ばち指は一夜にしてならず―「急性か慢性か」で見抜く呼吸器の身体所見
第114回医師国家試験 B問題 第24問
国試問題にチャレンジ
症候と疾患の組合せで適切でないのはどれか。
- a.小顎 ―― 睡眠時無呼吸症候群
- b.皮疹 ―― サルコイドーシス
- c.ばち指 ―― マイコプラズマ肺炎
- d.チアノーゼ ―― 急性呼吸窮迫症候群〈ARDS〉
- e.口すぼめ呼吸 ―― COPD
対話形式の解説
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ドクターまとめ
身体所見を評価するときは、それが急性の病態を映すものか、長い経過で形成されるものかを意識すると判断しやすくなります。ばち指は数か月以上かけて生じる慢性の所見で、肺癌、間質性肺炎、気管支拡張症、チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変などでみられ、急性の非定型肺炎であるマイコプラズマ肺炎ではみられません。一方、ARDSの中枢性チアノーゼ、COPDの口すぼめ呼吸、睡眠時無呼吸症候群の危険因子としての小顎、サルコイドーシスの皮膚病変は、いずれも病態から説明できる組合せです。なおCOPD自体では通常ばち指は出ないため、出現した場合は肺癌などの合併を疑うことが重要です。所見の成り立ちを病態から理解しておくことは、身体診察から隠れた疾患を見抜く臨床力につながります。
解答・解説
正解はcです
呼吸器疾患でみられる代表的な身体所見と疾患の対応を問う問題である。「適切でないのはどれか」という否定型の設問なので、関連の乏しい組合せを一つ選ぶ。
考え方
身体所見を評価するときは、その所見が「急性の変化で出るのか、長い経過で形成されるのか」を意識すると判断しやすい。チアノーゼや口すぼめ呼吸は、その時点の低酸素血症や気流閉塞を反映する所見である。一方、ばち指は指先の軟部組織が数か月以上かけて増殖して生じる慢性の所見であり、肺癌、間質性肺炎、気管支拡張症などの慢性の肺疾患、チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変、炎症性腸疾患などでみられる。 マイコプラズマ肺炎は急性の気道・肺感染症であり、ばち指を生じる経過をとらない。したがって「ばち指 ―― マイコプラズマ肺炎」が適切でない組合せである。その他の4つは、いずれも疾患の病態から説明できる組合せである。
選択肢考察
- ×a. 小顎 ―― 睡眠時無呼吸症候群
適切な組合せである。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に咽頭の筋の緊張が低下して上気道が狭窄・閉塞することで起こる。下顎が小さい、あるいは後退している(小顎・下顎後退)と、舌が後方へ押しやられて咽頭腔が狭くなるため、肥満がなくても発症しやすい。日本人を含む東アジア人では顔面骨格の特徴が発症に関与しやすいとされる。ほかの危険因子として肥満、扁桃肥大・アデノイド増殖(小児)、巨舌などがある。
- ×b. 皮疹 ―― サルコイドーシス
適切な組合せである。サルコイドーシスは原因不明の全身性の類上皮細胞肉芽腫(乾酪壊死を伴わない)性疾患で、肺(両側肺門リンパ節腫脹、肺野病変)、眼(ぶどう膜炎、霧視・羞明)、皮膚、心臓(房室ブロックなどの不整脈、心不全)が主な罹患臓器である。皮膚病変には、肉芽腫そのものによる皮膚サルコイド(結節型、局面型、びまん浸潤型など)、古い傷あとに肉芽腫ができる瘢痕浸潤、肉芽腫を伴わない反応性病変としての結節性紅斑がある。
- ○c. ばち指 ―― マイコプラズマ肺炎
適切でない組合せであり、これが正解である。ばち指は爪床部の軟部組織が増殖して指先が太鼓のばちのように膨らみ、爪の付け根の角度が180度以上となる所見で、長期間にわたる低酸素や、血小板由来成長因子などの関与が推定される慢性の変化である。マイコプラズマ肺炎は学童〜若年成人に多い急性の非定型肺炎で、頑固な乾性咳嗽が特徴であり、肺外症状として多形紅斑などの皮疹、寒冷凝集素による自己免疫性溶血性貧血、中耳炎、髄膜脳炎などを伴うことはあるが、ばち指はきたさない。
- ×d. チアノーゼ ―― 急性呼吸窮迫症候群〈ARDS〉
適切な組合せである。ARDS(急性呼吸窮迫症候群)は、肺炎、敗血症、誤嚥、重症外傷などを契機に肺胞毛細血管の透過性が亢進し、非心原性の肺水腫を生じて急速に重症の低酸素血症に陥る病態である。肺胞が水浸しになり換気されない部分を血液が通過する(シャント)ため、酸素投与だけでは改善しにくい。動脈血の酸素飽和度が低下し、毛細血管内の還元ヘモグロビンがおおむね5 g/dL以上になると、口唇や舌、爪床が青紫色にみえる中枢性チアノーゼが出現する。
- ×e. 口すぼめ呼吸 ―― COPD
適切な組合せである。COPD(慢性閉塞性肺疾患)では肺胞壁の破壊により細い気道を外から引っ張って広げる力(弾性収縮力)が失われ、呼気時に気道が虚脱しやすい。口をすぼめてゆっくり息を吐くと口元に抵抗ができて気道内圧が保たれ、気道の虚脱を防いで肺内の空気を吐き出しやすくなる。患者が自然に身につけていることも多く、呼吸リハビリテーションでも指導される呼吸法である。
ばち指の主な原因
・呼吸器:肺癌(特に非小細胞肺癌)、特発性肺線維症などの間質性肺炎、石綿肺、気管支拡張症、肺膿瘍・膿胸、嚢胞性線維症、肺動静脈瘻 ・心血管:チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎 ・消化器:肝硬変、炎症性腸疾患(Crohn病、潰瘍性大腸炎) ・その他:甲状腺機能亢進症(甲状腺アクロパチー)、特発性・家族性 なお、COPD自体ではばち指は通常みられない。COPD患者にばち指が出現した場合は、肺癌や気管支拡張症など他の疾患の合併を疑う。 肺癌などでは、ばち指に長管骨の骨膜肥厚や関節痛を伴う肥大性肺性骨関節症を呈することがある。
チアノーゼの補足
・中枢性チアノーゼ:動脈血の酸素飽和度低下による(呼吸不全、右左シャント)。口唇・舌・体幹にもみられる。 ・末梢性チアノーゼ:末梢循環不全で組織での酸素摂取が増えるために起こる(心拍出量低下、寒冷、動脈閉塞)。四肢末端に目立ち、舌にはみられにくい。 ・還元ヘモグロビンの絶対量で決まるため、貧血では低酸素血症があっても出現しにくく、多血症では出現しやすい。メトヘモグロビン血症などの異常ヘモグロビンでもチアノーゼ様の色調を呈する。
マイコプラズマ肺炎の要点
頑固な乾性咳嗽、比較的若年、聴診所見に乏しい、白血球数があまり増えないなどが特徴。細胞壁をもたないためβ-ラクタム系抗菌薬は無効で、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系を用いる(マクロライド耐性株に注意)。
POINT
・ばち指は慢性疾患(肺癌、間質性肺炎、気管支拡張症、チアノーゼ性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変など)でみられ、急性肺炎ではみられない。 ・COPD自体ではばち指は通常出ない。出たら肺癌などの合併を疑う。 ・小顎は閉塞性睡眠時無呼吸の危険因子。 ・サルコイドーシスの皮膚病変:皮膚サルコイド、瘢痕浸潤、結節性紅斑。 ・ARDSは重度の低酸素血症で中枢性チアノーゼを呈する。 ・口すぼめ呼吸は呼気時の気道虚脱を防ぐCOPDの代償的呼吸法。
