壁に上皮はあるか?―膵囊胞を「真性」と「仮性」から読み解く
第99回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
囊胞性膵疾患で正しいのはどれか。
- a.仮性囊胞壁は上皮を有しない。
- b.粘液性囊胞腫瘍は男性に多い。
- c.粘液性囊胞腫瘍は膵頭部に多い。
- d.貯留性囊胞内のアミラーゼ値は低い。
- e.漿液性囊胞腫瘍は癌化しやすい。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
膵囊胞性病変は、まず囊胞壁に上皮があるかどうかで真性囊胞と仮性囊胞に分けて考えます。仮性囊胞は膵炎や外傷で漏れた膵液を肉芽・線維組織が包んだもので、壁に上皮をもたないことが定義上の特徴です。腫瘍性囊胞では、粘液性囊胞腫瘍が中年女性の膵体尾部に好発し卵巣様間質をもち悪性化しうるのに対し、漿液性囊胞腫瘍は高齢女性に多い蜂巣状の腫瘍でほぼ良性です。また膵管閉塞による貯留性囊胞や膵管と交通する仮性囊胞では、内容液のアミラーゼは高値となります。MCNとIPMNを対にして覚え、年齢・性別・部位・膵管との交通・悪性度の視点で整理しておくことが、画像診断や治療方針の判断にそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はaです
膵臓にできる囊胞性病変の分類と、それぞれの特徴を問う問題である。 膵囊胞は、まず「囊胞の内面が上皮で覆われているかどうか」で大きく2つに分けて考えると整理しやすい。 ・真性囊胞:内面が上皮で裏打ちされている。先天性囊胞、貯留性囊胞(膵管の閉塞によって膵液がたまったもの)、腫瘍性囊胞(漿液性囊胞腫瘍、粘液性囊胞腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍など)が含まれる。 ・仮性囊胞:急性膵炎・慢性膵炎・外傷などで漏れ出た膵液や壊死物質が、周囲の肉芽組織・線維組織で被包されてできる。壁に上皮をもたない。 次に、腫瘍性囊胞の代表である漿液性囊胞腫瘍(SCN)と粘液性囊胞腫瘍(MCN)については、好発年齢・性別・部位・形態・悪性化のしやすさの違いが頻出である。MCNは中年女性の膵体尾部に好発し、悪性化のポテンシャルをもつ。SCNは高齢女性に多く、ほとんどが良性である。 さらに、膵管と交通する囊胞(貯留性囊胞や多くの仮性囊胞)では膵液が流入するため、内容液のアミラーゼ値が高くなる点も押さえておく。これらを踏まえて各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ○a. 仮性囊胞壁は上皮を有しない。
膵仮性囊胞は、急性膵炎(特に発症4週以降)、慢性膵炎、膵外傷などで膵管や膵実質が破綻し、漏出した膵液・滲出液が周囲の肉芽組織や線維性組織に囲まれて形成される。囊胞壁は炎症反応による線維性被膜であり、上皮細胞による裏打ちをもたない。この「上皮の有無」こそが仮性囊胞と真性囊胞を区別する病理学的な定義であり、記述は正しい。
- ×b. 粘液性囊胞腫瘍は男性に多い。
粘液性囊胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN)はほぼ女性に限って発生し、好発年齢は40〜50歳代を中心とする中年である。組織学的に囊胞壁の上皮下に卵巣様間質(ovarian-type stroma)を認めることが診断に必須の特徴で、これが女性に偏って発生することと関連すると考えられている。男性に多いとする記述は誤りである。
- ×c. 粘液性囊胞腫瘍は膵頭部に多い。
MCNの大部分は膵体尾部に発生し、膵頭部発生はまれである。画像上は厚い被膜に覆われた類円形の囊胞で、内部が隔壁で区切られた多房性囊胞(大きな囊胞の中に小囊胞が入り込む「cyst in cyst」像、夏みかん様と表現される)を示す。通常、主膵管との交通は認めない。膵頭部に多いとする記述は誤りである。なお膵頭部(鉤部)に好発する囊胞性腫瘍としては膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)が挙げられる。
- ×d. 貯留性囊胞内のアミラーゼ値は低い。
貯留性囊胞は、結石・腫瘍・狭窄などで膵管が閉塞し、その上流の膵管が拡張して膵液がたまってできる真性囊胞である。内容は膵液そのものであるから、囊胞内容液のアミラーゼ値は血清値よりもはるかに高くなるのが普通である。したがって「低い」とする記述は誤りである。膵管と交通のある仮性囊胞でも同様に内容液アミラーゼは高値となる。
- ×e. 漿液性囊胞腫瘍は癌化しやすい。
漿液性囊胞腫瘍(serous cystic neoplasm:SCN)は、グリコーゲンに富む淡明な細胞質をもつ上皮が小囊胞を多数形成する腫瘍で、高齢女性に多い。典型例は微小な囊胞が蜂の巣状に集まった形態(microcystic type)で、中心部に星芒状の瘢痕や石灰化を伴うことがある。ほとんどが良性であり、悪性化(漿液性囊胞腺癌)はきわめてまれである。癌化しやすいのはむしろMCNやIPMNであり、記述は誤りである。
膵囊胞性病変の整理
・仮性囊胞:膵炎・外傷後。上皮なし。膵管と交通することが多く内容液アミラーゼ高値。感染・出血・破裂・周囲臓器圧迫などの合併症があれば内視鏡的または経皮的ドレナージを行う。 ・貯留性囊胞:膵管閉塞による膵液の貯留。上皮あり(真性囊胞)。アミラーゼ高値。 ・漿液性囊胞腫瘍(SCN):高齢女性、膵体尾部にやや多い。蜂巣状の微小囊胞集簇、中心瘢痕。ほぼ良性で、症状や増大がなければ経過観察が基本。 ・粘液性囊胞腫瘍(MCN):中年女性、膵体尾部。厚い被膜をもつ多房性囊胞(cyst in cyst)、卵巣様間質。主膵管との交通なし。悪性化のおそれがあるため原則として切除する。 ・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):高齢男性に多い、膵頭部(鉤部)に多い。膵管内で粘液を産生する腫瘍で膵管と交通する。主膵管型・分枝型・混合型に分けられ、主膵管型は悪性の頻度が高い。十二指腸乳頭の開大と粘液排出が内視鏡でみられることがある。 ・solid-pseudopapillary neoplasm(SPN):若年女性に多い充実性と囊胞性が混在する低悪性度腫瘍。
MCNとIPMNの対比
MCNは「中年女性・体尾部・膵管と交通なし・卵巣様間質」、IPMNは「高齢男性・膵頭部・膵管と交通あり」と対にして覚えると混同しにくい。
POINT
・仮性囊胞は壁に上皮をもたない(上皮の有無で真性囊胞と区別する)。 ・MCNは中年女性の膵体尾部に好発し、卵巣様間質が特徴で悪性化しうる。 ・SCNは高齢女性に多い蜂巣状の多囊胞性腫瘍で、ほぼ良性。 ・貯留性囊胞や膵管と交通する仮性囊胞では内容液アミラーゼは高値。 ・IPMNは高齢男性の膵頭部に多く、膵管と交通する。
