いびきが映す全身の負担―睡眠時無呼吸で血圧と赤血球が上がるわけ
第99回医師国家試験 A問題 第18問
国試問題にチャレンジ
29歳の男性。日中の眠気を主訴に来院した。1年前から睡眠中の激しいいびきと無呼吸とを家族に指摘されていた。最近,日中の眠気が強くなり,勤務に支障をきたしている。身長160cm,体重95kg。両側口蓋扁桃のⅡ度の腫大を認める。 予想されるのはどれか。2つ選べ。
- a.血圧上昇
- b.赤血球増加
- c.PaCO2低下
- d.機能的残気量増加
- e.横隔膜低位
対話形式の解説
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ドクターまとめ
いびき、目撃された無呼吸、日中過眠に、肥満や扁桃肥大など上気道を狭くする要因が加われば閉塞性睡眠時無呼吸症候群を疑い、終夜睡眠ポリグラフ検査のAHIで診断と重症度判定を行います。無呼吸のたびに生じる低酸素・高二酸化炭素血症と覚醒反応が交感神経を亢進させて高血圧をもたらし、慢性低酸素はエリスロポエチンの増加を介して二次性多血症をきたします。無呼吸中のPaCO2は上昇し、高度肥満では肥満低換気症候群の合併にも注意が必要です。機能的残気量の増加や横隔膜低位は肺過膨張の所見であり、肥満ではむしろ機能的残気量が減少し横隔膜は挙上します。病態生理から合併症を導く考え方は、治療抵抗性高血圧の原因検索やCPAP導入の判断など、日常診療に直結します。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・29歳男性。主訴は日中の強い眠気(日中過眠)で、仕事に支障が出ている。 ・1年前から、睡眠中の激しいいびきと呼吸停止(無呼吸)を家族に指摘されている。 ・身長160cm、体重95kgで、BMI(体格指数)=95÷1.6²≒37.1kg/m²である。日本肥満学会の基準ではBMI 35以上を高度肥満とし、本例はこれに当たる。 ・両側の口蓋扁桃がⅡ度に腫大している。Ⅱ度は、扁桃が前口蓋弓を越えて突出するが、正中には達しない程度を指す。
診断に至るプロセス
いびき・目撃された無呼吸・日中過眠の三つがそろい、上気道を狭くする要因(高度肥満による咽頭周囲への脂肪沈着と、口蓋扁桃肥大)がある。したがって閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)が強く疑われる。確定診断には終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)を行う。1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数である無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)で重症度を判定する。 日中過眠の鑑別にはナルコレプシーや睡眠不足症候群などもある。しかし、いびきと無呼吸の指摘に高度肥満が加わる本例では、OSASが最も考えやすい。
設問の考え方
睡眠中に上気道の閉塞と再開通を何度も繰り返すと、次のことが起こる。 (1) 無呼吸のたびに低酸素血症と高二酸化炭素血症が生じる。 (2) 呼吸を再開するために脳が短時間覚醒し(覚醒反応)、睡眠が分断される。その結果、日中過眠が起こる。 (3) 低酸素と覚醒反応のたびに交感神経が強く刺激される。 (4) 慢性的な低酸素に対する代償が起こる。 これらから予想される変化を選べばよい。また本例は高度肥満であるため、肥満が呼吸機能に及ぼす影響(拘束性の変化)も考え合わせる。肺の過膨張を示す変化(機能的残気量の増加、横隔膜低位)は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など閉塞性肺疾患の所見であり、本例には当てはまらない。
選択肢考察
- ○a. 血圧上昇
予想される。無呼吸で低酸素血症・高二酸化炭素血症となると、化学受容体を介して交感神経が強く興奮する。さらに呼吸再開時の覚醒反応が加わり、夜間に血圧が急上昇する。これが一晩に何十回も繰り返されると、交感神経の緊張が日中まで持続し、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の亢進、血管内皮機能の障害、酸化ストレスなども加わって持続性の高血圧となる。OSASは二次性高血圧の重要な原因であり、特に治療抵抗性高血圧や、夜間に血圧が下がらない型(non-dipper型・riser型)、早朝高血圧の患者でよくみられる。
- ○b. 赤血球増加
予想される。睡眠中の低酸素血症が繰り返され慢性化すると、腎臓からのエリスロポエチン分泌が増える。その結果、骨髄での赤血球産生が亢進し、二次性多血症となる。ヘマトクリット値が上昇すると血液の粘稠度が高まり、血栓症や心血管疾患のリスクを高める一因になる。高度肥満で肺胞低換気を伴う例では、日中も低酸素血症が続くため、多血症がより目立つ。
- ×c. PaCO2低下
予想されない。無呼吸・低呼吸の間は換気が止まるか減るため、二酸化炭素が排出されずPaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)は上昇する。覚醒時のPaCO2は、単純なOSASでは正常範囲にあることが多い。しかし本例のような高度肥満(BMI 30以上)では、覚醒時にもPaCO2が45Torrを超える肥満低換気症候群(obesity hypoventilation syndrome:OHS、いわゆるPickwick症候群)を合併することがある。いずれにしてもPaCO2が低下する方向の変化は考えにくい。
- ×d. 機能的残気量増加
予想されない。機能的残気量(functional residual capacity:FRC)は、安静時に息を吐き終えたときに肺に残っている空気の量である。FRCが増加するのは、COPDや気管支喘息の発作時など、肺が過膨張する病態である。OSASは上気道の閉塞が睡眠中に起こる病態であり、覚醒時の呼吸機能は基本的に正常である。むしろ本例のような高度肥満では、腹部や胸壁の脂肪が横隔膜を押し上げ、胸郭の動きを制限する。そのためFRC(特に予備呼気量)は減少する。
- ×e. 横隔膜低位
予想されない。横隔膜が低い位置で平らになるのは、肺気腫などで肺が過膨張したときの所見である。OSASでは肺の過膨張はない。本例のような高度肥満では、腹腔内の脂肪によって腹圧が上がり、横隔膜はむしろ挙上する(高位になる)。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の概要
・睡眠中に咽頭の上気道が繰り返し狭くなったり閉じたりして、無呼吸や低呼吸が起こる病態である。 ・無呼吸:口と鼻の気流が10秒以上停止すること。低呼吸:気流が低下し、酸素飽和度の低下や覚醒反応を伴うもの。 ・AHIによる重症度(成人):5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症である。AHI 5以上で日中過眠などの症状を伴う場合、またはAHI 15以上であれば、OSAと診断される。 ・危険因子:肥満、男性、加齢、小顎・下顎後退などの顔面の骨格、扁桃・アデノイドの肥大、巨舌、飲酒、鎮静薬の使用。日本人を含む東アジア人は顎顔面の形態のため、肥満が軽くても発症しやすい。
症状
・夜間:いびき、目撃される無呼吸、窒息感を伴う覚醒、夜間頻尿、寝汗。 ・日中:過眠(眠気の評価にはEpworth sleepiness scaleを用いる)、起床時の頭痛、集中力の低下、抑うつ。居眠り運転による事故の原因になる。
合併症
・高血圧(特に治療抵抗性高血圧)、不整脈(心房細動など)、虚血性心疾患、心不全、脳卒中。 ・2型糖尿病などの代謝異常。 ・二次性多血症。 ・肺高血圧、右心不全(肺胞低換気を伴う例で起こりやすい)。
検査
・簡易検査(携帯型の睡眠呼吸モニター)でスクリーニングを行い、PSGで確定診断する。PSGでは脳波・眼球運動・筋電図・気流・胸腹部の呼吸運動・SpO2などを同時に記録する。 ・中枢性睡眠時無呼吸では、呼吸努力(胸腹部の動き)も消失する。閉塞性では、気流は止まっても胸腹部の呼吸努力は続く(奇異性の動き)。この点で両者を区別する。
治療
・減量、飲酒の制限、睡眠薬を避けること、側臥位での睡眠。 ・中等症〜重症には経鼻的持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)が第一選択である。CPAPは空気の圧力で上気道を広げて保つ。 ・軽症〜中等症には口腔内装置(マウスピース)を用いる。 ・小児や扁桃肥大が高度な例では、扁桃摘出術などの手術を検討する。
肥満低換気症候群(OHS)
・BMI 30以上の肥満があり、覚醒時のPaCO2が45Torrを超え、ほかに低換気の原因がない病態である。多くはOSAを合併する。 ・低酸素血症、多血症、肺高血圧、右心不全をきたしやすい。
POINT
・いびき、目撃された無呼吸、日中過眠、肥満(上気道の狭さ)があればOSASを疑い、PSGでAHIを測定して診断する。 ・OSASの合併症では、高血圧(交感神経の亢進による)と二次性多血症(慢性低酸素によるエリスロポエチンの増加)が重要である。 ・無呼吸中はPaO2が低下し、PaCO2は上昇する。PaCO2は低下しない。 ・FRCの増加や横隔膜低位は、COPDなどの肺過膨張の所見である。肥満ではむしろFRCが減少し、横隔膜は挙上する。 ・中等症〜重症のOSASにはCPAPが第一選択である。
