繰り返す高熱の裏に潜むもの―小児の腎盂腎炎で「逆流」を疑う理由
第99回医師国家試験 C問題 第19問
国試問題にチャレンジ
8歳の女児。高熱を主訴に来院した。数年前から年に数回の高熱を繰り返している。感冒様症状はなく,左腰部に自発痛と叩打痛とを認める。体温39.5℃。脈拍112/分,整。尿所見:蛋白1+,糖(-),沈渣に赤血球2~3/1視野,白血球30~50/1視野,細菌2+。腹部超音波検査で左腎に中等度の腎盂腎杯の拡張を認める。 基礎疾患の確定に最も有用な検査はどれか。
- a.尿培養
- b.尿流測定
- c.腹部単純CT
- d.排尿時膀胱造影
- e.腹部エックス線単純撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
小児が感冒症状を伴わない発熱を繰り返し、腰部叩打痛や膿尿・細菌尿を認める場合は腎盂腎炎であり、その反復の背景として膀胱尿管逆流(VUR)などの先天性腎尿路異常を疑います。VURは排尿時に生じる動的な現象のため、膀胱に造影剤を満たして排尿中の逆流を直接描出する排尿時膀胱尿道造影が確定診断の標準検査で、Grade I〜Vの重症度評価や後部尿道弁などの下部尿路異常の検索も同時に行えます。尿培養は起炎菌の同定に必須ですが基礎疾患の診断にはならず、CTや単純X線、尿流測定では逆流そのものを捉えられません。検査は感染の急性期を過ぎてから行い、腎瘢痕の評価にはDMSA腎シンチグラフィを用います。反復感染による逆流性腎症は将来の高血圧や腎機能障害につながるため、小児の尿路感染症では背景疾患まで評価する姿勢が重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・8歳女児、数年前から年に数回、感冒症状を伴わない高熱を繰り返している(反復する発熱性尿路感染症を示唆)。 ・左腰部の自発痛と叩打痛(肋骨脊柱角叩打痛):腎実質の炎症、すなわち上部尿路感染症を示す。 ・体温39.5℃、頻脈:全身性の細菌感染の所見。 ・尿所見:白血球30〜50/1視野の膿尿、細菌2+の細菌尿、軽度の蛋白尿・少数の赤血球。 ・腹部超音波:左腎に中等度の腎盂腎杯拡張(水腎症)。
診断のプロセス
発熱、腰部の叩打痛、膿尿・細菌尿がそろっており、今回のエピソードは左急性腎盂腎炎と診断できる。問題は「なぜ小児が腎盂腎炎を何度も繰り返すのか」という点である。小児の反復性・発熱性尿路感染症の背景には先天性の腎尿路異常(CAKUT)が潜んでいることが多く、その代表が膀胱尿管逆流(VUR:vesicoureteral reflux)である。VURでは排尿時に膀胱内の尿が尿管・腎盂へ逆流するため、膀胱内の細菌が腎へ運ばれて腎盂腎炎を起こしやすい。逆流の程度が強いと上部尿路が拡張し、超音波で腎盂腎杯の拡張として捉えられる。 腎盂拡張の原因としては腎盂尿管移行部狭窄なども鑑別に挙がるが、反復する発熱性尿路感染症という病歴はVURを最も強く示唆する。
設問の考え方
問われているのは今回の感染症の評価ではなく「基礎疾患の確定」である。VURは排尿という動的な状態で初めて生じる現象であるため、膀胱に造影剤を満たし、排尿中の尿管・腎盂への逆流を直接描出する排尿時膀胱尿道造影(VCUG:voiding cystourethrography)が確定診断の標準検査となる。VCUGは逆流の有無と程度(国際分類のGrade Ⅰ〜Ⅴ)の評価に加え、後部尿道弁や膀胱憩室などの下部尿路の形態異常も同時に確認できる。急性期は抗菌薬で感染を治療し、症状と尿所見が改善してから実施するのが一般的である。
選択肢考察
- ×a. 尿培養
尿培養は起炎菌の同定と薬剤感受性の確認のため、治療開始前に必ず行うべき検査である。起炎菌は大腸菌が大部分(約8割以上)を占め、ほかにプロテウス、クレブシエラ、緑膿菌、腸球菌などがある。しかし分かるのは感染の原因菌であり、尿の逆流という構造・機能上の異常の有無は判定できないため、基礎疾患の確定には役立たない。
- ×b. 尿流測定
尿流測定(ウロフロメトリー)は排尿時の尿流量と排尿パターンを記録する検査で、下部尿路の通過障害や排尿機能障害の評価に用いる。排尿機能障害はVURの増悪因子にはなりうるが、この検査では尿管への逆流そのものは捉えられない。また後部尿道弁などの下部尿路奇形も排尿時膀胱造影で形態的に確認できる。
- ×c. 腹部単純CT
腹部単純CTでは水腎症や結石、腎の形態は評価できるが、得られる情報は腹部超音波とおおむね同程度であり、排尿時に生じる動的な逆流を捉えることはできない。小児では放射線被曝の点でも、VURの診断目的に選ぶ検査ではない。
- ○d. 排尿時膀胱造影
尿道カテーテルから膀胱に造影剤を注入し、充満時と排尿時にX線透視で撮影する検査で、造影剤が尿管・腎盂へ逆流する様子を直接描出できる。VURの確定診断に加え、逆流の程度(Grade Ⅰ〜Ⅴ)の評価や、後部尿道弁・膀胱憩室などの下部尿路異常の検索も可能であり、反復性腎盂腎炎の基礎疾患を確定する検査として最も有用である。感染の急性期を避け、抗菌薬治療で改善した後に行う。
- ×e. 腹部エックス線単純撮影
腹部単純X線撮影で得られるのは腸管ガス像、石灰化した結石、骨の異常(二分脊椎など)程度であり、CTよりもさらに情報は少ない。尿の逆流を評価することはできず、本問の基礎疾患の確定にはほとんど役立たない。
膀胱尿管逆流(VUR)の概要
・膀胱内の尿が尿管・腎盂へ逆流する状態。正常では、尿管が膀胱壁内を斜めに走行する部分(膀胱壁内尿管)が排尿時に圧迫されて弁の役割を果たし、逆流を防いでいる。 ・原発性VUR:膀胱壁内尿管が短いなど、尿管膀胱移行部の先天的な形成不全による。小児に多く、成長に伴い自然消失することも多い(低グレードほど消失しやすい)。 ・続発性VUR:後部尿道弁、神経因性膀胱(二分脊椎など)、排尿機能障害などで膀胱内圧が上昇して生じる。
国際分類(Grade)
・Ⅰ度:尿管までの逆流。 ・Ⅱ度:腎盂まで達するが拡張はない。 ・Ⅲ度:尿管・腎盂の軽度〜中等度の拡張。腎杯の鈍化は軽度。 ・Ⅳ度:尿管の中等度拡張・蛇行、腎盂腎杯の中等度拡張。 ・Ⅴ度:尿管の高度拡張・蛇行、腎盂腎杯の高度拡張、乳頭の圧痕消失。
合併症
腎盂腎炎を反復すると腎瘢痕が形成され(逆流性腎症)、高血圧、蛋白尿、腎機能障害へ進行しうる。腎瘢痕の評価には99mTc-DMSA腎シンチグラフィが有用である。
小児の発熱性尿路感染症の検査の流れ
1)急性期:尿検査・尿培養で診断と起炎菌同定を行い、抗菌薬で治療する。腹部超音波で水腎症や腎の形態を確認する。 2)改善後:VCUGでVURの有無と程度を評価する。必要に応じてDMSAシンチで腎瘢痕を評価する。
治療
・予防的抗菌薬の少量継続投与(感染の再発予防)、排尿・排便習慣の改善。 ・再発を繰り返す例、高度の逆流、腎瘢痕の進行例では、逆流防止術(尿管膀胱新吻合術)や内視鏡的注入療法を考慮する。
POINT
・小児の反復する発熱性尿路感染症(腎盂腎炎)ではVURなどの先天性腎尿路異常を疑う。 ・VURの確定診断は排尿時膀胱尿道造影(VCUG)。逆流の程度はGrade Ⅰ〜Ⅴで評価する。 ・VCUGは感染の急性期を過ぎてから行う。 ・尿培養は起炎菌の同定には必須だが、基礎疾患の診断にはならない。 ・腎瘢痕(逆流性腎症)の評価はDMSA腎シンチグラフィ。
