スパイクの後の幅広いQRS―徐脈性心房細動に入れたペースメーカーの波形を読む
第117回医師国家試験 A問題 第27問
国試問題にチャレンジ
84歳の男性。心臓ペースメーカー植込み後の定期受診で来院した。3か月前に気が遠くなるような症状を自覚し,徐脈性心房細動の診断となった。2か月前に恒久的ペースメーカー植込み術を受けた。今回の受診までに症状はなかった。ペースメーカーは下限レート60/分に設定されている。12誘導心電図の胸部誘導を示す。 この心電図で認める所見はどれか。

- a.心室頻拍
- b.異常Q波
- c.心室期外収縮
- d.心房ペーシングの波形
- e.心室ペーシングの波形
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ペースメーカー植込み後の心電図では、鋭いペーシングスパイクの直後に何が続くかで刺激部位を判断します。スパイクの直後に幅広いQRSと逆向きのST-Tが続けば心室ペーシングで、右室ペーシングでは左脚ブロック型となり、これを心室頻拍・心室期外収縮・異常Q波と誤読しないことが重要です。心房細動では心房を刺激しても有効な収縮が得られないため、徐脈性心房細動にはVVIなどの心室ペーシングが用いられ、下限レートを下回ったときだけ刺激が入るので自己心拍とペーシング拍が混在し得ます。NBGコードによるモードの意味やペーシング不全・センシング不全の見分け方まで押さえておくと、外来や病棟でペースメーカー患者の心電図を落ち着いて評価できるようになります。
解答・解説
正解はeです
臨床経過の整理
・84歳男性。3か月前に失神前駆症状(気が遠くなる感じ)を自覚し、徐脈性心房細動と診断された。 ・脳虚血症状を伴う徐脈であるため、2か月前に恒久的ペースメーカーが植え込まれた。以後は無症状である。 ・ペースメーカーの下限レートは60/分。つまり自己心拍の間隔が1秒(60/分に相当)を超えて空くと、ペースメーカーが刺激を出す設定である。
心電図の読み方
・基線はP波を欠き、細かく不規則に揺れている(細動波:f波)。心房細動が持続していることがわかる。 ・前半の2拍は幅の狭いQRS波で、ペーシングスパイクを伴わない。房室結節を通って伝導した自己の心室収縮である。 ・その後、自己心拍が出ないまま下限レートに相当する間隔が過ぎると、QRS波の直前に鋭く細い線(ペーシングスパイク)が現れ、それに続いて幅広いQRS波と、QRSと逆向きのST-T変化を伴う波形が規則正しく続く。記録速度25mm/秒で大きい目盛り5つ(1秒)ごと、すなわち60/分で出現しており、設定された下限レートと一致する。 ・スパイクの直後に幅広いQRSが続くのは、刺激が心室(通常は右室心尖部または中隔)の心筋から直接始まり、刺激伝導系を経由せずに心筋細胞間をゆっくり伝わるためである。右室ペーシングでは左脚ブロックに似た形となり、右側胸部誘導(V1〜V3付近)で深い陰性波を呈する。
設問の考え方
心房細動では心房は無秩序に興奮しており、心房を刺激しても有効な心房収縮は得られないため、心房ペーシングは行わない。徐脈性心房細動に対しては心室のみをペーシングする設定(VVIなど)が基本であり、本心電図でもスパイク→幅広いQRSという心室ペーシングの波形が確認できる。
選択肢考察
- ×a. 心室頻拍
心室頻拍は、心室起源の幅広いQRS波が3拍以上、通常は100/分を超える(120/分以上とする定義もある)頻度で連続する不整脈である。本心電図の幅広いQRS波は60/分程度で、しかも各拍にペーシングスパイクが先行しており、ペースメーカー刺激による心拍である。頻拍には当たらない。
- ×b. 異常Q波
異常Q波は、幅0.04秒以上、深さがR波の1/4以上のQ波を指し、主に貫壁性心筋梗塞の陳旧化を示す所見である。本心電図で胸部誘導に見られる深い陰性波はペーシング拍のQRS全体が下向きになったもの(右室ペーシングによる左脚ブロック型の波形)であり、心筋壊死を示す異常Q波ではない。なお自己心拍の幅の狭いQRSにも異常Q波は見られない。また、ペーシング中の波形では心筋梗塞の診断は困難である。
- ×c. 心室期外収縮
心室期外収縮は、予定された次の心拍より早いタイミングで、先行するスパイクやP波を伴わない幅広いQRS波が出現するものである。本心電図の幅広いQRS波はいずれもペーシングスパイクに続いて、自己心拍の間隔よりむしろ遅れて(下限レートの1秒間隔で)規則的に出現しており、早期収縮ではない。
- ×d. 心房ペーシングの波形
心房ペーシングでは、スパイクの直後に心房の興奮を示すP波様の波が現れ、正常な房室伝導があれば一定のPQ間隔をおいて幅の狭いQRS波が続く。本心電図ではスパイクの直後に幅広いQRSが続いており、心房ペーシングの波形ではない。そもそも心房細動の患者では心房を有効に捕捉・収縮させることができないため、心房ペーシングは行わない。
- ○e. 心室ペーシングの波形
後半の拍では、鋭いペーシングスパイクの直後に幅広いQRS波と二次性のST-T変化が続き、60/分の一定間隔で出現している。自己心拍が途絶えて下限レート60/分を下回ったため、ペースメーカーが心室を刺激し、それを心室が捕捉(キャプチャー)した波形である。刺激が刺激伝導系を介さずに心室筋を伝わるのでQRS幅が広くなり、右室からのペーシングでは左脚ブロック型となる。
ペースメーカーのモード表記(NBGコード)
1文字目:刺激する部位(A:心房、V:心室、D:両方) 2文字目:自己心拍を感知する部位(A、V、D、O:感知しない) 3文字目:感知したときの反応(I:抑制、T:同期、D:両方、O:反応なし) 4文字目にR(レート応答機能:体動などに応じて心拍数を上げる)を付けることがある。
代表的なモードと適応
・VVI(R):心室で感知し、自己心拍があれば刺激を抑制、なければ心室を刺激する。心房が有効に収縮しない徐脈性心房細動で用いる。 ・AAI(R):心房で感知・刺激する。房室伝導が保たれている洞不全症候群で用いる。 ・DDD(R):心房・心室の両方で感知・刺激し、房室の同期を保つ。房室ブロックや洞不全症候群で広く用いる。
下限レートの意味
下限レートを60/分に設定すると、自己心拍の間隔が1秒を超えたときだけペーシングが入る(デマンド型ペーシング)。自己心拍が十分にあればペースメーカーは刺激を出さないため、本心電図のように自己心拍とペーシング拍が混在することがある。
ペーシング心電図の見分け方
・心房ペーシング:スパイク→P波→(PQ間隔)→幅の狭いQRS ・心室ペーシング:スパイク→直ちに幅広いQRS(右室ペーシングでは左脚ブロック型)、QRSと逆向きのST-T
ペースメーカーの主な不具合
・ペーシング不全(キャプチャー不全):スパイクの後にQRSが続かない。 ・センシング不全:自己心拍を感知できずに不要な刺激を出す(アンダーセンシング)、雑音などを心拍と誤認して刺激を出さない(オーバーセンシング)。
POINT
・徐脈性心房細動 → 心房は有効に収縮しないので心室ペーシング(VVIなど)を用いる。 ・心室ペーシング波形:ペーシングスパイクの直後に幅広いQRS(右室ペーシングでは左脚ブロック型)と逆向きのST-T。 ・下限レート60/分の設定では、自己心拍の間隔が1秒を超えたときにのみペーシングが入る。 ・ペーシング拍の幅広いQRSを心室頻拍・心室期外収縮・異常Q波と誤読しない。
