包皮に隠れた無痛性の腫瘤―組織型から選ぶ陰茎癌の腫瘍マーカー
第99回医師国家試験 G問題 第38問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。排尿困難に加えて両側鼠径部のしこりが自壊し,悪臭と滲出物とが増えてきたため来院した。生来包茎であった。半年前から陰茎亀頭部が腫れてきたが,痛みがないので放置していた。陰茎や鼠径部に痛みはない。尿所見:蛋白1+,糖(-),潜血2+,沈渣に赤血球5~10/1視野,白血球50~100/1視野,桿菌2+。血液所見に異常を認めない。CRP 6.0mg/dL。 この患者で高値となるのはどれか。
- a.CA 125
- b.CA 19-9
- c.CEA
- d.hCG-β
- e.SCC
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
包茎の高齢男性に無痛性の亀頭部腫瘤がみられ、鼠径リンパ節が腫大・自壊している場合は、両側鼠径リンパ節転移を伴う陰茎癌を考えます。陰茎癌は95%以上が扁平上皮癌であるため、腫瘍マーカーとしては扁平上皮癌で上昇するSCC抗原が高値となり、特にリンパ節転移を伴う進行例で上昇しやすくなります。CEAは腺癌、CA 19-9は膵癌・胆道癌、CA 125は卵巣癌、hCGは絨毛性疾患や精巣の胚細胞腫瘍のマーカーであり、陰茎癌とは対応しません。SCC抗原は皮膚疾患や腎機能障害、検体への皮膚成分混入でも偽陽性を示す点に注意が必要です。腫瘍マーカーを臓器名ではなく組織型と結びつけて理解しておくと、まれな癌でも適切なマーカーを推論できるようになります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・70歳の男性で、生まれつき包茎である。 ・半年前から陰茎亀頭部が腫れてきたが、痛みがないため放置していた。 ・現在は排尿困難があり、両側鼠径部のしこりが自壊して、悪臭のある滲出物が増えている。陰茎・鼠径部に痛みはない。 ・尿所見:潜血2+、赤血球5~10/1視野、白血球50~100/1視野、桿菌2+。膿尿と細菌尿があり、尿路感染を伴っている。 ・CRP 6.0mg/dLと炎症反応が上昇している。血算に異常はない。
診断へのプロセス
高齢男性の亀頭部に、痛みのない腫瘤がゆっくり大きくなっている。包茎が背景にあるので、まず陰茎癌を考える。包茎では包皮内に恥垢がたまり、慢性炎症が続くことが発癌の危険因子になる。陰茎のリンパ流はまず鼠径リンパ節へ向かう。両側鼠径部のしこりが無痛性に大きくなり、皮膚を破って自壊・潰瘍化していることは、両側鼠径リンパ節転移として説明できる。腫瘍が大きくなって外尿道口や尿道を圧迫・浸潤すれば、排尿困難が起こる。膿尿・細菌尿、CRP上昇は、腫瘍表面や自壊部の二次感染、尿路感染が加わったものと考えられる。鑑別としては、尖圭コンジローマ(ヒトパピローマウイルス〈HPV〉6・11型による良性の乳頭状病変)、梅毒の硬性下疳、亀頭包皮炎などが挙がる。ただし、半年かけて増大し鼠径リンパ節が自壊するまで進んだ経過は、悪性腫瘍に合う。
設問の考え方
陰茎癌の組織型は95%以上が扁平上皮癌である。したがって、扁平上皮癌で高値となる腫瘍マーカー、SCC抗原(扁平上皮癌関連抗原)を選べばよい。SCC抗原は、腫瘍が限局している段階では陽性率が低い。リンパ節転移がある進行例で上昇しやすく、本例のような鼠径リンパ節転移を伴う例では高値となることが期待される。各選択肢の腫瘍マーカーについては、「どの組織型・どの臓器の癌で上がるか」を対応させて覚えておくことが重要である。
選択肢考察
- ×a. CA 125
CA 125は卵巣癌、特に漿液性腺癌で高頻度に上昇する糖鎖抗原で、卵巣癌の診断補助と治療効果判定に用いられる。癌以外でも、子宮内膜症、月経、妊娠初期、腹膜炎や胸膜炎、腹水・胸水の貯留などで上昇する。扁平上皮癌である陰茎癌のマーカーではない。
- ×b. CA 19-9
CA 19-9はシアリルLewis a抗原を測定する糖鎖抗原で、膵癌、胆道癌で高率に上昇する。胃癌や大腸癌でも上昇することがある。胆管閉塞や膵炎、糖尿病など良性疾患でも上昇する。Lewis抗原陰性の人(日本人の約5~10%)では癌があっても上昇しない。陰茎癌では上昇しない。
- ×c. CEA
CEA(癌胎児性抗原)は主に腺癌で上昇するマーカーで、大腸癌、胃癌などの消化器癌、肺腺癌、乳癌、甲状腺髄様癌などで用いられる。喫煙、高齢、肝硬変、甲状腺機能低下症などでも軽度上昇する。扁平上皮癌の特異的マーカーではなく、陰茎癌の診断には用いない。
- ×d. hCG-β
hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は胎盤の絨毛の合胞体栄養膜細胞から分泌されるホルモンで、β鎖はhCGに特異的な部分である。絨毛癌、胞状奇胎などの絨毛性疾患で著明に上昇する。男性では、精巣の胚細胞腫瘍(絨毛癌、胎児性癌など)で上昇する。セミノーマでも、合胞体栄養膜細胞を含む例では軽度上昇することがある。高齢者の陰茎の扁平上皮癌で上昇するマーカーではない。
- ○e. SCC
SCC抗原(squamous cell carcinoma antigen、扁平上皮癌関連抗原)は扁平上皮癌で上昇する腫瘍マーカーで、子宮頸癌、肺扁平上皮癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌などで用いられる。陰茎癌は95%以上が扁平上皮癌で、特にリンパ節転移を伴う進行例では血清SCC抗原が高値となりやすい。病期の推定や治療効果・再発の監視にも役立つ。本例は両側鼠径リンパ節転移が自壊するほど進行しているので、高値が予想される。なお、SCC抗原は皮膚の角層にも含まれるため、アトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚疾患、腎機能障害でも偽陽性を示すことがある。検体に皮膚成分や唾液が混入した場合も同様である。
陰茎癌の概要
・まれな癌で、60歳以上の高齢者に多い。 ・危険因子:包茎(恥垢の蓄積と慢性炎症)、ヒトパピローマウイルス〈HPV〉感染(主に16・18型)、喫煙、慢性亀頭包皮炎、硬化性苔癬など。新生児期に割礼を行う地域では発生が非常に少ない。 ・組織型:95%以上が扁平上皮癌。 ・症状:亀頭や包皮の内板にできる無痛性の腫瘤・潰瘍で、乳頭状・カリフラワー状に大きくなる。包茎の人では包皮に隠れて発見が遅れやすい。悪臭のある分泌物、出血、排尿障害を伴う。 ・転移:主にリンパ行性で、まず浅鼠径リンパ節、次いで深鼠径リンパ節、骨盤リンパ節(外腸骨・内腸骨・閉鎖リンパ節)へ広がる。陰茎のリンパ管は左右で交通しているため、両側の鼠径リンパ節に転移しうる。遠隔転移は比較的まれである。鼠径リンパ節が大きい場合も、感染による反応性腫大のことがある。 ・腫瘍随伴症候群:進行例では、PTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白)などによる高カルシウム血症を起こすことがある。 ・診断:生検による組織診断。局所の深達度はMRI、リンパ節と遠隔転移はCTなどで評価する。 ・治療:原発巣は、小さく表在性であれば陰茎温存治療(局所切除、レーザー、放射線など)、浸潤癌では陰茎部分切除術・陰茎全摘除術(会陰尿道瘻の造設)を行う。リンパ節転移があれば鼠径リンパ節郭清(必要に応じて骨盤リンパ節郭清)を行う。進行例では化学療法(シスプラチンを含む多剤併用)や放射線療法を組み合わせる。
主な腫瘍マーカーと対応する癌
・SCC抗原:扁平上皮癌(子宮頸癌、肺扁平上皮癌、食道癌、頭頸部癌、皮膚癌、陰茎癌など) ・CYFRA 21-1(サイトケラチン19フラグメント):肺扁平上皮癌など ・CEA:大腸癌・胃癌などの腺癌、肺腺癌、甲状腺髄様癌 ・CA 19-9:膵癌、胆道癌 ・CA 125:卵巣癌(漿液性) ・AFP(α-フェトプロテイン):肝細胞癌、卵黄嚢腫瘍 ・hCG:絨毛癌、胞状奇胎、一部の精巣腫瘍 ・PSA(前立腺特異抗原):前立腺癌 ・NSE(神経特異エノラーゼ)・ProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体):肺小細胞癌
POINT
・包茎の高齢男性で、亀頭部に無痛性の腫瘤がある場合は陰茎癌を考える。 ・陰茎癌は95%以上が扁平上皮癌で、腫瘍マーカーはSCC抗原。 ・リンパ行性転移が主体で、まず鼠径リンパ節(両側に転移しうる)へ広がる。 ・危険因子は包茎・恥垢、HPV(16・18型)感染、喫煙。 ・腫瘍マーカーは組織型と対応させて覚える。扁平上皮癌はSCC、腺癌はCEA、膵胆道癌はCA 19-9、卵巣癌はCA 125、絨毛性疾患・一部の精巣腫瘍はhCG。
