「唾液が飲み込めない」は窒息のサイン―咽頭痛に潜む気道緊急を見逃すな
第116回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
咽頭痛を訴える患者に確認すべき緊急性の高い随伴症状はどれか。
- a.喀痰
- b.膿性鼻汁
- c.唾液の流涎
- d.顎下リンパ節痛
- e.38℃以上の高熱
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
咽頭痛の大部分はウイルス性咽頭炎や細菌性扁桃炎ですが、急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、深頸部膿瘍など、短時間で窒息に至る疾患を見逃さないことが最も重要です。唾液の流涎は唾液すら飲み込めないほどの上気道の通過障害を示す危険徴候であり、含み声、吸気性喘鳴、呼吸困難、前傾姿勢、開口障害なども同様に気道緊急を示唆します。一方、高熱、喀痰、膿性鼻汁、顎下リンパ節痛は一般的な上気道感染症でよくみられ、それ自体は緊急性を示しません。急性喉頭蓋炎では強い咽頭痛のわりに口腔内所見が乏しく、喉頭内視鏡で確認すること、疑った時点で仰臥位にしたり舌圧子で刺激したりせず気道確保の準備を整えることが重要です。ありふれた症状の中から危険徴候を拾い上げる視点は、救急外来やプライマリ・ケアでの安全な診療の基本になります。
解答・解説
正解はcです
咽頭痛は外来で非常によくみられる症状であり、その大部分はウイルス性の咽頭炎や細菌性扁桃炎など、命にかかわらない疾患である。しかし、少数ながら短時間で気道が閉塞して窒息に至る疾患が紛れており、これを見逃さないことが咽頭痛診療で最も重要である。 緊急性の高い咽頭痛の代表は、急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍(咽頭後壁の奥のすき間に膿がたまる病態)、深頸部膿瘍、口腔底蜂窩織炎(Ludwig angina)などである。これらに共通する危険な徴候(red flag)として、次のものがある。 ・唾液を飲み込めず口からこぼれる(流涎) ・痛みが強くて飲み込めない(嚥下困難、嚥下痛) ・こもったような声(含み声)や嗄声 ・吸気性喘鳴(stridor)、呼吸困難 ・前かがみで顎を突き出した姿勢(tripod position)を好み、横になれない ・開口障害、頸部の腫脹 ・咽頭痛が強いのに口から見える咽頭所見が乏しい 設問の選択肢のうち、上気道の通過障害を直接反映し、窒息の危険を示すのは唾液の流涎である。他の選択肢は上気道感染症でありふれてみられる症状であり、それ自体は気道緊急を示さない。
選択肢考察
- ×a. 喀痰
誤り。喀痰は気管・気管支の炎症などで分泌物が増えたときにみられ、かぜ症候群や急性気管支炎に普通に伴う症状である。気道閉塞の切迫を示すものではなく、咽頭痛に伴う緊急性の高い症状とはいえない。
- ×b. 膿性鼻汁
誤り。膿性鼻汁は急性鼻副鼻腔炎やかぜ症候群の経過中によくみられる症状であり、咽頭痛を伴っていても気道緊急を示唆しない。なお、副鼻腔炎から眼窩内や頭蓋内へ炎症が波及すれば緊急性が生じるが、その場合に注目すべきは眼瞼腫脹、視力障害、意識障害、頭痛などであり、膿性鼻汁そのものではない。
- ○c. 唾液の流涎
正しい。健康な人は無意識のうちに1日1〜1.5L程度の唾液を飲み込んでいる。唾液が口からあふれ出てくるのは、強い嚥下痛や咽頭・喉頭の腫脹のために唾液すら飲み込めなくなっていることを意味し、上気道(咽頭〜喉頭)に高度な通過障害が生じていることを示す。 その代表が急性喉頭蓋炎であり、喉頭蓋が急速に腫れて声門の入口をふさぎ、短時間で窒息に至ることがある。喉頭蓋は口を開けて観察しても見えないため、咽頭痛が非常に強いのに口腔から見える咽頭所見が乏しいという乖離が特徴であり、確定には喉頭内視鏡(ファイバースコープ)による観察が必要である。扁桃周囲膿瘍や咽後膿瘍でも流涎がみられる。 流涎を認めた場合は気道緊急として扱い、患者を無理に仰臥位にしない(腫れた組織が気道をふさいで窒息を誘発しうる)、舌圧子で刺激しない、気管挿管や輪状甲状靱帯切開など気道確保の準備を整えたうえで専門医が評価する、といった対応が必要である。
- ×d. 顎下リンパ節痛
誤り。顎下リンパ節の腫脹・圧痛は、咽頭炎、扁桃炎、う歯などの口腔・咽頭の炎症に反応して起こるありふれた所見である。リンパ節の腫れ自体が気道を圧迫して狭窄を起こすことはまれであり、緊急性の高い随伴症状とはいえない。ただし、頸部全体の広範な腫脹や口腔底の硬い腫れを伴う場合は、深頸部膿瘍や口腔底蜂窩織炎を考える必要がある。
- ×e. 38℃以上の高熱
誤り。38℃以上の発熱は、ウイルス性咽頭炎や溶連菌(A群β溶血性レンサ球菌)による扁桃炎など、一般的な咽頭感染症でもしばしばみられる。炎症の存在や細菌感染の可能性を考える手がかりにはなるが(例えば溶連菌感染を推定するCentor基準の項目に含まれる)、発熱だけで気道閉塞などの緊急性を判断することはできない。
咽頭痛で見逃してはならない疾患
・急性喉頭蓋炎:インフルエンザ菌b型(Hib)などによる喉頭蓋の急性炎症。Hibワクチンの普及により小児例は減り、現在は成人例が多い。強い咽頭痛、嚥下痛、流涎、含み声、吸気性喘鳴を呈する。頸部側面エックス線で喉頭蓋が親指のように腫れて見える所見(thumb sign)が知られる。診断は喉頭内視鏡で行う。 ・扁桃周囲膿瘍:扁桃炎に続いて扁桃の外側に膿がたまる。片側の強い咽頭痛、開口障害、含み声、口蓋垂の健側への偏位が特徴。穿刺や切開による排膿を行う。 ・咽後膿瘍:主に乳幼児にみられる。咽頭後壁の膨隆、頸部の伸展、喘鳴を伴う。 ・深頸部膿瘍:頸部の筋膜間隙に膿がたまり、縦隔へ波及すると降下性壊死性縦隔炎となる。糖尿病患者で重症化しやすい。 ・口腔底蜂窩織炎(Ludwig angina):主に歯性感染から生じ、口腔底が硬く腫れて舌が持ち上げられ、気道閉塞をきたす。 咽頭痛以外の原因として、急性冠症候群、大動脈解離、くも膜下出血などが咽頭痛や喉の違和感として現れることがあり、咽頭所見が乏しい場合はこれらも念頭に置く。
流涎の原因
・咽頭痛を伴うもの:急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍などの炎症性疾患、口腔・咽喉頭の腫瘍、異物(魚骨など) ・咽頭痛を伴わないもの:唾液分泌の亢進(薬剤など)、脳血管障害、Parkinson病、筋萎縮性側索硬化症などの神経疾患による嚥下障害
気道緊急が疑われる場合の対応
座位など患者が楽な姿勢を保たせ、不用意に仰臥位にしたり舌圧子で咽頭を刺激したりしない。酸素投与、静脈路確保を行い、気管挿管・輪状甲状靱帯切開・気管切開などの準備を整えたうえで、耳鼻咽喉科医や麻酔科医と連携して評価する。
POINT
・咽頭痛の診療では、まず窒息の危険がある疾患(急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、深頸部膿瘍など)を除外する。 ・危険徴候:流涎、嚥下困難、含み声、吸気性喘鳴、呼吸困難、前傾姿勢(tripod position)、開口障害。 ・咽頭痛が強いのに口腔内の所見が乏しい場合は急性喉頭蓋炎を疑い、喉頭内視鏡で確認する。 ・急性喉頭蓋炎が疑われる患者を仰臥位にしない、舌圧子で刺激しない。 ・発熱、喀痰、膿性鼻汁、顎下リンパ節腫脹はありふれた症状で、それ自体は緊急性を示さない。
