「火花が入った」は鉄片のサイン―眼内異物にMRIを撮ってはいけない理由
第99回医師国家試験 G問題 第13問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。昨日,工事現場で鉄パイプをハンマーで打っていたところ,右眼に火花が飛入したように感じ,視力障害が出現したので来院した。細隙灯顕微鏡検査で右眼の角膜に穿孔創と白内障とを認める。 この患者の検査で最も適切なのはどれか。
- a.視野検査
- b.光覚〈暗順応〉検査
- c.網膜電図〈ERG〉
- d.頭部単純CT
- e.頭部単純MRI
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ハンマー作業中に「火花が飛び込んだ」感覚の後に視力障害が出現し、角膜穿孔創と外傷性白内障を認める場合は、眼内鉄片異物を強く疑います。異物の検出と位置同定には、金属を高吸収域として描出でき磁場を使わないCTが最も適しており、実際には眼窩部の薄切撮像を行います。一方、MRIは磁性体異物が移動して眼内組織を損傷するおそれがあるため禁忌で、視野検査・暗順応検査・ERGは視機能評価であり異物の位置は分からず、角膜電極を使うERGは穿孔眼では避けるべきです。鉄片を放置すると眼球鉄症により失明に至りうるため、早期の摘出手術が必要です。受傷状況の問診から異物を想定し、安全性も踏まえて検査を選ぶ姿勢は、眼外傷に限らず救急診療全般で重要になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・45歳男性。工事現場で鉄パイプをハンマーで打っていた際に、右眼に「火花が飛び込んだ」ような感覚があり、その後視力障害が出現した。 ・細隙灯顕微鏡検査で、右眼の角膜に穿孔創があり、白内障(水晶体の混濁)を認める。
診断へのプロセス
金属同士を強くたたく作業(ハンマー作業、グラインダー作業など)では、高速で飛んだ小さな金属片が眼球壁を貫いて眼内に入ることがある。患者は「火花が入った」「何かが当たった」程度の自覚しかなく、痛みも軽いことが多いため、受傷を軽視して翌日以降に受診することも珍しくない。本例では、角膜の穿孔創があることで眼球が貫かれたことがわかり、さらに白内障があることから、飛入物が角膜を通過して水晶体まで到達し、水晶体嚢を損傷した(外傷性白内障)と考えられる。したがって、鉄片が眼内(水晶体内、硝子体内、網膜上など)にとどまっている可能性が高く、眼内鉄片異物を強く疑う。
検査の考え方
眼内異物では、異物の有無・数・位置を正確に把握し、早期に摘出手術を計画することが最優先である。鉄片を放置すると、鉄イオンが溶け出して網膜などを障害する眼球鉄症(眼球鉄錆症)をきたし、失明に至ることがある。また、眼内炎の危険もある。 本例では白内障のため眼底の直接観察が難しく、画像検査で異物を探す必要がある。金属異物の検出と位置の同定には単純CTが最も適している。一方、MRIは強い磁場の中で撮像するため、鉄などの磁性体異物が動いて眼内組織を傷つけるおそれがあり、禁忌である。視野検査、暗順応検査、網膜電図は視機能を評価する検査であり、異物の位置は同定できない。
選択肢考察
- ×a. 視野検査
視野検査は、網膜から視神経、視路(視交叉から後頭葉まで)の機能を、見える範囲の広さと感度から評価する検査である。緑内障や視路の病変の評価には重要だが、眼内異物の有無や位置は同定できない。また、白内障があると結果の信頼性も下がり、穿孔創がある急性期の眼球に優先して行う検査ではない。
- ×b. 光覚〈暗順応〉検査
暗順応検査は、暗所に移った後に光を感じる閾値がどれだけ下がるかを経時的に測定し、主に杆体(桿体)の機能を評価する検査で、網膜色素変性症などの夜盲性疾患の診断に用いる。視機能を調べる検査であり、眼内異物の検出や位置の特定には役立たない。
- ×c. 網膜電図〈ERG〉
網膜電図(ERG: electroretinogram)は、光刺激に対する網膜全体の電気的反応を記録し、網膜機能を客観的に評価する検査である。網膜色素変性症の診断や、中間透光体の混濁で眼底が見えない眼の網膜機能評価に用いられ、眼球鉄症の経過観察に使われることもある。しかし異物の位置は同定できない。さらに通常は角膜にコンタクトレンズ型電極を装着するため、角膜に穿孔創がある急性期の眼には行うべきではない。
- ○d. 頭部単純CT
CT(コンピュータ断層撮影)は、X線吸収の大きい金属異物を高吸収域として明瞭に描出でき、眼球内か眼窩内か、眼球内のどの部位にあるかを三次元的に把握できる。磁場を用いないため磁性体異物があっても安全に施行でき、短時間で撮像できる。白内障で眼底が観察できない本例で、眼内鉄片異物の有無と位置を確認し摘出手術を計画するために最も適切な検査である。実際には眼窩部を薄いスライス厚で撮像することが望ましい。
- ×e. 頭部単純MRI
MRI(磁気共鳴画像)は軟部組織の描出に優れるが、強力な静磁場と傾斜磁場を用いる。鉄片などの磁性体異物が眼内にあると、磁場によって異物が引き寄せられたり回転したりして、網膜・視神経・血管などを損傷するおそれがあり、発熱の危険もある。このため、磁性金属異物が疑われる場合、MRIは禁忌である。金属片を扱う職歴や眼外傷の既往がある患者では、MRI前にX線やCTで眼内金属を除外することが勧められている。
眼内異物の概要
眼内異物は、金属片(鉄、銅など)、ガラス片、植物片などが眼球壁を穿孔して眼内にとどまった状態である。ハンマー作業、草刈り機、グラインダー作業などで生じやすく、保護眼鏡の着用が予防の基本である。
異物の種類と問題点
・鉄:眼内で酸化して鉄イオンが拡散し、眼球鉄症(siderosis bulbi)をきたす。虹彩の褐色化、散瞳、白内障、網膜変性(ERGの振幅低下)が進行し、失明の原因となる。 ・銅:銅症(chalcosis)をきたし、純銅に近いものでは強い化膿性炎症を起こす。 ・植物片など有機物:細菌・真菌による眼内炎の危険が高い。 ・ガラス、プラスチックなどの非活性物質は比較的反応が少ない。
検査
・細隙灯顕微鏡・眼底検査:穿孔創、虹彩の穿孔、水晶体混濁、異物の直接観察 ・単純X線:金属異物の有無の確認 ・CT:異物の位置同定の第一選択。金属では周囲にアーチファクトが出ることがある ・超音波Bモード:中間透光体が混濁していても眼内を評価できるが、開放創がある眼球では圧迫を避ける ・MRI:磁性体異物では禁忌。非磁性の異物(木片など)の検出には有用なことがある
治療
穿孔創の縫合、抗菌薬投与(眼内炎予防)とともに、硝子体手術などで早期に異物を摘出する。外傷性白内障がある場合は同時に水晶体を処理することが多い。
POINT
・ハンマー作業中の「火花が飛び込んだ」感覚+角膜穿孔創+外傷性白内障 → 眼内鉄片異物を疑う。 ・異物の検出と位置同定にはCTが最も有用である。 ・磁性体(鉄)異物が疑われる場合、MRIは異物が移動して眼内組織を損傷するため禁忌である。 ・鉄片を放置すると眼球鉄症をきたし失明に至るため、早期摘出が必要である。 ・角膜穿孔がある眼に角膜電極を用いるERGは行わない。
