口蓋垂が押しやられるとき―抗菌薬が効かない咽頭痛と扁桃周囲膿瘍
第99回医師国家試験 G問題 第12問
国試問題にチャレンジ
22歳の女性。発熱と摂食困難とで来院した。5日前から咽頭痛と39.0℃の発熱とがあり,近医で処方された抗菌薬と解熱鎮痛薬とを内服している。口蓋垂は右側に偏位し,左軟口蓋から前口蓋弓にかけて発赤と腫脹とが著明である。 診断はどれか。
- a.扁桃肥大症
- b.伝染性単核球症
- c.扁桃周囲膿瘍
- d.中咽頭癌
- e.悪性リンパ腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性扁桃炎が抗菌薬で改善せず、強い嚥下痛で摂食困難となり、一側の軟口蓋から前口蓋弓の発赤・膨隆と口蓋垂の健側偏位を認めれば扁桃周囲膿瘍を考えます。扁桃被膜と上咽頭収縮筋の間の扁桃周囲間隙に膿がたまる病態で、若年成人に多く、開口障害や含み声も特徴です。伝染性単核球症は両側扁桃の腫大・白苔と頸部リンパ節腫脹・肝脾腫、扁桃肥大症は炎症を伴わない慢性の腫大、中咽頭癌や悪性リンパ腫は緩徐な経過をとる点で鑑別できます。治療は穿刺・切開排膿と嫌気性菌もカバーする抗菌薬の点滴で、深頸部膿瘍や縦隔炎、気道閉塞への進展に注意が必要です。口腔内所見の左右差を解剖と結びつけて読む力は、咽頭感染症の重症度を見極める臨床の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・22歳の若年女性。5日前から咽頭痛と39.0℃の高熱が続いている。 ・近医で抗菌薬と解熱鎮痛薬を処方されて内服しているが、改善せず、摂食困難にまで悪化した。 ・口蓋垂が右側(健側)へ押しやられ、左の軟口蓋から前口蓋弓(口蓋舌弓)にかけて著明な発赤と腫脹がある。
診断へのプロセス
まず、急性の高熱と咽頭痛から、咽頭・扁桃の急性細菌感染症(急性扁桃炎)が出発点と考えられる。抗菌薬を内服しても症状が進行し、強い嚥下痛のため食事がとれなくなっている点は、単なる扁桃炎の範囲を超えて炎症が周囲へ波及したことを示唆する。 決定的なのは局所所見である。扁桃そのものの腫大ではなく、扁桃の外側・上方にあたる軟口蓋から前口蓋弓が一側性に膨隆し、その圧排によって口蓋垂が反対側へ偏位している。これは、扁桃被膜と上咽頭収縮筋の間の間隙(扁桃周囲間隙)に膿がたまったときの典型像である。したがって、左急性扁桃炎から進展した左扁桃周囲膿瘍と診断する。 鑑別として、非炎症性の扁桃肥大、両側性の扁桃腫大と白苔を示す伝染性単核球症、慢性経過をとる腫瘍性疾患(中咽頭癌、悪性リンパ腫)が挙がるが、急性発症の高熱、一側性の軟口蓋膨隆、口蓋垂偏位という組み合わせは扁桃周囲膿瘍に特徴的である。
選択肢考察
- ×a. 扁桃肥大症
扁桃肥大症は口蓋扁桃が生理的・慢性的に大きくなった状態で、小児に多い。いびき、睡眠時無呼吸、嚥下障害の原因になることはあるが、炎症を伴わないため発熱や急性の咽頭痛は起こさない。また、肥大は通常両側性で扁桃自体が大きくなるものであり、軟口蓋の一側性の発赤・膨隆や口蓋垂の偏位は説明できない。
- ×b. 伝染性単核球症
伝染性単核球症は主にEpstein-Barr(EB)ウイルスの初感染で起こり、思春期から若年成人に多い。発熱、咽頭痛、両側扁桃の腫大と白苔、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球の増加が特徴である。年齢や発熱・咽頭痛は本例と重なるが、扁桃の腫大は両側性で、軟口蓋の一側性の膨隆や口蓋垂の偏位をきたす膿瘍形成は通常みられない。なお、本症にアンピシリンなどを投与すると皮疹が出やすいことも知られている。
- ○c. 扁桃周囲膿瘍
扁桃周囲膿瘍は、急性扁桃炎の炎症が扁桃被膜を越えて扁桃周囲間隙に波及し、膿がたまった状態である。20〜30歳代の若年成人に多く、ほとんどが一側性である。強い咽頭痛と嚥下痛、高熱、開口障害、含み声(口に物を含んだような声)などを呈し、所見として患側の軟口蓋から前口蓋弓の発赤・膨隆と口蓋垂の健側への偏位がみられる。本例は抗菌薬内服中にもかかわらず悪化し、左軟口蓋から前口蓋弓の著明な腫脹と口蓋垂の右方偏位を認めるため、左扁桃周囲膿瘍と診断できる。
- ×d. 中咽頭癌
中咽頭癌は多くが扁平上皮癌で、喫煙・飲酒のほかヒトパピローマウイルス(HPV)感染が危険因子となる。50歳以上の男性に多く、咽頭違和感、嚥下時痛、頸部リンパ節腫脹などが数週間から数か月かけて進行するのが通常である。22歳女性で5日間の急性の高熱と咽頭痛という経過は、腫瘍性疾患としては考えにくい。
- ×e. 悪性リンパ腫
扁桃は咽頭の悪性リンパ腫の好発部位の一つで、主に中高年にみられる。扁桃の一側性腫大をきたすことはあるが、通常は痛みが乏しく、比較的緩徐に大きくなる。発熱(B症状)を伴うこともあるが、5日前からの急性の咽頭痛・高熱と軟口蓋の著明な発赤という急性炎症の所見は、悪性リンパ腫よりも膿瘍形成を強く示す。
扁桃周囲膿瘍の概要
口蓋扁桃は扁桃被膜に包まれ、その外側には上咽頭収縮筋との間に疎な結合組織の間隙(扁桃周囲間隙)がある。急性扁桃炎の炎症がこの間隙に及んだ段階を扁桃周囲炎、膿がたまった段階を扁桃周囲膿瘍という。膿瘍は扁桃の上極(前上方)に形成されることが多い。
起炎菌
A群β溶血性連鎖球菌などの好気性菌に加え、嫌気性菌(Fusobacterium、Prevotella、Peptostreptococcusなど)が関与する混合感染が多い。
症状・所見
・高熱、一側に強い咽頭痛、嚥下痛(唾液も飲み込めないことがある)、流涎 ・開口障害(炎症が内側翼突筋に波及するため) ・含み声 ・患側軟口蓋〜前口蓋弓の発赤・膨隆、口蓋垂の健側偏位 ・患側頸部リンパ節腫脹
診断・治療
造影CTで膿瘍の範囲を確認し、穿刺で膿を証明する。治療は、穿刺排膿または切開排膿と、嫌気性菌もカバーする抗菌薬の点滴静注(ペニシリン系+β-ラクタマーゼ阻害薬、クリンダマイシンなど)である。反復例や重症例では膿瘍扁桃摘出術を行うこともある。
合併症
膿瘍が深頸部に進展すると、副咽頭間隙膿瘍、深頸部膿瘍、さらに降下性縦隔炎、気道閉塞をきたし、生命にかかわることがある。頸部の腫脹・圧痛の拡大や呼吸困難の出現に注意する。
POINT
・急性扁桃炎が抗菌薬で改善せず、一側性の軟口蓋〜前口蓋弓の発赤・膨隆と口蓋垂の健側偏位を認めれば扁桃周囲膿瘍である。 ・若年成人に多く、高熱、強い嚥下痛、開口障害、含み声を伴う。 ・治療は穿刺・切開排膿と抗菌薬点滴(嫌気性菌もカバー)。 ・深頸部膿瘍・縦隔炎・気道閉塞への進展に注意する。 ・伝染性単核球症は両側扁桃の腫大・白苔と頸部リンパ節腫脹・肝脾腫が特徴で、膿瘍による口蓋垂偏位はきたさない。
