音のタイミングで弁を読む―Ⅰ音亢進とRivero-Carvallo徴候で解く心音・心雑音の組合せ
第99回医師国家試験 D問題 第80問
国試問題にチャレンジ
組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.Ⅰ音の亢進 ―― 僧帽弁狭窄症
- b.Ⅱ音の呼吸性分裂 ―― 心房中隔欠損症
- c.僧帽弁開放音 ―― 肥大型心筋症
- d.拡張期漸減性雑音 ―― 肺動脈弁狭窄症
- e.吸気で増強する収縮期雑音 ―― 三尖弁閉鎖不全症
対話形式の解説
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医学生まとめ
心音・心雑音は、心周期のタイミング、関与する弁、血行動態の変化から理解すると、暗記に頼らず正誤を判断できます。僧帽弁狭窄症では高い左房圧で弁が収縮直前まで大きく開いているためⅠ音が亢進し、開放音と拡張中期ランブルを伴います。三尖弁閉鎖不全症の全収縮期雑音は、吸気で右心への静脈還流が増えると増強し(Rivero-Carvallo徴候)、僧帽弁閉鎖不全症との鑑別に役立ちます。一方、Ⅱ音の呼吸性分裂は生理的所見で心房中隔欠損症では固定性分裂、開放音は肥大型心筋症ではなく僧帽弁狭窄症の所見、拡張期漸減性雑音は半月弁の狭窄ではなく逆流の雑音です。呼吸や体位による音の変化を意識した聴診は、ベッドサイドでの診断力を支える基本技術です。
解答・解説
正解はa, eです
心音・心雑音の所見と疾患を結びつける問題である。暗記に頼るのではなく、「心周期のどのタイミングで、どの弁で、どんな血行動態の変化が起きているか」から考えると、各組合せの正誤を論理的に判断できる。
心音の基本
・Ⅰ音: 収縮期の始まりに僧帽弁と三尖弁(房室弁)が閉じる音。閉鎖直前に弁が大きく開いているほど、また心収縮が強いほど大きくなる。 ・Ⅱ音: 収縮期の終わりに大動脈弁(ⅡA)と肺動脈弁(ⅡP)が閉じる音。吸気時には胸腔内圧の低下で右心への静脈還流が増え、右室の駆出時間が延びてⅡPが遅れるため、Ⅱ音は吸気で分裂し呼気で単一化する(生理的呼吸性分裂)。 ・過剰心音: Ⅲ音(拡張早期の急速流入)、Ⅳ音(心房収縮による硬い心室への流入)、僧帽弁開放音(opening snap: OS)、駆出音など。
心雑音の考え方
・収縮期雑音: 半月弁の狭窄(大動脈弁狭窄症・肺動脈弁狭窄症)では駆出性(漸増漸減性、ダイヤモンド型)、房室弁の逆流(僧帽弁閉鎖不全症・三尖弁閉鎖不全症)や心室中隔欠損症では全収縮期性となる。 ・拡張期雑音: 半月弁の逆流(大動脈弁閉鎖不全症・肺動脈弁閉鎖不全症)では拡張早期の漸減性、房室弁の狭窄(僧帽弁狭窄症)では拡張中期のランブル(低調な雑音)となる。 ・右心系の雑音は、吸気時に右心への静脈還流が増えるため増強する。 この枠組みで各選択肢を検討すると、僧帽弁狭窄症のⅠ音亢進と、三尖弁閉鎖不全症の吸気で増強する収縮期雑音(Rivero-Carvallo徴候)が正しい組合せである。
選択肢考察
- ○a. Ⅰ音の亢進 ―― 僧帽弁狭窄症
僧帽弁狭窄症(MS)では、狭い弁口を通して血液を送るため左房圧が高く、拡張末期まで左房と左室の間に圧較差が残る。そのため僧帽弁は収縮直前まで大きく開いたままで、左室が収縮を始めると高い位置から勢いよく閉じるので、Ⅰ音が大きくなる(亢進する)。MSの聴診所見は、Ⅰ音亢進、僧帽弁開放音、拡張中期ランブル(洞調律では前収縮期に増強する)の3つが基本である。なお、弁の石灰化が高度になり可動性が失われると、Ⅰ音は逆に減弱し、開放音も聴かれにくくなる。Ⅰ音亢進はそのほか、PR間隔の短縮や、貧血・甲状腺機能亢進症・運動など心収縮力が高まった状態でもみられる。
- ×b. Ⅱ音の呼吸性分裂 ―― 心房中隔欠損症
Ⅱ音の呼吸性分裂(吸気で分裂し、呼気で単一化する)は健常者で聴かれる生理的な所見である。心房中隔欠損症(ASD)では、左房から右房への短絡により右室の容量負荷が常にあり、ⅡPが呼吸周期を通して遅れる。さらに吸気で静脈還流が増えても、左右の心房が欠損孔でつながっているため短絡量が減って右室への流入量の変化が相殺される。その結果、Ⅱ音は呼気でも吸気でも同じ幅で分裂する「固定性分裂」となる。ASDではこのほか、肺動脈弁を通る血流の増加による胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音や、三尖弁を通る血流増加による拡張期ランブルが聴かれることがある。
- ×c. 僧帽弁開放音 ―― 肥大型心筋症
僧帽弁開放音(OS)は、Ⅱ音の直後に聴かれる高調で鋭い過剰心音で、肥厚して硬くなった僧帽弁が拡張早期に高い左房圧によって押し開かれ、急に止まるときに生じる。僧帽弁狭窄症に特徴的な所見であり、Ⅱ音とOSの間隔が短いほど左房圧が高く、狭窄が重症であることを示す。肥大型心筋症(HCM)では、心室壁が厚く硬いため心房収縮による流入音であるⅣ音がよく聴かれる。閉塞性肥大型心筋症では左室流出路狭窄による収縮期駆出性雑音を聴取し、この雑音はValsalva手技や立位など静脈還流が減って左室が小さくなる操作で増強し、蹲踞(しゃがみ込み)で減弱する。
- ×d. 拡張期漸減性雑音 ―― 肺動脈弁狭窄症
拡張期漸減性雑音は、拡張早期に閉じきらない半月弁を通って血液が心室へ逆流するときに生じ、動脈と心室の圧較差が拡張早期に最大で次第に小さくなるため漸減性となる。代表は大動脈弁閉鎖不全症(AR、胸骨左縁第3肋間〈Erb領域〉でよく聴かれる高調な灌水様雑音)であり、肺高血圧症に伴う肺動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音(Graham Steell雑音)も同じタイプである。肺動脈弁狭窄症(PS)は狭窄であり、右室から肺動脈へ駆出される収縮期に雑音が生じるため、胸骨左縁第2肋間に最強点をもつ収縮期駆出性雑音(漸増漸減性)となる。重症になるとⅡPが遅れて小さくなり、Ⅱ音の分裂幅が広がる。
- ○e. 吸気で増強する収縮期雑音 ―― 三尖弁閉鎖不全症
三尖弁閉鎖不全症(TR)では、収縮期に右室から右房へ血液が逆流するため、胸骨左縁下部(第4~5肋間)を最強点とする全収縮期雑音が聴かれる。吸気時には胸腔内圧が下がって右心系への静脈還流が増え、右室の1回拍出量と逆流量がともに増えるので、雑音が大きくなる。この「吸気で増強する収縮期雑音」をRivero-Carvallo(リベロ・カルバロ)徴候とよび、同じ部位で聴かれる僧帽弁閉鎖不全症の雑音(呼吸で変化しない、または呼気で目立つ)との鑑別に役立つ。TRではこのほか、頸静脈の収縮期拍動(v波の増高)や肝臓の収縮期拍動を認めることがある。
主な弁膜症・先天性心疾患の聴診所見
・僧帽弁狭窄症: Ⅰ音亢進、僧帽弁開放音、心尖部の拡張中期ランブル(前収縮期増強)。左側臥位で聴きやすい。 ・僧帽弁閉鎖不全症: 心尖部の全収縮期雑音(腋窩へ放散)、Ⅰ音減弱、Ⅲ音。 ・大動脈弁狭窄症: 胸骨右縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(頸部へ放散)、ⅡA減弱、Ⅱ音の奇異性分裂(重症例)。 ・大動脈弁閉鎖不全症: 胸骨左縁第3肋間の拡張早期漸減性雑音(前傾座位・呼気止めで聴きやすい)、Austin Flint雑音(心尖部の拡張期ランブル)、脈圧の増大。 ・三尖弁閉鎖不全症: 胸骨左縁下部の全収縮期雑音、吸気で増強(Rivero-Carvallo徴候)。 ・肺動脈弁狭窄症: 胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音、ⅡP減弱、Ⅱ音分裂幅の拡大。 ・心房中隔欠損症: Ⅱ音の固定性分裂、胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈弁狭窄)。 ・心室中隔欠損症: 胸骨左縁第3~4肋間の全収縮期雑音。 ・動脈管開存症: 胸骨左縁第2肋間の連続性雑音(機械様雑音)。 ・閉塞性肥大型心筋症: 胸骨左縁の収縮期駆出性雑音(Valsalva・立位で増強、蹲踞で減弱)、Ⅳ音。
Ⅱ音分裂の種類
・生理的分裂: 吸気で分裂、呼気で単一化(健常者)。 ・病的な幅広い分裂: 右脚ブロック、肺動脈弁狭窄症など、ⅡPが遅れる状態。呼吸性変動は保たれる。 ・固定性分裂: 呼吸で分裂幅が変化しない。心房中隔欠損症に特徴的。 ・奇異性(逆)分裂: ⅡAがⅡPより遅れ、呼気で分裂し吸気で単一化する。左脚ブロック、重症大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症など。
呼吸・体位による雑音の変化
・吸気で増強: 右心系の雑音(三尖弁・肺動脈弁由来)。 ・呼気で増強: 左心系の雑音が相対的に目立ちやすい。 ・Valsalva手技・立位で増強し、蹲踞で減弱する雑音は、閉塞性肥大型心筋症と僧帽弁逸脱症に特徴的である(多くの雑音は逆に静脈還流の減少で減弱する)。
POINT
・僧帽弁狭窄症: Ⅰ音亢進+僧帽弁開放音+拡張中期ランブル。 ・心房中隔欠損症: Ⅱ音の固定性分裂(呼吸性分裂は生理的所見)。 ・肥大型心筋症: Ⅳ音、閉塞性ではValsalvaで増強する収縮期駆出性雑音。開放音はMSの所見。 ・拡張期漸減性雑音は半月弁の逆流(大動脈弁閉鎖不全症、Graham Steell雑音)で、狭窄症では収縮期駆出性雑音。 ・吸気で増強する収縮期雑音(Rivero-Carvallo徴候)は三尖弁閉鎖不全症。
