1歳を過ぎても降りてこない精巣―「待つ」から「降ろす」へ切り替えるタイミング
第120回医師国家試験 D問題 第58問
国試問題にチャレンジ
1歳3か月の男児。3か月時の健診で右精巣が陰嚢内に触れないことを指摘されていた。1歳を過ぎても陰嚢内に触れないため来院した。身体所見では,左精巣は陰嚢内に触れる。右外鼠径輪付近に左精巣と同等の大きさの腫瘤を触知する。陰茎に異常を認めない。 両親への説明で適切なのはどれか。
- a.「染色体検査を行います」
- b.「精巣を陰嚢内に降ろす手術を予定します」
- c.「血液中の男性ホルモン濃度を調べてみます」
- d.「右精巣は機能しませんので摘出しましょう」
- e.「小学校に入るまでには自然に陰嚢内まで下降してきます」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
停留精巣の自然下降はおおむね生後3〜6か月頃までに起こり、1歳を過ぎてからの下降はまれなため、1歳前後から遅くとも2歳頃までに精巣固定術を行うのが標準です。陰嚢外の高い温度環境に置かれると造精機能が障害され、精巣腫瘍や精巣捻転のリスクも高まるため、自然下降を待ち続けるのは不適切です。片側性で触知可能、外性器にも異常がなければ染色体検査やホルモン検査は不要で、両側非触知や尿道下裂・小陰茎の合併があるときに性分化疾患を考えて精査します。対側と同等の大きさの精巣は温存が期待できるため摘出の適応はなく、用手的に陰嚢内へ降ろせる移動性精巣は手術不要で経過観察とします。「いつまで待てるか」と「どんなときに精査が必要か」を押さえることは、乳幼児健診や小児外科・泌尿器科での家族への説明に直結します。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・1歳3か月の男児。生後3か月の健診で右精巣が陰嚢内に触れないと指摘され、1歳を過ぎても下降していない。 ・左精巣は陰嚢内に触知する(片側性)。 ・右の外鼠径輪付近に、左精巣と同じくらいの大きさの腫瘤を触れる。これは下降途中で止まった右精巣そのものと考えられ、大きさも左右差がないことから精巣の発育は保たれていると推測できる。 ・陰茎に異常はない(尿道下裂や小陰茎がない)。
診断
片側の触知可能な停留精巣(右鼠径部停留精巣)である。外性器に異常がなく片側性であることから、性分化疾患(disorders of sex development:DSD)を積極的に疑う状況ではない。腫瘤の大きさは対側精巣と同等で、硬さや形の異常をうかがわせる記載もなく、精巣腫瘍を考える根拠もない。
設問の考え方
停留精巣の自然下降は、出生後ごく早期(おおむね生後3〜6か月頃まで)に起こるものがほとんどで、それ以降に下降することはまれである。本例は1歳3か月まで下降しておらず、今後の自然下降は期待できない。停留したままにすると、陰嚢より高い温度環境のために精細管の障害が進み、将来の造精機能低下(妊孕性低下)や精巣腫瘍のリスクが問題となる。また精巣の位置異常は精巣捻転や鼠径ヘルニアの合併にも関係する。そのため、1歳前後から遅くとも2歳頃までに精巣固定術(精巣を陰嚢内に下ろして固定する手術)を行うのが標準的な対応であり、両親には手術の予定を説明するのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 「染色体検査を行います」
染色体検査が必要になるのは、両側とも精巣が触知できない場合や、尿道下裂・小陰茎などの外性器異常を伴う場合など、性分化疾患が疑われるときである。本例は片側性で、対側精巣は陰嚢内に正常に存在し、陰茎にも異常がないため、染色体検査を行う必要性は低い。
- ○b. 「精巣を陰嚢内に降ろす手術を予定します」
1歳を過ぎても下降しない停留精巣は自然下降が期待できず、精巣固定術の適応である。手術時期は1歳前後〜遅くとも2歳頃までが推奨され、早期に陰嚢内へ下ろすことで、高温環境による胚細胞の障害を防いで造精機能をできるだけ温存する。さらに精巣が触診しやすい位置になるため、将来の精巣腫瘍の早期発見にも役立つ。本例は鼠径部で触知できるので、鼠径部(または陰嚢部)からのアプローチで固定術を行える。
- ×c. 「血液中の男性ホルモン濃度を調べてみます」
乳児期早期(生後数か月)の一過性のテストステロン上昇(ミニ思春期)を過ぎた1歳台では、テストステロンは低値が正常であり、1回測定しても精巣機能の評価には役立たない。精巣ホルモン産生能の評価(hCG負荷試験など)は、両側非触知例で精巣の有無を確かめる場合などに行うものである。片側性で対側精巣が正常な本例では、治療方針の決定にホルモン検査は不要である。
- ×d. 「右精巣は機能しませんので摘出しましょう」
右精巣は対側と同等の大きさがあり、萎縮していない。適切な時期に固定術を行えば機能の温存が期待できるため、摘出は不適切である。摘出(精巣摘除)を考慮するのは、腹腔内で高度に萎縮・形成不全となった精巣や、思春期以降まで放置されて機能が期待できず悪性化が懸念される場合などに限られる。
- ×e. 「小学校に入るまでには自然に陰嚢内まで下降してきます」
自然下降は生後3〜6か月頃までにほぼ限られ、1歳を過ぎてから下降することはまれである。経過観察を続けて手術時期を逃すと、造精機能の障害が進み、精巣腫瘍のリスクも高まる。誤った見通しを伝える説明であり不適切である。
停留精巣の概要
・胎生期に腹腔内で発生した精巣は、精巣導帯に導かれ鼠径管を通って陰嚢内へ下降する。この下降が途中で止まった状態が停留精巣である。 ・頻度:正期産男児の数%にみられ、早産児ではさらに多い。多くは生後数か月以内に自然下降し、1歳時点では約1%程度に減る。 ・部位:鼠径管内〜外鼠径輪付近に触知できるもの(触知可能)が大部分で、腹腔内にあるものや欠損・消失精巣は触知できない(非触知)。
鑑別
・移動性精巣:精巣挙筋反射が強く、普段は鼠径部に上がっているが、用手的に陰嚢底部まで無理なく下ろせて、手を離してもしばらくとどまる。手術は不要だが、上昇(後天的停留)することがあるため経過観察を行う。 ・非触知精巣:超音波で鼠径部を確認し、最終的な確認と治療には腹腔鏡が有用である。
合併症・リスク
・造精機能障害(不妊):陰嚢内は体温より低く保たれており、高温環境では胚細胞が減少する。両側性ではより影響が大きい。 ・精巣腫瘍:停留精巣は精巣腫瘍の危険因子である。固定術で発生リスクがゼロになるわけではないが、思春期前に固定した方がリスクは低いとされ、触診で早期発見しやすくなる。 ・精巣捻転、鼠径ヘルニア(腹膜鞘状突起の開存)の合併。
治療
・精巣固定術:1歳前後〜遅くとも2歳頃までに行うのが一般的な推奨である。触知精巣は鼠径部・陰嚢部の切開で、非触知精巣は腹腔鏡下に行う。 ・ホルモン療法(hCGなど)は効果が限定的で、現在は標準治療として推奨されていない。
性分化疾患を疑うべき場合
両側非触知の停留精巣、尿道下裂や小陰茎の合併、外性器があいまいな場合などでは、染色体検査(核型)や内分泌学的検査を行う。両側非触知の外見上男児では、副腎皮質過形成による女児の男性化も鑑別に入る。
POINT
・停留精巣の自然下降は生後3〜6か月頃までで、1歳を過ぎての下降はまれ。 ・治療は精巣固定術。1歳前後〜遅くとも2歳頃までに行う。 ・放置すると造精機能低下(不妊)、精巣腫瘍、精巣捻転のリスク。 ・片側性で外性器異常がなければ、染色体検査やホルモン検査は不要。 ・両側非触知や尿道下裂合併では性分化疾患を考え、染色体・内分泌検査を行う。 ・移動性精巣(陰嚢内へ下ろせる)は手術不要で経過観察。
