StudyMed医師国家試験

息子からうつった喉の痛み―溶連菌咽頭炎に「狭く確実な」ペニシリンを選ぶ理由

第120回医師国家試験 D問題 第55問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第55問

31歳の男性。咽頭痛と発熱を主訴に来院した。2日前からの咽頭痛と38℃台の発熱がある。鼻汁,咳嗽および呼吸困難はない。食事は摂れている。生来健康。ペット飼育歴はない。薬剤アレルギー歴もない。意識は清明。身長170cm,体重65kg。体温38.1℃。脈拍92/分,整。血圧116/76mmHg。呼吸数18/分。口蓋扁桃の発赤・腫脹と白苔の付着を認める。前頸部リンパ節の腫大と圧痛を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部で肝・脾を触知しない。5日前に7歳の息子がA群β溶連菌による咽頭炎と診断された。  最も適切な治療薬はどれか。

  1. a.キノロン系薬
  2. b.抗ウイルス薬
  3. c.ペニシリン系薬
  4. d.マクロライド系薬
  5. e.第3世代セファロスポリン系薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発熱と咽頭痛で受診した成人から、原因微生物を推定して最適な抗菌薬を選ぶ問題だ。カギは2つ。この咽頭炎が細菌性、特にA群β溶血性連鎖球菌によるものかを臨床所見と接触歴から見極めること、そしてその菌に「必要十分な」薬を選ぶことだ。まずは、ウイルス性か細菌性か、どう考える?
医学生医学生
鼻水も咳もないので、いわゆる風邪っぽくはないと思いました。
ドクタードクター
いい視点だね。ウイルス性の上気道炎では鼻汁や咳嗽を伴うことが多いから、それがないのは細菌性、とくに溶連菌を疑う手がかりになる。ここで使いたいのがCentor基準だ。38℃以上の発熱、咳嗽がない、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、扁桃の腫脹や白苔、の4項目だね。
医学生医学生
全部当てはまりますね。しかも息子さんが5日前に溶連菌と診断されています。
ドクタードクター
そう、4項目すべてを満たしたうえに家族内の接触歴がある。溶連菌は飛沫や接触で家族内に広がりやすく、潜伏期は2〜5日ほどだから時期もぴったりだ。年齢で補正するMcIsaacスコアでも、30代は加点なしで4点になる。実際の診療では迅速抗原検査や咽頭培養で確かめてから治療を始めるのが基本だよ。
医学生医学生
扁桃に白苔があると、伝染性単核球症も鑑別に挙がると感染症の講義で習いました。
ドクタードクター
大事な鑑別だね。EBウイルスによる伝染性単核球症も発熱と扁桃の白苔を来すけれど、後頸部を含めた全身のリンパ節腫脹や肝脾腫を伴うことが多い。今回は肝・脾を触知せず、接触歴もあるから溶連菌咽頭炎が最も考えやすい。では、治療薬は何を選ぶ?
医学生医学生
よく効きそうなので、第3世代セファロスポリンかキノロンを選びたくなってしまいます。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、ここが今回の一番のポイントだ。溶連菌にはペニシリン耐性株が報告されていない。だから、抗菌スペクトルが狭く、安全で安価なペニシリン系薬で十分に治せる。日本では経口のアモキシシリンを10日間投与するのが一般的だ。
医学生医学生
症状が数日で良くなっても、10日間続けるんですか。
ドクタードクター
そこが大切なところ。抗菌薬の目的は症状を早く治すことだけでなく、周囲への感染拡大を防ぎ、扁桃周囲膿瘍などの化膿性合併症や、リウマチ熱のような非化膿性合併症を予防することにある。咽頭から菌をしっかり除くために、症状が消えても飲み切ってもらう必要があるんだ。
医学生医学生
では、キノロン系がだめなのはなぜですか。溶連菌にも効きますよね。
ドクタードクター
効くことは効く。でもレスピラトリーキノロンはグラム陰性桿菌や非定型病原体まで覆う広域薬だから、狭域の薬で治る病気に使うと耐性菌を増やしてしまう。結核菌にも一部効くので、結核の診断を遅らせるおそれもある。第3世代セファロスポリンも同じく広域で、しかも経口薬は腸管からの吸収が悪いものが多いんだ。
医学生医学生
マクロライドはペニシリンアレルギーのときの代わりと聞いたことがあります。
ドクタードクター
その通り、代替薬の一つではある。ただ日本では溶連菌のマクロライド耐性率が高く、治療に失敗するおそれがある。この人は薬剤アレルギー歴がないから、わざわざ選ぶ理由はないね。抗ウイルス薬については、そもそも細菌感染だから適応がないし、咽頭炎を起こすウイルスの多くにも有効な薬はない。
医学生医学生
有効な薬の中で一番狭いものを選ぶ、というのが抗菌薬適正使用の考え方なんですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。少し発展的な話もしておこう。ペニシリンアレルギーがあっても即時型でなければ第1世代セファロスポリン、アナフィラキシーのような即時型ならクリンダマイシンなどを考える。もう一つ注意したいのは、伝染性単核球症の患者にアモキシシリンのようなアミノペニシリンを投与すると、高い頻度で皮疹が出ることだ。
医学生医学生
だから伝染性単核球症との鑑別をきちんとしておく必要があるんですね。合併症では、急性糸球体腎炎も抗菌薬で防げるんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。抗菌薬でリウマチ熱を予防できることは確立しているけれど、溶連菌感染後急性糸球体腎炎の発症予防効果ははっきりしていない。だから治療後しばらくして血尿や浮腫、高血圧が出てこないか気にかけ、尿所見を確認することもある。小児科の実習で、咽頭炎から1〜2週間後に肉眼的血尿で受診した子を見たことがあるかもしれないね。
医学生医学生
小児科で実際にそういうお子さんを見ました。家族の病歴まで聞くことの大切さもよくわかりました。
ドクタードクター
問診で家族の情報を拾えるかどうかが診断を大きく左右する、いい例だね。

まとめ

発熱、咳嗽がない、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、扁桃の白苔というCentor基準の4項目を満たし、家族に溶連菌感染者がいる咽頭炎では、A群β溶血性連鎖球菌による咽頭炎を強く疑います。溶連菌にはペニシリン耐性がないため、狭域で安全・安価なペニシリン系薬(アモキシシリン)を10日間投与するのが第一選択で、症状が治まっても飲み切ることでリウマチ熱などの合併症を予防します。キノロン系や第3世代セファロスポリン系は広域で耐性菌を増やすおそれがあり、マクロライド系は日本では耐性率が高いため、アレルギーなどの理由がなければ選びません。伝染性単核球症へのアミノペニシリン投与で皮疹が出やすいこと、抗菌薬で急性糸球体腎炎の予防効果は明らかでないことも押さえておきましょう。「有効な中で最も狭域の薬を選ぶ」という考え方は、あらゆる感染症診療に通じる抗菌薬適正使用の基本です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・31歳男性、2日前からの咽頭痛と38℃台の発熱:急性咽頭・扁桃炎の経過である。 ・鼻汁・咳嗽がない:かぜ症候群のようなウイルス性上気道炎では鼻汁・咳嗽を伴うことが多く、これらがないことは細菌性、特にA群β溶血性連鎖球菌(group A Streptococcus:GAS、化膿レンサ球菌 Streptococcus pyogenes)による咽頭炎を示唆する。 ・口蓋扁桃の発赤・腫脹と白苔(滲出物)の付着:化膿性扁桃炎の所見である。 ・前頸部リンパ節の腫大と圧痛:GAS咽頭炎に典型的である。 ・肝・脾を触知しない、生来健康、薬剤アレルギー歴なし。 ・5日前に7歳の息子がGAS咽頭炎と診断:GASは飛沫・接触で家族内に広がりやすく、潜伏期は2〜5日程度である。家族内感染として時期も合う。

診断へのプロセス

咽頭炎が細菌性(GAS)かどうかの臨床的な目安として、Centor基準(またはそれに年齢補正を加えたMcIsaacスコア)が用いられる。①38℃以上の発熱、②咳嗽がない、③圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、④扁桃の腫脹・白苔の4項目で、本例はすべてを満たす(McIsaacスコアでは15〜44歳は年齢による加点0点で合計4点)。さらにGAS咽頭炎患者との濃厚接触歴があり、GAS咽頭炎の可能性はきわめて高い。実際の診療では迅速抗原検査や咽頭培養で確認したうえで治療を行う。 鑑別として、伝染性単核球症(Epstein-Barr〈EB〉ウイルス感染症)も扁桃の白苔と発熱を来すが、後頸部を含む全身性のリンパ節腫脹や肝脾腫を伴うことが多い。本例では肝・脾を触知せず、接触歴からもGAS咽頭炎が最も考えやすい。

治療の考え方

GAS咽頭炎に抗菌薬を投与する目的は、症状の期間短縮、周囲への感染拡大の防止、そして扁桃周囲膿瘍などの化膿性合併症とリウマチ熱などの非化膿性合併症の予防である。GASにはペニシリン耐性株が報告されておらず、抗菌スペクトルが狭くて安価・安全なペニシリン系薬(アモキシシリンなど)を10日間投与するのが標準治療である。抗菌薬適正使用の観点からも、有効な薬剤の中で最も狭域なものを選ぶのが原則となる。

選択肢考察

  1. ×a.  キノロン系薬

    レボフロキサシンなどのいわゆるレスピラトリーキノロンはGASにも抗菌力をもつが、グラム陰性桿菌や非定型病原体まで幅広く覆う広域抗菌薬である。狭域のペニシリン系薬で十分治療できる疾患に用いると、耐性菌の出現を助長し、結核の診断を遅らせる(結核菌にも一部効くため)などの不利益がある。GAS咽頭炎に用いる理由はなく不適切である。

  2. ×b.  抗ウイルス薬

    本例は症状、診察所見、接触歴からGASによる細菌性咽頭炎と考えられ、抗ウイルス薬の適応はない。なお、ウイルス性咽頭炎の多く(アデノウイルス、EBウイルスなど)にも有効な抗ウイルス薬はなく、インフルエンザの場合に抗インフルエンザ薬が使われる程度である。

  3. ○c.  ペニシリン系薬

    GASはペニシリン系薬に対する耐性が報告されておらず、確実な効果があり、抗菌スペクトルが狭く、副作用が少なく安価であることから、GAS咽頭炎の第一選択薬である。わが国では経口のアモキシシリンを10日間投与するのが一般的である。症状は数日で改善するが、咽頭からの除菌を確実にしてリウマチ熱を予防するため、症状が消えても10日間飲み切ることが重要である。本例は薬剤アレルギー歴がなく、ペニシリン系薬を使わない理由はない。ただし、伝染性単核球症の患者にアモキシシリンなどのアミノペニシリンを投与すると高頻度に皮疹が出るため、鑑別は意識しておく。

  4. ×d.  マクロライド系薬

    マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)は、ペニシリンに対して重篤なアレルギーがある場合の代替薬の一つである。しかし、わが国ではGASのマクロライド耐性率が高く、治療失敗のおそれがある。本例は薬剤アレルギー歴がなく、ペニシリン系薬を避ける理由がないため、第一選択とはならない。

  5. ×e.  第3世代セファロスポリン系薬

    セファロスポリン系薬もGASに有効で、短期間投与でも除菌効果が得られるとする報告がある。しかし第3世代セファロスポリンはグラム陰性菌まで覆う広域抗菌薬であり、耐性菌を増やす懸念がある。また経口第3世代セファロスポリンは腸管からの吸収(生体利用率)が低いものが多い。ペニシリン系薬で十分に治療できる本例で選ぶ理由はない。ペニシリンアレルギーが即時型(アナフィラキシー)でない場合の代替としては、第1世代セファロスポリン(セファレキシンなど)が用いられる。

A群β溶血性連鎖球菌(GAS)咽頭炎

・好発:5〜15歳の小児に多く、冬から春に流行する。小児から家族内の成人にうつることも多い。 ・症状:急な発熱、強い咽頭痛、扁桃の発赤・腫脹・白苔、口蓋の点状出血、苺舌、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹。咳嗽・鼻汁は乏しい。発赤毒素を産生する株では全身の細かい紅斑(猩紅熱)を伴う。 ・診断:迅速抗原検査、咽頭培養。臨床スコア(Centor基準、McIsaacスコア)で検査・治療の必要性を判断する。McIsaacスコアは、発熱38℃以上、咳嗽なし、圧痛のある前頸部リンパ節腫脹、扁桃の腫脹・滲出物に各1点を与え、年齢3〜14歳で+1点、15〜44歳で0点、45歳以上で−1点とする。

治療

・第一選択:アモキシシリン(またはペニシリンV)を10日間経口投与。 ・ペニシリンアレルギー:即時型でなければ第1世代セファロスポリン、即時型ではクリンダマイシンやマクロライド系薬(耐性に注意)。

合併症

・化膿性合併症:扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、中耳炎、副鼻腔炎、頸部リンパ節炎など。 ・非化膿性合併症(感染後の免疫反応による):リウマチ熱(感染後2〜4週頃、心炎・多関節炎・舞踏病・輪状紅斑・皮下結節)、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(咽頭炎後1〜2週程度で血尿・浮腫・高血圧)、PANDAS(小児の溶連菌感染に関連する強迫性障害・チック)など。 ・抗菌薬治療によりリウマチ熱の予防効果は確立しているが、急性糸球体腎炎の発症予防効果は明らかではない。そのため治療後数週間は尿所見を確認することがある。

伝染性単核球症との鑑別

EBウイルスによる伝染性単核球症は、発熱・咽頭痛・扁桃白苔に加え、後頸部を含む全身のリンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球増加、肝酵素上昇を伴う。アミノペニシリン(アモキシシリン、アンピシリン)投与で高率に皮疹を生じるため注意する。

POINT

・発熱、咳嗽なし、圧痛のある前頸部リンパ節腫脹、扁桃白苔(Centor基準4項目)→ GAS咽頭炎を強く疑う。家族内感染歴も重要な手がかり。 ・GAS咽頭炎の第一選択はペニシリン系薬(アモキシシリン)を10日間。GASにペニシリン耐性はない。 ・マクロライド系はペニシリンアレルギー時の代替だが、わが国では耐性が多い。 ・キノロン系・第3世代セファロスポリン系は広域であり、抗菌薬適正使用の観点から選ばない。 ・抗菌薬治療はリウマチ熱を予防するが、急性糸球体腎炎の予防効果は明らかでない。 ・伝染性単核球症へのアミノペニシリン投与は皮疹を誘発する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。