開いた瞳孔は何を語るか―括約筋と散大筋で解く散瞳・縮瞳の鑑別
第114回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
散瞳を認めるのはどれか。
- a.動眼神経麻痺
- b.有機リン中毒
- c.Horner症候群
- d.オピオイド投与
- e.Wallenberg症候群
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
瞳孔径は、副交感神経(動眼神経)支配の瞳孔括約筋と、交感神経支配の瞳孔散大筋のバランスで決まり、散瞳は副交感神経の機能低下か交感神経の機能亢進で生じます。動眼神経麻痺では括約筋への副交感線維が障害されて散瞳し、眼瞼下垂と外下方への眼位偏位を伴い、特に散瞳を伴う場合は後交通動脈分岐部動脈瘤や鉤ヘルニアによる圧迫を疑います。一方、有機リン中毒(コリン作動性の亢進)とオピオイドは針先瞳孔を、Horner症候群とそれを伴うWallenberg症候群は交感神経路の障害による縮瞳をきたします。散瞳・縮瞳の原因を自律神経の経路から理解しておくと、意識障害患者の瞳孔不同や中毒の評価など、救急の現場で迅速な判断につなげることができます。
解答・解説
正解はaです
瞳孔の大きさを決める自律神経支配を理解しているかを問う問題である。
瞳孔径を決める2つの筋
・瞳孔括約筋:虹彩の中で輪状に走る筋で、収縮すると瞳孔が小さくなる(縮瞳)。副交感神経支配であり、中脳のEdinger-Westphal核(動眼神経副核)から出た線維が動眼神経に乗って眼窩へ向かい、毛様体神経節でニューロンを替えて短毛様体神経として到達する。伝達物質はアセチルコリン(ムスカリン受容体)である。 ・瞳孔散大筋:虹彩の中で放射状に走る筋で、収縮すると瞳孔が大きくなる(散瞳)。交感神経支配であり、視床下部から脳幹・頸髄を下行し、上胸髄(毛様体脊髄中枢)から出て上頸神経節を経由し、内頸動脈に沿って眼に達する3つのニューロンからなる経路をとる。伝達物質はノルアドレナリン(α1受容体)である。
考え方
散瞳は「副交感神経(括約筋)の機能低下」または「交感神経(散大筋)の機能亢進」で生じ、縮瞳はその逆で生じる。選択肢のうち、瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維が障害されるのは動眼神経麻痺であり、散瞳をきたす。残りの4つはいずれも縮瞳をきたす病態である(コリン作動性の亢進、オピオイドの中枢作用、交感神経経路の障害)。
選択肢考察
- ○a. 動眼神経麻痺
動眼神経は眼球運動を担う運動線維(上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋・上眼瞼挙筋を支配)に加え、瞳孔括約筋と毛様体筋へ向かう副交感神経線維を含んでいる。動眼神経が麻痺すると瞳孔括約筋が働かなくなり、拮抗する交感神経支配の瞳孔散大筋の作用が優位となって散瞳する。対光反射も消失する。同時に眼瞼下垂と、外側下方への眼位偏位(外転神経と滑車神経の作用が残るため)がみられる。副交感神経線維は動眼神経の表層を走るため、内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤やテント切痕ヘルニア(鉤ヘルニア)による外からの圧迫では早期から散瞳が出やすい。一方、糖尿病性の虚血による動眼神経麻痺では神経の中心部が障害されやすく、瞳孔は保たれることが多い。
- ×b. 有機リン中毒
有機リン系殺虫剤(農薬)やサリンなどの神経剤はアセチルコリンエステラーゼを阻害する。その結果、シナプスにアセチルコリンが蓄積し、ムスカリン受容体が過剰に刺激されて瞳孔括約筋が強く収縮し、著明な縮瞳(針先瞳孔)をきたす。ほかに流涎、流涙、気道分泌増加、徐脈、下痢などのムスカリン様症状や、筋線維束攣縮・筋力低下などのニコチン様症状がみられる。治療にはアトロピンとプラリドキシム(PAM)を用いる。
- ×c. Horner症候群
Horner症候群は、眼に向かう交感神経経路(中枢・節前・節後のいずれか)の障害で生じる。瞳孔散大筋が働かなくなるため縮瞳となるほか、瞼板筋(Müller筋)の麻痺による軽度の眼瞼下垂、患側顔面の発汗低下(障害部位による)を三徴とする。対光反射は保たれる。原因には脳幹梗塞、肺尖部腫瘍(Pancoast腫瘍)、頸部の手術・外傷、内頸動脈解離などがある。
- ×d. オピオイド投与
モルヒネなどのオピオイドは、中脳のEdinger-Westphal核に対する抑制を解除するなどの作用(μオピオイド受容体を介する)により、瞳孔括約筋への副交感神経出力を増やし、縮瞳をきたす。過量投与では針先瞳孔となり、呼吸抑制・意識障害とともに三徴をなす。縮瞳には耐性がほとんど生じないことも特徴である。拮抗薬はナロキソンである。
- ×e. Wallenberg症候群
Wallenberg症候群(延髄外側症候群)は、椎骨動脈または後下小脳動脈の閉塞による延髄外側の梗塞である。延髄外側には視床下部から下行する中枢性の交感神経路が通るため、病変と同側にHorner症候群を生じ、縮瞳となる。ほかに同側の顔面温痛覚障害と対側の頸部以下の温痛覚障害(交代性感覚障害)、同側の小脳失調、嚥下障害・嗄声、めまい・眼振などを伴う。
散瞳と縮瞳の主な原因
散瞳をきたすもの ・動眼神経麻痺(脳動脈瘤による圧迫、鉤ヘルニア) ・抗コリン薬(アトロピン、トロピカミドなどの散瞳薬) ・交感神経刺激(アドレナリン、フェニレフリン、コカイン、覚醒剤) ・瞳孔緊張症(Adie瞳孔:毛様体神経節の障害) ・急性緑内障発作(中等度散瞳で固定) ・低酸素脳症や脳死など脳幹機能の高度障害 縮瞳をきたすもの ・Horner症候群(Wallenberg症候群などによるものを含む) ・コリン作動性(有機リン、サリン、ピロカルピン点眼) ・オピオイド ・橋出血(両側の著明な縮瞳) ・虹彩炎(虹彩毛様体炎)
動眼神経麻痺で瞳孔所見が鑑別に役立つ理由
瞳孔線維は動眼神経の表層(背内側)を走る。外部からの圧迫(後交通動脈分岐部動脈瘤など)では瞳孔散大を伴いやすく、緊急の画像検査が必要である。神経内部の微小血管障害(糖尿病など)では瞳孔が保たれる(pupil sparing)ことが多い。
POINT
・瞳孔括約筋(縮瞳)は副交感神経=動眼神経、瞳孔散大筋(散瞳)は交感神経の支配。 ・動眼神経麻痺では散瞳、眼瞼下垂、外下方への眼位偏位をきたす。 ・有機リン中毒、オピオイドは縮瞳(針先瞳孔)。 ・Horner症候群とWallenberg症候群(同側Horner症候群を伴う)は縮瞳。 ・瞳孔散大を伴う動眼神経麻痺は脳動脈瘤による圧迫を疑う。
