出血が止まらない若年女性―ファゴット細胞が導く「分化させる」白血病治療
第99回医師国家試験 G問題 第33問
国試問題にチャレンジ
24歳の女性。四肢の紫斑と歯肉出血とのため来院し,当日入院した。3日前に手足の紫斑に気付き,1日前から歯肉出血が止まらなかった。意識は清明。体温37.5℃。脈拍88/分,整。血圧106/56mmHg。上腕と下腿との皮膚に点状出血と径1cmの紫斑とが散在している。眼瞼結膜は蒼白。口腔内では歯肉の出血と頰粘膜の点状出血とを認める。腹部は平坦,軟で,肝・脾は触知しない。血液所見:赤血球290万,Hb 8.7g/dL,Ht 28%,白血球5,600,血小板1.2万,フィブリノゲン120mg/dL(基準200~400),血清FDP 34μg/mL(基準10以下)。血液生化学所見:総蛋白6.7g/dL,アルブミン4.3g/dL,尿素窒素22mg/dL,クレアチニン1.3mg/dL,尿酸8.8mg/dL,総コレステロール130mg/dL,総ビリルビン0.8mg/dL,AST 38U/L,ALT 35U/L,LD 520U/L(基準176~353)。骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。 治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。

- a.シクロスポリン
- b.アントラサイクリン
- c.L-アスパラギナーゼ
- d.副腎皮質ステロイド薬
- e.全トランス型レチノイン酸
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
若年者に急速な貧血・血小板減少と、フィブリノゲン低下・FDP上昇を示す線溶優位のDICがみられたら、急性前骨髄球性白血病(APL)を疑います。骨髄で粗大なアズール顆粒をもつ異常前骨髄球やAuer小体が束になったファゴット細胞を認めれば診断でき、本態はt(15;17)によるPML-RARA融合遺伝子です。治療の軸は全トランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法で、白血球数が多い例ではアントラサイクリンを併用して分化症候群のリスクを抑えます。ステロイドは分化症候群への対処、L-アスパラギナーゼはALLの薬、シクロスポリンは免疫抑制薬であり、APLそのものの治療薬ではありません。早期の出血死を防ぐため、疑った段階でATRAと凝固因子・血小板の補充を始めることが臨床上きわめて重要です。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
24歳の女性が、3日前からの四肢の紫斑と、前日から止まらない歯肉出血を主訴に受診している。発熱は軽度(37.5℃)で、眼瞼結膜は蒼白である。皮膚には点状出血と紫斑、口腔内には歯肉出血と頰粘膜の点状出血があり、肝脾腫はない。 ・血算:Hb 8.7g/dLの貧血、血小板1.2万/μLの著明な血小板減少。白血球は5,600/μLと数値上は正常範囲である。 ・凝固線溶系:フィブリノゲン120mg/dL(低下)、FDP(フィブリン・フィブリノゲン分解産物)34μg/mL(上昇)。凝固因子の消費と線溶亢進を示し、播種性血管内凝固〈DIC〉の存在を強く示唆する。 ・生化学:LD 520U/Lの上昇と尿酸8.8mg/dLの上昇は、腫瘍細胞の増殖・崩壊(細胞回転の亢進)を反映する。
診断へのプロセス
若年者に貧血と血小板減少が急速に出現し、そのうえ線溶優位のDICを伴っている。この組み合わせでまず考えるべきは急性白血病、なかでも急性前骨髄球性白血病〈APL:acute promyelocytic leukemia、FAB分類のM3〉である。骨髄血のMay-Giemsa染色標本では、粗大なアズール顆粒を多数もつ異常前骨髄球が増殖しており、アウエル小体(Auer小体)が束になったファゴット細胞(faggot cell)もみられる。これでAPLと診断できる。APLの白血病細胞の顆粒には組織因子やアネキシンIIが多く含まれ、凝固の活性化と強い線溶亢進が起こる。そのためDICをきたしやすく、診断時から出血症状が前面に出ることが多い。末梢血の白血球数は正常~低値のことも多く、本例のように白血球が正常範囲でもAPLは否定できない。
設問の考え方
APLの本態は、t(15;17)(q24;q21)転座により生じたPML-RARA融合遺伝子である。この融合蛋白が前骨髄球段階での分化を停止させている。全トランス型レチノイン酸〈ATRA:all-trans retinoic acid〉は薬理量でこの分化停止を解除し、白血病細胞を成熟好中球へ分化させる(分化誘導療法)。ATRAはAPLの寛解導入に必須の薬剤である。ATRA単独では、治療中に白血球数が急増し、分化症候群(レチノイン酸症候群)を起こすおそれがある。そこで初診時の白血球数が多い例や、治療中に白血球が増加してきた例では、アントラサイクリン系抗腫瘍薬(イダルビシン、ダウノルビシンなど)を併用する。わが国の標準的プロトコル(JALSG APL97など)では、初診時白血球数3,000/μL以上がATRA+アントラサイクリン併用の目安とされた。本例は白血球5,600/μLであり、ATRAとアントラサイクリンの併用が適切である。 一方、DICに対しては、原疾患の治療と並行して血小板輸血や新鮮凍結血漿(フィブリノゲン補充)による支持療法を行う。
選択肢考察
- ×a. シクロスポリン
シクロスポリンはカルシニューリン阻害薬である。T細胞の活性化とIL-2(インターロイキン2)産生を抑える免疫抑制薬で、臓器移植・造血幹細胞移植後の拒絶反応や移植片対宿主病〈GVHD〉の予防に用いる。血液疾患では再生不良性貧血の免疫抑制療法にも使う。白血病細胞を減らしたり分化させたりする作用はなく、APLの治療薬ではない。
- ○b. アントラサイクリン
アントラサイクリン系薬(イダルビシン、ダウノルビシンなど)は、DNAに入り込み(インターカレーション)トポイソメラーゼIIを阻害する抗腫瘍薬で、急性骨髄性白血病の寛解導入の中心となる薬剤である。APLでは、初診時の白血球数が多い例(わが国の標準プロトコルでは3,000/μL以上)や、ATRA投与中に白血球が増えてきた例で、ATRAに併用する。併用することで白血病細胞数をすみやかに減らし、分化症候群の発症や重症化を防ぐ。本例は白血球5,600/μLであり、併用の適応となる。
- ×c. L-アスパラギナーゼ
L-アスパラギナーゼは血中のアスパラギンを分解する酵素製剤である。アスパラギン合成酵素の活性が低くアスパラギンを外部から取り込む必要がある白血病細胞を、栄養欠乏により死滅させる。主に急性リンパ性白血病〈ALL〉の寛解導入に用いる薬剤で、APLには用いない。なお、副作用としてフィブリノゲンなど凝固因子の産生低下、膵炎、高血糖などがある。すでにDICで低フィブリノゲン血症をきたしている本例では、出血傾向を悪化させるおそれもある。
- ×d. 副腎皮質ステロイド薬
副腎皮質ステロイド薬は、ALLや悪性リンパ腫、多発性骨髄腫ではリンパ系腫瘍細胞を傷害する中心的な薬剤である。一方、APLの白血病細胞に対する治療薬ではない。APLでステロイドを使うのは、ATRAや亜ヒ酸による分化症候群(発熱、呼吸困難、肺浸潤影、胸水・心嚢液貯留、体重増加、腎障害など)が起きたとき、またはその危険が高いときである。デキサメタゾンやメチルプレドニゾロンを投与する。これはあくまで合併症への対処であり、APLそのものの治療薬としては適切でない。
- ○e. 全トランス型レチノイン酸
全トランス型レチノイン酸〈ATRA、トレチノイン〉はビタミンAの誘導体である。PML-RARA融合蛋白に結合してその分解を促し、前骨髄球段階で止まっていた分化を再開させる。その結果、白血病細胞は成熟好中球へ分化して寿命を終える(分化誘導療法)。ATRAの導入によりAPLの完全寛解率は約90%に達した。初診時の白血球数にかかわらず、寛解導入療法の軸となる必須薬である。化学療法と違い、腫瘍細胞を一気に壊すことがないため、DICを早く改善する効果もある。主な副作用は分化症候群、頭痛・頭蓋内圧亢進、皮膚乾燥、高トリグリセリド血症、催奇形性である。
急性前骨髄球性白血病〈APL〉の概要
・急性骨髄性白血病〈AML〉の一病型で、FAB分類のM3にあたる。WHO分類では「PML::RARA融合を伴うAPL」として独立している。AML全体の約10~15%を占め、若年~中年成人に多い。 ・染色体・遺伝子:t(15;17)(q24;q21)により、15番染色体上のPMLと17番染色体上のRARA(レチノイン酸受容体α)が融合する。FISH法やRT-PCR法でPML-RARAを検出して確定診断し、治療後の微小残存病変〈MRD〉の評価にも使う。 ・形態:粗大なアズール顆粒をもつ異常前骨髄球が増殖する。アウエル小体が多数束になったファゴット細胞が特徴的である。ミエロペルオキシダーゼ〈MPO〉染色は強陽性。顆粒が乏しい亜型(M3 variant)では白血球数が多いことが多い。 ・凝固異常:診断時からDICを合併することが多く、特に線溶亢進型である。フィブリノゲン低下、FDP・Dダイマー上昇、α2プラスミンインヒビター低下がみられる。頭蓋内出血や肺出血による早期死亡が最大の問題であり、APLが疑われた時点で確定診断を待たずにATRAを開始し、血小板・フィブリノゲンを補充する。
治療の流れ
・寛解導入:ATRAを基本とし、白血球数が多い例(高リスク群、国際的には初診時白血球10,000/μL超)ではアントラサイクリンを併用する。近年は、低~中リスク群でATRA+亜ヒ酸(三酸化ヒ素〈ATO〉)による化学療法なしの治療も標準の一つになっている。 ・地固め療法:アントラサイクリンを中心とした化学療法、またはATOを用いる。 ・再発時:ATOが第一選択。合成レチノイドのタミバロテンも用いられる。
分化症候群(レチノイン酸症候群)
ATRAやATOで分化した白血病細胞がサイトカインを放出し、血管内皮へ接着・浸潤して起こる。発熱、呼吸困難、低酸素血症、肺浸潤影、胸水・心嚢液貯留、体重増加、低血圧、急性腎障害などがみられる。疑った時点でデキサメタゾンを投与し、重症例ではATRAを一時中止する。
他の白血病との治療薬の対比
・AML(APL以外):シタラビン+アントラサイクリン(7+3療法) ・ALL:ビンクリスチン、副腎皮質ステロイド、アントラサイクリン、L-アスパラギナーゼなど。Ph陽性ALLではチロシンキナーゼ阻害薬を併用する ・慢性骨髄性白血病〈CML〉:チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブなど)
POINT
・若年者の急速な汎血球減少+線溶優位のDIC(フィブリノゲン低下、FDP上昇)ではAPLを疑う。 ・骨髄では粗大アズール顆粒をもつ異常前骨髄球と、アウエル小体が束になったファゴット細胞が特徴的。 ・t(15;17)によるPML-RARA融合遺伝子がAPLの本態である。 ・治療の軸は全トランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法。白血球数が多い例ではアントラサイクリンを併用する。 ・再発時は亜ヒ酸(ATO)。近年は初発の低リスク例でもATRA+ATOが用いられる。 ・ATRAの重要な副作用は分化症候群で、治療はステロイド(デキサメタゾン)。ステロイドはAPL自体の治療薬ではない。 ・L-アスパラギナーゼはALLの薬剤。シクロスポリンは免疫抑制薬で白血病治療には使わない。
