沈黙のまま膨らむ血管―「症状がない」ことこそ腹部大動脈瘤の怖さ
第118回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
無症状で発見されることが多い疾患はどれか。
- a.大動脈解離
- b.腹部大動脈瘤
- c.感染性心内膜炎
- d.冠攣縮性狭心症
- e.たこつぼ心筋症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腹部大動脈瘤は動脈硬化などを背景に腹部大動脈が年単位でゆっくり拡張する疾患で、破裂するまでほとんど症状がなく、健診や他疾患の画像検査で偶然発見されることが多いのが特徴です。破裂すると腹痛・腰背部痛・ショックをきたし致死的なため、無症状のうちに見つけ、瘤径や拡大速度に応じて手術時期を判断することが重要です。これに対し、大動脈解離は突然の激烈な胸背部痛、冠攣縮性狭心症は安静時の胸痛発作、たこつぼ心筋症は急性冠症候群に似た胸痛で発症し、感染性心内膜炎は発熱などの感染症状を契機に見つかります。なお狭心症は定義上症状を伴い、症状のない虚血は無症候性心筋虚血と呼びます。疾患を「どのように発症して受診に至るか」で整理することは、鑑別診断やスクリーニングの意義を理解するうえで役立ちます。
解答・解説
正解はbです
問われているテーマ
循環器疾患の中で、症状がないまま偶然見つかることが多いものを選ぶ問題である。
考え方
疾患を「発症の仕方」で分けて考えるとよい。 ・急性に発症し、強い症状で受診するもの:大動脈解離(突然の激しい胸背部痛)、冠攣縮性狭心症(発作性の胸痛)、たこつぼ心筋症(急性冠症候群に似た胸痛・呼吸困難)。 ・感染症として全身症状で受診するもの:感染性心内膜炎(発熱・倦怠感、心不全、塞栓症状)。 ・ゆっくり進行し、破裂するまで症状が乏しいもの:腹部大動脈瘤。 腹部大動脈瘤は動脈壁が年単位で徐々に拡張していく疾患で、拡大している途中では痛みなどの自覚症状がほとんどない。そのため、健康診断や人間ドック、他の病気の精査のために行った腹部超音波検査やCTで偶然見つかることが大部分である。症状が出るのは、破裂が差し迫ったときや破裂したときで、この段階では生命に関わる。無症状の段階で見つけて、大きさに応じて手術時期を判断することが治療の要となる。
選択肢考察
- ×a. 大動脈解離
大動脈解離は、内膜の亀裂から血液が中膜に入り込み、大動脈壁が二層に裂けて偽腔ができる疾患である。多くは突然の激烈な胸痛・背部痛で発症し、解離の進展に伴って痛みの部位が移動することがある。さらに解離の範囲によって、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈閉塞による心筋梗塞、心タンポナーデ、脳虚血、腹部臓器や下肢の虚血など多彩な症状を伴う。急性に症状を起こして受診する疾患であり、無症状で見つかることが多いとはいえない。
- ○b. 腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤は、動脈硬化などを背景に腹部大動脈が瘤状に拡張する疾患で、年単位でゆっくり大きくなる。破裂しない限りほとんど症状がなく、健診や他疾患の検査(腹部超音波検査、CTなど)で偶然発見されることが多い。痩せた人では腹部に拍動性の腫瘤として触れることもある。破裂が切迫・発生すると、腹痛・腰背部痛やショックを起こし、致死率が高い。したがって無症状で発見されることが多い疾患である。
- ×c. 感染性心内膜炎
感染性心内膜炎は、心臓の弁や心内膜に細菌などが感染して疣贅(いぼ状の感染巣)を形成する疾患である。発熱、倦怠感、食欲不振などの感染症状を伴うことがほとんどで、その精査の血液培養で菌血症が、心エコー検査で疣贅や弁の破壊が確認されて診断される。弁破壊による心不全や、疣贅が飛ぶことによる脳梗塞などの塞栓症、皮膚・眼底の所見を伴うこともある。症状をきっかけに見つかる疾患である。
- ×d. 冠攣縮性狭心症
冠攣縮性狭心症は、冠動脈が一過性に強く収縮(攣縮)して血流が減り、心筋が虚血になる疾患である。夜間から早朝の安静時に胸痛発作を起こしやすいのが特徴である。狭心症は「可逆的な心筋虚血によって胸痛などの症状が出るもの」を指すため、症状がある疾患である。なお、心筋虚血があっても症状のないものは狭心症とは呼ばず、無症候性心筋虚血として区別する。
- ×e. たこつぼ心筋症
たこつぼ心筋症は、精神的・身体的な強いストレスを契機に、左室の心尖部を中心とした収縮低下(基部は過収縮となり、左室造影像がたこつぼのような形になる)が一過性に起こる疾患で、閉経後の高齢女性に多い。突然の胸痛や呼吸困難で発症し、心電図変化や心筋逸脱酵素の上昇も急性冠症候群に似るため、冠動脈造影で冠動脈の有意狭窄がないことを確かめて鑑別することが多い。症状を伴って急性に発症する疾患である。
腹部大動脈瘤の概要
・定義:腹部大動脈の直径が正常の1.5倍以上(一般に3cm以上)に拡張したもの。大部分は腎動脈分岐部より下(腎動脈下)に発生する。 ・危険因子:高齢、男性、喫煙、高血圧、脂質異常症、家族歴など。動脈硬化が主な背景である。 ・症状:多くは無症状。腹部の拍動性腫瘤で気づかれることもある。破裂すると腹痛・腰背部痛・ショックの三徴を呈し、救命には緊急手術が必要である。 ・診断:腹部超音波検査がスクリーニングや経過観察に有用で、CT(特に造影CT)で瘤の形態や範囲を詳しく評価する。 ・治療:瘤径が大きいほど破裂の危険が高まる。一定の大きさ(男性で5.5cm程度、女性ではそれより小さい径)を超えた場合や、急速に拡大する場合には、人工血管置換術またはステントグラフト内挿術(EVAR)を考慮する。それ未満では禁煙や血圧管理を行いながら画像で定期的に経過をみる。
大動脈解離の合併症(補足)
解離が大動脈基部に及ぶと、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈の閉塞による心筋梗塞、心膜腔への出血による心タンポナーデを起こしうる。また大動脈から分かれる分枝が偽腔によって閉塞されると、脳梗塞、脊髄虚血による対麻痺、腸管や腎臓の虚血、四肢の虚血などをきたす。上行大動脈に解離があるもの(Stanford A型)は原則として緊急手術の対象である。
症状の有無で整理する循環器疾患
・無症状で見つかりやすい:腹部大動脈瘤、胸部大動脈瘤、多くの高血圧、軽症の弁膜症など。 ・急性症状で発症する:大動脈解離、急性冠症候群、冠攣縮性狭心症、たこつぼ心筋症、肺血栓塞栓症など。
POINT
・腹部大動脈瘤は破裂するまで無症状のことが多く、健診や他疾患の画像検査で偶然発見される。 ・破裂すると腹痛・腰背部痛・ショックをきたし致死的である。 ・大動脈解離は突然の激烈な胸背部痛(移動する痛み)で発症する。 ・狭心症は定義上症状がある。症状のない虚血は無症候性心筋虚血と呼ぶ。 ・たこつぼ心筋症はストレスを契機に高齢女性に多く、急性冠症候群との鑑別が必要。
