胸膜のすぐ下の小さな影―「どこにあるか」で決まる肺結節の確定診断
第99回医師国家試験 A問題 第16問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。住民検診で胸部異常陰影を指摘され精密検査のため来院した。自覚症状はない。身長165cm,体重68kg。胸部の身体所見に異常はない。血液検査に異常を認めない。誘発喀痰の結核菌検査と細胞診とは陰性である。胸部単純CTで孤立性結節を認める。結節内に石灰化を認めない。肺野条件の胸部単純CTを別に示す。 診断確定に最も有用な検査はどれか。

- a.胸部造影MRI
- b.気管支動脈造影
- c.ガリウムシンチグラフィ
- d.経気管支肺生検
- e.CTガイド下針生検
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
石灰化を欠き、辺縁不整やスピキュラ、胸膜陥入像を伴う孤立性肺結節は原発性肺癌、特に末梢に好発する腺癌を疑います。末梢型の肺癌は気管支との交通が乏しく、喀痰細胞診が陰性でも否定できません。確定診断には組織を採取して病理学的に悪性を証明することが必須で、MRIや血管造影、シンチグラフィでは確定できません。胸膜直下の末梢病変ではCTガイド下針生検が確実で診断率も高い一方、中枢寄りの病変や病変に通じる気管支がある場合には経気管支肺生検が適しており、針生検後は気胸の確認が欠かせません。病変の性状と位置から最適な検体採取法を選ぶ考え方は、遺伝子検査を含む現代の肺癌診療の出発点となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・70歳男性。検診で胸部異常陰影を指摘されたが、自覚症状はない。 ・身体所見・血液検査に異常はない。 ・誘発喀痰(高張食塩水を吸入させて痰を出させる方法)の結核菌検査と細胞診はいずれも陰性である。 ・CTで孤立性の肺結節があり、石灰化はない。 ・肺野条件CTでは、右肺上葉の背側、胸膜直下の末梢肺野に結節がある。辺縁は不整で、胸膜へ引き込まれる線状影(胸膜陥入像)を伴っている。
診断に至るプロセス
孤立性肺結節の鑑別には、原発性肺癌、転移性肺腫瘍、結核腫、過誤腫、器質化肺炎などがある。良性を示唆する所見としては、内部の石灰化(結核腫では層状・中心性、過誤腫ではポップコーン状)が重要である。本例では石灰化がない。そのうえ辺縁不整(スピキュラ)や胸膜陥入像といった悪性を疑う所見があり、70歳という年齢も考え合わせると原発性肺癌、特に末梢に好発する腺癌がまず疑われる。喀痰の結核菌検査が陰性であることは結核を否定する根拠の一つになる。喀痰細胞診が陰性であっても肺癌は否定できない。末梢発生の腫瘍は太い気管支と交通が乏しく、喀痰中に腫瘍細胞が出にくいためである。
設問の考え方
肺癌の確定診断には、組織(または細胞)を採取して病理学的に悪性細胞を証明することが必要である。画像検査やシンチグラフィは悪性の可能性や広がりを推定できるが、確定診断にはならない。組織を採取する方法としては、経気管支肺生検とCTガイド下針生検が候補となる。本例の結節は胸膜直下の末梢にあって径も小さく、喀痰細胞診も陰性で気管支との交通が乏しいと考えられる。このため気管支鏡では到達しにくく、十分な検体も得にくい。一方、胸膜に近い末梢病変には経皮的にCTで位置を確認しながら針を刺すCTガイド下針生検が確実であり、最も有用である。
選択肢考察
- ×a. 胸部造影MRI
確定診断には使えない。MRIは縦隔・胸壁・大血管への浸潤の評価や、肺尖部胸壁浸潤癌(Pancoast腫瘍)での腕神経叢浸潤の評価などに役立つ。しかし肺は空気が多く、呼吸で動くため、肺野の小結節の評価はCTに劣る。何より組織を採取できないため、病理診断にはならない。
- ×b. 気管支動脈造影
確定診断には使えない。気管支動脈造影は主に喀血の出血源を調べる目的で行われ、そのまま気管支動脈塞栓術(BAE)による止血に移ることが多い。肺癌の抗癌剤動注療法に用いられた時期もあるが、侵襲的なわりに結節の良悪性を確定できる検査ではない。
- ×c. ガリウムシンチグラフィ
確定診断には使えない。67Ga(ガリウム)は腫瘍や炎症巣に集まるため、悪性リンパ腫やサルコイドーシス、炎症性病変の広がりの評価に用いられる。しかし肺癌に特異的ではなく、小さな結節では集積がはっきりしないことも多い。肺癌の病期診断では現在はFDG-PETが主に使われるが、PETでも確定診断はできず、組織診断が必要である。
- ×d. 経気管支肺生検
本例では最適ではない。経気管支肺生検(transbronchial lung biopsy:TBLB)は、気管支鏡を気管支内に入れ、X線透視下で鉗子を末梢へ進めて組織を採取する方法である。中枢寄りの病変や、病変へ通じる気管支(CT上のbronchus sign)がある場合には有用である。しかし本例のように胸膜直下の小さな末梢結節では、鉗子が病変に届かないことが多い。届いたとしても採取できる組織量が少なく、診断率が下がる。喀痰細胞診が陰性であることも、気管支との交通が乏しいことを示唆している。近年は気管支腔内超音波断層法(EBUS-GS)やナビゲーションの併用で診断率が向上しているが、本問の選択肢の中ではCTガイド下針生検の方が確実である。
- ○e. CTガイド下針生検
最も有用である。CTで結節の位置と針先を確認しながら、胸壁から経皮的に針を刺して組織を採取する方法である。胸膜に近い末梢の結節は、胸壁から病変までの距離が短く、正確に狙って刺すことができる。このため高い診断率(一般に90%前後)が得られ、組織型の診断に十分な検体も採取しやすい。合併症として気胸や肺内出血があり、まれに空気塞栓や針の刺入経路への腫瘍の播種が起こる。したがって、施行後は胸部エックス線写真で気胸の有無を確認する。
孤立性肺結節の良悪性を推定するCT所見
・悪性を示唆する所見:辺縁不整、スピキュラ(棘状突起)、分葉状の辺縁、胸膜陥入像(胸膜が腫瘍に引き込まれる)、血管や気管支の収束像、すりガラス成分を伴う結節、経過での増大。 ・良性を示唆する所見:びまん性・層状・中心性・ポップコーン状の石灰化、脂肪成分(過誤腫)、2年以上大きさが変わらないこと(充実性結節の場合)。
肺癌の組織型と発生部位
・腺癌:肺癌で最も多い。末梢肺野に好発し、非喫煙者や女性にもみられる。胸膜陥入像やすりガラス影を伴うことが多い。 ・扁平上皮癌・小細胞癌:喫煙との関連が強く、肺門部(中枢)に多い。中枢発生の病変では喀痰細胞診の陽性率が高い。
肺癌の診断手順(概略)
1. 画像(胸部エックス線写真・CT)で疑う。 2. 検体を採取して病理診断する。 ・喀痰細胞診:非侵襲的だが、主に中枢型で有用である。 ・気管支鏡検査:直接観察、擦過細胞診、TBLBを行う。縦隔リンパ節の評価には超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)を用いる。 ・CTガイド下針生検:末梢・胸膜直下の病変に適している。 ・胸水細胞診、胸腔鏡下生検、外科的切除(診断と治療を兼ねる)。 3. 病期診断:造影CT、頭部MRI、FDG-PET/CT、骨シンチグラフィなど。 4. 遺伝子検査(EGFR、ALK、ROS1など)やPD-L1検査を行い、治療を決める。こうした検査のためにも十分な組織量が求められる。
CTガイド下針生検の合併症
・気胸が最も多く、報告により20〜40%程度でみられる。多くは経過観察で済むが、胸腔ドレナージが必要になることもある。 ・肺内出血・喀血。 ・まれに空気塞栓(重篤)や針の刺入経路への腫瘍播種。
POINT
・肺癌の確定診断には病理学的診断(組織診・細胞診)が必須であり、画像検査やシンチグラフィでは確定できない。 ・末梢・胸膜直下の小結節にはCTガイド下針生検が有用である。中枢寄りの病変や、病変へ通じる気管支がある病変には気管支鏡下生検が適している。 ・喀痰細胞診が陰性でも、末梢発生の肺癌は否定できない。 ・石灰化のない孤立性結節で、スピキュラや胸膜陥入像を伴うものは肺腺癌を疑う。 ・CTガイド下針生検の主な合併症は気胸である。
