで減る汎血球減少は説明できない。歯肉出血・点状出血・尿潜血はあるが、Hb 6.6g/dLまで下げるほどの出血ではなく、便潜血も陰性である。慢性失血なら鉄欠乏による小球性貧血をきたすが、本例にその所見はない。
- ×b. 赤血球寿命短縮
赤血球寿命短縮(溶血)では、壊れた赤血球を補うため網赤血球が増加し、間接ビリルビン上昇・LD上昇・ハプトグロビン低下がみられる。本例は網赤血球が低下し、ハプトグロビン・ビリルビンは正常、LDも350U/Lで基準範囲内であり、溶血を示す根拠に乏しい。再生不良性貧血自体では赤血球寿命は基本的に正常である。
- ○c. 赤血球産生低下
高度貧血にもかかわらず網赤血球の絶対数が約2万/μLと低下しており、骨髄が赤血球を十分に作れていないことを示す。さらに好中球(675/μL)・血小板(2.1万/μL)も減少した汎血球減少であることから、赤芽球系だけでなく造血幹細胞レベルの障害(再生不良性貧血など)による産生低下が貧血の機序と考えられる。
- ×d. 赤血球の分布異常
分布異常とは、脾腫によって血球が脾臓内に貯留・捕捉される脾機能亢進症などを指し、汎血球減少をきたしうるが、その場合は脾腫を触れ、骨髄は代償性に過形成となるため網赤血球はむしろ保たれるか増加する。本例は肝・脾を触知せず、網赤血球も低下しているので該当しない。
- ×e. エリスロポエチン低下
エリスロポエチン(EPO:腎で産生される赤血球造血因子)の低下が主因となる代表は腎性貧血であるが、本例のクレアチニンは1.1mg/dLで腎機能は保たれている。またEPO低下では白血球・血小板の減少は説明できない。再生不良性貧血では、貧血による組織低酸素に反応してEPOはむしろ著明に高値となる。
貧血の機序による分類と網赤血球
・産生低下:再生不良性貧血、赤芽球癆、白血病・MDS・癌の骨髄浸潤、鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血、腎性貧血など。網赤血球は低下〜正常。 ・破壊亢進(寿命短縮):自己免疫性溶血性貧血、遺伝性球状赤血球症、PNH、血栓性微小血管症など。網赤血球は増加。 ・喪失:急性出血。数日後から網赤血球が増加する。 ・分布異常:脾腫(脾機能亢進症)による血球の貯留。 網赤血球は比率(%)だけでなく絶対数(赤血球数×比率)で評価し、貧血の程度を加味して判断する。網赤血球産生指数(RPI:Ht補正した網赤血球比率を成熟時間で割った値)が2未満なら低増殖性(産生低下)と判断する目安になる。
再生不良性貧血の概要
骨髄の造血幹細胞が減少し、汎血球減少と骨髄低形成(脂肪髄)をきたす疾患である。多くは原因不明の特発性で、造血幹細胞に対するT細胞を介した免疫学的攻撃が主な機序と考えられており、このため免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン+シクロスポリン)が有効である。薬剤(クロラムフェニコールなど)、放射線、肝炎後に続発するものもある。一部の症例ではPNH型血球(GPIアンカー型蛋白欠損血球)が少数検出され、PNHと移行・合併することがある。 症状は貧血症状(倦怠感、動悸、息切れ)、出血傾向(点状出血、歯肉出血)、好中球減少による感染症である。原則として脾腫・リンパ節腫脹はみられず、これらがあれば他疾患を疑う。 検査では網赤血球の絶対的減少、血清EPO・トロンボポエチン高値、血清鉄の上昇・不飽和鉄結合能低下(赤血球系での鉄利用低下による)、骨髄生検での低形成(細胞成分の減少と脂肪組織の増加)、MRIでの椎体の脂肪髄化などがみられる。
重症度の評価
日本の重症度分類では、好中球数(1,000/μL、500/μL、200/μL)、血小板数(5万/μL、2万/μL)、網赤血球数(6万/μL、4万/μL)の閾値と赤血球輸血の必要性で stage 1〜5 に分ける。本例は好中球675/μL、血小板2.1万/μL、網赤血球約2万/μLであり、中等症以上に該当し、定期的な赤血球輸血を要する状態であれば stage 3(やや重症)に相当する。
POINT
・貧血の機序を考えるときは、まず網赤血球の絶対数を確認する(増加→失血・溶血、低下→産生低下)。 ・汎血球減少+網赤血球低下+脾腫なし+溶血所見なし → 骨髄での造血低下(再生不良性貧血を第一に考える)。 ・好中球絶対数・網赤血球絶対数は「白血球数×好中球比率」「赤血球数×網赤血球比率」で計算する。 ・再生不良性貧血ではEPOは上昇し、赤血球寿命は正常、脾腫はない。 ・腎性貧血ではEPOが相対的に低下するが、他の血球系は通常保たれる。
