床の線が足を動かす―Parkinson病の「すくみ足」とキューイングの原理
第119回医師国家試験 C問題 第20問
国試問題にチャレンジ
Parkinson病の症候で,等間隔の線をまたぐ歩行訓練が有効なのはどれか。
- a.加速歩行
- b.姿勢異常
- c.すくみ足
- d.突進現象
- e.静止時振戦
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
Parkinson病では基底核の機能低下により、自分の意思で始める内発性随意運動が障害される一方、視覚や聴覚の手がかりに反応する外発性随意運動は比較的保たれます。そのため、歩き始めや方向転換で足が出なくなるすくみ足には、床の等間隔の線をまたぐ視覚キューや、掛け声・メトロノームなどの聴覚キューが有効で、段差で足が出る逆説性歩行も同じ原理で説明できます。加速歩行や突進現象は前傾姿勢や姿勢反射障害を背景とし、姿勢の指導やバランス訓練、転倒予防が中心となり、静止時振戦は主に薬物療法の対象です。すくみ足や姿勢保持障害は薬が効きにくく転倒の原因となるため、症候ごとの病態を理解してリハビリテーションや環境整備を組み合わせることが、臨床で患者の生活を支える鍵になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
Parkinson病の運動症候のうち、「床に等間隔の線を引き、それをまたぐように歩かせる」というリハビリテーションの工夫が効くのはどれかを問う問題である。
考え方:内発性随意運動と外発性随意運動
随意運動は大きく二つに分けて考えると理解しやすい。 ・内発性随意運動:自分の意思だけで開始・持続させる運動。大脳基底核から補足運動野へ向かう回路が重要な役割を担う。 ・外発性随意運動:視覚や聴覚などの外からの手がかり(キュー cue)に反応して開始される運動。小脳や運動前野外側部を介する回路が主に関与するとされる。 Parkinson病では黒質線条体のドパミン神経が変性・脱落し、基底核の機能が低下するため、内発性随意運動が特に障害される。一方、外発性随意運動は比較的保たれている。そこで、床の線(視覚キュー)やメトロノーム・「いち、に」の掛け声(聴覚キュー)などの外的手がかりを与えると、障害された経路を迂回して歩行を引き出すことができる。この手法をキューイング(感覚キュー)という。
正解への道筋
キューイングが最もよく効くのは、「最初の一歩が出ない」「方向転換や狭い場所で足が止まる」といった、歩行の開始・継続の障害、すなわちすくみ足である。等間隔の線は「次にここへ足を出す」という目標を与え、歩幅と歩行リズムを外から規定するため、すくみ足が改善する。したがって正解は c である。
選択肢考察
- ×a. 加速歩行
加速歩行(festinating gait)は、前傾姿勢のまま小刻みに歩くうちに歩調がどんどん速くなり、止まれなくなって前方へ転倒しやすくなる現象である。重心が前に移動するのを足が追いかける形で起こり、背景には姿勢保持障害と前傾姿勢がある。対応としては、顔を上げて背筋を伸ばす、踵から接地することを意識させる、といった姿勢と歩き方の指導が中心となる。線をまたぐ訓練で歩幅を確保することが補助的に役立つ場合はあるが、この訓練が最も有効とされる代表的な症候ではない。
- ×b. 姿勢異常
Parkinson病では頸部と体幹が前屈し、肘・膝が軽く曲がった前傾前屈姿勢が典型的である。高度になると首下がり(dropped head)や腰曲がり(camptocormia)、体幹が側方に傾く Pisa 症候群などがみられ、病気自体に加えてドパミンアゴニストなどの薬剤が誘因になることもある。対策は姿勢を意識させる指導、ストレッチ、体幹筋の強化訓練などであり、床の線をまたぐ歩行訓練が標的とする症候ではない。改善は難しいことが多い。
- ○c. すくみ足
すくみ足(freezing of gait)は、足が床に貼り付いたように前に出なくなる現象で、歩き始め、方向転換時、狭い通路や戸口を通るとき、目的地の直前などで起こりやすい。基底核の障害による内発性随意運動の障害の表れであり、同様の「すくみ」は発話や書字、歯磨きなどの上肢の反復動作にもみられる。床に等間隔に引いた線をまたぐように歩かせると、視覚的な手がかりによって外発性随意運動の経路が働き、足が出やすくなる。同じ原理で、「いち、に」の掛け声やメトロノームの音(聴覚キュー)、一度足を後ろに引いてから踏み出させる、障害物をまたぐつもりで足を上げさせる、といった工夫も有効である。平地ではすくむ患者が階段では上れる(逆説性歩行 kinésie paradoxale)のも、段差が視覚的な目印になるためである。
- ×d. 突進現象
突進現象(pulsion)は、軽く押されたり自分で歩き出したりした際に、体がその方向へ突進するように小刻みに足が出て止まれなくなる現象で、前方なら前方突進、後方なら後方突進という。姿勢保持反射の障害(姿勢反射障害)によるもので、立ち直りができないため転倒に直結する。加速歩行とよく似た、関連の深い現象である。対応は転倒予防のための環境整備、歩行補助具、バランス訓練などが中心であり、線をまたぐ訓練の代表的な適応ではない。また、姿勢反射障害はドパミン補充療法(L-ドパなど)に反応しにくい症候である。
- ×e. 静止時振戦
Parkinson病の振戦は、安静にしているときに出現する 4〜6 Hz 程度の規則的なふるえで、手指では丸薬を丸めるような動き(pill-rolling tremor)が典型である。片側から始まることが多く、随意的に手足を動かすとむしろ軽減する。このため、本態性振戦(動作時・姿勢時に目立つ)のようにコップの水をこぼすといった訴えは比較的少ない。治療は抗Parkinson病薬が中心であり、歩行訓練とは関係がない。
Parkinson病の主な運動症状
・振戦(静止時振戦) ・筋強剛(固縮):他動的に関節を動かすと抵抗があり、歯車様・鉛管様と表現される ・無動・寡動:動作の開始が遅く、動きが小さく遅い。仮面様顔貌、小字症、小声もこれに含まれる ・姿勢保持障害(姿勢反射障害):押されると立ち直れず転倒する。病期が進むと出現する これらに加えて、前傾姿勢、小刻み歩行、すくみ足、加速歩行、突進現象などの歩行・姿勢の異常がみられる。
治療への反応性の違い
振戦、筋強剛、無動は L-ドパやドパミンアゴニストなどの薬物療法で比較的改善しやすい。一方、姿勢保持障害、すくみ足、突進現象、加速歩行は薬が効きにくいことが多く、転倒の原因として臨床上問題になる。そのため、キューイングを用いた歩行訓練、生活指導、住環境の整備といった非薬物的対応が重要になる。
すくみ足を改善する外的手がかり(キュー)の例
・視覚キュー:床に等間隔の線やテープを貼る、L字型の杖(杖の先に横棒が付き、それをまたぐ)を使う ・聴覚キュー:「いち、に」の掛け声、メトロノーム、音楽のリズム ・動作上の工夫:一度足を後ろに引いてから踏み出す、大きく足を上げるよう意識させる
問診での階段昇降の意義
神経疾患の病歴聴取では、階段の昇り降りの状況が手がかりになる。Parkinson病では平地よりも階段の方が歩きやすいことがある(逆説性歩行)。痙性麻痺では降りる方が昇るより難しく、下肢近位筋の筋力低下では昇る方が早くから困難になる。
POINT
・Parkinson病では内発性随意運動が障害され、外的手がかりに反応する外発性随意運動は比較的保たれる。 ・すくみ足には、床の等間隔の線(視覚キュー)や掛け声・メトロノーム(聴覚キュー)が有効である。 ・平地ではすくむが階段は昇れる現象を逆説性歩行という。 ・姿勢保持障害、すくみ足、突進現象は薬物療法が効きにくく、転倒予防とリハビリテーションが重要である。 ・静止時振戦は安静時に出現し、動作で軽減する(本態性振戦との違い)。
