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抗体が赤血球の形を変える―自己免疫性溶血性貧血の塗抹標本を読む

第99回医師国家試験 E問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第37問

自己免疫性溶血性貧血にみられる赤血球形態所見はどれか。2つ選べ。

  1. a.破砕赤血球
  2. b.標的赤血球
  3. c.赤血球凝集
  4. d.小球状赤血球
  5. e.低色素性赤血球

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は自己免疫性溶血性貧血、AIHAの末梢血塗抹標本で見られる赤血球の形を問う問題だ。丸暗記ではなく、「抗体が赤血球をどう壊すか」という機序から考えると、どの形態が出るかが自然に導ける。まずAIHAには大きく2つのタイプがあるけれど、覚えているかな。
医学生医学生
温式と冷式ですよね。抗体が結合しやすい温度で分けると習いました。
ドクタードクター
その通り。温式は主にIgG型の自己抗体が体温付近で赤血球に結合するタイプで、AIHAの大部分を占める。冷式の代表は寒冷凝集素症で、主にIgM型の抗体が低温で結合する。この2つで赤血球の形の変化がまったく違ってくるんだ。まず温式から。IgGで覆われた赤血球は脾臓でどうなると思う?
医学生医学生
脾臓のマクロファージにFc受容体があるので、丸ごと食べられてしまう……でしょうか。
ドクタードクター
丸ごと貪食されることもあるけれど、ポイントは「膜の一部だけをかじり取られる」場合だ。体積はあまり減らないのに表面積だけが減ると、表面積と体積の比が小さくなって、細胞は球に近づいていく。球は同じ体積で最も表面積が小さい形だからね。こうしてできるのが小球状赤血球だ。
医学生医学生
なるほど、だから小さくて丸くて、中央の淡く抜けた部分がなくなるんですね。検査実習で見た遺伝性球状赤血球症の標本と似ている気がします。
ドクタードクター
鋭いね。形態としては遺伝性球状赤血球症と同じだ。区別のカギは直接Coombs試験で、赤血球表面に結合したIgGや補体を検出できればAIHAと考える。ここで一つ注意。「小球状赤血球」という形態の名前と、MCVが低い「小球性貧血」は別の概念だよ。
医学生医学生
え、小球状赤血球が出るならMCVも下がると思っていました。
ドクタードクター
そう誤解しやすいところなんだ。AIHAでは溶血に反応して骨髄が頑張り、大きめの網赤血球が増えるから、貧血全体としては正球性からやや大球性になることが多い。だからAIHAで「小球性貧血」とは言わない。では冷式のほうはどうだろう。IgMの構造を思い出してみて。
医学生医学生
IgMは五量体で、抗原結合部位がたくさんあります。……ということは、複数の赤血球をつなげてしまう?
ドクタードクター
その通り。IgM型の寒冷凝集素が複数の赤血球を橋渡しして集塊をつくるから、室温で作った塗抹標本では赤血球凝集像が見える。検体を37℃に温めると凝集がほどけるのも特徴だ。自動血球計数器では、凝集した塊を1個の大きな細胞と数えてしまうので、赤血球数が偽低値、MCVが偽高値になることがある。
医学生医学生
血液内科の実習で、MCVが異様に高い検体を温め直して再検したら正常になった、という話を聞きました。あれは寒冷凝集素だったんですね。
ドクタードクター
まさにその現象だね。というわけで、今回の正解は赤血球凝集と小球状赤血球の2つ。残りの選択肢も見ておこう。破砕赤血球はどんなときに出る?
医学生医学生
ヘルメット型や三角形の断片で、TTPやHUS、DICで出るものですよね。溶血という点ではAIHAと同じなので少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だけど、壊れ方が違う。破砕赤血球は、微小血管内のフィブリン網や血小板血栓、人工弁などに物理的に引っかかって裂けた結果できるものだ。AIHAは抗体を介して主に脾臓などで処理される血管外溶血だから、機械的な断片化は起こらない。
医学生医学生
標的赤血球と低色素性赤血球は、鉄欠乏やサラセミアのような、ヘモグロビンを作れない病気の所見というイメージです。
ドクタードクター
おおむねその理解でいい。標的赤血球は体積に比べて膜の表面積が相対的に余ったときにできるもので、サラセミアや異常ヘモグロビン症、閉塞性黄疸や肝疾患、脾摘後などで見られる。AIHAは逆に表面積が減って球状化するから、方向がまったく反対なんだ。低色素性赤血球はヘモグロビン合成障害の所見で、AIHAではヘモグロビン合成自体は保たれるので一般に正色素性。球状赤血球はむしろ濃く染まり、MCHCがやや高めになることもある。
医学生医学生
表面積が減れば球状赤血球、余れば標的赤血球、と膜の量で対比すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
いい整理だ。最後に臨床の発展知識。温式AIHAは特発性のほか、SLEなどの膠原病や慢性リンパ性白血病などのリンパ増殖性疾患、薬剤に続発することがあり、治療の第一選択は副腎皮質ステロイド。寒冷凝集素症はマイコプラズマ肺炎や伝染性単核球症に続発する急性型と、リンパ増殖性疾患に関連する慢性型があって、保温が基本でステロイドは効きにくい。溶血の一般所見として、網赤血球増加、間接ビリルビンとLDの上昇、ハプトグロビン低下もセットで押さえておこう。
医学生医学生
Coombs試験陽性の溶血を見たら、背景に膠原病やリンパ腫が隠れていないかも探す必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。塗抹標本の一枚から、溶血の機序、さらに背景疾患まで推理を広げられるのが血液形態学の面白さだよ。

まとめ

自己免疫性溶血性貧血では、抗体による赤血球破壊の機序を考えると形態所見が理解できます。温式AIHAではIgGが結合した赤血球が脾臓のマクロファージに膜を削られ、表面積が減って小球状赤血球となり、寒冷凝集素症ではIgM型抗体が赤血球同士を架橋して赤血球凝集を起こします。破砕赤血球はTTP・HUS・DICなどの機械的な溶血、標的赤血球や低色素性赤血球はサラセミアや鉄欠乏性貧血などヘモグロビン合成障害や膜表面積の相対的過剰で見られ、AIHAの典型所見ではありません。遺伝性球状赤血球症とは直接Coombs試験で鑑別し、「小球状赤血球」と「小球性貧血」を混同しないことも重要です。赤血球の形から破壊の機序と背景疾患を推理する視点は、溶血性貧血全般の診断に役立ちます。

解答・解説

正解はc, dです

自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)の末梢血塗抹標本でみられる赤血球の形の変化を問う問題である。 AIHAは、自分の赤血球膜抗原に対する自己抗体が産生され、抗体(および補体)が結合した赤血球が破壊される疾患である。抗体が最もよく結合する温度によって、次の2型に分けられる。 ・温式AIHA:主にIgG型の自己抗体が体温付近(37℃)で赤血球に結合する。AIHAの大部分を占める。IgGで覆われた赤血球が脾臓のマクロファージ(Fc受容体をもつ)に捕まり、膜の一部だけがかじり取られると、赤血球は体積をあまり失わずに表面積だけが減る。表面積と体積の比が小さくなると細胞は球形に近づき、小さく中央の淡明部を欠く「小球状赤血球(球状赤血球)」となる。最終的には脾臓で処理される(血管外溶血)。 ・冷式AIHA(寒冷凝集素症、発作性寒冷ヘモグロビン尿症):寒冷凝集素症では主にIgM型の寒冷凝集素が低温で赤血球に結合し、赤血球同士を凝集させる。塗抹標本では赤血球凝集像がみられ、自動血球計数器ではMCVの偽高値や赤血球数の偽低値の原因になる。 このように、抗体による赤血球破壊の機序を考えれば、温式で小球状赤血球、冷式で赤血球凝集が出現することが理解できる。そのほか、溶血に反応して骨髄での赤血球産生が亢進するため、網赤血球の増加や多染性赤血球もみられる。一方、機械的な破壊による破砕赤血球や、ヘモグロビン合成障害による低色素性赤血球・標的赤血球は、AIHAの典型所見ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  破砕赤血球

    破砕赤血球(schistocyte)は、赤血球が血管内で物理的に切断されてできるヘルメット型・三角形・半月型などの不整形の断片である。微小血管内のフィブリン網や血小板血栓に引っかかって裂ける細血管障害性溶血性貧血(血栓性血小板減少性紫斑病〈TTP〉、溶血性尿毒症症候群〈HUS〉、播種性血管内凝固〈DIC〉など)や、人工弁・大動脈弁狭窄などによる機械的溶血でみられる。AIHAの溶血は主に抗体を介した脾臓などでの血管外溶血であり、機械的な破砕は起こらないため、典型的な所見ではない。

  2. ×b.  標的赤血球

    標的赤血球(target cell)は、中央にヘモグロビンが集まり、その周りが淡く抜け、さらに外周が濃く染まって的のように見える赤血球である。体積に対して膜の表面積が相対的に過剰になると生じ、サラセミア、ヘモグロビンC症などの異常ヘモグロビン症、鉄欠乏性貧血、閉塞性黄疸や慢性肝疾患(膜脂質の増加による)、脾摘後などでみられる。AIHAでは逆に表面積が減って球状化するので、標的赤血球は特徴的な所見ではない。

  3. ○c.  赤血球凝集

    冷式AIHAの代表である寒冷凝集素症では、主にIgM型の寒冷凝集素が低温(体表近くの末梢など)で赤血球に結合する。IgMは五量体で複数の赤血球を架橋できるため、赤血球同士が集塊を形成し、室温で作製した末梢血塗抹標本では赤血球凝集像として観察される。検体を37℃に温めると凝集が解離するのが特徴である。この凝集により自動血球計数器で赤血球数が偽低値、MCVが偽高値を示すこともある。臨床的には寒冷曝露による末梢のチアノーゼ(肢端紫藍症)や溶血発作を呈する。したがって赤血球凝集はAIHAでみられる所見である。

  4. ○d.  小球状赤血球

    温式AIHAでは、IgGが結合した赤血球が脾臓のマクロファージに膜の一部を貪食され、表面積が減少して球状化する。こうしてできる小球状赤血球(microspherocyte)は直径が小さく、中央の淡明部(central pallor)を欠いて濃く均一に染まるのが特徴である。遺伝性球状赤血球症でも同じ形態がみられるが、AIHAでは直接Coombs試験が陽性である点で鑑別できる。なお「小球状赤血球」は形態の名称であり、MCVが低い「小球性貧血」とは別の概念である。AIHAの貧血は網赤血球の増加などのため正球性〜やや大球性になることが多い。

  5. ×e.  低色素性赤血球

    低色素性赤血球は、赤血球内のヘモグロビン量が少なく中央の淡明部が広がった赤血球で、鉄欠乏性貧血、サラセミア、鉄芽球性貧血、慢性炎症に伴う貧血の一部など、ヘモグロビン合成が障害される病態でみられる。AIHAではヘモグロビン合成自体は障害されないため、貧血は一般に正色素性である。むしろ球状赤血球は中央の淡明部を欠いて濃く染まり、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)がやや高値となることがある(高色素性に見える)。

自己免疫性溶血性貧血の分類

・温式AIHA:IgG(ときに補体C3も)が37℃で結合。原因不明の特発性のほか、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病、慢性リンパ性白血病などのリンパ増殖性疾患、薬剤に続発する。治療の第一選択は副腎皮質ステロイドで、無効例では脾摘やリツキシマブなどを考慮する。 ・寒冷凝集素症:IgM寒冷凝集素(多くは抗I抗体)。マイコプラズマ肺炎(抗I)や伝染性単核球症(抗i)に続発する急性型と、リンパ増殖性疾患に関連する慢性型がある。補体が活性化され、主に肝臓での血管外溶血と一部血管内溶血を起こす。治療は保温が基本で、ステロイドは効きにくい。 ・発作性寒冷ヘモグロビン尿症:IgGのDonath-Landsteiner抗体(抗P抗体)。寒冷で結合し、加温で補体が活性化されて血管内溶血を起こす。小児のウイルス感染後に多い。

AIHAの検査所見

・貧血、網赤血球増加 ・間接ビリルビン上昇、LD上昇、ハプトグロビン低下 ・直接Coombs試験(直接抗グロブリン試験)陽性:赤血球表面に結合したIgGや補体を検出する。 ・塗抹標本:球状赤血球(温式)、赤血球凝集(寒冷凝集素症)、多染性赤血球

赤血球形態と代表的疾患

・球状赤血球:遺伝性球状赤血球症、温式AIHA ・破砕赤血球:TTP、HUS、DIC、機械的溶血 ・標的赤血球:サラセミア、異常ヘモグロビン症、閉塞性黄疸、肝疾患 ・涙滴赤血球:骨髄線維症 ・有棘赤血球・金平糖状赤血球:肝疾患、尿毒症など ・鎌状赤血球:鎌状赤血球症 ・低色素性赤血球:鉄欠乏性貧血、サラセミア

POINT

・温式AIHAでは脾臓で膜が削られて小球状赤血球(球状赤血球)が出現する。 ・寒冷凝集素症ではIgM寒冷凝集素により赤血球凝集がみられ、加温で解離する。 ・破砕赤血球は機械的な血管内溶血(TTP、HUS、DICなど)の所見である。 ・AIHAは直接Coombs試験陽性で、遺伝性球状赤血球症と鑑別できる。 ・「小球状赤血球」(形態)と「小球性貧血」(MCV低値)を混同しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。