StudyMed医師国家試験

「動けるうち」が始めどき―化学療法と同時に始めるがんリハビリテーション

第120回医師国家試験 F問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第50問

72歳の男性。進行肺癌と診断され,入院の上,化学療法が開始された。呼吸困難など自覚症状はない。軽度の体重減少を認めるが,食事は経口摂取できている。筋力はやや低下しているが歩行は可能であり,ADLは自立している。  この患者に対する,がんリハビリテーションの進め方で最も適切なのはどれか。

  1. a.すぐに開始する。
  2. b.化学療法終了後に開始する。
  3. c.疾患進行期であるため非適応である。
  4. d.動作時の呼吸苦を認めたら実施する。
  5. e.ADLに介助が必要になったら実施する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、がんリハビリテーションをいつ始めるかを問う問題だ。注目してほしいのは、進行癌で治療が始まったばかりだけれど、今はまだ症状がなくADLも自立している、という点。リハビリは何のために行うのか、を考えると答えが見えてくるよ。
医学生医学生
リハビリというと、脳卒中後や骨折後のように、機能が落ちてから回復させるイメージが強いです。症状がないなら、まだ必要ないようにも思えてしまいます。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるんだ。でも、がんのリハビリテーションは病期や治療段階を問わず、がんと診断された時点から行うものとされている。機能が落ちてから取り戻すより、落ちる前に防ぐほうがずっと効果的だからね。
医学生医学生
この患者さんは、何もしないとどうなりそうですか。
ドクタードクター
高齢の人が入院して化学療法を受けると、倦怠感や悪心、食欲不振で横になっている時間が増えて、廃用症候群が急速に進みやすい。安静臥床が続くと、筋力は1週間で十数%ほど落ちるともいわれる。そこに進行癌による悪液質も重なる。実はこの人、もう軽い筋力低下と体重減少が始まっているよね。
医学生医学生
だとすると、今すぐ始めるのがいいということですね。でも、化学療法中に運動して大丈夫なんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。化学療法中の有酸素運動や筋力トレーニングは、身体機能、がん関連疲労、QOL、不安や抑うつの改善に有効とされていて、ガイドラインでも推奨されている。並行して安全に行えるんだ。だから「化学療法が終わってから」と待つ医学的な根拠はない。
医学生医学生
待っているうちに、終わる頃には動けなくなっているかもしれない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。むしろ体力を保つことが、予定どおり治療を続ける助けにもなる。ただし、高度の貧血や血小板減少、発熱、骨転移で病的骨折の危険がある日などは、運動を中止したり負荷を軽くしたりする。調子の悪い日は量を調整すればいいのであって、開始を遅らせる理由にはならないんだ。
医学生医学生
進行期だからリハビリの適応外、という考え方はどうですか。終末期の方にリハビリをするのは負担にならないかと思ってしまいます。
ドクタードクター
そこは大事な誤解だね。進行期や終末期もがんリハビリの対象だ。目標が「元どおりに治す」から、機能の維持やADL・QOLの保持、症状の緩和に変わるだけなんだ。運動でがんの進行が早まるわけでもない。
医学生医学生
緩和ケア科を回ったとき、理学療法士さんが終末期の患者さんの車椅子移乗を練習していて、ご本人がとても喜んでいたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが緩和的なリハビリだね。では、動いたときに息苦しくなってから始める、という考えはどうだろう。肺癌だから呼吸の症状は気になるところだ。
医学生医学生
苦しくなってからだと、そもそも運動の負荷をかけにくそうです。
ドクタードクター
そう。症状が出てからでは十分な負荷をかけられず、呼吸法や楽な動作のコツを身につけるのも苦しさで難しくなる。症状が出る前から関わっておけば、呼吸困難が出たときにも呼吸リハビリや動作の工夫をスムーズに取り入れられる。ADLに介助が必要になってから始める、というのも同じ理屈で遅すぎるんだ。
医学生医学生
介助が必要になる時期をできるだけ先に延ばすこと自体が、リハビリの目的なんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、がんリハビリの病期別分類も押さえておこう。Dietzの分類では、診断後や治療開始時に機能障害を防ぐ予防的、障害が生じた後に回復を目指す回復的、進行に伴って機能を保つ維持的、終末期に症状を和らげQOLを支える緩和的、の4つに分けられる。この患者さんは予防的リハビリの段階にあたる。
医学生医学生
手術前から体力をつけておく、プレハビリテーションという言葉も聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。治療の前から筋力や心肺機能、栄養状態を高めておく考え方で、術後合併症の減少や回復の促進が期待されている。悪液質に対しても、運動療法と栄養療法を組み合わせた多面的な介入が試みられているよ。
医学生医学生
がんのリハビリは「落ちてから」ではなく「落ちる前から」、そして全病期が対象、と覚えておきます。

まとめ

がんのリハビリテーションは、病期や治療段階を問わず、がんと診断された時点から開始するのが原則であり、化学療法とも並行して安全に実施できます。高齢者が入院して化学療法を受けると、倦怠感や食欲低下による臥床で廃用症候群が急速に進み、悪液質も重なるため、症状がなくADLが自立している今のうちに予防的に介入することが重要です。化学療法の終了や呼吸苦の出現、ADLの介助が必要になるのを待つと、十分な運動負荷をかけられず回復も難しくなり、また進行期・終末期であっても機能維持やQOL保持、症状緩和を目的として適応となります。Dietzの分類(予防的・回復的・維持的・緩和的)やプレハビリテーションの考え方とあわせて理解しておくと、治療を続ける体力を支え、患者の生活を守るという視点から、がん診療全体を捉えられるようになります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・72歳の高齢男性で、進行肺癌に対して入院のうえ化学療法が始まったところである。 ・呼吸困難などの自覚症状はない。 ・軽度の体重減少はあるが経口摂取はできており、栄養状態が大きく崩れているわけではない。 ・筋力はやや低下しているものの歩行可能で、ADL(日常生活動作)は自立している。

この患者に起こりうること

高齢者が入院し化学療法を受けると、倦怠感・食欲不振・悪心などのために臥床がちとなり、廃用症候群(安静や不活動による筋萎縮・体力低下・関節拘縮など)が急速に進みやすい。進行癌そのものによる悪液質(筋肉量の減少を中心とした代謝異常)も筋力低下を加速させる。本例ではすでに筋力の軽い低下と体重減少が始まっている。

設問の考え方

がんのリハビリテーションは、病期や治療段階を問わず、がんと診断された時点から行うものとされる。機能が落ちてから回復を図るよりも、落ちる前に予防的に介入するほうが効果的であり、運動療法は化学療法と並行して安全に実施できる。進行期であっても、ADLと生活の質(QOL)をできるだけ長く保つことが目標となる。本例は自覚症状がなくADLも自立しており、低~中等度の運動を行える状態であるから、化学療法と並行して今すぐ開始するのが最も適切である。

選択肢考察

  1. ○a.  すぐに開始する。

    がんリハビリテーションは診断後・治療開始時から早期に導入するのが原則である。本例は症状がなく歩行・ADLが自立しており、運動を安全に行える状態にある。化学療法による倦怠感や食欲低下で活動量が落ちる前に、筋力・筋持久力・心肺機能を維持・向上させておくことで、廃用の進行を防ぎ、治療を継続できる体力を保つことが期待できる。すでに筋力低下と体重減少が始まっていることも、早期介入を急ぐ理由となる。

  2. ×b.  化学療法終了後に開始する。

    化学療法の終了を待つ医学的根拠はなく、リハビリテーションは化学療法と並行して行える。化学療法中に何もしなければ、その間に廃用による筋力・体力の低下が進み、終了時には倦怠感や食欲不振のため動けなくなっていることも多い。いったん落ちた機能を取り戻すには、予防するよりはるかに長い時間を要する。なお、血球減少や発熱など全身状態が悪い日は運動量を調整すればよく、開始自体を遅らせる理由にはならない。

  3. ×c.  疾患進行期であるため非適応である。

    進行期・終末期であってもがんリハビリテーションの対象である。進行期では、機能の維持、ADLやQOLの保持、症状の緩和が目標となる。運動によってがんの進行が早まることはなく、むしろ身体活動の維持は倦怠感の軽減や精神面の安定にも役立つ。病期の進行を理由に適応外とするのは誤りである。

  4. ×d.  動作時の呼吸苦を認めたら実施する。

    呼吸苦が出てから始めると、症状のために十分な運動負荷をかけられず、呼吸法や効率のよい動作の習得も苦しさから難しくなる。症状が出る前の、運動が行いやすい時期から開始しておくべきである。呼吸困難が生じた後も、呼吸リハビリテーションや動作の工夫は症状緩和に有用であり、その意味でも早期から関わっておくことが望ましい。

  5. ×e.  ADLに介助が必要になったら実施する。

    ADLに介助が必要となった時点ではすでに筋力・体力の低下が進んでおり、十分な運動負荷をかけられず、回復も難しくなる。ADLが自立している今のうちに介入して、介助が必要になる状態をできるだけ先に延ばすことが、がんリハビリテーションの主な目的の一つである。

がんリハビリテーションの病期別分類(Dietzの分類)

・予防的リハビリテーション:がんと診断された後、手術・放射線療法・化学療法の前または開始直後から行い、機能障害の発生を予防する。 ・回復的リハビリテーション:機能障害や能力低下が生じた患者に対し、最大限の機能回復を目指す。 ・維持的リハビリテーション:がんが増大し機能障害が進行しつつある患者に対し、セルフケアや運動能力を保ち、拘縮・褥瘡などを予防する。 ・緩和的リハビリテーション:終末期の患者に対し、本人の希望を尊重しながら、疼痛・呼吸困難などの症状を和らげ、QOLの高い生活を送れるよう支援する。 このように、診断直後から終末期まで全病期が対象となる。本例は化学療法開始時の予防的リハビリテーションに当たる。

化学療法中の運動療法

化学療法中・後の患者に対する有酸素運動と筋力トレーニングは、身体機能、倦怠感(がん関連疲労)、QOL、不安・抑うつの改善に有効とされ、診療ガイドラインでも推奨されている。ただし、著しい貧血、高度の血小板減少(出血の危険)、発熱、骨転移による病的骨折の危険、高度の脱水・電解質異常などがある場合は、運動の中止や負荷の軽減を検討する。

プレハビリテーション

手術や化学療法の前から筋力・持久力・心肺機能・栄養状態を高め、治療に耐える力を準備しておく考え方である。術後合併症の減少や回復の促進が期待されている。

廃用症候群と悪液質

安静臥床が続くと、筋力は1週間で十数%程度低下するといわれるほど急速に失われる。高齢者では特に回復しにくい。がん悪液質は、食事だけでは回復しない骨格筋量の減少を特徴とし、栄養療法と運動療法を組み合わせた多面的な介入が試みられている。

POINT

・がんリハビリテーションは診断時・治療開始時から開始し、病期を問わず全病期が対象となる。 ・化学療法・放射線療法と並行して実施できる。 ・機能が低下してからでは回復に時間がかかるため、症状が出る前やADLが自立しているうちから予防的に介入する。 ・進行期・終末期でも、機能維持・ADL・QOLの保持や症状緩和を目的として適応となる。 ・Dietzの分類:予防的・回復的・維持的・緩和的。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。