心房細動が止まった瞬間に心臓も止まる―徐脈頻脈症候群の治療は「速さ」と「遅さ」の両面作戦
第120回医師国家試験 A問題 第73問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。数年前から,年に数回,動悸を自覚するようになり,1年前から動悸時に眼前暗黒感を自覚するようになった。自宅近くの診療所でHolter心電図検査を3回行ったが,原因は明らかでなかった。3か月前に,失神を起こしたため,植込み型心電図計を植え込んだ。遠隔モニタリングで,発作性心房細動の停止時に最大8秒間の心停止を認め,本人に確認したところ眼前暗黒感を伴っていたため予約外での診察となった。意識は清明。身長148cm,体重50kg。体温36.2℃。脈拍76/分,整。血圧118/64mmHg。SpO2 98%(room air)。頸静脈の怒張を認めず,心音と呼吸音とに異常を認めない。四肢は浮腫を認めない。血液生化学所見:尿素窒素12mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,血糖120mg/dL,BNP正常。胸部エックス線写真,12誘導心電図は正常であった。心エコー検査では,左房の拡大はなく,左室収縮機能も正常範囲であった。 抗凝固療法を開始後,選択しうる治療法はどれか。2つ選べ。
- a.β遮断薬投与
- b.カルシウム拮抗薬投与
- c.カテーテルアブレーション
- d.心臓ペースメーカ植え込み
- e.植込み型除細動器〈ICD〉植え込み
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発作性心房細動が停止した直後に長い洞停止が起こり、失神や眼前暗黒感を生じる病態は徐脈頻脈症候群(洞不全症候群Rubenstein分類III型)です。発作がまれな場合はHolter心電図で捕捉しにくく、植込み型心電図計で症状と心電図の一致を確認することが診断の決め手になります。治療は抗凝固療法を前提に、症候性洞停止に対する恒久的ペースメーカ植え込みか、心房細動そのものを抑えて停止時の洞停止をなくすカテーテルアブレーション(肺静脈隔離術)を選択します。β遮断薬や非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は洞機能を抑えて洞停止を悪化させるため、ペースメーカによる保護なしには使いにくく、ICDは致死的心室性不整脈に対する機器なので適応になりません。頻脈と徐脈の両面から治療を組み立てる考え方は、高齢者の不整脈診療全般で役立つ視点です。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・68歳女性。数年前から年に数回の動悸、1年前から動悸時の眼前暗黒感、3か月前に失神と、症状が段階的に悪化している。 ・Holter心電図(24時間程度の連続記録)を3回行っても原因がとらえられなかった。発作が年に数回とまれなためである。そこで植込み型心電図計(植込み型ループレコーダ;ILR、皮下に植え込んで数年間心電図を記録し続ける小型機器)が植え込まれた。 ・遠隔モニタリングで、発作性心房細動が停止した直後に最大8秒間の心停止を認め、そのとき眼前暗黒感を伴っていた。症状と心電図所見が一致したことになる。 ・平常時は脈拍76/分・整で12誘導心電図も正常(普段は洞調律)。BNP正常、左房拡大なし、左室収縮能正常で、心不全や器質的心疾患を示す所見はない。腎機能も正常。
診断へのプロセス
動悸は頻脈性不整脈、眼前暗黒感や失神は脳への血流が途絶える徐脈性不整脈(あるいは極端な頻拍)で起こりやすい。本例では発作性心房細動(頻脈)が自然に止まる際に、洞結節が速やかに再始動できず長い洞停止(停止後ポーズ)が生じていると考えられる。これは洞不全症候群のRubenstein分類III型にあたる徐脈頻脈症候群であり、8秒の心停止が症状の原因と確定している(症候性徐脈)。
設問の考え方
治療は「心房細動そのもの」と「洞停止(徐脈)」の両面から考える。 ・心房細動による脳梗塞を防ぐため、まず抗凝固療法を行う(設問の前提)。 ・徐脈への対策:症状と関連した洞停止が確認されれば、恒久的ペースメーカ植え込みの適応となる。 ・頻脈への対策:徐脈頻脈症候群では、頻脈を抑えるβ遮断薬やカルシウム拮抗薬、抗不整脈薬が洞機能をさらに抑えて洞停止を悪化させるため、ペースメーカなしでは使いにくい。一方カテーテルアブレーションで心房細動の発作自体をなくせば、その停止に伴う洞停止も起こらなくなり、ペースメーカを回避できる場合もある。 したがって、選択しうる治療はカテーテルアブレーションとペースメーカ植え込みである。
選択肢考察
- ×a. β遮断薬投与
β遮断薬は心房細動中の心拍数を下げる心拍数調節(レートコントロール)に用いられるが、洞結節の自動能と房室結節の伝導も抑制する。本例ではすでに心房細動停止時に8秒間の症候性洞停止があり、β遮断薬はこれを延長・悪化させて失神を招く危険がある。ペースメーカで徐脈を保護しない状態で単独で選択するのは不適切である。
- ×b. カルシウム拮抗薬投与
心拍数調節に用いられるのは非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)で、洞結節・房室結節の働きを抑える作用をもつ。β遮断薬と同様に洞停止を悪化させるおそれがあり、症候性徐脈を伴う本例には単独では使えない。なお降圧に用いるジヒドロピリジン系(アムロジピンなど)は心房細動の治療薬にはならない。
- ○c. カテーテルアブレーション
発作性心房細動の多くは肺静脈内から生じる異常興奮が引き金となるため、肺静脈と左房の電気的なつながりを断つ肺静脈隔離術が標準的なアブレーションである。症状のある発作性心房細動はアブレーションのよい適応であり、本例のように左房拡大や器質的心疾患がない例では成功率も比較的高い。心房細動が起こらなくなれば、停止時の洞停止も生じなくなるため、徐脈頻脈症候群に対してペースメーカを回避し得る治療選択肢として位置付けられている。
- ○d. 心臓ペースメーカ植え込み
失神・眼前暗黒感などの症状と関連が確認された洞停止(症候性の洞機能不全)は、恒久的ペースメーカ植え込みの代表的な適応である。本例では8秒の心停止と眼前暗黒感の一致がILRで記録されており適応を満たす。ペースメーカで徐脈を保護しておけば、心房細動に対してβ遮断薬や抗不整脈薬を安全に使えるようになる利点もある。
- ×e. 植込み型除細動器〈ICD〉植え込み
ICDは心室細動や持続性心室頻拍などの致死的心室性不整脈を検出し、電気ショックなどで停止させて突然死を予防する機器である。本例で問題となっているのは心房細動停止後の洞停止という徐脈であり、心室性不整脈の記録や、心機能低下などの突然死の高リスク因子もないため適応はない(ICDにもペーシング機能はあるが、徐脈のみが問題なら通常のペースメーカを選ぶ)。
洞不全症候群(SSS)のRubenstein分類
・I型:原因の明らかでない持続性の洞徐脈(一般に50/分未満) ・II型:洞停止または洞房ブロック ・III型:徐脈頻脈症候群。心房細動・心房粗動・心房頻拍などの上室性頻脈が停止した際に、長い洞停止を生じる。 高齢者に多く、洞結節の加齢による変性・線維化が主な原因である。
ペースメーカの適応(洞機能不全)
・失神、眼前暗黒感、めまい、心不全症状などが徐脈によるものと確認された場合が最も明確な適応である。 ・必要不可欠な薬剤の投与によって症候性の徐脈が生じる場合も適応となる。 ・無症状の洞徐脈には一般に適応はない。
失神の原因検索と植込み型心電図計
発作の頻度が低い場合、24時間Holter心電図では異常がとらえられないことが多い。症状と心電図を対応させるために、数日〜数週間の体外式イベントレコーダや、数年間記録可能な植込み型心電図計が用いられる。原因不明の失神を繰り返す例で特に有用である。
心房細動治療の考え方
1. 脳塞栓予防:CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアなどで脳梗塞リスクを評価し、抗凝固療法(直接経口抗凝固薬〈DOAC〉またはワルファリン)の適応を判断する。 2. 心拍数調節(レートコントロール):β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジギタリス。 3. 洞調律維持(リズムコントロール):抗不整脈薬、カテーテルアブレーション。 4. 原因・誘因の管理:高血圧、肥満、睡眠時無呼吸、飲酒、甲状腺機能亢進症など。 徐脈頻脈症候群では、2や3の薬物療法が徐脈を悪化させるため、ペースメーカを先行させるか、アブレーションで頻脈そのものを抑えるかを選択することになる。
POINT
・発作性心房細動の停止時に長い洞停止が起こる → 徐脈頻脈症候群(洞不全症候群III型) ・まれな発作の原因検索には植込み型心電図計が有用 ・症状と一致した洞停止はペースメーカ植え込みの適応 ・アブレーションで心房細動をなくせば停止時の洞停止も消失しうる ・β遮断薬・非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は洞停止を悪化させるため、徐脈の保護なしには使いにくい ・ICDは致死的心室性不整脈に対する機器であり、徐脈の治療目的では選ばない
