StudyMed医師国家試験

しゃがむと静かになる雑音―「逆向きに動く」閉塞性肥大型心筋症を聴き分ける

第116回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第7問

心雑音・心音と疾患について正しい組合せはどれか。

  1. a.連続性雑音 ―― 大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症
  2. b.心膜ノック音 ―― 心タンポナーデ
  3. c.吸気で増強する収縮期雑音 ―― 肺動脈弁閉鎖不全症
  4. d.上半身の前傾で増強する拡張期雑音 ―― 三尖弁狭窄症
  5. e.しゃがみ込みで減弱する収縮期雑音 ―― 閉塞性肥大型心筋症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心雑音や過剰心音の特徴と疾患の組合せを問う問題だ。雑音を「タイミングと形」「右心系か左心系か」「負荷を変えたときの反応」の3つの軸で整理すると、どの組合せが正しいか見えてくるよ。まずは連続性雑音から考えよう。大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症で聴かれると思うかな。
医学生医学生
収縮期に狭窄の雑音、拡張期に逆流の雑音があるなら、ずっと鳴っているので連続性と言えそうな気がします。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも連続性雑音は、II音をまたいで途切れずに続く雑音のことなんだ。収縮期も拡張期も常に圧較差がある二つの腔の間を血液が流れ続けるときに生じ、動脈管開存症や動静脈瘻、冠動脈瘻、Valsalva洞動脈瘤破裂などが代表だ。大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症では血流の向きがII音で反転するから、そこで雑音がいったん途切れる。これは往復雑音、to-and-fro murmurと呼ばれるよ。
医学生医学生
音が続いているかではなく、II音で切れるかどうかが区別のポイントなんですね。では心膜ノック音は心タンポナーデでしょうか。どちらも心膜の病気なので。
ドクタードクター
心膜という点は共通だけど、病態が違う。心膜ノック音はII音直後の拡張早期に聴かれる高調な過剰心音で、収縮性心膜炎の特徴なんだ。硬くなった心膜が、勢いよく流れ込む心室の充満を急に止めることで鳴る。一方、心タンポナーデでは液体が心臓を囲んでいるから、心音はむしろ遠く小さくなる。
医学生医学生
Beckの三徴ですね。血圧低下、頸静脈怒張、心音減弱。救急科の実習で奇脈と一緒に覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。次に、吸気で増強する収縮期雑音について。吸気で雑音が大きくなるのはなぜだろう。
医学生医学生
吸気で胸腔内圧が下がって、右心への静脈還流が増えるからです。右心系の雑音ということですよね。
ドクタードクター
その通り、Rivero-Carvallo徴候だ。ただ、肺動脈弁閉鎖不全症は拡張期に肺動脈から右室へ逆流する病気だから、雑音は拡張期雑音になる。肺高血圧に伴うものはGraham Steell雑音と呼ばれるね。吸気で増強する収縮期雑音なら、三尖弁閉鎖不全症や肺動脈弁狭窄症を考えるのが正しい。
医学生医学生
右心系というところまでは合っていても、収縮期か拡張期かで外れるわけですか。上半身の前傾で増強する拡張期雑音も、三尖弁狭窄症ではなさそうですね。
ドクタードクター
鋭いね。座位で前かがみになり息を吐いて止めると、大動脈基部が胸壁に近づく。だから胸骨左縁第3肋間で聴く大動脈弁閉鎖不全症の高調な灌水様雑音が聴き取りやすくなるんだ。三尖弁狭窄症は胸骨左縁下部の拡張期ランブルで、右心系だから吸気で増強するのが特徴だよ。
医学生医学生
残るのは、しゃがみ込みで減弱する収縮期雑音と閉塞性肥大型心筋症の組合せです。でも、しゃがむと静脈還流が増えるので、雑音は大きくなる気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。多くの弁膜症の雑音は、しゃがみ込みで前負荷と後負荷が増えると大きくなる。ところが閉塞性肥大型心筋症だけは逆に動く。肥厚した中隔と、収縮期に中隔側へ引き寄せられる僧帽弁前尖、つまりSAMによって左室流出路が狭くなるんだけど、この狭窄は左室内腔が小さいほど強くなるんだ。
医学生医学生
しゃがむと左室に血液がたくさん入って内腔が広がり、流出路も広がるから、圧較差が下がって雑音が小さくなる、ということですか。
ドクタードクター
完璧だ。だからこれが正しい組合せになる。逆に、急に立ち上がったときやValsalva手技、亜硝酸薬の投与のように左室容量を減らす操作では雑音が増強する。等尺性ハンドグリップでは後負荷が増えて、逆流性雑音は大きくなるけれどHOCMの雑音は減弱する。
医学生医学生
OSCEの心音聴取では座位と仰臥位くらいしか意識していませんでしたが、負荷をかけて変化を見ることで診断の手がかりになるんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。臨床でも大切なポイントがある。HOCMの患者さんに硝酸薬や過度の利尿薬を使うと、左室容量が減って閉塞が悪化し、失神や血圧低下を招くことがある。雑音の動き方を理解していれば、薬の選び方の理屈も自然に分かるよ。最後に過剰心音も整理しておこう。拡張早期にはIII音、僧帽弁開放音、心膜ノック音、収縮中期には僧帽弁逸脱症のクリックがある。
医学生医学生
タイミングと病態をセットで覚えれば、組合せ問題にも強くなれそうです。

まとめ

心雑音は、タイミングと形、右心系か左心系か、負荷を変える手技への反応の3軸で整理すると理解しやすくなります。閉塞性肥大型心筋症の収縮期駆出性雑音は、肥厚した中隔と僧帽弁前尖の収縮期前方運動による左室流出路狭窄で生じ、しゃがみ込みやハンドグリップで左室容量が増えると減弱し、立位やValsalva手技、亜硝酸薬で増強するという、多くの弁膜症雑音とは逆の反応を示します。連続性雑音は動脈管開存症などでみられ、大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症はII音で途切れる往復雑音です。心膜ノック音は収縮性心膜炎、座位前傾で増強する拡張期雑音は大動脈弁閉鎖不全症、吸気増強は右心系雑音を示し、心タンポナーデでは心音が減弱します。雑音の変化の機序を理解することは、聴診での鑑別だけでなく、HOCMで硝酸薬を避けるといった治療判断にも直結します。

解答・解説

正解はeです

問われていること

心雑音・過剰心音の性状(タイミング、形)と、呼吸・体位・姿勢による変化から原因疾患を推定できるかが問われている。各選択肢について、左側の聴診所見が典型的にどの疾患で聴かれるかを考え、右側の疾患と一致するものを選ぶ。

聴診所見を考える3つの軸

1. タイミングと形:収縮期か拡張期か、II音をまたいで連続するか、収縮期と拡張期で別々に聴こえるか。 2. 右心系か左心系か:吸気で胸腔内圧が下がると右心への静脈還流が増え、右心系(三尖弁・肺動脈弁)由来の雑音は大きくなる(Rivero-Carvallo徴候)。左心系の雑音は吸気で増強しない。 3. 負荷を変える手技への反応:しゃがみ込み(蹲踞)は前負荷(心室に戻る血液量)と後負荷(末梢血管抵抗)をともに増やす。立位やValsalva手技(息こらえ)は前負荷を減らす。多くの弁膜症雑音は前負荷が増えると大きくなるが、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)は左室内腔が大きくなると閉塞が軽くなるため、逆の反応を示す。 この「HOCMだけは他の雑音と逆向きに動く」という性質が正解を導く鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  連続性雑音 ―― 大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症

    連続性雑音は、収縮期から始まりII音付近でピークを迎え、II音を越えて拡張期まで途切れずに続く雑音である。収縮期・拡張期を通じて常に圧較差のある二つの腔の間を血液が流れ続けるときに生じ、動脈管開存症(PDA)、冠動脈瘻、動静脈瘻、Valsalva洞動脈瘤破裂などでみられる。大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症では、収縮期に狭窄による駆出性雑音、拡張期に逆流による漸減性雑音が別々に生じる。血流の向きが反転するII音のところで雑音はいったん途切れるため、連続性雑音ではなく往復雑音(to-and-fro murmur)と呼ばれる。

  2. ×b.  心膜ノック音 ―― 心タンポナーデ

    心膜ノック音(pericardial knock)はII音の直後(拡張早期)に聴かれる高調な過剰心音で、収縮性心膜炎の特徴である。肥厚・硬化した心膜によって拡張早期の急速な心室充満が急に止められることで生じる。心タンポナーデでは心膜腔に貯留した液体が心臓を圧迫し、心音は減弱(遠くに聴こえる)する。Beckの三徴(血圧低下、頸静脈怒張、心音減弱)や奇脈が特徴であり、心膜ノック音は典型所見ではない。

  3. ×c.  吸気で増強する収縮期雑音 ―― 肺動脈弁閉鎖不全症

    吸気による増強は右心系の雑音であることを示すが、肺動脈弁閉鎖不全症の雑音は拡張期雑音である。拡張期に肺動脈から右室へ血液が逆流するため、胸骨左縁第2〜3肋間に拡張期の漸減性雑音を生じる(肺高血圧に伴うものはGraham Steell雑音と呼ばれる)。吸気で増強する収縮期雑音を呈する代表は三尖弁閉鎖不全症(胸骨左縁下部の全収縮期雑音で、Rivero-Carvallo徴候陽性)や肺動脈弁狭窄症(収縮期駆出性雑音)である。

  4. ×d.  上半身の前傾で増強する拡張期雑音 ―― 三尖弁狭窄症

    座位で上半身を前に傾け、呼気位で息を止めると大動脈基部が胸壁に近づき、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音(胸骨左縁第3肋間〔Erb領域〕で聴かれる高調な漸減性の灌水様雑音)が聴き取りやすくなる。したがってこの所見は大動脈弁閉鎖不全症に対応する。三尖弁狭窄症の雑音は胸骨左縁下部で聴かれる拡張期ランブルで、右心系であるため吸気で増強するのが特徴である。

  5. ○e.  しゃがみ込みで減弱する収縮期雑音 ―― 閉塞性肥大型心筋症

    閉塞性肥大型心筋症では、肥厚した心室中隔と、収縮期に中隔側へ引き寄せられる僧帽弁前尖(収縮期前方運動:SAM)によって左室流出路が狭くなり、胸骨左縁に収縮期駆出性雑音が生じる。この狭窄は左室内腔が小さいほど強くなる。しゃがみ込みでは静脈還流が増えて前負荷が増し、末梢血管抵抗の上昇で後負荷も増すため、左室内腔が大きくなり流出路が広がる。その結果、流出路の圧較差が低下して雑音は減弱する。逆に、立位への急な体位変換やValsalva手技、亜硝酸薬の投与など左室容量を減らす操作では雑音が増強する。

雑音の変化を利用する主な手技

・吸気:右心への静脈還流増加 → 右心系の雑音(三尖弁閉鎖不全、三尖弁狭窄、肺動脈弁狭窄、肺動脈弁閉鎖不全)が増強。 ・しゃがみ込み(蹲踞):前負荷・後負荷ともに増加 → 大部分の雑音は増強、HOCMの雑音は減弱。 ・立位、Valsalva手技の緊張相:前負荷減少 → 大部分の雑音は減弱、HOCMの雑音は増強。僧帽弁逸脱症ではクリックと雑音がより早期に出現する。 ・等尺性ハンドグリップ(手を握りしめ続ける):後負荷増加 → 僧帽弁閉鎖不全や大動脈弁閉鎖不全など逆流性雑音が増強、HOCMの雑音は減弱。 ・亜硝酸アミル吸入:血管拡張により後負荷が低下 → 逆流性雑音は減弱、大動脈弁狭窄やHOCMの駆出性雑音は増強。

体位を工夫して聴く雑音

・左側臥位:僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルや、III音・IV音が聴き取りやすい。 ・座位前傾+呼気止め:大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音、心膜摩擦音が聴き取りやすい。

過剰心音の整理

・拡張早期の過剰心音:III音(心室への急速流入、心不全など)、僧帽弁開放音(僧帽弁狭窄症)、心膜ノック音(収縮性心膜炎)。 ・収縮中期の過剰心音:クリック(僧帽弁逸脱症)。 ・心膜摩擦音:急性心膜炎で聴かれる、こするような音。

POINT

・連続性雑音:PDA、動静脈瘻、冠動脈瘻、Valsalva洞動脈瘤破裂など。ASR(大動脈弁狭窄兼閉鎖不全)は往復雑音(to-and-fro)。 ・心膜ノック音は収縮性心膜炎。心タンポナーデは心音減弱、Beckの三徴、奇脈。 ・吸気で増強=右心系の雑音(Rivero-Carvallo徴候)。肺動脈弁閉鎖不全は拡張期雑音。 ・座位前傾で増強する拡張期雑音は大動脈弁閉鎖不全症。 ・HOCMの雑音は左室容量が増えると減弱(しゃがみ込み、ハンドグリップ)、減ると増強(立位、Valsalva手技、亜硝酸薬)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。