StudyMed医師国家試験

胃潰瘍と腎機能低下を抱えた骨の痛み―骨髄腫のがん疼痛にどのオピオイドを足すか

第120回医師国家試験 F問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第49問

64歳の男性。腰痛を主訴に来院した。2週間前に腰痛をきっかけに多発性骨髄腫と診断され治療を受けている。腰痛に対してアセトアミノフェンを服用していたが痛みが強くなったため家族に付き添われて受診した。3年前から胃潰瘍を繰り返している。意識は清明。身長168cm,体重58kg。体温36.4℃。脈拍80/分,整。血圧130/78mmHg。呼吸数14/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球308万,Hb 10.8g/dL,Ht 29%,白血球4,400(分葉核好中球57%,好酸球4%,単球6%,リンパ球33%),血小板16万。血液生化学所見:総蛋白10.8g/dL,アルブミン3.1g/dL,IgG 6,912mg/dL(基準861~1,747),IgA 22mg/dL(基準93~393),IgM 7mg/dL(基準33~183),AST 22U/L,ALT 23U/L,LD 180U/L(基準124~222),尿素窒素17mg/dL,クレアチニン1.8mg/dL。CRP 0.1mg/dL。腹部骨盤部単純CTで腰椎と腸骨に多発性の溶骨所見を認めた。  疼痛コントロールを強化するにあたり,適切な対応はどれか。

  1. a.NSAID経口薬に変更する。
  2. b.塩酸モルヒネを急速静注する。
  3. c.オキシコドン経口薬を追加する。
  4. d.フェンタニル貼付薬に変更する。
  5. e.モルヒネ塩酸塩水和物坐薬に変更する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、がん疼痛の鎮痛をどう強化するかを考える問題だ。痛みの原因が何か、そして患者さんがどんな「使いにくい条件」を抱えているか。この2点に注目すると、薬の選び方が自然に決まってくるよ。まず、この腰痛の正体から確認しよう。
医学生医学生
総蛋白が高いのにアルブミンは低くて、IgGだけが極端に高く、IgAとIgMは下がっています。IgG型のM蛋白ですよね。腰椎と腸骨の溶骨像もあるので、骨髄腫の骨病変による痛みだと思います。
ドクタードクター
その通り。骨髄腫細胞は破骨細胞を活性化して骨芽細胞を抑えるから、骨が溶けて痛みや病的骨折を起こす。発熱もなくCRPも低いので、化膿性脊椎炎のような感染による痛みは考えにくい。つまり、これはがん疼痛として扱えばいい。アセトアミノフェンでは効かなくなってきた、という段階だね。
医学生医学生
非オピオイドで効かないなら、次はオピオイドの導入ですね。でもその前に、NSAIDを試すという手はないんでしょうか。
ドクタードクター
一般論としては、非オピオイドにNSAIDを使うこと自体はある。でもこの患者さんには使いにくい理由が2つある。何だと思う?
医学生医学生
1つは胃潰瘍を繰り返していることですね。薬理学の講義で、NSAIDはCOXを阻害して胃粘膜を守るプロスタグランジンを減らすと習いました。
ドクタードクター
正解。消化性潰瘍のある患者には添付文書上も禁忌だ。もう1つは腎臓。プロスタグランジンは腎血流の維持にも働いているから、NSAIDで腎機能が悪化しうる。この人はクレアチニンが1.8とすでに上がっていて、骨髄腫自体も軽鎖による円柱腎症などで腎障害を起こしやすい。しかも非オピオイドを別の非オピオイドに替えるだけでは、鎮痛の強化としても力不足なんだ。
医学生医学生
なるほど。では強オピオイドの代表のモルヒネを、確実に効くよう静注するのはどうでしょう。
ドクタードクター
そこは危ないところだよ。オピオイドをまだ使ったことのない人にモルヒネを急速静注すると、血中濃度が一気に上がって呼吸抑制や過度の鎮静を起こしうる。この人は意識清明でバイタルも安定し、口から飲める。わざわざ静注を選ぶ理由はないんだ。
医学生医学生
WHO方式の「経口的に」「時刻を決めて」の原則ですね。CBTの勉強で語呂合わせで覚えました。
ドクタードクター
そう。それに加えて、モルヒネには腎機能に関わる弱点がある。活性代謝物のモルヒネ-6-グルクロニドなどは腎臓から排泄されるので、腎機能が落ちていると蓄積して、傾眠や呼吸抑制、せん妄が出やすくなるんだ。
医学生医学生
だから坐薬でもモルヒネはやめておいたほうがいい、ということですか。
ドクタードクター
その通り。坐薬は効き始めが早い反面、持続が短いので、内服できない人の突出痛へのレスキューなどに使われることが多い。内服できる人の定時投与の主軸には向かないし、腎機能の問題も残る。そこで答えになるのが、オキシコドンの経口薬を追加する方法だ。オキシコドンは主に肝臓のCYP3A4やCYP2D6で代謝され、代謝物の鎮痛活性は弱いから、腎機能低下例でもモルヒネより使いやすい。
医学生医学生
フェンタニル貼付薬も腎機能に左右されにくいと聞きました。緩和ケア科の実習で、貼り薬の患者さんを担当したことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。フェンタニルも腎機能低下例で使いやすく、便秘も比較的少ない。ただ、貼付薬は貼ってから血中濃度が安定するまで時間がかかって、細かい用量調節がしにくい。痛みが強まっていて必要量がまだわからない導入期には向かず、ほかのオピオイドで量が決まってから切り替えたり、内服できない人に使ったりするのが基本なんだ。
医学生医学生
もう1つ気になったのが、選択肢の語尾です。「変更する」と「追加する」で意味が違いますよね。
ドクタードクター
鋭いね。オピオイドを導入するときも、効いている分の非オピオイドは中止せずに上乗せするのが原則だ。だからアセトアミノフェンを続けながらオキシコドンを足す、という形が理にかなっている。
医学生医学生
具体的にはどう始めるんでしょう。
ドクタードクター
少量の徐放性製剤を時間を決めて定時投与し、突出痛には速放性製剤をレスキューとして使う。そして導入と同時に下剤で便秘対策をする。便秘は耐性がほとんどできないから、ほぼ必ず起こると考えて先手を打つんだ。悪心は導入初期に多いので、制吐薬も準備しておく。
医学生医学生
骨の痛みそのものに対しては、鎮痛薬以外の手もありますか。
ドクタードクター
ある。骨髄腫や骨転移ではビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体のデノスマブで骨関連事象を予防するし、局所の強い痛みには放射線照射も有効だ。ただしビスホスホネートは腎機能に応じた減量が必要だし、デノスマブでは低カルシウム血症に注意がいる。ここでも腎機能が薬の選び方に関わってくるんだよ。
医学生医学生
痛みの原因と、患者さんの合併症の両方を見て薬を選ぶ、ということがよくわかりました。
ドクタードクター
その通り。がん疼痛の治療は、教科書の段階的な流れに加えて、目の前の患者さんの胃、腎臓、内服できるかどうかに合わせて調整することが大事なんだ。

まとめ

多発性骨髄腫の溶骨性病変による骨痛はがん疼痛として扱い、アセトアミノフェンなどの非オピオイドで不十分になればオピオイドを導入し、非オピオイドは中止せず併用します。消化性潰瘍の既往や腎機能低下がある患者ではNSAIDを避け、腎排泄性の活性代謝物をもつモルヒネも慎重に扱う必要があるため、肝代謝が中心のオキシコドン経口薬を追加するのが適切です。オピオイド未使用者への急速静注は呼吸抑制の危険があり、フェンタニル貼付薬は用量調節が難しいため用量が定まってからの切り替えや内服困難時に用います。導入時は少量の徐放性製剤を定時投与し、レスキュー薬と下剤・制吐薬を同時に準備することが基本です。疾患の病態と患者ごとの合併症を組み合わせて薬剤を選ぶ姿勢は、がん疼痛に限らずあらゆる薬物療法の土台となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・64歳男性。2週間前に腰痛を契機として多発性骨髄腫と診断され、治療中である。 ・腰痛に対しアセトアミノフェンを使っていたが、痛みが増強して受診した。 ・3年前から胃潰瘍を繰り返している(消化性潰瘍の既往)。 ・総蛋白10.8g/dLと高値なのにアルブミン3.1g/dLと低値であり、アルブミン以外の蛋白(グロブリン)が著増している。IgGは6,912mg/dLと著明に高く、IgA・IgMはともに基準値を下回っている。単一のクラスの免疫グロブリンだけが増え、他のクラスは抑えられているパターンで、IgG型M蛋白(単クローン性免疫グロブリン)の産生を示す。 ・CTで腰椎・腸骨に多発性の溶骨性病変があり、これは骨髄腫に特徴的な臓器障害(CRAB:C 高カルシウム血症、R 腎障害、A 貧血、B 骨病変)のうちB(骨病変)を明確に満たす。 ・ほかにHb 10.8g/dLの軽度貧血とクレアチニン1.8mg/dLの軽度腎機能低下がある。ただしCRABの数値基準は、貧血がHb<10g/dL(または基準下限より2g/dL以上の低下)、腎障害がクレアチニン>2mg/dL(またはクレアチニンクリアランス<40mL/分)であり、本例のHb・クレアチニンの値そのものは「Hb<10g/dL」「クレアチニン>2mg/dL」という閾値には届いていない。したがって、ここでは骨髄腫に伴う軽度の異常所見として捉えておけば十分である(なお腎機能低下は、後述するように鎮痛薬の選択には影響する)。 ・CRP 0.1mg/dLで炎症所見はなく、発熱もないため、感染(化膿性脊椎炎など)による痛みは考えにくい。

病態の判断

多発性骨髄腫の溶骨性病変による骨痛、すなわちがん疼痛である。非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェン)では効果が不十分になっており、鎮痛の強化が必要である。

設問の考え方

がん疼痛治療の基本原則(WHO方式)は「経口的に(by mouth)」「時刻を決めて規則正しく(by the clock)」「患者ごとに(for the individual)」「細かい配慮をもって(with attention to detail)」である。非オピオイドで不十分な中等度以上の痛みにはオピオイドを導入するが、その際は非オピオイドを中止せず併用(上乗せ)するのが原則である。 さらに本例では、①胃潰瘍を繰り返している、②腎機能が低下している(骨髄腫腎)という2つの条件がある。①②はNSAIDを避ける理由となり、②は腎排泄性の活性代謝物をもつモルヒネを使いにくくする理由となる。経口摂取が可能で、腎機能低下例でも比較的使いやすいオキシコドンを、アセトアミノフェンに追加して経口で開始するのが最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  NSAID経口薬に変更する。

    NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害して胃粘膜を守るプロスタグランジンを減らすため、消化性潰瘍の再発や出血を起こしやすい。胃潰瘍を繰り返している本例には使うべきでない(添付文書上も消化性潰瘍のある患者には禁忌)。また、NSAIDは腎血流を保つプロスタグランジンも抑えるため、クレアチニン1.8mg/dLとすでに腎機能が低下した骨髄腫患者では腎障害を悪化させるおそれがある。さらに、非オピオイドを別の非オピオイドに切り替えるだけでは、アセトアミノフェンで抑えられなくなった痛みに対する鎮痛強化として不十分である。

  2. ×b.  塩酸モルヒネを急速静注する。

    オピオイドをまだ使ったことのない患者にモルヒネを急速静注すると、血中濃度が急上昇して呼吸抑制や過度の鎮静を起こす危険が高い。本例は意識清明でバイタルサインも安定し、経口摂取も可能であるから、静注を選ぶ理由はない。加えて、モルヒネの活性代謝物(モルヒネ-6-グルクロニド、モルヒネ-3-グルクロニド)は腎臓から排泄されるため、腎機能低下例では蓄積して傾眠・呼吸抑制・せん妄などが起こりやすい。がん疼痛ではオピオイドを少量から開始し、効果と副作用を見ながら漸増するのが原則である。

  3. ○c.  オキシコドン経口薬を追加する。

    非オピオイド(アセトアミノフェン)で鎮痛が不十分になったがん疼痛であり、オピオイドを導入する段階である。本例は経口摂取ができるので、WHO方式の原則どおり経口薬を選ぶ。オキシコドンは主に肝臓(CYP3A4・CYP2D6)で代謝され、代謝物の鎮痛活性が弱いため、腎機能低下例でもモルヒネより使いやすい。少量の徐放性製剤で開始して定時投与し、突出痛には速放性製剤をレスキュー(頓用)として用いる。アセトアミノフェンは中止せず併用し、オピオイド導入時には便秘対策(下剤)と悪心対策も同時に行う。NSAIDを避けるべき条件(胃潰瘍反復・腎機能低下)にも抵触しない。

  4. ×d.  フェンタニル貼付薬に変更する。

    フェンタニル貼付薬は腎機能低下例でも使いやすく便秘も比較的少ないが、貼付後に血中濃度が安定するまで時間がかかり、用量調節(タイトレーション)がしにくい。そのため、痛みが増強して用量が定まっていない状態での導入には向かず、原則として他のオピオイドで必要量が決まった後に切り替えて用いる。経口摂取が困難な場合や内服での副作用が問題となる場合に検討する選択肢であり、内服可能でオピオイド未使用の本例でまず選ぶものではない。また「変更する」ではアセトアミノフェンを中止することになり、併用の原則にも反する。発汗や発熱で吸収量が変動する点にも注意が要る。

  5. ×e.  モルヒネ塩酸塩水和物坐薬に変更する。

    モルヒネ坐薬は効果発現が比較的早く持続時間が短いため、内服できない患者の突出痛に対するレスキューなどに用いられるが、定時投与による持続的な疼痛管理の主軸としては使いにくい。内服可能な本例では経口投与を優先すべきである。また、腎機能低下例ではモルヒネの活性代謝物が蓄積しやすく、副作用の危険が高まる。アセトアミノフェンを中止して置き換える点も不適切である。

多発性骨髄腫の診断と臓器障害

形質細胞が腫瘍性に増殖し、単クローン性の免疫グロブリン(M蛋白)を産生する疾患である。診断にはクローン性形質細胞の増加(骨髄で10%以上など)に加え、CRABと呼ばれる臓器障害または骨髄腫を規定する事象(骨髄形質細胞60%以上、遊離軽鎖比100以上、MRIで5mm以上の局所病変2か所以上)を用いる(IMWG:国際骨髄腫ワーキンググループの基準)。CRABの数値基準は次のとおりである。 ・C(高カルシウム血症):血清Ca>11mg/dL、または基準上限より1mg/dLを超える上昇 ・R(腎障害):血清クレアチニン>2mg/dL、またはクレアチニンクリアランス<40mL/分 ・A(貧血):Hb<10g/dL、または基準下限より2g/dLを超える低下 ・B(骨病変):X線・CT・PET-CTで1か所以上の溶骨性病変 M蛋白が増えると総蛋白が上昇し、アルブミンとの差(グロブリン分画)が開く。一方で正常な免疫グロブリンは減少し、易感染性の原因となる。腎障害は軽鎖による尿細管障害(円柱腎症)、高カルシウム血症、脱水などで起こる。

骨髄腫の骨痛

腫瘍細胞が破骨細胞を活性化し骨芽細胞を抑えるため、腰椎・骨盤・肋骨・頭蓋骨などに打ち抜き像(punched-out lesion)を伴う溶骨性病変が生じ、骨痛や病的骨折の原因となる。鎮痛薬に加え、ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体(デノスマブ)による骨関連事象の予防、局所の強い痛みには放射線照射なども行われる。ビスホスホネートは腎機能に応じた減量が必要である。

がん疼痛治療の薬剤選択

・非オピオイド:アセトアミノフェン、NSAID。NSAIDは消化性潰瘍・腎障害・出血傾向のある患者では避ける。 ・オピオイド:中等度以上の痛みに導入する。かつては弱オピオイド(コデイン、トラマドール)→強オピオイドという3段階除痛ラダーが強調されたが、現在は痛みの強さに応じて少量の強オピオイドから開始することも認められている。 ・モルヒネ:腎排泄性の活性代謝物があり、腎機能低下例では慎重に用いる。 ・オキシコドン:経口の徐放性製剤・速放性製剤があり、導入に使いやすい。 ・フェンタニル:貼付薬・注射薬・口腔粘膜吸収剤がある。貼付薬は用量調節に時間がかかるため、用量が安定してからの切り替えや内服困難時に用いる。口腔粘膜吸収剤は突出痛に用いる即効性製剤である。 ・ヒドロモルフォン、タペンタドール、メサドンなども用いられる。

オピオイドの主な副作用と対策

便秘(耐性ができにくく、ほぼ必発のため下剤を併用する)、悪心・嘔吐(導入初期に多く、制吐薬で対処する)、眠気、せん妄、呼吸抑制(過量時)。

POINT

・多発性骨髄腫の溶骨性病変による骨痛はがん疼痛として扱う。 ・非オピオイドで不十分ならオピオイドを導入し、非オピオイドは中止せず併用する。 ・投与経路は経口を第一とし、時刻を決めて定時投与、突出痛にはレスキューを用いる。 ・消化性潰瘍・腎機能低下例ではNSAIDを避ける。 ・腎機能低下例ではモルヒネよりオキシコドンやフェンタニルが使いやすい。 ・オピオイド未使用者への急速静注は呼吸抑制の危険があり行わない。 ・フェンタニル貼付薬は用量調節が難しく、他のオピオイドで用量が決まってからの切り替えや内服困難時に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。