眼球・錐体骨・小脳がそろう断面―MRI水平断で聴神経を探す
第99回医師国家試験 D問題 第49問
国試問題にチャレンジ
頭部単純MRI(①~⑤)を示す。 聴神経が観察されるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
聴神経(内耳神経)は顔面神経とともに橋延髄移行部の外側、小脳橋角部から出て、側頭骨錐体部の内耳道へ入ります。そのためMRI水平断では、小脳半球・側頭葉下部・眼球・錐体骨が同時に写る橋下部の高さで観察でき、T2強調像では高信号の脳脊髄液の中の線状の低信号として見えます。上顎洞と延髄下部が写れば大後頭孔付近、第4脳室が見えれば橋上部、大脳脚と迂回槽なら中脳、基底核と視床ならテント上と、目印を下から追うことで断面の高さを判断できます。小脳橋角部で最も多い腫瘍は前庭神経鞘腫で、片側性感音難聴の精査では造影MRIが重要です。脳神経の起始部と画像上の目印を結びつけておくことは、神経・耳鼻科領域の画像診断の基礎になります。
解答・解説
正解はbです
本問は、頭部MRIの水平断(横断像)を見て、どの高さの断面かを判断し、聴神経(内耳神経、第VIII脳神経)が写る断面を選ぶ問題である。示されている画像は、脳脊髄液や眼球内の液体が白く(高信号に)写っていることから、T2強調像と考えられる。
聴神経の走行
聴神経は、延髄と橋の境界の外側にある小脳橋角部(橋・延髄・小脳に囲まれた脳脊髄液の空間)で脳幹から出る。そこから顔面神経(第VII脳神経)と並んで外側へ走り、側頭骨の錐体部にある内耳道に入って、蝸牛・前庭へ向かう。したがって、聴神経が見えるのは「橋の下部(延髄との移行部)の高さで、小脳半球と側頭葉下部が同時に写り、錐体骨の中に内耳道・内耳が見える断面」である。T2強調像では、内耳道の中の脳脊髄液と内耳の液体(リンパ液)が高信号に写る。そのため、その中を通る顔面神経・聴神経は、白い背景の中の細い線状の低信号として見える。
断面の高さの判断
断面の高さは、下から順に次の構造を目印にして判断する。 ・大後頭孔付近: 延髄の下部〜頸髄が脳脊髄液に囲まれて見え、前方には上顎洞・鼻腔などの顔面骨が写る。 ・橋下部〜内耳道の高さ: 小脳半球が大きく写り、側頭葉の下部と眼窩(眼球)も同じ断面に入ることが多い。 ・橋上部: 橋の背側に第4脳室が見え、三叉神経が出る高さである。 ・中脳: 大脳脚と中脳水道が見え、周囲を迂回槽が取り囲む。 ・大脳基底核・視床の高さ: 側脳室の前角、尾状核・レンズ核、内包、視床が見える。 この目印に当てはめると、小脳半球・側頭葉下部・眼球が同時に写り、脳幹の外側に内耳道が見える②が、聴神経を観察できる断面である。
選択肢考察
- ×a. ①
①は、前方に上顎洞・鼻腔などの顔面骨が大きく写り、中央後方の脳脊髄液の中に延髄下部〜上位頸髄が円形に見える断面である。大後頭孔付近の高さで、延髄の前方では左右の椎骨動脈が合流する部位も見える。聴神経が出る橋延髄移行部よりも下の断面であり、内耳道は写らないので誤りである。
- ○b. ②
②では、前方に左右の眼球、両側に側頭葉の下部、後方に大きな小脳半球が写っており、中央に橋の下部が見える。この高さでは、橋の外側の小脳橋角部から顔面神経と聴神経が外側へ走り、錐体骨の中の内耳道へ入っていく様子を観察できる。聴神経が脳幹を出て内耳道へ至る経路がそのまま含まれる断面であり、これが正解である。聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)などの小脳橋角部腫瘍を評価するときも、この高さの断面が重要になる。
- ×c. ③
③は②より上の、橋の上部の高さである。橋の背側(後方)に第4脳室が高信号に見え、前方には鞍上部〜中頭蓋窩の構造と側頭葉が広く写っている。この高さは三叉神経(第V脳神経)が橋の外側から出るレベルにあたる。聴神経が出る橋延髄移行部よりも上にあり、内耳道も含まれないので誤りである。
- ×d. ④
④は中脳の高さである。左右の大脳脚が前方に張り出した中脳の特徴的な形と、それを取り囲む迂回槽が見える。内側側頭葉には海馬が見え、脳底動脈から左右の後大脳動脈が分かれるのもこの付近である。脳幹のより上の部分であり、聴神経は写らないので誤りである。なお、中脳から出る脳神経は動眼神経(第III脳神経)と滑車神経(第IV脳神経)である。
- ×e. ⑤
⑤は大脳基底核・視床の高さである。側脳室の前角と第3脳室が高信号に見え、尾状核・レンズ核(被殻・淡蒼球)、内包、視床、後方の松果体部が観察できる。前頭葉・側頭葉・後頭葉も写っている。脳幹よりも上のテント上の断面であり、聴神経は写らないので誤りである。
脳幹の高さと脳神経が出る部位
・中脳: 動眼神経(III、腹側の脚間窩から出る)、滑車神経(IV、背側から出る唯一の脳神経)。 ・橋: 三叉神経(V、橋の中部外側から出る)。 ・橋延髄移行部: 外転神経(VI、正中近く)、顔面神経(VII)・内耳神経(VIII、小脳橋角部の外側から出る)。 ・延髄: 舌咽神経(IX)・迷走神経(X)・副神経(XI、延髄根)はオリーブの後ろの溝から出る。舌下神経(XII)はオリーブの前の溝(錐体とオリーブの間)から出る。
内耳道の中の神経
内耳道には、顔面神経、蝸牛神経、上・下前庭神経の4本が通る。内耳道の底の近くでは、前上方に顔面神経、前下方に蝸牛神経、後方に上・下前庭神経が並ぶ。高分解能のT2強調像(heavily T2強調像など)では、内耳道を横切る断面でこれらを区別できる。
臨床との関連
聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)は小脳橋角部腫瘍として最も多く、片側の感音難聴・耳鳴・めまいで始まることが多い。腫瘍が大きくなると、顔面神経・三叉神経の障害(角膜反射の低下など)、小脳症状、水頭症をきたす。診断には造影MRI(Gd造影T1強調像)が最も有用で、内耳道の中から小脳橋角部へ張り出す増強効果のある腫瘤として描出される。両側性の聴神経鞘腫は神経線維腫症2型を示唆する。
CT・MRIの水平断を読むコツ
断面の高さは、眼球・副鼻腔・錐体骨・小脳・脳室の形を目印にして判断する。眼窩下部〜上顎洞の高さでは延髄、眼球と錐体骨が同時に写る高さでは橋下部、鞍上槽が見える高さでは橋上部〜中脳、側脳室体部が見える高さでは基底核・視床と考えるとよい。
POINT
・聴神経(VIII)は顔面神経(VII)とともに、橋延髄移行部の外側(小脳橋角部)から出て内耳道へ入る。 ・MRI水平断では、小脳半球・側頭葉下部・錐体骨(内耳道)が同時に写る橋下部の高さで観察できる。 ・T2強調像では、内耳道の中の神経は高信号の脳脊髄液の中の線状の低信号として見える。 ・小脳橋角部腫瘍で最も多いのは聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)であり、評価には造影MRIが有用である。
