StudyMed医師国家試験

酸素飽和度はどこで跳ね上がる?―ステップアップで読み解く心房中隔欠損症

第99回医師国家試験 A問題 第20問

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第99回 A問題 第20問

7歳の女児。学校健診で心雑音を指摘されたため来院した。生来かぜをひきやすい。身長120cm,体重25kg。脈拍84/分,整。血圧96/72mmHg。第3肋間胸骨左縁に2/6度の収縮期雑音を聴取する。血液所見:赤血球370万,Hb 11.7g/dL,Ht 35%。心カテーテル検査所見を表に示す。 圧(mmHg) 酸素飽和度(%) 上大静脈 5 64 右房 5 78 右室 28 82 肺動脈 25/15 81 大動脈 90/68 97 診断はどれか。

  1. a.心房中隔欠損症
  2. b.心室中隔欠損症
  3. c.動脈管開存症
  4. d.Fallot四徴症
  5. e.Ebstein奇形

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心カテーテル検査の数字から短絡疾患の部位を決める問題だ。ポイントは、静脈側から動脈側へ順に酸素飽和度を追いかけて「どこで急に上がるか」、そして「大動脈の値は保たれているか」の2つ。まずは数字を見る前に、病歴と身体所見からどんな病態を思い浮かべるかな。
医学生医学生
学校健診で見つかった心雑音で、チアノーゼの話もないので、左→右短絡の非チアノーゼ性心疾患でしょうか。
ドクタードクター
いい出発点だね。Hbもむしろ低めで、多血症がない。慢性的に低酸素が続く右→左短絡なら赤血球が増えてくるはずだから、それも非チアノーゼ性を支持する。「かぜをひきやすい」というのは、肺血流が増えて気道感染を繰り返しやすい背景と考えるとつながるよ。
医学生医学生
では心カテですが、正直、数字の表を見ると固まってしまいます。生理学の講義では習ったはずなんですが……。
ドクタードクター
大丈夫、読み方はシンプルだ。左→右短絡があると、酸素をたっぷり含んだ動脈血が右心系に流れ込む。だからその流入部位から下流の酸素飽和度がポンと上がる。これをステップアップと呼ぶ。上大静脈から右房、右室、肺動脈と順番に見て、最初に大きく上がる場所を探せばいい。
医学生医学生
上大静脈から右房で十数%も上がっていて、そのあとはほとんど変わらないですね。心房レベルで動脈血が入っている、つまり心房中隔欠損症ですか。
ドクタードクター
正解。心房レベルではおおむね7%以上の上昇を有意な短絡の目安とするから、十分すぎる上昇だね。右室や肺動脈で上がりが小さいのは、右房で既に混ざった血液がそのまま流れているだけ。大動脈の酸素飽和度は正常で、右心系の圧もすべて正常範囲だから、肺高血圧や右→左短絡もない。
医学生医学生
雑音が出ているのは、欠損孔を血液が通る音ではないんですか。
ドクタードクター
そこはよく誤解されるところだ。心房同士の圧差は小さいから、欠損孔そのものはほとんど音を出さない。聞こえているのは、増えた右室拍出量が正常な肺動脈弁を通るときの相対的肺動脈弁狭窄の駆出性雑音なんだ。典型的には第2肋間胸骨左縁で最強だけど、少し下で聞こえることもある。
医学生医学生
では心室中隔欠損症なら、右房から右室で上がるはずですね。
ドクタードクター
その通り。心室中隔欠損症は心室レベルのステップアップで、雑音も第3〜4肋間胸骨左縁の汎収縮期雑音。しかも小さい欠損ほど大きく聞こえることが多いから、弱い雑音とは合いにくい。動脈管開存症ならどうかな。
医学生医学生
大動脈から肺動脈に流れるので、右室から肺動脈で上がるはずです。小児科実習で、鎖骨下の連続性雑音を聴かせてもらいました。
ドクタードクター
よく覚えているね。動脈管開存症では拡張期にも大動脈から血液が逃げるから、拡張期血圧が下がって脈圧が開く。今回は肺動脈で上昇がなく、脈圧も開いていないから合わない。残りのFallot四徴症とEbstein奇形はどう考える?
医学生医学生
Fallot四徴症はチアノーゼ性なので、大動脈の酸素飽和度が下がるはずですよね。
ドクタードクター
そう。右室流出路狭窄のため右室圧は体血圧並みに高く、肺動脈との間に大きな圧較差が出る。今回は右室と肺動脈の差はわずかで、大動脈も正常値。Ebstein奇形は三尖弁が右室側へずれ込み、逆流で右房が拡大して右房圧が上がりやすく、心房間交通があると右→左短絡でチアノーゼになりうる。右房圧正常で左→右短絡が主体の今回とは合わないね。
医学生医学生
ステップアップの位置で左→右短絡の場所を決めて、大動脈の値で右→左短絡を除外する、という流れですね。
ドクタードクター
その2段構えがカテの読み方の基本だ。おまけに、肺体血流比も概算できる。Qp/Qsは、大動脈と混合静脈の差を、肺静脈と肺動脈の差で割ったもの。肺静脈を大動脈と同じとみなすと、今回はおよそ2倍。肺血流が体血流の約2倍という有意な短絡だ。
医学生医学生
閉鎖が必要になる目安はありますか。
ドクタードクター
Qp/Qsが1.5以上や右心系の拡大がひとつの目安だね。二次孔欠損型で形態が合えばカテーテルで閉鎖栓を留置でき、それ以外は外科的閉鎖になる。小児期は無症状でも、放置すると成人期に心房細動や右心不全、肺高血圧をきたしうる。ただし肺血管抵抗が著しく上がったEisenmenger症候群になってしまうと閉鎖は禁忌だから、見つけたら適切な時期に評価することが大切だ。
医学生医学生
身体所見ではII音の固定性分裂、心電図では不完全右脚ブロックがCBTでも頻出でした。
ドクタードクター
その通り。右室の駆出が延びて肺動脈弁の閉鎖が遅れ、呼吸で変動しなくなるのが固定性分裂。心電図はV1のrsR'型と右軸偏位が典型で、一次孔欠損型だと左軸偏位になる点も鑑別に役立つ。今は心エコーで診断がつくことがほとんどで、カテは短絡量や肺血管抵抗の評価に使われることが多いよ。

まとめ

心カテーテル検査で短絡疾患を診断するときは、静脈側から酸素飽和度を順に追い、最初に有意に上昇する部位(ステップアップ)で左→右短絡の位置を判断します。上大静脈から右房での上昇は心房中隔欠損症、右房から右室は心室中隔欠損症、右室から肺動脈は動脈管開存症を示し、大動脈の酸素飽和度が正常なら右→左短絡を伴うチアノーゼ性疾患は否定的です。心房中隔欠損症の収縮期雑音は欠損孔ではなく肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄によるもので、II音の固定性分裂や不完全右脚ブロックも重要な手がかりです。Qp/Qsは酸素飽和度から概算でき、1.5以上や右心系拡大は閉鎖術を検討する目安となります。数字の羅列を血行動態として読み解く力は、先天性心疾患の理解と成人期合併症の予防の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・7歳女児。学校健診で心雑音を指摘されて受診。自覚症状は乏しいが「かぜをひきやすい」。 ・身長120cm、体重25kgで発育はおおむね保たれている。脈拍・血圧は年齢相応で、脈圧(96−72=24mmHg)の開大はない。 ・第3肋間胸骨左縁に2/6度(Levine分類で弱い)の収縮期雑音。 ・Hb 11.7g/dL、Ht 35%で多血(赤血球増多)はなく、慢性的なチアノーゼを示唆する所見はない。

心カテーテル所見の読み方

短絡疾患の診断では、静脈側から動脈側へ順に酸素飽和度を追い、どこで急に上昇するか(酸素飽和度のステップアップ)を見る。左→右短絡があると、酸素を多く含む動脈血が右心系に流れ込むため、その部位から下流の酸素飽和度が上がる。 ・上大静脈64% → 右房78%:14%の明らかな上昇がある。心房レベルでは一般に約7%以上の上昇を有意な短絡の目安とするので、心房レベルでの左→右短絡がある。 ・右房78% → 右室82% → 肺動脈81%:右房以降の上昇はわずかで、右房で既に上がった血液がそのまま流れていると解釈できる。心室・大血管レベルに新たな短絡は考えにくい。 ・大動脈97%:動脈血の酸素飽和度は正常で、右→左短絡(チアノーゼ)はない。 ・圧:右房5mmHg、右室収縮期28mmHg、肺動脈25/15mmHgといずれも正常範囲で、肺高血圧や右室流出路の器質的狭窄(右室と肺動脈の圧較差は約3mmHgにすぎない)はない。 参考までに肺体血流比(Qp/Qs)を概算すると、肺静脈血の酸素飽和度を大動脈と同じ97%、混合静脈血を上大静脈の64%とみなして、 Qp/Qs=(大動脈−混合静脈)÷(肺静脈−肺動脈)=(97−64)÷(97−81)=33÷16≒2.1 となり、肺血流が体血流の約2倍に増えた有意な左→右短絡である。

診断と雑音の解釈

以上から、心房レベルの左→右短絡、すなわち心房中隔欠損症(atrial septal defect:ASD)と診断する。ASDでは欠損孔を通る血流自体は心房間の圧差が小さいため雑音を生じにくい。聴取される収縮期雑音は、増加した右室拍出量が正常な肺動脈弁を通過することによる「相対的肺動脈弁狭窄」の駆出性雑音である。この雑音は典型的には第2肋間胸骨左縁で最強となるが、本例のように第2〜3肋間胸骨左縁付近で聴かれることもある。肺血流増加は気道感染を繰り返しやすい背景となり、「かぜをひきやすい」という病歴とも合う。ASDは幼少期には無症状のことが多く、学校健診の心雑音や心電図異常を契機に見つかることが多い点も典型的である。

選択肢考察

  1. ○a.  心房中隔欠損症

    上大静脈(64%)から右房(78%)にかけて14%の酸素飽和度上昇があり、心房レベルで酸素化された血液が右心系へ流入している、つまり心房間の左→右短絡を示す。右室・肺動脈では追加の上昇がなく、大動脈の酸素飽和度も正常(97%)で、右心系の圧も正常範囲にとどまる。胸骨左縁の軽い収縮期雑音は肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄の雑音として説明でき、無症状で学校健診を契機に発見された経過も含め、心房中隔欠損症に合致する。

  2. ×b.  心室中隔欠損症

    心室中隔欠損症では右房から右室にかけて酸素飽和度が上昇する(心室レベルのステップアップ)。本例では右房78%→右室82%と上昇はわずかで、有意な上昇は右房の段階で既に起きている。また心室中隔欠損症の雑音は第3〜4肋間胸骨左縁の汎収縮期雑音で、小欠損ほど強く(高い音量で)聴かれることが多く、本例の弱い2/6度の雑音とも合わない。

  3. ×c.  動脈管開存症

    動脈管開存症では大動脈から肺動脈へ短絡するため、右室から肺動脈にかけて酸素飽和度が上昇する(肺動脈レベルのステップアップ)。本例では右室82%→肺動脈81%で上昇はない。さらに動脈管開存症では拡張期にも大動脈から血液が流出するため拡張期血圧が下がり脈圧が開大し、第2肋間胸骨左縁(鎖骨下)に連続性雑音を聴取するが、本例の血圧(96/72mmHg)と収縮期雑音はこれに当てはまらない。

  4. ×d.  Fallot四徴症

    Fallot四徴症は心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右室肥大を特徴とするチアノーゼ性心疾患である。右→左短絡により大動脈の酸素飽和度が低下し、右室圧は体血圧とほぼ等しく、肺動脈圧は低い(右室と肺動脈の間に大きな圧較差がある)。本例は大動脈酸素飽和度97%、右室圧28mmHgで圧較差もなく、多血もないため否定的である。

  5. ×e.  Ebstein奇形

    Ebstein奇形は三尖弁(主に中隔尖と後尖)の付着部が右室側へ偏位し、右室の一部が右房化する奇形で、三尖弁逆流により右房が拡大し右房圧が上がりやすい。卵円孔開存や心房中隔欠損を合併すると右→左短絡によるチアノーゼ(大動脈酸素飽和度の低下)をきたしうる。本例は右房圧5mmHgと正常で、大動脈酸素飽和度も正常であり、心房レベルでは左→右短絡が主体であることから合致しない。

心房中隔欠損症(ASD)の概要

・先天性心疾患の中で頻度が高く、女児に多い。欠損部位により、二次孔欠損型(卵円窩付近、最も多い)、一次孔欠損型(房室中隔欠損の部分型、僧帽弁裂隙を伴いやすい)、静脈洞型(上大静脈付近に多く、部分肺静脈還流異常を合併しやすい)、冠静脈洞型に分けられる。 ・血行動態:左房から右房へ短絡し、右房・右室・肺動脈の容量負荷(右心系の拡大)と肺血流増加をきたす。左室には容量負荷がかからない点が、心室中隔欠損症や動脈管開存症(左房・左室の容量負荷)と異なる。

身体所見

・II音の固定性分裂:右室の駆出時間が延び肺動脈弁の閉鎖(IIp)が遅れ、呼吸による変動もほとんどなくなる。ASDに特徴的な所見である。 ・第2肋間胸骨左縁の駆出性収縮期雑音(相対的肺動脈弁狭窄)。 ・短絡量が多いと、三尖弁を通る血流増加による拡張中期ランブル(相対的三尖弁狭窄)を第4肋間胸骨左縁に聴取することがある。

検査所見

・心電図:不完全右脚ブロック(V1のrsR'型)、右軸偏位(二次孔型)。一次孔欠損型では左軸偏位を示すのが鑑別点。 ・胸部エックス線:右房・右室拡大、肺動脈主幹部の拡大、肺血管陰影の増強。 ・心エコー:欠損孔と短絡血流を直接確認できる。現在は心エコーで診断がつくことが多く、心カテーテル検査は短絡量や肺血管抵抗の評価に用いられる。

心カテーテルにおける酸素飽和度ステップアップと短絡部位

・上大静脈→右房で上昇:心房中隔欠損症(部分肺静脈還流異常でも起こりうる) ・右房→右室で上昇:心室中隔欠損症 ・右室→肺動脈で上昇:動脈管開存症 ・大動脈(体動脈)の酸素飽和度低下:右→左短絡(Fallot四徴症、Eisenmenger化など) 混合静脈血は本来、上大静脈と下大静脈の血液を混ぜて評価するが、下大静脈血は腎静脈の影響で酸素飽和度が高めになるため、上大静脈の値を基準にすることが多い。

治療と経過

・小児期は無症状のことが多いが、放置すると成人期に心房細動などの不整脈、右心不全、肺高血圧をきたすことがある。 ・有意な短絡(目安としてQp/Qs 1.5以上や右心系の拡大)があれば閉鎖術の適応となる。二次孔欠損型で形態が適していればカテーテルによる閉鎖栓留置が行われ、それ以外は外科的閉鎖を行う。肺血管抵抗が著しく上昇したEisenmenger症候群では閉鎖は禁忌となる。

POINT

・心カテーテルでは静脈側から順に酸素飽和度を追い、どこで上昇(ステップアップ)するかで左→右短絡の部位を決める。 ・上大静脈→右房での上昇は心房中隔欠損症、右房→右室は心室中隔欠損症、右室→肺動脈は動脈管開存症。 ・大動脈の酸素飽和度が正常なら右→左短絡(チアノーゼ性疾患)は否定的。 ・ASDの収縮期雑音は欠損孔ではなく、肺血流増加による相対的肺動脈弁狭窄の雑音である。II音の固定性分裂、不完全右脚ブロックも重要。 ・Qp/Qs=(大動脈−混合静脈)÷(肺静脈−肺動脈)の酸素飽和度で概算できる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。