止まりかけた心室、まず打つ一手―失神を招く高度房室ブロックとアトロピン
第117回医師国家試験 E問題 第7問
国試問題にチャレンジ
失神している患者の心電図モニターの波形を示す。 直ちに投与すべきなのはどれか。

- a.アトロピン
- b.アドレナリン
- c.ジアゼパム
- d.ベラパミル
- e.リドカイン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
P波が規則的に出ているのにQRS波が2拍以上続けて脱落する心電図は高度房室ブロックであり、心室停止による脳血流の途絶で失神するアダムス・ストークス発作を起こしえます。症状のある徐脈に対してまず静注するのは抗コリン薬のアトロピンで、迷走神経の抑制を外して洞結節の自動能と房室伝導を改善します。ただしヒス束以下のブロックでは効きにくく、無効なら経皮ペーシングやアドレナリン・ドパミンの持続静注へ速やかに進み、一時ペーシングを経て必要に応じて恒久的ペースメーカーを植え込みます。房室伝導を抑えるベラパミルやβ遮断薬は禁忌で、リドカインは心室性頻脈の薬、ジアゼパムはけいれんの薬であり、いずれも本例には適しません。心停止と脈のある徐脈とで初期対応が異なることを理解しておくことは、救急外来や病棟での急変対応に直結します。
解答・解説
正解はaです
心電図モニターの読み方
P波は一定の間隔で規則正しく出ているのに、QRS波はところどころでしか出ていない。つまり、心房は規則正しく興奮しているが、その興奮が心室へ伝わったり伝わらなかったりしている。前半にはP波2個に対してQRS波1個の部分(2:1房室ブロック)があり、その後はP波が2個以上続けて出てもQRS波が続かず、心室が興奮しない長い休止(心停止に近い状態)が生じている。このように2拍以上続けてQRS波が脱落するものを高度房室ブロックという。QRS波の幅は狭く、伝わったP波とQRS波の間隔(PR間隔)はほぼ一定である。
病態
心室の拍動が長く止まると脳への血流が途絶え、意識を失う。これをアダムス・ストークス発作という。本患者の失神は、高度房室ブロックによる徐脈・心室停止が原因と考えられる。
設問への考え方
症状のある徐脈には、まず房室伝導を改善して心拍数を上げる処置が必要である。最初に使う薬は、迷走神経(副交感神経)の作用を抑える抗コリン薬のアトロピンである。アトロピンが効かない場合は、経皮ペーシング(胸の皮膚に貼った電極から電気刺激を与えて心臓を拍動させる)、またはアドレナリンやドパミンの持続静注に進み、その後、経静脈的な一時ペーシングや恒久的ペースメーカー植込みを検討する。
選択肢考察
- ○a. アトロピン
アトロピンはムスカリン受容体を遮断する抗コリン薬である。迷走神経は洞結節と房室結節を抑える方向にはたらくため、アトロピンでこの作用を外すと、洞結節の自動能が高まり、房室結節の伝導も良くなる。そのため、症状のある徐脈・房室ブロックに対して最初に静注する薬である(日本蘇生協議会のガイドラインでは0.5 mgを静注し、3〜5分ごとに繰り返して合計3 mgまで)。ただし、ヒス束より下(房室結節より遠位)で生じるブロックや、QRS幅の広い補充調律を伴うブロックでは効きにくい。効果が不十分なときは、ためらわずにペーシングなどへ進む。
- ×b. アドレナリン
アドレナリンはα・β受容体を刺激するカテコールアミンで、心拍数を上げ、房室伝導を促す作用もある。しかし作用が強く、心筋の酸素消費量を増やし、心室性不整脈を誘発するおそれがある。症状のある徐脈では、アトロピンが無効だった場合の二次的な選択肢として持続静注で使う薬であり、最初に直ちに投与するものではない。なお、静注を急速に繰り返す使い方は、心静止や無脈性電気活動などの心停止のときの使い方である。
- ×c. ジアゼパム
ジアゼパムはベンゾジアゼピン系の抗不安薬・抗けいれん薬である。救急ではけいれん発作(てんかん重積状態など)を止めるために静注する。本例の失神は不整脈による脳の血流低下が原因であり、けいれんに対する治療は意味がない。さらに呼吸抑制や血圧低下を起こしうるため、使うべきではない。
- ×d. ベラパミル
ベラパミルは非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬(Vaughan Williams分類のIV群)である。房室結節の伝導を抑えるため、発作性上室頻拍の停止や心房細動の心拍数を下げる目的で使う。房室ブロックでは伝導をさらに悪くし、徐脈や心停止を悪化させるため、使ってはならない(禁忌)。
- ×e. リドカイン
リドカインはIb群のNaチャネル遮断薬で、心室期外収縮や心室頻拍などの心室性の頻脈性不整脈を抑えるのに使う。徐脈性不整脈には効かず、補充調律(下位の自動能による拍動)まで抑えて状態を悪くするおそれがあるため、本例には使わない。
房室ブロックの分類
・1度:PR間隔が0.20秒を超えて延びるが、QRS波の脱落はない。 ・2度ウェンケバッハ型(モビッツI型):PR間隔がだんだん延びて、やがてQRS波が1拍抜ける。多くは房室結節でのブロックで、経過は良いことが多い。 ・2度モビッツII型:PR間隔は変わらないまま、突然QRS波が抜ける。ヒス束より下でのブロックが多く、完全房室ブロックに進みやすい。 ・2:1房室ブロック:P波2個にQRS波1個。I型かII型かを心電図だけで決めることはできない。 ・高度房室ブロック:2拍以上続けてQRS波が抜ける。 ・3度(完全)房室ブロック:心房と心室がばらばらに興奮する(房室解離)。P波とQRS波はそれぞれ別のリズムになる。
症状のある徐脈への対応の流れ
1. 気道・呼吸・循環を確保し、酸素投与、静脈路確保、12誘導心電図を行う。 2. アトロピンを静注する。 3. 効かなければ、経皮ペーシング、またはアドレナリン・ドパミンの持続静注を行う。 4. 経静脈的な一時ペーシングを行い、原因(急性心筋梗塞、薬剤、高カリウム血症など)を調べて治療する。 5. 原因が取り除けない高度・完全房室ブロックは、恒久的ペースメーカー植込みの対象となる。
アダムス・ストークス発作
高度の徐脈や心停止、または心室頻拍などの頻脈で心拍出量が急に落ち、脳血流が途絶えて意識消失やけいれんを起こすものをいう。数秒以上心室の拍動がないと、めまいや失神が起こる。
POINT
・P波が規則的に出ているのに、QRS波が2拍以上続けて抜ける:高度房室ブロック。 ・失神(アダムス・ストークス発作)を伴う症状のある徐脈の最初の薬はアトロピン。 ・アトロピンが効かなければ、経皮ペーシング、またはアドレナリン・ドパミンの持続静注。 ・ベラパミル(Ca拮抗薬)やβ遮断薬は房室伝導を抑えるため禁忌。リドカインは心室性頻脈の薬。
