着替えはできても薬が飲めない―BADLとIADLを分ける「判断する力」
第120回医師国家試験 E問題 第12問
国試問題にチャレンジ
手段的日常動作〈IADL〉の評価項目はどれか。
- a.更衣
- b.整容
- c.入浴
- d.歩行
- e.服薬管理
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日常生活動作(ADL)は、食事・排泄・更衣・整容・入浴・移乗・歩行・階段昇降などの身の回りの基本動作である基本的ADL(BADL)と、服薬管理・金銭管理・買い物・食事の準備・家事・洗濯・電話・交通機関の利用など、自立した社会生活に必要な手段的ADL(IADL)に分けられます。BADLは主に運動機能に依存しBarthel指数やKatz指数で評価され、IADLは記憶・判断・計画といった認知機能を強く必要としLawtonの尺度で評価されます。服薬管理は処方内容を理解し記憶して正しく実行する必要があるため、IADLの代表的な項目です。IADLは加齢や認知症でBADLより先に低下しやすく、認知症の早期の手がかりや、一包化・服薬カレンダーなどの支援を検討する根拠になります。「体が動くか」と「判断して生活を営めるか」を分けて評価する視点は、高齢者の在宅生活や退院支援を考えるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はeです
日常生活動作(activities of daily living:ADL)の分類を問う問題である。 ADLは大きく2つの階層に分けられる。 ・基本的ADL(basic ADL:BADL):食事、排泄、更衣、整容、入浴、移乗、歩行(移動)、階段昇降など、自分の身の回りのことをする基本的な動作である。主に、体を動かす機能(運動機能)が保たれているかで決まる。 ・手段的ADL(instrumental ADL:IADL):服薬管理、金銭管理、買い物、食事の準備、家事、洗濯、電話の使用、交通機関を使った外出など、地域で自立して暮らすために必要な、より複雑な活動である。運動機能に加えて、計画を立てる、判断する、記憶するといった高次の認知機能が必要になる。 選択肢のうち更衣・整容・入浴・歩行は、いずれも自分の身体の手入れや移動に関する動作で、BADLに分類される。服薬管理は、どの薬を・いつ・どれだけ飲むかを覚えて正しく実行する必要があり、認知機能に強く依存する活動である。したがってIADLにあたる。 「身の回りの基本動作か(BADL)、道具や判断を使う社会生活上の活動か(IADL)」という視点で分ければ、迷わずに解ける。
選択肢考察
- ×a. 更衣
誤り。更衣(衣服を着たり脱いだりすること)は、自分の身の回りを整える基本的な動作であり、BADLの評価項目である。代表的なBADLの評価法であるBarthel指数やKatz指数にも含まれている。
- ×b. 整容
誤り。整容とは、洗顔、歯みがき、整髪、ひげそり、化粧など身だしなみを整える動作のことで、BADLの評価項目である。Barthel指数の評価項目の一つでもある。
- ×c. 入浴
誤り。入浴は自分の身体を洗い清潔を保つ基本的な動作であり、BADLの評価項目である。Barthel指数・Katz指数のいずれにも含まれる。Katz指数では入浴は最も早く自立度が下がりやすい項目とされ、介護が必要になる最初のきっかけになりやすい。
- ×d. 歩行
誤り。歩行(移動)は、身体機能、特に下肢の筋力やバランスに依存する基本的な動作であり、BADLの評価項目である。Barthel指数では、平地歩行(または車椅子での移動)と階段昇降がそれぞれ独立した項目として評価される。なお、交通機関を使った外出はIADLに分類され、単に歩けるかどうかとは区別される。
- ○e. 服薬管理
正しい。服薬管理は、決められた薬を決められた時間に決められた量だけ自分で飲むことである。処方内容を理解し、記憶し、飲み忘れや重複がないよう自分で管理する必要がある。運動機能だけでなく、記憶力や判断力などの認知機能が必要となる活動であるため、IADLに分類される。IADLの代表的な評価尺度であるLawtonの尺度にも「自分の服薬管理」という項目がある。高齢者や認知症の人では、服薬管理ができなくなると飲み忘れや過量服薬による健康被害が生じやすい。そのため、一包化や服薬カレンダーなどの支援を検討するうえで重要な評価項目となる。
BADLとIADLの評価尺度
・Barthel指数(BADL):食事、移乗(車椅子とベッドの間)、整容、トイレ動作、入浴、歩行(移動)、階段昇降、更衣、排便コントロール、排尿コントロールの10項目である。合計100点満点で、点数が高いほど自立している。 ・Katz指数(BADL):入浴、更衣、トイレの使用、移乗、排泄の自制(失禁がないこと)、食事の6項目である。 ・FIM(機能的自立度評価法):運動項目13と認知項目5の計18項目を、それぞれ1〜7点で評価する(18〜126点)。BADLに加えて、コミュニケーションや社会的認知も評価する。 ・Lawtonの尺度(IADL):電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、外出時の移動(交通手段の利用)、自分の服薬管理、金銭管理の8項目である。 ・老研式活動能力指標:手段的自立、知的能動性、社会的役割の3つの領域を13項目で評価し、地域の高齢者の生活機能を測る。
臨床的な意義
・IADLは、より高い認知機能と遂行機能(段取りを立てて実行する力)を必要とする。そのため、加齢や認知症では、BADLより先にIADLが低下することが多い。 ・軽度認知障害(MCI)ではBADLはおおむね保たれ、IADLも大きくは障害されない。認知症の診断では、認知機能の低下によって日常生活の自立が損なわれていることが要件となり、IADLの低下が早い時期の手がかりになる。 ・高齢者総合機能評価(CGA)では、BADL・IADL・認知機能・気分・社会環境をあわせて評価し、介護や支援の計画に役立てる。
POINT
・BADL(基本的ADL):食事、排泄、更衣、整容、入浴、移乗、歩行、階段昇降など、身の回りの基本動作である(評価法はBarthel指数、Katz指数)。 ・IADL(手段的ADL):服薬管理、金銭管理、買い物、食事の準備、家事、洗濯、電話、交通機関の利用など、自立した社会生活に必要な活動である(評価法はLawtonの尺度)。 ・IADLは認知機能を強く必要とするため、認知症や加齢ではBADLより先に低下しやすい。
