StudyMed医師国家試験

酒と煙草を切り分けろ―飲酒が危険因子にならない疾患を見抜く

第118回医師国家試験 B問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第118回 B問題 第14問

飲酒がリスクファクターとならないのはどれか。

  1. a.食道癌
  2. b.認知症
  3. c.骨粗鬆症
  4. d.Wernicke脳症
  5. e.慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の問題で、飲酒がどの疾患の危険因子になるかを問うている。生活習慣の危険因子としては飲酒と喫煙がよくセットで出てくるけれど、両方が関わる疾患と、片方だけが主因の疾患を区別できるかが着眼点だ。まず、アルコールが体内でどう代謝されるか覚えているかな。
医学生医学生
エタノールがアルコール脱水素酵素でアセトアルデヒドになって、それがALDH2で酢酸になる、と生化学で習いました。
ドクタードクター
完璧だね。エタノール自体もアセトアルデヒドも組織を傷害する性質があって、アセトアルデヒドは飲酒に関連するヒトへの発がん物質として位置づけられている。加えて大量飲酒は、ビタミンB1などの栄養欠乏、肝障害、骨代謝や内分泌の異常、脳への直接の神経毒性を通じて、全身にさまざまな病気を起こす。
医学生医学生
お酒で顔が赤くなる人はALDH2の働きが弱いんですよね。だから食道癌のリスクが高いと聞きました。
ドクタードクター
その通り。日本の食道癌の大部分を占める扁平上皮癌は、飲酒と喫煙が二大危険因子で、両方が重なると相乗的にリスクが高まる。特にALDH2低活性の人、いわゆるフラッシャーはアセトアルデヒドが溜まりやすいから要注意だ。熱い飲食物や野菜・果物の不足も危険因子とされている。
医学生医学生
Wernicke脳症は飲酒が原因の代表ですよね。神経内科の実習で、すぐにビタミンB1を点滴する場面を見ました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。アルコール多飲者は食事量の減少、腸管での吸収障害、肝での貯蔵低下でビタミンB1が欠乏する。眼球運動障害、小脳性運動失調、意識障害が三徴で、治療が遅れると健忘や作話を特徴とするKorsakoff症候群に移行しやすい。だから疑ったら速やかにビタミンB1を投与する。
医学生医学生
認知症も、そのKorsakoff症候群につながるなら飲酒と関係しそうです。
ドクタードクター
そうだね。それに加えて、アルコールの神経毒性による前頭葉優位の脳萎縮や、頭部外傷・脳血管障害の増加も介して認知機能が低下する。アルコール関連認知症という概念もあるし、過量飲酒は修正可能な認知症の危険因子の一つとして国際的にも挙げられている。
医学生医学生
骨粗鬆症は少し意外でした。骨とお酒がどうつながるのか、ぱっと出てきません。
ドクタードクター
ここは引っかかりやすいところだね。アルコールは骨芽細胞を抑えて骨形成を低下させる。さらにカルシウムやビタミンDの不足、肝障害によるビタミンD代謝の障害、性腺機能の低下も骨量を減らす方向に働く。そして酔って転倒すれば骨折にもつながる。骨折リスク評価ツールのFRAXでも、アルコール多飲が評価項目に入っているんだ。
医学生医学生
そうすると残るのはCOPDですね。COPDは喫煙が圧倒的な原因だと呼吸器内科の実習で教わりました。
ドクタードクター
正解。COPDはタバコ煙などの有害物質を長期間吸入することで気道と肺胞に慢性炎症が起き、気流閉塞が進行する病気で、患者の大多数に喫煙歴がある。飲酒は確立した危険因子とはされていない。だから飲酒がリスクファクターとならないのはCOPDだ。
医学生医学生
喫煙者はお酒も飲む人が多いので、なんとなく両方関係ありそうに感じてしまいました。
ドクタードクター
そういう「生活習慣がまとめて悪い」という印象で選ぶと間違える。COPDは有害物質の吸入による肺の障害だと機序から押さえておけば迷わない。COPDの危険因子としては、受動喫煙、大気汚染、職業性の粉じんや化学物質、バイオマス燃料の煙、α1-アンチトリプシン欠乏症、小児期の呼吸器感染も覚えておこう。
医学生医学生
逆に、飲酒が危険因子になる病気は他にどんなものがありますか。
ドクタードクター
癌なら口腔・咽頭・喉頭癌、肝細胞癌、大腸癌、乳癌。消化器ではアルコール性肝障害や急性・慢性膵炎、Mallory-Weiss症候群。循環器では高血圧、心房細動、アルコール性心筋症、脳出血。代謝では高尿酸血症や高トリグリセリド血症。妊娠中の飲酒による胎児性アルコール・スペクトラム障害も重要だ。
医学生医学生
かなり幅広いですね。患者さんに飲酒量の目安を伝えるときは、どのくらいを基準にすればいいでしょうか。
ドクタードクター
厚生労働省は、1日の純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上を生活習慣病のリスクを高める飲酒量としている。外来では「どれくらい飲みますか」と聞くだけでなく、純アルコール量に換算して具体的に評価する習慣をつけるといい。顔が赤くなる体質かどうかを尋ねるのも、食道癌リスクの評価に役立つよ。

まとめ

飲酒はアセトアルデヒドの発がん性、ビタミンB1欠乏、神経毒性、骨代謝異常などを通じて多くの疾患の危険因子となり、食道癌、Wernicke脳症、認知症、骨粗鬆症はいずれも飲酒との関連が知られています。一方、COPDはタバコ煙などの有害物質の長期吸入による肺の慢性炎症で生じ、最大の危険因子は喫煙であって、飲酒は確立した危険因子ではありません。食道扁平上皮癌は飲酒と喫煙の両方が関与し、特にALDH2低活性者でリスクが高いことも重要です。飲酒と喫煙を漫然とひとまとめにせず、疾患ごとに機序から危険因子を整理しておくことは、国試対策だけでなく、外来での生活指導や予防医学の実践にも直結します。

解答・解説

正解はeです

飲酒(アルコール摂取)が発症リスクを高める疾患を整理しておく必要がある公衆衛生の問題である。 アルコール(エタノール)は体内でアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドに、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)により酢酸に代謝される。エタノール自体とアセトアルデヒドはいずれも組織傷害性を持ち、アセトアルデヒドは国際がん研究機関(IARC)によって飲酒に関連するヒトへの発がん物質(グループ1)と位置づけられている。また大量飲酒は、栄養摂取の偏り(特にビタミンB1などの欠乏)、肝障害、内分泌・骨代謝の異常、脳への直接的な神経毒性などを通じて全身の多様な疾患の危険因子となる。 一方、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は有害物質の長期吸入による肺の慢性炎症で生じる疾患であり、最大の危険因子は喫煙である。飲酒は確立したCOPDの危険因子とはされていない。選択肢の中では、飲酒と喫煙の両方が関与するもの(食道癌、認知症、骨粗鬆症)と、喫煙のみが主因となるもの(COPD)を区別できるかがポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  食道癌

    飲酒は食道癌の代表的な危険因子である。日本の食道癌の大部分を占める扁平上皮癌は、飲酒と喫煙が二大危険因子であり、両者が重なると相乗的にリスクが高まる。特にALDH2の働きが弱い体質(少量の飲酒で顔が赤くなるフラッシャー)の人はアセトアルデヒドが蓄積しやすく、飲酒によるリスク上昇が大きい。熱い飲食物の摂取や野菜・果物の摂取不足も危険因子とされる。

  2. ×b.  認知症

    大量・長期の飲酒は認知症の危険因子である。アルコールの神経毒性による脳萎縮(前頭葉優位)、ビタミンB1欠乏によるWernicke脳症からKorsakoff症候群への移行、頭部外傷や脳血管障害の増加などを介して認知機能を低下させる。アルコール関連認知症と呼ばれる病態があり、また過量飲酒は修正可能な認知症の危険因子の一つとして国際的にも挙げられている。喫煙も同様に認知症の危険因子である。

  3. ×c.  骨粗鬆症

    過度の飲酒は骨粗鬆症の危険因子である。アルコールは骨芽細胞の働きを抑えて骨形成を低下させるほか、栄養状態の悪化(カルシウム・ビタミンDの不足)、肝障害によるビタミンD代謝の障害、性腺機能の低下などを通じて骨量を減らす。さらに酩酊による転倒が骨折リスクを高める。骨折リスク評価ツール(FRAX)でも、アルコール多飲(1日3単位以上)が評価項目に含まれている。

  4. ×d.  Wernicke脳症

    大量飲酒はWernicke脳症の最も重要な原因である。アルコール多飲者では食事摂取量の減少、腸管からの吸収障害、肝での貯蔵低下などによりビタミンB1(チアミン)が欠乏し、眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)、小脳性運動失調、意識障害(せん妄・意識混濁)を三徴とするWernicke脳症を発症する。治療が遅れると健忘・作話を特徴とするKorsakoff症候群に移行しやすい。飲酒以外では妊娠悪阻、胃切除後、長期の経静脈栄養などでも起こる。

  5. ○e.  慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉

    COPDの危険因子として飲酒は挙げられていないため、これが正解である。COPDは主にタバコ煙などの有害物質を長期に吸入することで気道と肺胞に慢性炎症が起こり、気流閉塞が進行する疾患で、患者の大多数に喫煙歴がある。そのほかの危険因子には受動喫煙、大気汚染、職業性の粉じん・化学物質曝露、バイオマス燃料の煙、遺伝的素因(α1-アンチトリプシン欠乏症)、小児期の呼吸器感染などがある。

飲酒が危険因子となる主な疾患

・悪性腫瘍:口腔・咽頭・喉頭癌、食道癌、肝細胞癌、大腸癌、乳癌など(IARCはアルコール飲料をグループ1の発がん物質に分類) ・消化器疾患:アルコール性肝障害(脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変)、急性・慢性膵炎、Mallory-Weiss症候群 ・循環器疾患:高血圧、心房細動、アルコール性心筋症、脳出血、脳梗塞(大量飲酒) ・代謝・内分泌:高尿酸血症・痛風、脂質異常症(高トリグリセリド血症)、骨粗鬆症 ・神経・精神疾患:アルコール使用障害(依存症)、Wernicke脳症・Korsakoff症候群、アルコール関連認知症、小脳変性症、末梢神経障害、うつ病 ・その他:胎児性アルコール・スペクトラム障害(妊娠中の飲酒)、外傷・事故

飲酒と喫煙の関係

食道扁平上皮癌や頭頸部癌では飲酒と喫煙の両方が危険因子で、両者の併用でリスクが相乗的に高まる。一方、COPDや肺癌は喫煙が主因であり、飲酒の関与は確立していない。

アルコールの代謝と体質

エタノール→(ADH)→アセトアルデヒド→(ALDH2)→酢酸。日本人を含む東アジア人には、ALDH2の活性が低い遺伝子多型をもつ人が多く、こうした人が習慣的に飲酒すると食道癌のリスクが特に高くなる。

生活習慣病のリスクを高める飲酒量

厚生労働省は、1日あたりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上を生活習慣病のリスクを高める飲酒量としている。

POINT

・COPDの最大の危険因子は喫煙であり、飲酒は危険因子ではない。 ・食道癌(扁平上皮癌)は飲酒と喫煙が二大危険因子で、ALDH2低活性者で特にリスクが高い。 ・飲酒はビタミンB1欠乏を介してWernicke脳症を起こし、Korsakoff症候群に移行しうる。 ・過量飲酒は認知症・骨粗鬆症の危険因子でもある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。