StudyMed医師国家試験

顔と頭は「別々に数えない」―9の法則で見積もる水蒸気熱傷

第99回医師国家試験 C問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第99回 C問題 第16問

28歳の男性。水蒸気の噴出事故に遭遇し,救急車で搬送された。熱傷を顔面,頭部,右上肢および体幹前面に認める。 熱傷面積の割合はどれか。

  1. a.18%
  2. b.27%
  3. c.36%
  4. d.45%
  5. e.54%

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、熱傷の範囲から体表面積に占める割合を計算する問題だ。成人の初期評価で使う「9の法則」を正しく当てはめられるか、そして部位の数え方に落とし穴がないかがポイントだよ。
医学生医学生
9の法則は救急の講義で習いました。頭が9、腕が9、体幹と脚が18でしたよね。
ドクタードクター
そう。もう少し正確に言うと、頭頸部9%、左右の上肢が各9%、体幹前面18%、体幹後面18%、左右の下肢が各18%、陰部1%で合計100%になる。では、今回の受傷部位を当てはめてみよう。
医学生医学生
顔面が9、頭部が9、右上肢が9、体幹前面が18で、合計45%でしょうか。
ドクタードクター
そこがまさに落とし穴だね。9の法則では顔面・頭部・頸部をまとめて「頭頸部」という一つの区画で9%として扱う。顔と頭を別々に9%ずつ足すと二重計上になってしまうんだ。
医学生医学生
なるほど、顔と頭を合わせて9%なんですね。すると9+9+18で36%ですか。
ドクタードクター
正解。頭頸部9%、右上肢9%、体幹前面18%で36%になる。ほかの数字がどう生まれるかも見ておこう。18%は体幹前面だけ、あるいは頭頸部と右上肢だけを数えた場合。27%は体幹前面に頭頸部か右上肢のどちらか一方しか足していない場合だ。
医学生医学生
54%は、体幹の前と後ろをどちらも入れてしまった場合ですね。問題文には前面としか書かれていないのに。
ドクタードクター
その通り。部位の記載を正確に読むことが大切だ。ところで、この方法は小児にもそのまま使えると思うかな。
医学生医学生
小児は頭が大きいので、ずれてしまいそうです。小児科の実習で、子どもの頭は体に比べて大きいと教わりました。
ドクタードクター
いいね。小児は頭部の割合が大きく下肢が小さいので、5の法則や、年齢ごとに比率を補正したLund-Browderの図表を使う。後者が最も正確で、入院後の詳細評価にも用いられる。散在する小さな熱傷なら、患者本人の手掌を約1%とみなす手掌法が便利だ。
医学生医学生
面積の計算には、赤くなっているだけのⅠ度熱傷も含めますか。
ドクタードクター
Ⅰ度は含めないのが原則だ。Ⅱ度以上で計算する。浅達性Ⅱ度は水疱と強い痛み、深達性Ⅱ度は知覚が低下し、Ⅲ度は白色や羊皮紙様で痛みがない。深さと面積を組み合わせて重症度を判断するんだ。Artzの基準ではⅡ度30%以上やⅢ度10%以上、気道熱傷の合併などが重症で、熱傷専門施設での管理が必要になる。
医学生医学生
36%だと、かなりの広範囲熱傷ですね。輸液が必要になりますか。
ドクタードクター
成人で約15%、小児で約10%を超えると、全身の血管透過性が亢進して血漿成分が血管外に漏れ、熱傷ショックの危険が高まるので初期輸液が必要になる。代表的な目安がBaxterの公式で、4mL×体重×熱傷面積を最初の24時間の量とし、その半分を受傷後8時間で入れる。実際には尿量を見ながら速度を調整するよ。
医学生医学生
公式はCBTでも覚えましたが、尿量で調整するというのが臨床的なんですね。
ドクタードクター
そう、公式はあくまで出発点だ。そしてこの症例でもう一つ忘れてはいけないのが気道熱傷。顔面の熱傷があり、しかも原因が水蒸気だ。乾いた熱気は上気道で冷やされやすいけれど、水蒸気は熱容量が大きく下気道まで損傷が及びうる。
医学生医学生
嗄声や口の中のすす、鼻毛の焦げがあれば疑う、と習いました。後から腫れてくるんですよね。
ドクタードクター
その通り。上気道の浮腫は数時間かけて進むから、待っているうちに挿管が難しくなる。疑わしければ早期に気管挿管を検討する。また熱傷患者は重症でも意識が保たれることが多いので、意識障害があれば一酸化炭素中毒や頭部外傷の合併を疑おう。

まとめ

成人の熱傷面積は9の法則で見積もり、頭頸部9%、上肢各9%、体幹前面・後面各18%、下肢各18%、陰部1%として計算します。顔面と頭部は同じ頭頸部の区画として合わせて9%とするため、本問は頭頸部9%+右上肢9%+体幹前面18%で36%となります。小児では5の法則やLund-Browderの図表、小範囲の熱傷では手掌法を用い、Ⅰ度熱傷は面積に含めません。成人で約15%を超える熱傷では熱傷ショックを防ぐ初期輸液が必要で、Baxterの公式を目安に尿量で調整します。さらに顔面熱傷や水蒸気による受傷では気道熱傷を警戒し早期の気管挿管を検討するなど、面積評価は重症度判断と初期治療の出発点となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

28歳の成人男性が水蒸気の噴出事故で受傷し、熱傷の範囲は「顔面」「頭部」「右上肢」「体幹前面」の4か所と示されている。設問は熱傷面積(体表面積に占める熱傷部位の割合、%TBSA:total body surface area)を求めるものである。

考え方

成人の熱傷面積を救急の現場で素早く見積もるには「9の法則(rule of nines、Wallaceの法則)」を用いる。体表を9%またはその倍数の区画に分ける方法で、頭頸部9%、左右の上肢各9%、体幹前面18%、体幹後面18%、左右の下肢各18%、陰部1%で合計100%となる。 本問の部位を当てはめると次のようになる。 ・顔面+頭部:頭頸部の区画に含まれ 9% ・右上肢:9% ・体幹前面:18% 合計 9+9+18=36% なお「顔面」と「頭部」は9の法則ではまとめて一つの区画(頭頸部9%)として扱うため、別々に9%ずつ加算しないことが計算上の注意点である。

臨床的な意味

成人で熱傷面積が約15%(小児では約10%)を超えると、全身の血管透過性亢進によって血漿成分が血管外へ大量に漏出し、循環血液量減少性ショック(熱傷ショック)に陥る危険が高まるため、初期輸液が必要となる。36%は明らかに広範囲熱傷であり、Artzの基準でもⅡ度30%以上に相当すれば重症熱傷として熱傷専門施設での管理対象となる。また顔面熱傷かつ高温の水蒸気による受傷であることから、気道熱傷の合併を強く警戒すべき症例である。

選択肢考察

  1. ×a.  18%

    18%は体幹前面の区画だけの値であり、顔面・頭部(9%)と右上肢(9%)が加算されていない。あるいは頭頸部と右上肢の2区画だけを足した値でもあり、いずれにしても受傷部位の一部しか数えていない。

  2. ×b.  27%

    27%は36%から9%分が抜けた値である。体幹前面(18%)に頭頸部または右上肢のどちらか一方(9%)しか加えていない場合にこの数値となる。受傷部位は頭頸部・右上肢・体幹前面の3区画すべてであり、合計は36%になる。

  3. ○c.  36%

    9の法則で、顔面と頭部を合わせた頭頸部が9%、右上肢が9%、体幹前面が18%であり、合計36%となる。顔面と頭部は同一区画として扱う点を押さえれば、この値に到達できる。

  4. ×d.  45%

    45%は36%より9%多い。顔面と頭部をそれぞれ9%ずつ別区画として二重に数えた場合(9+9+9+18=45%)などに生じる誤りである。9の法則では顔面・頭部・頸部をまとめて9%とする。

  5. ×e.  54%

    54%は36%に18%を上乗せした値であり、体幹の前面だけでなく後面(18%)まで含めた場合などに相当する。本問で熱傷を認めるのは体幹の前面のみであり、後面は計上しない。

熱傷面積の算定法

・9の法則(成人):頭頸部9%、上肢各9%、体幹前面18%、体幹後面18%、下肢各18%、陰部1%。簡便で成人の初期評価に適する。 ・5の法則:小児・乳児向けの簡便法。小児は成人と比べて頭部の割合が大きく下肢の割合が小さいため、成人の9の法則をそのまま当てはめると誤差が大きい。 ・Lund-Browderの図表:年齢ごとに頭部・大腿・下腿の比率を補正した最も正確な方法で、小児の評価や入院後の詳細評価に用いる。 ・手掌法:患者本人の手掌(指を含む)の面積をおよそ体表面積の1%とみなす方法。散在する小範囲の熱傷の見積もりに便利である。

熱傷深度

・Ⅰ度(表皮熱傷):発赤・疼痛のみで、水疱はない。面積計算には含めない。 ・浅達性Ⅱ度(SDB):水疱形成、強い疼痛。通常瘢痕を残さず治癒する。 ・深達性Ⅱ度(DDB):水疱、知覚低下。治癒に時間がかかり瘢痕を残しやすい。 ・Ⅲ度(全層熱傷):皮膚全層の壊死で、白色・羊皮紙様、無痛。植皮が必要となる。

重症度の目安(Artzの基準)

・重症(熱傷専門施設で入院治療):Ⅱ度30%以上、Ⅲ度10%以上、顔面・手・足・陰部のⅢ度熱傷、気道熱傷、軟部組織損傷や骨折の合併、電撃傷など。 ・中等症(一般病院で入院治療):Ⅱ度15〜30%、Ⅲ度10%未満(顔面・手・足・陰部を除く)。 ・軽症(外来治療):Ⅱ度15%未満、Ⅲ度2%未満。

広範囲熱傷の初期治療

1)気道確保:顔面熱傷、鼻毛の焦げ、口腔内のすす、嗄声、閉鎖空間での受傷などがあれば気道熱傷を疑う。受傷後数時間かけて上気道の浮腫が進行し、後から挿管が困難になるため、疑わしければ早期に気管挿管する。乾燥した熱気は上気道で冷却されやすいが、水蒸気は熱容量が大きく、下気道まで損傷が及びうる点に注意する。 2)初期輸液:受傷直後から全身の毛細血管透過性が亢進し、細胞外液が血管外に失われる。乳酸リンゲル液などの細胞外液補充液を速やかに開始する。代表的な目安であるBaxter(Parkland)の公式は「4 mL×体重(kg)×熱傷面積(%)」を最初の24時間の輸液量とし、その半量を受傷後8時間で、残り半量を続く16時間で投与する。実際には尿量(成人で0.5 mL/kg/時程度)を指標に速度を調整する。透過性亢進が落ち着く受傷後およそ24時間以降にはアルブミンなどの膠質液の追加を考慮する。初期は血液濃縮の状態にあるため、全血輸血は行わない。 3)感染対策:抗菌薬の予防的全身投与は耐性菌を生みやすいため原則として行わない。創部の清潔と局所療法が中心となる。 4)創処置:汚染のない水疱の膜は創の被覆として働くため、むやみに除去しない。深達性Ⅱ度やⅢ度の熱傷では、壊死組織が感染源となって敗血症に進展しやすいため、早期(おおむね受傷後1週間以内)に壊死組織を切除(デブリドマン)し植皮で創を閉鎖する。

その他

熱傷患者は重症であっても意識が保たれていることが多い。意識障害を伴う場合は、一酸化炭素中毒やシアン中毒、頭部外傷などの合併を疑う。

POINT

・成人の熱傷面積は9の法則で算出:頭頸部9%、上肢各9%、体幹前面18%、体幹後面18%、下肢各18%、陰部1%。 ・顔面と頭部は合わせて9%(別々に数えない)。 ・本問は頭頸部9%+右上肢9%+体幹前面18%=36%。 ・小児は5の法則やLund-Browderの図表、小範囲は手掌法(手掌≒1%)。 ・Ⅰ度熱傷は面積に含めない。 ・成人15%以上で初期輸液(Baxter:4 mL×体重×%TBSA/24時間、半量を最初の8時間)。 ・顔面熱傷・水蒸気吸入では気道熱傷を疑い、早期に気管挿管を検討する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。