「ぐにゃぐにゃ乳児」か「よく転ぶ幼児」か―発症時期で見分ける小児の筋疾患
第116回医師国家試験 B問題 第12問
国試問題にチャレンジ
幼児期以降に筋力低下が明らかになるのはどれか。
- a.Werdnig-Hoffmann病
- b.新生児一過性重症筋無力症
- c.Duchenne型筋ジストロフィー
- d.福山型先天性筋ジストロフィー
- e.先天性筋強直性ジストロフィー
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児の神経筋疾患は、筋力低下が明らかになる時期で整理すると鑑別しやすくなります。Werdnig-Hoffmann病(SMAⅠ型)、福山型先天性筋ジストロフィー、先天性筋強直性ジストロフィー、新生児一過性重症筋無力症は、いずれも新生児期〜乳児期早期からフロッピーインファントとして現れます。一方、Duchenne型筋ジストロフィーは血清CKこそ新生児期から著明高値ですが、乳児期の運動発達はほぼ正常で、3〜5歳ごろに転びやすさ、Gowers徴候、腓腹筋の仮性肥大などで気づかれます。SMAでも幼児期以降に症状が出るのはⅢ型(Kugelberg-Welander病)であり、型ごとの発症時期を区別しておくことが大切です。発症時期という時間軸をもつことは、試験対策だけでなく、外来で運動発達の遅れや転びやすさを訴える子どもを診る際の判断の土台になります。
解答・解説
正解はcです
小児の神経筋疾患を「筋力低下がいつ明らかになるか(発症時期)」で整理できるかを問う問題である。 生まれた直後から、あるいは乳児期早期から筋力低下や筋緊張低下が目立つ子どもは「フロッピーインファント(floppy infant、ぐにゃぐにゃ乳児)」と呼ばれる。抱き上げると体がだらりと垂れ下がり、仰向けに寝かせると下肢が外に開いて床につくカエル肢位をとる。選択肢のうち、Werdnig-Hoffmann病(脊髄性筋萎縮症Ⅰ型)、新生児一過性重症筋無力症、福山型先天性筋ジストロフィー、先天性筋強直性ジストロフィーはいずれも新生児期〜乳児期早期から筋力低下・筋緊張低下を示し、フロッピーインファントの原因となる疾患である。 これに対しDuchenne型筋ジストロフィーは、筋線維の破壊自体は胎児期から始まっており血清クレアチンキナーゼ(CK、筋肉に多い酵素で、筋が壊れると血中に漏れ出る)は出生時から著明に高いものの、乳児期の運動発達はほぼ正常(独歩開始がやや遅れる程度)である。転びやすい、走るのが遅い、階段を上りにくいといった筋力低下の症状が目立ってくるのは3〜5歳ごろの幼児期である。 したがって「幼児期以降に筋力低下が明らかになる」のはDuchenne型筋ジストロフィーである。名称に「先天性」「新生児」が付く疾患はその時点で除外でき、残るWerdnig-Hoffmann病が乳児期早期発症であることを知っていれば解答できる。
選択肢考察
- ×a. Werdnig-Hoffmann病
誤り。Werdnig-Hoffmann病は脊髄性筋萎縮症(SMA)Ⅰ型のことである。SMAは第5染色体上のSMN1遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝疾患で、脊髄前角の運動ニューロンが変性・脱落し、筋萎縮と筋力低下をきたす。 Ⅰ型は生後6か月までに発症し、首がすわらず、生涯にわたって独りで座ることができない。筋力低下は体幹と四肢近位筋に強く、腱反射は消失し、舌の線維束性収縮(細かいぴくつき)がみられる。肋間筋が弱く横隔膜は比較的保たれるため、胸がへこみ腹部が膨らむ奇異呼吸(シーソー呼吸)を呈する。表情筋は保たれ、知能は正常である。人工呼吸管理を行わなければ多くは2歳までに呼吸不全で死亡する。 乳児期早期に発症するフロッピーインファントの代表であり、幼児期以降の発症ではない。なお、生後6〜18か月に発症し座位は獲得するが歩行できないものはⅡ型(Dubowitz病)、1歳6か月以降に発症し歩行を獲得するものはⅢ型(Kugelberg-Welander病)であり、幼児期以降に症状が明らかになるSMAはⅢ型である。
- ×b. 新生児一過性重症筋無力症
誤り。重症筋無力症の母親から生まれた新生児の一部(10〜20%程度)にみられる。母体の抗アセチルコリン受容体抗体(IgG)が胎盤を通過して胎児へ移行し、神経筋接合部での興奮の伝達を妨げることで起こる。 生後数時間〜数日以内に、哺乳力低下、弱い啼泣、全身の筋緊張低下、呼吸障害などが出現し、眼瞼下垂がみられることもある。症状は新生児期に現れるものであり、幼児期以降に明らかになるのではない。 移行抗体が新生児の体内で分解されるにつれて症状は改善し、通常は数週間(多くは1〜2か月以内)で消失して再発しない。重症例では抗コリンエステラーゼ薬の投与や呼吸管理を行う。
- ○c. Duchenne型筋ジストロフィー
正しい。Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)はX連鎖劣性遺伝の疾患で、原則として男児に発症する。X染色体短腕(Xp21)にあるジストロフィン遺伝子の変異により、筋細胞膜を裏打ちして補強するジストロフィン蛋白が欠損し、筋線維が収縮のたびに壊れやすくなって変性・壊死を繰り返す。 乳児期の運動発達はほぼ正常で、歩き始めがやや遅れる程度である。3〜5歳ごろから転びやすい、走れない、階段が上りにくいなどの症状が明らかになり、腰を左右に振る動揺性歩行、床から立ち上がる際に手で膝や大腿を順に押して体を起こすGowers徴候、ふくらはぎが太く硬くなる腓腹筋の仮性肥大(筋が脂肪・結合組織に置き換わるため)がみられる。筋力低下は体幹・腰帯部などの近位筋から進行する。 血清CKは新生児期から正常の数十〜数百倍に上昇しており、症状が出る前に偶然見つかることもある。無治療では10歳前後で歩行不能となり、その後、側弯や関節拘縮、呼吸不全、心筋症(拡張型心筋症様の心不全)が問題となる。副腎皮質ステロイドは歩行可能期間を延長させる効果があり、呼吸管理や心保護治療の進歩によって生命予後は改善している。特定の遺伝子変異に対してはエクソン・スキッピング薬(ビルトラルセン)も使用される。
- ×d. 福山型先天性筋ジストロフィー
誤り。福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は日本人に多い常染色体劣性遺伝の疾患で、第9染色体上のフクチン(fukutin)遺伝子の異常による。日本人の多くの患者は共通の祖先に由来する変異(遺伝子への挿入変異)をもつ。 新生児期〜乳児期早期から筋緊張低下と筋力低下があり、フロッピーインファントとして気づかれる。運動機能は座位の獲得程度が最高であることが多く、独歩を獲得する例は少ない。筋だけでなく脳にも形成異常(大脳皮質の形成障害など)を伴うため、知的障害やてんかん(熱性けいれんを含む)を合併し、近視や網膜の異常など眼の合併症もみられる。関節拘縮が進行し、血清CKも高値となる。発症は乳児期であり、幼児期以降ではない。
- ×e. 先天性筋強直性ジストロフィー
誤り。筋強直性ジストロフィー1型は、第19染色体上のDMPK遺伝子にあるCTGという3塩基の繰り返し配列が異常に伸びることで起こる常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。世代を経るごとに繰り返し配列が長くなり、発症が早く重症になる表現促進現象がみられる。 先天型は繰り返し配列が非常に長い場合に生じ、ほとんどが母親からの遺伝である(母親自身は軽症で未診断のこともある)。胎児期から羊水過多や胎動減少がみられ、出生直後から著明な筋緊張低下、哺乳・嚥下障害、呼吸不全を示し、人工呼吸管理を要することも多い。上唇がテント状に持ち上がった口の形(テント状の口)、内反足などの関節拘縮も特徴で、成長に伴い知的障害が明らかになる。新生児期には筋強直(ミオトニア)は目立たない。発症は新生児期であり、幼児期以降ではない。
小児の主な神経筋疾患と筋力低下が明らかになる時期
・新生児期:先天性筋強直性ジストロフィー、新生児一過性重症筋無力症、先天性ミオパチー(ネマリンミオパチーなど) ・新生児期〜乳児期早期:脊髄性筋萎縮症Ⅰ型(Werdnig-Hoffmann病)、福山型先天性筋ジストロフィー、Pompe病(糖原病Ⅱ型)の乳児型 ・乳児期(生後6〜18か月):脊髄性筋萎縮症Ⅱ型(Dubowitz病) ・幼児期(3〜5歳ごろ):Duchenne型筋ジストロフィー ・幼児期以降:脊髄性筋萎縮症Ⅲ型(Kugelberg-Welander病) ・学童期〜成人:Becker型筋ジストロフィー(ジストロフィンが量的・質的に減少するがゼロではないため、Duchenne型より軽症で発症も遅い)、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィーの成人型
フロッピーインファントの考え方
筋緊張低下の原因は、中枢性(脳性麻痺、染色体異常、Prader-Willi症候群など)と末梢性(運動ニューロン、末梢神経、神経筋接合部、筋の疾患)に大別される。末梢性では筋力低下が強く腱反射が低下・消失しやすいのに対し、中枢性では筋力は比較的保たれ、腱反射は保たれるか亢進することが多い。
Duchenne型筋ジストロフィーの要点
・頻度:男児出生約3,000〜3,500人に1人。約3分の1は母親が保因者でない新生突然変異とされる。 ・診断:血清CK著明高値、遺伝子検査(エクソンの欠失・重複が多い)、筋生検でのジストロフィン染色欠損。 ・経過:3〜5歳で症状顕在化 → 無治療では10歳前後で歩行不能 → 側弯・関節拘縮、呼吸不全、心筋症。 ・治療:副腎皮質ステロイド、呼吸リハビリテーション・非侵襲的陽圧換気、心保護薬(ACE阻害薬、β遮断薬など)、エクソン・スキッピング薬(適応となる変異に限る)。 ・合併症:知的障害や発達障害を伴うことがある。
POINT
・幼児期(3〜5歳)に転びやすさ・Gowers徴候・腓腹筋仮性肥大で気づかれる → Duchenne型筋ジストロフィー(X連鎖劣性、ジストロフィン欠損)。 ・Duchenne型でも血清CKは新生児期から著明高値である。 ・新生児期〜乳児期早期発症(フロッピーインファント):SMAⅠ型(Werdnig-Hoffmann病)、福山型先天性筋ジストロフィー、先天性筋強直性ジストロフィー、新生児一過性重症筋無力症。 ・福山型:日本に多い、常染色体劣性、フクチン遺伝子、脳形成異常による知的障害・てんかんを合併。 ・先天性筋強直性ジストロフィー:母親由来、CTGリピート伸長・表現促進現象、羊水過多、テント状の口。 ・新生児一過性重症筋無力症:母体抗AChR抗体の経胎盤移行、数週間で自然に消失。
