StudyMed医師国家試験

肺炎は治ったのに熱が下がらない―骨髄で血球を食べるマクロファージが語る血球貪食症候群

第99回医師国家試験 G問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第99回 G問題 第34問

3歳の男児。10日間続く発熱を主訴に来院した。病初期に咳が強く,マイコプラズマ肺炎と診断されて治療を受けた。咳は少なくなり,胸部エックス線写真で所見はほぼ正常化したが,39℃ 前後の発熱が続いている。発疹はない。心雑音はない。肺野にラ音を聴取しない。右肋骨弓下に肝を2cm触知する。血液所見:赤血球330万,Hb 11.8g/dL,白血球3,200,総鉄結合能〈TIBC〉380μg/dL(基準290~390)。血液生化学所見:AST 238U/L,ALT 307U/L,Fe 75μg/dL。骨髄有核細胞数35,500/μL。骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。 この患児の血中で増加するのはどれか。2つ選べ。

第99回 G問題 第34問の問題画像
  1. a.血小板
  2. b.フィブリノゲン
  3. c.フェリチン
  4. d.総コレステロール
  5. e.LD

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、感染症の治療後も続く高熱から、背景にある病態を見抜き、その検査値の動きを予測する問題だ。注目してほしいのは、肺炎の所見は改善しているのに熱が続いていること、肝腫大と肝障害、白血球減少、そして骨髄の標本。まずは骨髄の写真から何が見えるか考えてみよう。
医学生医学生
May-Giemsa染色で、大きな細胞の中に赤血球や血小板のようなものが入り込んでいます。マクロファージが血球を食べているように見えます。
ドクタードクター
その通り。細胞質に血球を取り込んだ大型の組織球、つまり血球貪食像だ。経過と合わせると、マイコプラズマ感染を契機とした二次性の血球貪食症候群、血球貪食性リンパ組織球症、いわゆるHLHを考える。
医学生医学生
熱が続くので、最初は肺炎の治療が効いていないか、別の感染が起きたのかと思いました。
ドクタードクター
自然な発想だね。でも胸部の所見はほぼ正常化していて、肺野のラ音もない。原因の感染は落ち着いているのに、体の免疫反応のほうが止まらなくなっているのがHLHなんだ。感染をきっかけに細胞傷害性T細胞やNK細胞が過剰に活性化し、マクロファージも暴走する。IFN-γ、TNF-α、IL-6といったサイトカインが大量に出る、いわば高サイトカイン血症の状態だ。
医学生医学生
小児科の実習で川崎病の子を受け持ったとき、長引く発熱の鑑別に血球貪食症候群が挙がっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。長引く発熱と肝障害では、川崎病や若年性特発性関節炎の全身型、白血病、EBウイルス感染症なども鑑別に挙がる。決め手になるのはやはり骨髄の血球貪食像だ。では本題。この病態で血中で増えるものはどれかな。
医学生医学生
活性化したマクロファージがたくさんいるなら、フェリチンが上がるはずです。でも鉄が過剰な所見はないので、少し不思議です。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。ここでのフェリチンは鉄の貯蔵量を表しているのではない。サイトカインで活性化したマクロファージがフェリチンを大量に作って血中に出し、組織傷害で細胞内から漏れ出る分も加わるんだ。実際、FeもTIBCも正常範囲だよね。HLHでは数千から数万ng/mLに達することもあり、診断基準でも500ng/mL以上が項目の一つ。病勢や治療効果をみる指標にもなる。
医学生医学生
LDも上がりますよね。血球が壊されて、肝臓も傷んでいるので。
ドクタードクター
そう。LDはほぼ全身の細胞にある酵素で、細胞が壊れると血中に漏れ出る。貪食による血球破壊、サイトカインによる肝細胞などの傷害、活性化した免疫細胞の増殖と崩壊が重なって著明に上がる。AST・ALTの上昇も同じ流れで理解できる。だから正解はフェリチンとLDだ。
医学生医学生
血小板は、炎症だから反応性に増えることはないんですか。
ドクタードクター
HLHでは逆に減る。マクロファージに食べられるうえ、サイトカインで骨髄の造血が抑えられ、DICを合併すれば消費もされる。血小板減少はHLHで最も早く目立ちやすい血球減少なんだ。
医学生医学生
フィブリノゲンは急性期蛋白だと生化学の講義で習ったので、炎症なら増えそうな気がします。
ドクタードクター
そこがこの問題の最大の引っかけだね。HLHでは、活性化マクロファージがプラスミノゲンアクチベータを出して線溶が亢進し、DICで消費され、肝障害で産生も落ちる。結果として低フィブリノゲン血症になる。高熱で炎症が強いのにフィブリノゲンが低い、という乖離そのものがHLHを疑う手がかりになるんだ。
医学生医学生
総コレステロールは、脂質が上がると聞いた気がして迷いました。
ドクタードクター
上がる脂質はトリグリセリドのほうだ。TNF-αなどがリポ蛋白リパーゼの働きを抑えるので、トリグリセリドに富むリポ蛋白が分解されにくくなる。総コレステロールは上がらず、炎症や肝障害でHDLコレステロールが下がって、むしろ低値になることが多い。
医学生医学生
増えるのはフェリチン、LD、トリグリセリド、減るのは血球とフィブリノゲン、と対にして覚えればよさそうですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。ほかに増えるものとして、T細胞の活性化を反映する可溶性IL-2受容体、FDPやDダイマーも押さえておこう。逆にNK細胞活性は低下する。HLH-2004診断基準では、発熱、脾腫、2系統以上の血球減少、高トリグリセリド血症または低フィブリノゲン血症、血球貪食像、NK細胞活性低下、フェリチン高値、可溶性IL-2受容体高値の8項目中5項目以上で診断する。
医学生医学生
治療は原因の感染を治すだけでは足りないんでしょうか。
ドクタードクター
原因への対処に加えて、暴走した免疫反応を抑えることが必要だ。軽症ならステロイド、γグロブリン大量療法、シクロスポリン、重症ならデキサメタゾン、エトポシド、シクロスポリンを組み合わせたプロトコルに準じた治療を行う。家族性HLHなどの一次性や難治例では造血幹細胞移植も検討される。二次性HLHの原因で最も多いのはEBウイルスで、悪性リンパ腫や自己免疫疾患に続発することもある。治療が遅れると急速に悪化しうるので、感染が落ち着いたはずなのに熱が続き、血球が減ってくる子をみたら、フェリチンとフィブリノゲンを確認する習慣をつけておこう。

まとめ

感染症の改善後も高熱が続き、血球減少・肝腫大・肝障害を伴い、骨髄に血球を取り込んだマクロファージを認めれば、血球貪食症候群(血球貪食性リンパ組織球症、HLH)を考えます。HLHでは過剰に活性化したT細胞・NK細胞・マクロファージによる高サイトカイン血症が起こり、フェリチン(著増)、LD、トリグリセリド、可溶性IL-2受容体、AST・ALTが上昇します。一方で血小板などの血球、フィブリノゲン、NK細胞活性は低下し、炎症が強いのにフィブリノゲンが低いという乖離は重要な手がかりです。上昇する脂質は総コレステロールではなくトリグリセリドである点も混同しやすいポイントです。増えるものと減るものを病態の機序とセットで整理しておくことが、診断基準の理解と早期治療につながります。

解答・解説

正解はc, eです

所見の整理

3歳の男児である。病初期に咳の強いマイコプラズマ肺炎と診断され、治療により咳と胸部エックス線所見はほぼ改善した。それにもかかわらず、39℃前後の発熱が10日間続いている。 ・身体所見:発疹なし、心雑音なし、肺ラ音なし。肝を右肋骨弓下に2cm触知する(肝腫大)。 ・血液所見:白血球3,200/μLと減少している。Hb 11.8g/dLはまだ保たれているが、赤血球系も含めて血球減少に向かう経過と考えられる。血小板数は示されていない。 ・生化学:AST 238U/L、ALT 307U/Lと肝逸脱酵素が上昇している。Feは75μg/dL、TIBCは380μg/dLで、鉄欠乏を示す所見ではない。 ・骨髄:有核細胞数は35,500/μLとやや低め。May-Giemsa染色標本では、赤血球や血小板などの血球を細胞質に取り込んだ大型のマクロファージ(組織球)が目立つ。これが血球貪食像である。

診断へのプロセス

肺炎そのものは改善したのに高熱が続いている。そこに肝腫大・肝障害、白血球減少が加わり、骨髄に血球貪食像がある。これらから、マイコプラズマ感染を契機とした二次性の血球貪食症候群〈HPS:hemophagocytic syndrome〉、すなわち血球貪食性リンパ組織球症〈HLH:hemophagocytic lymphohistiocytosis〉と診断できる。 この病態では、感染などをきっかけに細胞傷害性T細胞やNK細胞が過剰に活性化し、マクロファージの活性化が止まらなくなる。その結果、IFN-γ(インターフェロンγ)、TNF-α(腫瘍壊死因子α)、IL-6などが大量に放出される(高サイトカイン血症)。活性化マクロファージが自分の血球を貪食し、サイトカインが臓器を傷害する。これが発熱、血球減少、肝脾腫、肝障害、凝固異常の原因となる。鑑別には、発熱と肝障害をきたす川崎病、若年性特発性関節炎の全身型、白血病などの造血器腫瘍、ウイルス感染症(EBウイルスなど)が挙がる。しかし骨髄に血球貪食像があることが決め手となる。

設問の考え方

HLHで「血中で増加するもの」と「減少するもの」を整理すればよい。 ・増加するもの:フェリチン(活性化マクロファージが産生する)、LD(細胞崩壊・組織傷害を反映)、トリグリセリド(リポ蛋白リパーゼ〈LPL〉の抑制による)、可溶性IL-2受容体(T細胞の活性化による)、AST・ALT、Dダイマー・FDP ・減少するもの:血球(血小板・白血球・赤血球)、フィブリノゲン、NK細胞活性 この整理から、選択肢のうち増加するのはフェリチンとLDである。

選択肢考察

  1. ×a.  血小板

    血小板は減少する。活性化マクロファージが血小板を貪食することに加え、高サイトカイン血症による骨髄での造血抑制、DIC(播種性血管内凝固)の合併による消費も加わる。血小板減少はHLHで最も早く目立ちやすい血球減少である。HLH-2004診断基準でも、血小板10万/μL未満は血球減少の項目の一つとされている。

  2. ×b.  フィブリノゲン

    フィブリノゲンは減少する。機序は三つある。(1)活性化マクロファージがプラスミノゲンアクチベータを放出し、線溶が亢進する。(2)DICを合併して凝固因子が消費される。(3)肝障害で産生が低下する。フィブリノゲンは炎症で増える急性期蛋白の一つである。そのため、高熱・炎症があるのにフィブリノゲンが低いという乖離は、HLHを疑うきっかけになる。HLH-2004診断基準では150mg/dL以下が項目の一つである。

  3. ○c.  フェリチン

    フェリチンは著明に増加する。IFN-γなどのサイトカインで活性化されたマクロファージは、フェリチンを大量に作って血中へ放出する。組織傷害で細胞内のフェリチンが漏れ出ることも加わる。HLH-2004診断基準では500ng/mL以上が項目とされ、実際の症例では数千~数万ng/mLに達することも多い。血清フェリチンは診断だけでなく、病勢や治療効果の指標としても有用である。本例のFeとTIBCは正常範囲であり、フェリチンの上昇は鉄が過剰なためではなく、マクロファージの活性化によるものである。

  4. ×d.  総コレステロール

    HLHで上昇する脂質はトリグリセリドであり、総コレステロールではない。TNF-αなどのサイトカインがリポ蛋白リパーゼ〈LPL〉の活性を抑える。その結果、トリグリセリドに富むリポ蛋白(VLDLなど)が分解されにくくなり、高トリグリセリド血症となる(HLH-2004診断基準では空腹時265mg/dL以上)。総コレステロールは上がらず、むしろ炎症や肝障害に伴ってHDLコレステロールなどが下がり、低値となることが多い。

  5. ○e.  LD

    LD(乳酸脱水素酵素、LDHとも表記する)は増加する。LDはほぼ全身の細胞に含まれる酵素で、細胞が壊れると血中に漏れ出る。HLHでは、マクロファージに貪食された血球の破壊、サイトカインによる肝細胞などの組織傷害(本例のAST・ALT上昇もこれを反映する)、活性化した免疫細胞の増殖と崩壊が重なり、LDは著明に上昇する。病勢をみる指標にもなる。

血球貪食症候群〈HPS〉/血球貪食性リンパ組織球症〈HLH〉

・定義:細胞傷害性T細胞やNK細胞、マクロファージが過剰に活性化し、高サイトカイン血症と組織球による血球貪食をきたす病態である。 ・分類  一次性(遺伝性):家族性HLH(パーフォリン遺伝子〈PRF1〉、UNC13Dなどの異常)。免疫不全症(Chédiak-Higashi症候群、X連鎖リンパ増殖症候群など)に伴うものもある。多くは乳幼児期に発症する。  二次性:感染症関連(EBウイルスが最多。ほかにCMVなどのウイルス、マイコプラズマ、細菌、真菌など)、悪性腫瘍関連(特に悪性リンパ腫)、自己免疫疾患関連(若年性特発性関節炎の全身型やSLEなど。マクロファージ活性化症候群〈MAS〉とも呼ぶ)。

HLH-2004診断基準

(A)HLHに一致する分子遺伝学的診断がある、または(B)以下8項目中5項目以上を満たす。 1. 発熱(38.5℃以上) 2. 脾腫 3. 2系統以上の血球減少(Hb 9g/dL未満〔生後4週未満では10g/dL未満〕、血小板10万/μL未満、好中球1,000/μL未満) 4. 高トリグリセリド血症(空腹時265mg/dL以上)かつ/または低フィブリノゲン血症(150mg/dL以下) 5. 骨髄・脾・リンパ節などでの血球貪食像 6. NK細胞活性の低下または欠如 7. 血清フェリチン500ng/mL以上 8. 可溶性IL-2受容体(sIL-2R)2,400U/mL以上

その他の検査所見

LD・AST・ALT・ビリルビンの上昇、低ナトリウム血症、低アルブミン血症、DIC所見(FDP・Dダイマー上昇)、髄液の細胞数増加(中枢神経浸潤)などがみられる。

治療

原因への対処(感染症の治療、基礎疾患の治療)に加え、過剰な免疫反応を抑える。軽症例では副腎皮質ステロイド、γグロブリン大量療法、シクロスポリンを用いる。重症例ではHLH-94/2004プロトコル(デキサメタゾン、エトポシド、シクロスポリン)に準じた治療を行う。一次性HLHや難治例では造血幹細胞移植を行う。

POINT

・感染症の改善後も高熱が続き、血球減少、肝脾腫、肝障害がみられ、骨髄に血球貪食像があれば血球貪食症候群(HLH)を考える。 ・増加するもの:フェリチン(著増)、LD、トリグリセリド、可溶性IL-2受容体、AST・ALT、FDP・Dダイマー。 ・減少するもの:血小板などの血球、フィブリノゲン、NK細胞活性。 ・炎症があるのにフィブリノゲンが低い、という乖離はHLHを疑う手がかり。 ・上昇する脂質はトリグリセリド(LPL抑制による)で、総コレステロールではない。 ・二次性HLHの原因として最も多いのはEBウイルス感染。悪性リンパ腫や自己免疫疾患にも続発する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。