止まったけいれんに薬はいらない―熱性けいれんで本当に大切な「1時間後の再診察」
第119回医師国家試験 F問題 第45問
国試問題にチャレンジ
1歳10か月の男児。けいれんを主訴に両親に連れられて夜間救急外来を受診した。2日前から咳嗽と鼻汁がみられていた。本日の夕方までは元気で食欲も良好であったが,夜になって発熱に気付いた。下痢や嘔吐はなく,排尿も良好であった。その後左右差のない全身を強直させるけいれんが出現し,2分間持続した。1歳2か月時に同様のけいれんの既往がある。予防接種は,予定どおり接種している。意識は清明。身長84cm,体重11.2kg。体温38.5℃。脈拍128/分,整。血圧100/60mmHg。呼吸数28/分。SpO2 99%(room air)。皮膚のツルゴールの低下はない。瞳孔は左右差なく,対光反射は正常。咽頭に軽度の発赤を認める。鼓膜に異常を認めない。胸部と腹部とに異常を認めない。項部硬直とKernig徴候とを認めない。四肢の筋緊張は正常で,腱反射の亢進を認めない。 救急外来での親への説明で適切なのはどれか。
- a.「輸液が必要です」
- b.「抗菌薬を投与します」
- c.「ビタミンKを投与します」
- d.「1時間後に再度診察します」
- e.「抗けいれん薬を投与します」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
6か月から5歳頃の乳幼児が38℃以上の発熱に伴ってけいれんを起こし、焦点性の要素・15分以上の持続・24時間以内の反復がいずれもなければ単純型熱性けいれんと考えます。発作が止まり意識が回復していれば治療は不要で、根拠のない輸液や抗菌薬、止まった発作への抗けいれん薬投与は行いません。救急外来で大切なのは、初期には区別しにくい髄膜炎・脳炎・急性脳症を見逃さないよう、時間をおいて意識状態や神経所見を再評価することです。再発は約3割にみられるため、発作時の観察と5分以上続く場合の受診について家族に説明します。「治療する」よりも「安全に見守る」ことが求められる熱性けいれんへの対応は、小児救急の基本的な考え方を学ぶ格好の題材です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・1歳10か月の男児。2日前から咳嗽・鼻汁があり、当日夜に発熱(38.5℃)→ 上気道のウイルス感染(かぜ症候群)が疑われる。 ・発熱に伴い、左右差のない全身の強直性けいれんが2分間で自然に止まった → 全般性で短時間の発作。 ・1歳2か月時にも同様の発作の既往 → 熱性けいれんの再発と考えられる。 ・来院時、意識は清明 → 発作後の意識回復は良好。 ・バイタルサインは発熱と年齢相応の範囲の脈拍・呼吸数以外に異常なく、SpO2 99%と呼吸状態も良好。 ・ツルゴール(皮膚の張り)低下なし、排尿良好、嘔吐・下痢なし → 脱水を示す所見はない。 ・咽頭の軽度発赤のみで鼓膜正常(中耳炎なし)、胸部・腹部所見なし。 ・項部硬直・Kernig徴候なし、瞳孔・対光反射正常、筋緊張・腱反射正常 → 髄膜刺激症状や神経学的異常所見はない。 ・予防接種は予定どおり(Hibワクチン・肺炎球菌ワクチンを含む)→ 細菌性髄膜炎の可能性はさらに低い。
診断のプロセス
生後6か月~5歳頃の乳幼児が、38℃以上の発熱に伴ってけいれんを起こし、中枢神経感染症(髄膜炎・脳炎)や代謝異常など他の明らかな原因がなければ熱性けいれんと考える。さらに、①焦点性の発作(左右差のある発作など)、②15分以上続く発作、③24時間以内の反復、のいずれもないため単純型熱性けいれんに分類される。本例はこれらの条件をすべて満たし、かぜに伴う単純型熱性けいれんの再発と判断できる。
設問の考え方
単純型熱性けいれんは予後良好で、発作が止まり意識が回復していれば特別な治療は必要ない。救急外来で重要なのは、髄膜炎・脳炎・急性脳症など、熱性けいれんと紛らわしいが見逃してはならない疾患がないかを確認することである。来院時の診察で異常がなくても、これらの疾患は時間とともに症状が明らかになることがあるため、一定時間後に意識状態・全身状態・神経所見を再評価し、異常がなければ帰宅とするのが適切な対応である。輸液、抗菌薬、ビタミンK、抗けいれん薬はいずれも本例では根拠がない。
選択肢考察
- ×a. 「輸液が必要です」
不適切。輸液が必要になるのは、脱水がある、経口摂取ができない、静脈から薬剤を投与する必要がある、などの場合である。本例は夕方まで食欲良好で、嘔吐・下痢はなく排尿も良好、ツルゴール低下もないため脱水はない。単純型熱性けいれんそのものに対して輸液を行う必要はない。
- ×b. 「抗菌薬を投与します」
不適切。咳嗽・鼻汁が先行し咽頭発赤が軽度であることから、発熱の原因はウイルス性上気道炎と考えられる。中耳炎・肺炎・尿路感染症など細菌感染を示す所見はなく、髄膜刺激症状もなく、Hib・肺炎球菌ワクチンも接種済みで細菌性髄膜炎の可能性も低い。根拠なく抗菌薬を使用することは、薬剤耐性菌を増やすことや副作用の点からも避けるべきである。
- ×c. 「ビタミンKを投与します」
不適切。ビタミンK欠乏による頭蓋内出血がけいれんの原因となるのは、主に新生児期から生後6か月頃までの乳児(特に母乳栄養児)であり、出生後のビタミンKシロップ予防投与の対象もこの時期である。1歳10か月で、出血傾向や頭蓋内圧亢進を示す所見(瞳孔異常、意識障害など)もない本例では考えにくい。
- ○d. 「1時間後に再度診察します」
適切。単純型熱性けいれんと考えられ、発作は止まっていて意識も清明であるため、特別な治療は不要である。しかし、髄膜炎・脳炎・急性脳症の初期は来院時の診察だけでは区別しきれないことがあるため、時間をおいて再度診察し、意識レベルの低下、発作の再発、髄膜刺激症状や神経学的異常の出現がないかを確認する。再評価で異常がなければ、発熱時の対応や再発時の観察ポイント(発作の持続時間、様子の記録、5分以上続く場合は救急受診など)を説明して帰宅とする。
- ×e. 「抗けいれん薬を投与します」
不適切。抗けいれん薬(ジアゼパムやミダゾラムなど)を発作を止める目的で使うのは、来院時にも発作が続いている場合(目安として5分以上持続)である。本例は2分で自然に止まり、意識も回復している。単純型熱性けいれんが止まった後に、再発予防のためにルーチンでジアゼパム坐剤を使うことは推奨されていない。鎮静作用により意識状態の評価がしにくくなり、髄膜炎・脳症の徴候を見逃すおそれもある。
熱性けいれん(熱性発作)の定義
主に生後6か月~5歳(60か月)の乳幼児期に、通常38℃以上の発熱に伴って起こる発作性疾患(けいれん性・非けいれん性を含む)で、髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作の原因がないもの。てんかんの既往がある場合は除く。日本ではおよそ7~10%程度の小児が経験するとされる頻度の高い疾患である。
単純型と複雑型
次のいずれか1つ以上を満たせば複雑型熱性けいれん、いずれもなければ単純型とする。 ①焦点性発作(部分発作)の要素がある ②15分以上持続する ③一つの発熱の間(通常24時間以内)に複数回反復する
救急外来での対応のポイント
・発作が5分以上続いていれば、けいれん重積状態に準じてジアゼパムやミダゾラムの静注などで発作を止める。 ・発作が止まり意識が回復していれば、髄膜炎・脳炎・急性脳症などを除外するために全身状態と神経所見を確認し、経過を観察する。 ・髄液検査は全例には不要で、髄膜刺激症状、意識障害の遷延、大泉門膨隆などで髄膜炎が疑われる場合に行う。血液検査や頭部画像検査も、単純型で全身状態がよければルーチンには不要である。 ・解熱薬は発熱による不快感を和らげるために使ってよいが、熱性けいれんの再発を予防する効果は示されていない。
再発と予防投与
・熱性けいれんは約30%で再発する。再発の危険因子として、1歳未満での発症、両親・きょうだいの熱性けいれんの既往、発熱から発作までの時間が短い(1時間以内)、38℃以下での発作などが知られている。 ・ジアゼパム坐剤による発熱時の予防投与は、15分以上の遷延性発作の既往がある場合や、危険因子を複数もち発作を繰り返す場合などに限って考慮され、すべての熱性けいれんの子どもに必要なわけではない。 ・単純型熱性けいれんは知的発達や神経学的予後に影響せず、てんかんへの移行もまれである。
POINT
・熱性けいれん:主に生後6か月~5歳、38℃以上の発熱に伴う発作で、中枢神経感染症などの明らかな原因がないもの。 ・焦点性・15分以上・24時間以内の反復のいずれかがあれば複雑型、なければ単純型。 ・発作が止まり意識が回復した単純型では治療は不要。髄膜炎・脳炎・脳症を見逃さないよう時間をおいて再評価する。 ・止まった発作への抗けいれん薬投与、根拠のない輸液・抗菌薬は不要。
