StudyMed医師国家試験

脳幹の出口で血管が神経を叩く―三叉神経痛と神経血管圧迫症候群

第114回医師国家試験 A問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第114回 A問題 第10問

頭蓋内血管による脳神経の圧迫で起こるのはどれか。

  1. a.片頭痛
  2. b.三叉神経痛
  3. c.本態性振戦
  4. d.Parkinson病
  5. e.側頭葉てんかん

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭蓋内の血管が脳神経を物理的に圧迫して起こる病気、いわゆる神経血管圧迫症候群を問う問題だ。選択肢には頭痛、振戦、変性疾患、てんかんが並んでいるけれど、「脳神経」が「血管」に圧迫される、という病態に当てはまるものはどれか、という視点で考えよう。
医学生医学生
血管が関係する病気というと、片頭痛が真っ先に浮かびました。拍動性の頭痛なので血管が原因かと。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも片頭痛は、血管が神経を押しつぶす病気ではないんだ。現在有力なのは三叉神経血管説で、三叉神経終末からCGRPなどの神経ペプチドが放出されて硬膜の血管が拡張し、神経原性炎症が起こると考えられている。前兆には大脳皮質拡延性抑制が関与するとされる。血管は「舞台」ではあっても、脳神経を物理的に圧迫しているわけではない。
医学生医学生
薬理学の講義で、CGRPを標的にした抗体薬が出ていると習いました。あれは神経から出る物質を抑える発想なんですね。
ドクタードクター
その通り。では本題。脳神経が脳幹から出た直後の部分には、中枢性の髄鞘から末梢性の髄鞘へ切り替わる移行部がある。オリゴデンドロサイトの髄鞘からSchwann細胞の髄鞘に変わるところだね。ここは構造的に弱く、動脈が接して拍動で長年叩き続けると、髄鞘が傷んで異常な興奮や神経線維間の短絡が起こると考えられている。
医学生医学生
神経解剖の実習で、橋の外側から太い三叉神経が出ているのを見ました。あのすぐ近くを血管が走っているということですか。
ドクタードクター
そう。三叉神経の場合、圧迫血管として最も多いのは上小脳動脈で、前下小脳動脈や錐体静脈などの静脈も原因になる。三叉神経痛の大部分はこの血管圧迫によるもので、だから正解は三叉神経痛になる。
医学生医学生
三叉神経痛の症状は、顔に電気が走るような痛みでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。洗顔や歯みがき、ひげそり、咀嚼、会話などがきっかけになって、数秒から2分程度の電撃様の激痛が走る。第2枝・第3枝の領域に多く、触れると痛みを誘発する部位、トリガーゾーンがあるのも特徴だ。
医学生医学生
本態性振戦も脳の中の問題ですが、血管とは関係ないんでしょうか。
ドクタードクター
関係しないね。本態性振戦は、明らかな原因がないのに主に上肢の姿勢時・動作時振戦が出るもので、家族歴があることが多く、少量の飲酒で一時的に軽快するのが特徴的だ。機序は未解明だが、小脳と下オリーブ核を含む神経回路の機能異常が推定されている。治療にはプロプラノロールなどのβ遮断薬が使われる。
医学生医学生
Parkinson病は黒質のドパミン神経細胞が変性する病気なので、これも圧迫とは違いますね。
ドクタードクター
その通り。病理ではα-シヌクレインを主成分とするLewy小体が特徴で、神経変性疾患だ。側頭葉てんかんも、海馬硬化症などを背景に大脳皮質の神経細胞が異常に過剰興奮して起こるもので、脳神経の圧迫ではない。上腹部の不快感の前兆や口をもぐもぐさせる自動症が典型だね。
医学生医学生
整理すると、血管が神経を物理的に圧迫するのは三叉神経痛だけで、ほかは機能異常、変性、皮質の異常興奮ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。ここで仲間の病気も押さえておこう。神経血管圧迫症候群の代表は3つ。三叉神経痛、片側顔面痙攣、舌咽神経痛だ。片側顔面痙攣は顔面神経が前下小脳動脈や後下小脳動脈、椎骨動脈に圧迫され、眼輪筋から始まって同側の顔面筋へ広がる不随意収縮が起こる。舌咽神経痛は主に後下小脳動脈の圧迫で、嚥下を誘因に咽頭や耳の奥に激痛が走る。
医学生医学生
脳神経外科を回ったとき、顔面痙攣の患者さんの手術を見学しました。血管を神経から離す手術でした。
ドクタードクター
それが微小血管減圧術だね。原因が物理的な圧迫だから、血管を神経から離すことで根治を目指せる。三叉神経痛の場合、薬物療法の第一選択はカルバマゼピンで、無効や副作用で続けられないときに微小血管減圧術を考える。手術リスクが高い高齢者などでは、ガンマナイフなどの定位放射線治療や神経ブロックも選択肢になる。
医学生医学生
診断はMRIで血管を確認するんでしょうか。
ドクタードクター
そう。高分解能のT2強調画像やMRアンギオグラフィで圧迫血管を確認すると同時に、小脳橋角部の腫瘍などの二次性の原因を除外することが大切だ。若年者や両側性、感覚障害を伴う場合は、多発性硬化症や腫瘍を疑ってほしい。典型的な症状だからといって血管圧迫と決めつけないことが、臨床での大事な注意点だよ。

まとめ

頭蓋内血管による脳神経の圧迫で起こる神経血管圧迫症候群の代表は、三叉神経痛、片側顔面痙攣、舌咽神経痛の3つです。脳神経が脳幹を出た直後の中枢性・末梢性髄鞘の移行部は脆弱で、ここを動脈が長期間拍動で圧迫することで異常興奮が生じると考えられており、三叉神経痛では上小脳動脈が最も多い圧迫血管です。片頭痛は三叉神経血管説に基づく神経原性炎症、本態性振戦は神経回路の機能異常、Parkinson病は黒質ドパミン神経の変性、側頭葉てんかんは皮質の異常興奮によるもので、いずれも血管による物理的圧迫ではありません。三叉神経痛の治療はカルバマゼピンが第一選択で、根治的にはMRIで圧迫血管を確認したうえでの微小血管減圧術が行われ、腫瘍や多発性硬化症などの二次性の除外も欠かせません。病態と治療が「圧迫」という一つの原理でつながることを理解すると、脳神経領域の疾患を体系的に整理しやすくなります。

解答・解説

正解はbです

本問は「頭蓋内の血管が脳神経を圧迫して生じる疾患」、すなわち神経血管圧迫症候群(neurovascular compression syndrome)を問う問題である。 脳神経は脳幹から出た直後の部分(root entry zone/root exit zone)で、中枢性の髄鞘(オリゴデンドロサイト由来)から末梢性の髄鞘(Schwann細胞由来)へ移行する。この移行部は構造的に弱く、ここに動脈(ときに静脈)が接触して拍動による圧迫が長期間続くと、髄鞘が傷み、異常な興奮や神経線維間の短絡(エファプス伝導)が生じると考えられている。 代表的な神経血管圧迫症候群は次の3つである。 ・三叉神経痛(第V脳神経) ・片側顔面痙攣(第VII脳神経) ・舌咽神経痛(第IX脳神経) 選択肢のうちこれに該当するのは三叉神経痛のみである。ほかの選択肢は、脳血管の機能調節や神経伝達の異常(片頭痛)、神経回路の機能異常(本態性振戦)、神経細胞の変性(Parkinson病)、大脳皮質の異常興奮(側頭葉てんかん)によるもので、血管による脳神経の物理的圧迫が原因ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  片頭痛

    片頭痛は拍動性で片側性のことが多い発作性頭痛で、悪心・嘔吐や光・音過敏を伴い、閃輝暗点などの前兆を伴うことがある。病態は完全には解明されておらず、かつては脳血管の収縮と拡張を主因とする血管説、脳自体の機能異常を重視する神経説が唱えられた。現在は、三叉神経終末から放出されるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの神経ペプチドが硬膜血管の拡張と神経原性炎症を起こすという三叉神経血管説が有力で、前兆には大脳皮質拡延性抑制が関与するとされる。いずれにせよ血管が脳神経を物理的に圧迫して起こる疾患ではない。

  2. ○b.  三叉神経痛

    三叉神経痛の大部分(約9割とされる)は、三叉神経が脳幹(橋)から出る部分を動脈や静脈が圧迫し、その拍動による刺激で発症する。圧迫血管として最も多いのは上小脳動脈で、前下小脳動脈や錐体静脈などの静脈も原因となる。一部は腫瘍(小脳橋角部の類上皮腫や髄膜腫など)、脳動静脈奇形、多発性硬化症などによる二次性である。血管の物理的圧迫が原因であることから、圧迫血管を神経から離す微小血管減圧術(microvascular decompression:MVD)が根治的治療となる。頭蓋内血管による脳神経圧迫で起こる疾患であり、正しい。

  3. ×c.  本態性振戦

    本態性振戦は、Parkinson病、甲状腺機能亢進症、アルコール離脱、薬剤などの明らかな原因がないのに生じる振戦である。主に上肢の姿勢時・動作時振戦として現れ、頭部や声にもみられる。家族歴を有することが多く、少量の飲酒で一時的に軽快するのが特徴である。発症機序は未解明だが、小脳–下オリーブ核を含む神経回路の機能異常が推定されている。血管による神経圧迫は関係しない。治療にはβ遮断薬(プロプラノロール)などが用いられる。

  4. ×d.  Parkinson病

    Parkinson病は中脳黒質緻密部のドパミン神経細胞が変性・脱落し、線条体へのドパミン供給が減少することで、安静時振戦、筋強剛、無動、姿勢保持障害を呈する神経変性疾患である。病理学的にはα-シヌクレインを主成分とするLewy小体の出現が特徴である。血管による脳神経の圧迫で起こるものではない。

  5. ×e.  側頭葉てんかん

    側頭葉てんかんは側頭葉、特に海馬・扁桃体を含む内側側頭葉に発作焦点をもつ焦点てんかんで、成人の難治性てんかんの代表である。上腹部の不快感などの前兆、意識減損を伴う動作停止、口をもぐもぐさせるなどの自動症が典型的である。原因は海馬硬化症が最も多く、ほかに皮質形成異常、腫瘍、血管奇形などがある。大脳皮質の神経細胞の異常な過剰興奮によるもので、血管による脳神経の圧迫で起こるものではない。

神経血管圧迫症候群の整理

・三叉神経痛(V):主に上小脳動脈による圧迫。顔面の三叉神経領域(第2・3枝に多い)に、洗顔、歯みがき、ひげそり、咀嚼、会話などを誘因として数秒〜2分程度の電撃様の激痛が走る。痛みを誘発する部位(トリガーゾーン)がある。 ・片側顔面痙攣(VII):主に前下小脳動脈、後下小脳動脈、椎骨動脈による圧迫。眼輪筋から始まり同側の顔面筋に広がる不随意の収縮。 ・舌咽神経痛(IX):主に後下小脳動脈による圧迫。嚥下などを誘因として咽頭・扁桃・耳の奥に発作性の激痛が走る。

三叉神経痛の診断と治療

・診断:典型的な症状に加え、MRI(高分解能T2強調画像やMRアンギオグラフィ)で圧迫血管を確認し、腫瘍などの二次性の原因を除外する。若年者や両側性、感覚障害を伴う場合は多発性硬化症や腫瘍を疑う。 ・薬物療法:第一選択はカルバマゼピンである。 ・外科治療など:薬物が無効または副作用で続けられない場合に、微小血管減圧術(根治的)を行う。高齢者や手術リスクの高い例では、ガンマナイフなどの定位放射線治療や神経ブロックも選択される。

POINT

・頭蓋内血管による脳神経圧迫で起こる疾患(神経血管圧迫症候群):三叉神経痛、片側顔面痙攣、舌咽神経痛。 ・三叉神経痛の圧迫血管は上小脳動脈が最多。 ・治療:薬物はカルバマゼピンが第一選択、根治的手術は微小血管減圧術。 ・片頭痛(三叉神経血管説)、本態性振戦、Parkinson病(黒質ドパミン神経の変性)、側頭葉てんかん(海馬硬化症など)は血管圧迫によるものではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。