熱傷直後に最初に襲いかかるもの―血管から漏れ出す血漿と熱傷性ショック
第118回医師国家試験 B問題 第13問
国試問題にチャレンジ
Which of the following clinical conditions occurs in patients acutely after severe burns?
- a.polyuria
- b.hyperlipidemia
- c.hypovolemic shock
- d.venous thrombosis
- e.compartment syndrome
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
重症熱傷では受傷直後から炎症性メディエーターにより全身の毛細血管透過性が亢進し、血漿成分が間質へ漏出することで、循環血液量減少性ショック(熱傷性ショック)が最も早期に生じます。急性期は乏尿であり、多尿は受傷後48〜72時間以降のリフィリング期にみられ、静脈血栓症や代謝亢進に伴う脂質代謝の変化はさらに後の時期の問題です。全周性の深達性熱傷では焼痂によるコンパートメント症候群が起こりうるため減張切開を考慮しますが、これは条件つきの局所合併症です。初期治療は細胞外液補充液による大量輸液で、Parkland法を目安としつつ尿量を指標に調整します。熱傷の病態を時間軸で整理しておくことは、輸液管理や合併症予測など実際の熱傷診療の判断に直結します。
解答・解説
正解はcです
【和訳】重症熱傷の患者で受傷後早期(急性期)に生じる病態はどれか。 選択肢の訳:a 多尿、b 脂質異常症(高脂血症)、c 循環血液量減少性ショック、d 静脈血栓症、e コンパートメント症候群。 【考え方】重症熱傷では、熱による組織障害に加えて、炎症性メディエーター(ヒスタミン、ブラジキニン、サイトカインなど)が大量に放出される。その結果、熱傷創部だけでなく全身の毛細血管で透過性が亢進し、血漿成分(水・電解質・アルブミンなどの蛋白)が血管内から間質へ漏れ出す。この変化は受傷直後から始まり、受傷後およそ24〜48時間にわたって続く。創面からの滲出液や水分の蒸散による喪失も加わるため、循環血液量は急速に減少し、血液濃縮(ヘマトクリット上昇)、血圧低下、頻脈、乏尿を来す。これが熱傷性ショックと呼ばれる循環血液量減少性ショックであり、重症熱傷の急性期に最も早く、かつ最も高頻度に問題となる病態である。 したがって、受傷直後の初期治療で最優先されるのは、気道の評価と並んで、細胞外液補充液(乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液など)による大量輸液である。問われているのは「急性期に典型的に生じる病態」であり、時間経過に沿って病態を整理することが正答への鍵となる。
選択肢考察
- ×a. polyuria
多尿。受傷直後のショック期には循環血液量の減少により腎血流量が低下し、さらにカテコールアミンやレニン–アンジオテンシン–アルドステロン系、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が亢進するため、尿量はむしろ減少する(乏尿)。血管透過性が改善する受傷後およそ48〜72時間以降になると、間質に貯留していた水分が血管内に戻り(リフィリング)、利尿期として尿量が増加する。したがって多尿は急性期ではなく、その後の回復過程でみられる所見である。
- ×b. hyperlipidemia
脂質異常症(高脂血症)。受傷早期には、創面から蛋白や脂質を含む多量の滲出液が失われるため、低蛋白血症・低アルブミン血症がみられ、コレステロールもむしろ低下しやすい。その後の代謝亢進期には、コルチゾールやカテコールアミンの作用で脂肪分解や肝での脂質合成が亢進するが、これは急性期を過ぎてから目立つ変化であり、重症熱傷の急性期に典型的な病態として挙げられるものではない。
- ○c. hypovolemic shock
循環血液量減少性ショック。重症熱傷では受傷直後から熱傷部・非熱傷部の双方で毛細血管透過性が亢進し、血漿成分が間質へ大量に移動する。創面からの滲出・蒸散による喪失も加わり、循環血液量が急激に減少して熱傷性ショックに陥る。受傷後最も早期に生じる重要な病態であり、尿量を指標とした十分な初期輸液により予防・治療する。
- ×d. venous thrombosis
静脈血栓症。広範囲熱傷では血液濃縮、凝固能の亢進、血管内皮障害、長期臥床、中心静脈カテーテル留置などのため深部静脈血栓症のリスクが高く、予防が考慮される。しかし、これは主に安静臥床が続く亜急性期以降に問題となる合併症であり、受傷後早期に特徴的に生じる病態ではない。
- ×e. compartment syndrome
コンパートメント症候群(区画症候群)。四肢を全周性に取り巻く深達性熱傷(III度熱傷など)では、硬く伸展性のない焼痂(エスカー)が締め付けとなり、その内側で浮腫が進むと組織内圧が上昇して、末梢の循環障害や神経障害を起こすことがある。胸部全周の焼痂では換気障害を来すこともあり、これらは減張切開(焼痂切開)の適応となる。ただし、これは全周性の深達性熱傷など特定の条件で生じる局所の合併症であり、浮腫が進行してから問題となる。重症熱傷患者に共通して最も早期に生じる全身的病態は循環血液量減少性ショックであり、本問の正解としてはcが最も適切である。
熱傷の病期と循環動態
・ショック期(受傷直後〜約48時間):血管透過性亢進による血漿成分の血管外漏出。循環血液量減少、血液濃縮、低蛋白血症、乏尿。間質の浮腫が進行する。 ・リフィリング期・利尿期(受傷後約48〜72時間以降):血管透過性が回復し、間質に貯留した水分が血管内へ戻る。尿量が増加する。この時期に輸液を減らさないと循環血液量過多となり、肺水腫や心不全を来しうる。 ・感染期・代謝亢進期(その後):創感染、敗血症が主な死因となる。エネルギー消費が著しく増加し、蛋白異化、高血糖、脂肪分解の亢進がみられる。
熱傷性ショックの機序
①毛細血管透過性亢進による血漿成分の血管外漏出(循環血漿量減少・血液濃縮) ②創面からの滲出・蒸散による体液喪失 ③ストレス反応によるカテコールアミン・レニン分泌亢進に伴う末梢血管収縮
初期輸液
・II度とIII度を合わせた熱傷面積が、成人でおおむね15〜20%以上、小児・高齢者では10〜15%以上になると、熱傷性ショックの危険が高く輸液が必要とされる。 ・細胞外液補充液(乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液)を用いる。代表的な目安であるParkland(Baxter)法では、受傷後24時間の輸液量を「4 mL × 体重(kg) × 熱傷面積(%)」とし、その半量を受傷後8時間以内、残りを次の16時間で投与する。 ・輸液量は公式どおりに固定せず、尿量(成人で0.5 mL/kg/時以上、小児で1 mL/kg/時程度)を指標に調整する。過剰輸液は浮腫の増悪、腹部コンパートメント症候群、肺水腫の原因となる。
熱傷面積の評価
成人では9の法則(頭部9%、片上肢9%、体幹前面18%、体幹後面18%、片下肢18%、陰部1%)、小児では5の法則、小範囲の評価には手掌法(患者の手掌と指を合わせた面積がおよそ体表面積の1%)を用いる。
その他の急性期の注意点
・気道熱傷:顔面熱傷、鼻毛の焦げ、口腔内の煤、嗄声などがあれば、喉頭浮腫による気道閉塞に備えて早期の気管挿管を検討する。 ・一酸化炭素中毒:閉鎖空間での火災では合併を考える。 ・全周性の深達性熱傷:減張切開を考慮する。
POINT
・重症熱傷の急性期には、全身の血管透過性亢進により血漿成分が間質へ漏出し、循環血液量減少性ショック(熱傷性ショック)を生じる。 ・急性期は乏尿であり、多尿は受傷後48〜72時間以降のリフィリング(利尿)期にみられる。 ・初期治療は細胞外液補充液による大量輸液で、尿量を指標に調整する(Parkland法:4 mL × 体重 × 熱傷面積%、半量を最初の8時間で)。 ・全周性の深達性熱傷では、焼痂による締め付けからコンパートメント症候群を来しうるため減張切開を考慮する。
