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心尖拍動はみぞおちへ―過膨張した肺が心臓を押し下げる重症COPDの身体所見

第118回医師国家試験 B問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第118回 B問題 第12問

胸部の模式図を示す。  慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉の重症例にみられる心尖拍動はどこか。

第118回 B問題 第12問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、重症COPDで心尖拍動がどこに触れるかを問う問題だ。正常の心尖拍動の位置を基準にして、肺の過膨張が心臓の位置や形をどう変えるかを考えるのがポイントになる。まず、正常の心尖拍動はどこで触れるかな。
医学生医学生
左第5肋間で、鎖骨中線のやや内側です。OSCEの心臓診察で何度も練習しました。
ドクタードクター
その通り。収縮期に左心室の心尖部が胸壁を叩くことで触れる拍動で、正常では直径2〜3cm以内の範囲に触れる。図では左前胸部の下部がそれに当たる。では重症COPDだと、そこで触れるだろうか。
医学生医学生
COPDは肺の病気なので、心臓の位置はあまり変わらないと思ってしまいました。
ドクタードクター
そう考えがちだけど、実は大きく変わるんだ。COPDは主に喫煙で末梢気道が狭くなり、肺胞壁が壊れて、息を吐ききれずに空気が肺に残る病気だ。重症になると肺が過膨張する。すると横隔膜はどうなる?
医学生医学生
押し下げられて平らになります。胸部X線で横隔膜の平低化を見た覚えがあります。
ドクタードクター
そう。横隔膜が下がると、それに乗っている心臓も下方へ引き下げられる。さらに左右から膨らんだ肺に挟まれて、心臓は縦長の細い形、いわゆる滴状心になって垂直位をとるんだ。
医学生医学生
心臓が下に、しかも真ん中寄りに来るということですね。だから剣状突起の下、心窩部で触れるんですか。
ドクタードクター
正解。もう一つ理由がある。重症COPDでは肺胞の低酸素による肺血管の収縮や毛細血管床の減少で肺高血圧が起こり、右心室が肥大・拡張する肺性心を合併しやすい。拡大した右心室の拍動は剣状突起下で触れやすくなるんだ。しかも本来の位置は過膨張した肺に覆われるから、そこでは触れにくくなる。
医学生医学生
正常の位置で触れないのは、心臓が移動しただけでなく、肺が間に入り込んでいるからでもあるんですね。
ドクタードクター
その通り。ではほかの部位も確認しよう。胸骨右縁の第2肋間はどういう場所だったかな。
医学生医学生
聴診では大動脈弁領域です。心尖拍動を触れる場所ではないですよね。
ドクタードクター
そうだね。そこで拍動を触れるのは上行大動脈瘤などで、COPDとは関係しない。胸骨左縁の第2肋間は肺動脈弁領域で、肺高血圧ではII音の肺動脈成分の亢進や拡張した肺動脈の拍動を感じることはあるけれど、心尖拍動の位置ではない。胸骨右側の下部で心尖拍動を触れるのは右胸心など心臓の位置異常のときだ。
医学生医学生
逆に、正常の位置より左外下方にずれるのは左室拡大のときでしたよね。拡張型心筋症とか。
ドクタードクター
よく覚えているね。大動脈弁閉鎖不全症や僧帽弁閉鎖不全症など、左室が大きくなる病態では左外下方へ偏位する。心尖拍動は「どちらにずれたか」で病態を推測できる貴重な所見なんだ。左緊張性気胸や大量胸水で縦隔が右へ押されれば右側へ移るし、肥満や心膜液貯留では触れにくくなる。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、COPDの患者さんは胸が樽のようで、口をすぼめて息を吐いていました。
ドクタードクター
それもセットで押さえておきたい身体所見だね。樽状胸郭、口すぼめ呼吸、胸鎖乳突筋など呼吸補助筋の発達、吸気時に下部肋間が内側へ引き込まれるフーバー徴候。打診では過共鳴音、肝濁音界の下降、心濁音界の縮小。聴診では呼吸音の減弱と呼気延長だ。肺性心を合併すれば頸静脈怒張や下腿浮腫、肝腫大も加わる。
医学生医学生
心窩部の拍動を見つけたら、肺性心が隠れていないかも考えないといけないですね。
ドクタードクター
その姿勢が大事だ。肺性心の進行には長期酸素療法が有効で、生命予後の改善が示されている。治療は禁煙を前提に、LAMAやLABAを中心とした吸入療法、呼吸リハビリテーション、栄養療法、ワクチン接種を組み合わせる。重症例はやせて筋力が落ちやすいから、全身性疾患として診る視点も忘れないでほしい。

まとめ

正常の心尖拍動は左第5肋間・鎖骨中線のやや内側で触れますが、重症COPDでは剣状突起下の心窩部で触れるようになります。肺の過膨張で横隔膜が平低化して心臓が下方へ引き下げられ、両肺に挟まれた滴状心となって正中寄りに位置すること、さらに肺高血圧による肺性心で拡大した右心室の拍動が心窩部で触れやすくなることが理由です。一方、本来の部位は過膨張した肺に覆われて触れにくくなり、左室拡大では逆に左外下方へ偏位します。樽状胸郭、口すぼめ呼吸、フーバー徴候、過共鳴音、心濁音界の縮小といったCOPDの身体所見とあわせて理解しておくと、診察から病態を推し量る力が身につきます。

解答・解説

正解はeです

【図の位置関係】模式図は前胸部を示しており、①は胸骨右縁上部(右第2肋間付近)、②は胸骨左縁上部(左第2肋間付近)、③は胸骨右側の下部、④は左前胸部下部(左第5肋間付近で、正常の心尖拍動に相当する部位)、⑤は剣状突起の下方、すなわち心窩部である。 【正常の心尖拍動】心尖拍動は、収縮期に左心室の心尖部が胸壁を叩くことで触れる拍動であり、正常では左第5肋間・鎖骨中線のやや内側で、直径2〜3cm以内の範囲に触れる。図中では④がこれに相当する。 【重症COPDで心尖拍動が移動する理由】慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、主に喫煙により末梢気道の閉塞と肺胞壁の破壊(肺気腫)が生じ、呼気時に空気が吐き出しきれず肺に残る疾患である。重症例では次の変化が重なり、心尖拍動は心窩部に移る。 ・肺の過膨張により横隔膜が押し下げられ平低化し、心臓が下方へ引き下げられる。 ・左右から過膨張した肺に挟まれて、心臓は縦長の細い形(滴状心)となり、垂直位をとる。 ・心臓の前面を過膨張した肺が覆うため、通常の部位では心尖拍動を触れにくくなる。 ・低酸素性肺血管攣縮などによる肺高血圧から肺性心(右心負荷・右心室肥大)を合併すると、拡大した右心室の拍動が剣状突起下で触知されやすくなる。 以上から、重症COPDでみられる心尖拍動(心窩部拍動)の位置は⑤である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    胸骨右縁第2肋間付近であり、聴診では大動脈弁領域にあたる。心尖拍動を触れる部位ではない。この部位の拍動は上行大動脈瘤などで触れることがあるが、COPDとは関係しない。

  2. ×b.  ②

    胸骨左縁第2肋間付近であり、聴診では肺動脈弁領域にあたる。肺高血圧ではこの部位でII音の肺動脈成分(IIp)の亢進を聴取したり、拡張した肺動脈の拍動を触れたりすることはあるが、心尖拍動の位置ではない。

  3. ×c.  ③

    胸骨右側の下部である。心尖拍動がこの付近で触れるのは右胸心など心臓の位置異常の場合であり、COPDでみられる所見ではない。

  4. ×d.  ④

    左第5肋間付近で、正常の心尖拍動の位置に相当する。重症COPDでは横隔膜の低下と滴状心のため心臓が下方・正中寄りに移動し、さらに過膨張した肺に覆われるため、この部位での心尖拍動は触れにくくなる。なお、左室拡大(拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全症など)では心尖拍動はこの位置よりさらに左外下方へ偏位する。

  5. ○e.  ⑤

    剣状突起下(心窩部)である。重症COPDでは肺の過膨張により横隔膜が平低化し、心臓は両肺に挟まれた滴状心となって下方・正中へ移動する。加えて肺性心による右心室拡大を伴うと、右心室の拍動が心窩部で触知されやすくなる。このため重症COPDの心尖拍動はこの位置にみられる。

COPDの身体所見

・視診:樽状胸郭(胸郭の前後径の増大)、口すぼめ呼吸(呼気時に口をすぼめて気道内圧を保ち、気道の虚脱を防ぐ)、呼吸補助筋(胸鎖乳突筋など)の発達・使用、フーバー徴候(吸気時に下部肋間・肋骨弓が内側へ引き込まれる。平低化した横隔膜の収縮が胸郭下部を内側へ引くため)。 ・打診:過共鳴音、肝濁音界の下降、心濁音界の縮小。 ・聴診:呼吸音の減弱、呼気延長、ときに喘鳴。 ・触診:心窩部での心拍動(本問)。 ・肺性心合併時:頸静脈怒張、下腿浮腫、肝腫大、II音肺動脈成分の亢進。

肺性心

肺の疾患による肺高血圧が原因で右心室が肥大・拡張し、右心不全に至った状態をいう。COPDでは、肺胞低酸素による肺血管の収縮(低酸素性肺血管攣縮)、肺胞壁の破壊による肺毛細血管床の減少などが肺高血圧の原因となる。長期酸素療法は肺高血圧の進行を抑え、生命予後を改善する。

COPDは全身性疾患

重症COPDでは呼吸困難のため活動量が低下し、骨格筋量の減少や体重減少(やせ型の体型)を来しやすい。筋力・体力の低下が日常生活動作をさらに制限し、呼吸困難を悪化させるという悪循環になる。治療は禁煙を前提に、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)を中心とした吸入療法に加え、呼吸リハビリテーション、栄養療法、ワクチン接種などを組み合わせる。

心尖拍動の偏位のまとめ

・左外下方へ偏位:左室拡大(拡張型心筋症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症など) ・心窩部(剣状突起下):重症COPD(滴状心・右室拡大) ・右側:右胸心、左緊張性気胸や大量胸水による縦隔の右方偏位 ・触れにくい:肺過膨張、肥満、心膜液貯留

POINT

・正常の心尖拍動は左第5肋間・鎖骨中線のやや内側で触れる。 ・重症COPDでは、横隔膜の平低化・滴状心・肺性心による右室拡大のため、心尖拍動は剣状突起下(心窩部)で触れる。 ・COPDの身体所見(樽状胸郭、口すぼめ呼吸、フーバー徴候、呼吸音減弱、心濁音界縮小)をセットで覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。