「まぶしくて目を開けていられない」―羞明から読み解く瞳孔と動眼神経
第120回医師国家試験 E問題 第11問
国試問題にチャレンジ
「普通の明るさでもまぶしく感じ,目を開けているのがつらい」と訴える患者で,障害されている可能性の高い脳神経はどれか。
- a.視神経
- b.動眼神経
- c.滑車神経
- d.外転神経
- e.顔面神経
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
羞明は、ふだんの明るさでもまぶしく感じる症状で、脳神経の障害として考えるなら「網膜に光が入りすぎる状態」、すなわち散瞳を生じる動眼神経障害が最も直接的な原因です。瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維はEdinger-Westphal核から動眼神経を通り毛様体神経節を経て分布するため、動眼神経麻痺では散瞳・対光反射消失に加えて眼瞼下垂、外下方への眼位偏位、複視がみられます。視神経は対光反射の求心路で障害時は視力低下やRAPDを生じ、滑車神経・外転神経は外眼筋のみを支配し、顔面神経麻痺による羞明は兎眼性角膜炎を介した二次的なものです。散瞳を伴う動眼神経麻痺では内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤などの圧迫を疑い緊急の画像検査が必要で、虚血性ではpupil sparingとなりやすい点も重要です。症状を神経の機能と経路に結びつけて考える姿勢は、神経診察と救急での判断の基礎になります。
解答・解説
正解はbです
「普通の明るさでもまぶしく感じ、目を開けているのがつらい」という訴えは、羞明(しゅうめい)と呼ばれる症状である。本問は、羞明を生じる仕組みと脳神経の機能を結びつけられるかを問うている。 眼に入る光の量は、瞳孔の大きさで調節されている。明るい場所では瞳孔括約筋が収縮して瞳孔が小さくなり(縮瞳)、網膜に届く光が減る。暗い場所では瞳孔散大筋が働いて瞳孔が大きくなる(散瞳)。瞳孔括約筋を動かしているのは副交感神経で、その線維は動眼神経に含まれて走行する。 したがって動眼神経が障害されると、瞳孔括約筋が働かなくなって散瞳したままになり、対光反射も消える。明るい場所でも瞳孔が縮まないため、網膜に過剰な光が入り、ふだんの明るさでもまぶしく感じる。選択肢の中で瞳孔の大きさを直接調節しているのは動眼神経だけであり、これが羞明の原因として最も考えやすい。 羞明は、角膜炎・ぶどう膜炎などの眼の病気や、片頭痛・髄膜炎でも生じる。しかし「どの脳神経の障害か」という問いに対しては、散瞳を生じる動眼神経を選ぶのが筋道である。
選択肢考察
- ×a. 視神経
誤り。視神経は、網膜で受け取った光の情報を脳へ伝える感覚神経である。障害されると、視力低下、中心暗点などの視野の欠け、色覚異常が起こる。この場合の訴えは「見えにくい」であり、「まぶしい」とは異なる。対光反射では、光の情報を伝える入力側(求心路)にあたる。一側の視神経が障害されると、障害側の眼に光を当てたときに両眼の縮瞳が弱くなる(相対的瞳孔求心路障害:RAPD)。ただし、反対の眼に光を当てれば両眼とも縮瞳でき、瞳孔を縮める出力側(遠心路)そのものは保たれている。そのため、常に散瞳したままにはならない。
- ○b. 動眼神経
正しい。動眼神経には、眼球を動かす筋(上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋)と、まぶたを上げる上眼瞼挙筋を動かす線維のほかに、副交感神経線維が含まれる。この副交感神経線維は、中脳のEdinger-Westphal核から出て毛様体神経節で中継され、瞳孔括約筋と毛様体筋(ピント合わせ=調節に働く)に分布する。動眼神経が障害されると瞳孔括約筋が麻痺し、交感神経が支配する瞳孔散大筋の作用だけが残る。その結果、瞳孔が開いたままになり、光が入っても縮まない。そのため網膜に届く光が多すぎて羞明を生じる。あわせて、眼瞼下垂、眼球の外下方への偏位(外斜視)、複視、調節障害もみられる。瞳孔へ向かう線維は動眼神経の表面近くを通るため、内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤などによる圧迫では、散瞳が早い時期から現れやすい。
- ×c. 滑車神経
誤り。滑車神経は上斜筋だけを支配する運動神経である。上斜筋は、主に内側を向いたときの眼球を下に向ける働きと、眼球を内側へ回旋させる働きをもつ。滑車神経が麻痺すると、下を向いたときに物が上下に二重に見える(垂直性の複視)。そのため階段を降りるときや読書のときに困りやすく、複視を軽くするために頭を健側へ傾ける姿勢をとる。瞳孔を調節する線維は含まないため、羞明は起こらない。
- ×d. 外転神経
誤り。外転神経は外直筋を支配し、眼球を外側へ向ける(外転)働きを担う。麻痺すると患側の眼が外転できず、眼位は内側に寄る(内斜視)。患側を見ると水平方向の複視が強くなる。外転神経は頭蓋内を長く走るため、頭蓋内圧が上がると圧迫されやすく、障害部位を特定しにくい偽性局在徴候として知られる。瞳孔の調節には関与しないため、羞明の原因にはならない。
- ×e. 顔面神経
誤り。顔面神経はまぶたを閉じる眼輪筋を支配する。麻痺すると眼を完全に閉じられなくなる(兎眼)。また、顔面神経は涙腺を動かす副交感神経線維も運ぶため、障害部位によっては涙の分泌も減る。その結果、角膜が乾いて傷つき(兎眼性角膜炎・角膜びらん)、二次的にまぶしさや眼の痛みを訴えることはある。しかし、これは角膜の障害を介した間接的な羞明である。瞳孔が開いて光が入りすぎるという直接の機序ではないため、動眼神経より可能性は低い。
瞳孔の大きさを決める神経
・縮瞳:副交感神経(Edinger-Westphal核→動眼神経→毛様体神経節→短毛様体神経→瞳孔括約筋) ・散瞳:交感神経(視床下部→脊髄の毛様体脊髄中枢(C8〜T2)→上頸神経節→内頸動脈周囲を上行→瞳孔散大筋) ・副交感神経が障害されると散瞳し、羞明が出る(動眼神経麻痺、Adie瞳孔、散瞳薬の点眼など)。 ・交感神経が障害されると縮瞳する。眼瞼下垂(軽度)・発汗低下とあわせてHorner症候群と呼ぶ。
対光反射の経路
入力(求心路)は視神経→視蓋前域である。視蓋前域から両側のEdinger-Westphal核に情報が送られ、出力(遠心路)は動眼神経になる。片眼に光を当てると両眼が縮瞳する(直接反射と間接反射)のはこのためである。 ・視神経障害:障害眼に光を当てると両眼とも縮瞳が弱い。健眼に光を当てれば両眼とも縮瞳する。 ・動眼神経障害:障害眼は、どちらの眼に光を当てても縮瞳しない。
動眼神経麻痺で瞳孔が障害されるかどうか
・圧迫性(内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤、鉤ヘルニアなど):表面を走る瞳孔線維が早くから障害され、散瞳を伴いやすい。緊急の画像検査が必要である。 ・虚血性(糖尿病などによる神経の栄養血管の障害):神経の中心部が障害されるため、瞳孔は保たれやすい(pupil sparing)。
羞明の原因の整理
・瞳孔が開く:動眼神経麻痺、散瞳薬 ・角膜・前眼部の病変(痛みを伴うことが多い):角膜炎・角膜びらん、ドライアイ、コンタクトレンズ障害、ぶどう膜炎(虹彩炎)、急性緑内障発作 ・中間透光体の濁りで光が散乱する:白内障 ・網膜の病変:網膜色素変性、黄斑の病変、錐体ジストロフィなど ・中枢性:片頭痛、髄膜炎、くも膜下出血(髄膜刺激による)
POINT
・羞明=ふだんの明るさでもまぶしく感じる症状である。 ・瞳孔括約筋を支配する副交感神経は動眼神経に含まれる。そのため動眼神経麻痺では散瞳し、対光反射が消え、光が入りすぎて羞明を生じる。 ・動眼神経麻痺の徴候:眼瞼下垂、外下方への眼位偏位、複視、散瞳。 ・散瞳を伴う動眼神経麻痺では、まず内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤を疑う。 ・視神経は対光反射の求心路であり、障害されると視力低下・視野障害・RAPDを生じるが、羞明の原因にはなりにくい。 ・顔面神経麻痺による羞明は、兎眼性角膜炎を介した二次的なものである。
