StudyMed医師国家試験

「薬は母が管理しています」から卒業へ―SLEの15歳と始める移行期医療の第一歩

第119回医師国家試験 F問題 第44問

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第119回 F問題 第44問

15歳の女子。定期受診で来院した。10歳時に全身性エリテマトーデス〈SLE〉と診断され,小児科に通院している。少量グルココルチコイド,ミコフェノール酸モフェチル及びヒドロキシクロロキンを内服し病状は安定している。13歳時にひとりで薬の管理をさせたところ,処方数と残薬数が合わないことから怠薬が判明した。以後,母親が薬の管理をしている。発達に問題はなく,学校の成績は良好で,今春,志望校に合格した。高校生になると忙しくなるので,本人を連れて受診できるか,母親が心配している。患者は質問に答えるのみで,自らの発言はない。高校進学を前に将来的な内科への移行を見据え,今後の管理を話し合うことにした。  適切な対応はどれか。

  1. a.以前の怠薬歴を注意する。
  2. b.本人のみに薬の自己管理をさせる。
  3. c.自宅での内服管理は引き続き母親に任せる。
  4. d.母親のみに通院してもらい処方箋を発行する。
  5. e.本人に自身の病気をどれくらい理解しているか確認する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小児期に発症した慢性疾患をもつ思春期の患者さんに、これからどう関わるかを考える問題だ。テーマは移行期医療、いわゆるトランジション。過去の怠薬、母親による管理、そして診察で自分からは話さない本人の様子をどう読み解くかがポイントだよ。
医学生医学生
一度怠薬しているなら、安全のために母親の管理を続けたほうがよい気もします。
ドクタードクター
服薬を確保するという意味ではわかる考えだね。でも、高校生になれば母親の付き添いも難しくなるし、いずれは内科へ移り、進学や就職で親元を離れるかもしれない。そのときに自分で病気を管理できなかったらどうなるかな。
医学生医学生
また薬を飲まなくなって、再燃してしまうかもしれません。SLEだとループス腎炎の悪化も心配です。
ドクタードクター
そう。移行期医療は、単に診療科を小児科から内科へ切り替えることではなく、本人が病気を理解し、服薬や受診を自分で管理し、医療者に自分の言葉で相談できるようになることを段階的に目指すものなんだ。では、その最初の一歩は何だと思う?
医学生医学生
本人が自分の病気をどれくらい理解しているかを確認すること、でしょうか。
ドクタードクター
正解。病名、病気の性質、それぞれの薬の目的や副作用、飲まなかったらどうなるか。これを親ではなく本人に直接尋ねる。理解の程度や怠薬の理由がわかって初めて、その子に合った説明や支援を計画できるんだ。
医学生医学生
診察で質問に答えるだけ、というのも気になっていました。治療が母親と先生の間で進んでいて、本人は蚊帳の外になっていたのかもしれませんね。
ドクタードクター
鋭いね。成績は良好で発達の問題もないから、能力の問題というより、主体的に関わる機会がなかった可能性がある。本人に話してもらうこと自体が、診察に主体的に参加するきっかけになるんだ。では、ほかの対応も見ていこう。以前の怠薬を注意するのはどうかな。
医学生医学生
OSCEの医療面接で、患者さんを責めるような聞き方は減点されると教わりました。
ドクタードクター
その感覚は大切だよ。2年前のことを叱っても、なぜ飲まなかったのかはわからないし、自己管理の力も育たない。むしろ責められたと感じて医療者を信頼しなくなり、飲んでいないことを隠すようになるおそれもある。
医学生医学生
逆に、本人だけに全部任せるのはどうでしょう。自立が目標なら、思い切って任せるのもありかと。
ドクタードクター
最終目標ではあるけれど、理解度や怠薬の原因を確かめないまま突然任せたら、13歳のときと同じことが起こりかねない。家族の見守りのもとで段階的に移していくのが基本だ。一方、母親の管理をそのまま続けるのは、服薬は確保できても本人の力が育たず、自立を始めるべき時期を逃してしまう。
医学生医学生
母親だけが通院して処方箋をもらう方法なら、忙しくても続けられそうですが。
ドクタードクター
それは医師法第20条の無診察治療の禁止に反する。免疫抑制薬を使っている以上、診察や検査で病状と副作用を定期的に確認する必要もある。それに本人を治療から遠ざけることになり、移行期医療の方向とは真逆だね。
医学生医学生
まず本人の理解を確かめて、教育をしながら少しずつ自己管理に移していく、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、怠薬の背景にも目を向けておこう。グルココルチコイドの満月様顔貌や体重増加などの外見の変化は、思春期の子にとって服薬をためらう大きな理由になりうる。ミコフェノール酸モフェチルには催奇形性があるから、将来の妊娠や避妊についての情報提供も、移行期の大切な教育内容だ。ヒドロキシクロロキンでは網膜症に注意して定期的に眼科検査を受けることも、本人が知っておくべきことだね。
医学生医学生
小児科の実習で、思春期の患者さんには保護者に席を外してもらって話す時間をつくる、と指導医の先生がおっしゃっていました。
ドクタードクター
とても有用な工夫だよ。親の前では言いにくい本音、たとえば副作用への不安や友人の目を気にしていることなどを話してくれることがある。最近は医師の指示に従うコンプライアンスより、本人が治療に納得して主体的に続けるアドヒアランスが重視されている。叱るのではなく、本人の考えを聞き、一緒に治療を組み立てる姿勢が大切なんだ。

まとめ

小児期発症の慢性疾患をもつ患者が成人医療へ移る移行期医療では、診療科の切り替えだけでなく、本人が病気を理解し、服薬や受診を自分で管理できるよう段階的に支援することが重要です。その出発点は、本人が病気や薬の目的、怠薬のリスクをどの程度理解しているかを、親ではなく本人に直接確認することです。過去の怠薬を叱責する、準備なく全面的に自己管理させる、いつまでも親に任せるといった対応はいずれも自立を妨げ、本人を診察せずに処方箋を発行することは医師法第20条で禁じられています。思春期では、ステロイドによる外見の変化への抵抗感や、催奇形性のある薬に関する妊娠の話題など、年齢に応じた配慮と教育も欠かせません。患者本人を治療の主体として尊重するアドヒアランスの考え方は、あらゆる慢性疾患の診療に通じる基本姿勢です。

解答・解説

正解はeです

状況の整理

・15歳女子。10歳で全身性エリテマトーデス(SLE)と診断され、小児科で長期に管理されている小児期発症の慢性疾患患者である。 ・少量グルココルチコイド、ミコフェノール酸モフェチル(免疫抑制薬)、ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬に由来するSLE治療薬)の内服で病状は安定しており、内服を続けることが再燃予防に不可欠である。 ・13歳時に服薬を自己管理させたところ、残薬数から怠薬が判明し、以後は母親が管理している。 ・発達の問題はなく学業成績も良好 → 知的能力や管理能力そのものに大きな問題があるとは考えにくい。 ・診察では質問に答えるだけで自分からは話さない → 治療が「親と医師の間で進むもの」になっており、本人が自分の病気・治療に主体的に関わっていない可能性がある。 ・高校進学を控え、今後は母親の付き添いが難しくなる見込みで、将来的には成人診療科(内科)への移行も控えている。

考え方

本問のテーマは、小児期発症の慢性疾患をもつ患者が成人医療へ移っていく「移行期医療(トランジション)」である。移行期医療では、単に診療科を小児科から内科へ切り替えるのではなく、患者本人が自分の病気を理解し、服薬・受診・体調管理を自分で行い、医療者に自分の言葉で相談できるようになること(自立支援・セルフケア能力の獲得)を段階的に目指す。 怠薬の背景には、病気や治療の必要性の理解不足、ステロイドによる体型変化などの副作用への不安や抵抗感、周囲の目を気にすること、思春期特有の心理などさまざまな要因が考えられる。どの要因が関わっているのかを知り、本人に合った支援を考えるためには、まず本人が自分の病気や薬の目的をどの程度理解しているかを、本人自身に尋ねて確認することが出発点となる。これを踏まえて病気の教育を行い、母親による管理から本人による管理へ段階的に移していくのが適切な対応である。

選択肢考察

  1. ×a.  以前の怠薬歴を注意する。

    不適切。2年前の怠薬をいま改めて叱責・注意しても、なぜ服薬しなかったのかという原因は明らかにならず、自己管理能力の向上にもつながらない。むしろ本人が責められたと感じて医療者への信頼が損なわれ、受診や治療への意欲がさらに低下したり、服薬していないことを隠すようになったりするおそれがある。思春期の患者には、過去を責めるのではなく、本人の考えを聞き取る姿勢が重要である。

  2. ×b.  本人のみに薬の自己管理をさせる。

    不適切。自己管理への移行は最終的な目標ではあるが、病気への理解や怠薬の原因を確認しないまま突然すべてを本人に任せると、13歳時と同じように怠薬を繰り返す可能性が高い。SLEでは怠薬が再燃(ループス腎炎の悪化など重篤な臓器障害を含む)につながりうるため、理解度の確認と教育を行い、家族の見守りのもとで段階的に移していく必要がある。

  3. ×c.  自宅での内服管理は引き続き母親に任せる。

    不適切。現状維持では服薬は確保されるが、本人が自分で病気を管理する力が育たず、成人診療科への移行や進学・就職・独立といった今後の生活の変化に対応できない。また、本人が服薬に抵抗感を抱いている場合には、その思いを置き去りにしたまま管理を続けることになり、将来の治療拒否につながりかねない。本人の自立に向けた取り組みを始めるべき時期である。

  4. ×d.  母親のみに通院してもらい処方箋を発行する。

    不適切。医師法第20条は、医師が自ら診察しないで治療を行い、処方箋を交付することを禁じている(無診察治療等の禁止)。免疫抑制薬などを用いるSLEでは、診察と検査で病状・副作用を定期的に確認する必要がある。さらに、本人不在の受診は本人を治療の主体から遠ざけることになり、移行期医療の方向性とも逆行する。

  5. ○e.  本人に自身の病気をどれくらい理解しているか確認する。

    適切。自己管理へ移行するための最初のステップは、本人が病名、病気の性質、各薬の目的と副作用、怠薬した場合のリスク(再燃など)をどの程度理解しているかを、親ではなく本人に直接尋ねて把握することである。理解の程度や怠薬の理由(理解不足、副作用への不安、周囲の目など)がわかれば、それに応じた説明や支援を計画できる。本人に話してもらうことで、受け身だった診察に本人が主体的に参加するきっかけにもなる。思春期の患者では、親が同席しない場で本人と話す時間を設けることも有用である。

移行期医療(トランジション)

・小児期発症の慢性疾患(SLEなどのリウマチ性疾患、1型糖尿病、先天性心疾患、炎症性腸疾患、てんかんなど)をもつ患者が、小児中心の医療から成人中心の医療へ移っていくまでの過程を指す。 ・小児医療は保護者が意思決定や管理の中心となりやすいが、成人医療では患者本人が主体となる。そのため、本人の自立(セルフケア)を支援することが重要となる。 ・具体的には、病名・病態・治療内容を本人が説明できる、服薬を自分で管理できる、自分で受診予約や症状の報告ができる、といった目標を、本人の理解度に応じて段階的に達成していく。医療者は思春期から計画的に準備を始め、保護者には見守り役へ役割を移してもらう。 ・診療科を移す際には、診療情報を引き継ぐとともに、必要に応じて小児科と成人診療科が併診する期間を設けることもある。

服薬アドヒアランス

・かつては医師の指示に患者が従う「コンプライアンス」という考え方が主流だったが、現在は患者が治療方針の決定に参加し、自ら積極的に治療を続ける「アドヒアランス」が重視される。 ・アドヒアランスを高めるには、病気と治療の必要性の理解、副作用への不安の解消、服薬回数や剤形の工夫、生活に合わせた支援などが有効であり、叱責は効果がない。

本例の治療薬に関する補足

・グルココルチコイド:満月様顔貌(ムーンフェイス)や体重増加、痤瘡などの外見の変化を起こしうるため、思春期の患者では服薬への抵抗感の原因となることがある。 ・ミコフェノール酸モフェチル:催奇形性があるため、妊娠可能年齢の女性では将来に向けた妊娠・避妊についての情報提供も、移行期の重要な教育内容となる。 ・ヒドロキシクロロキン:SLEの再燃予防に有用で、長期投与では網膜症に注意し定期的な眼科検査を行う。

POINT

・小児期発症の慢性疾患では、成人医療への移行を見据えて本人の自立(セルフケア)を段階的に支援する(移行期医療)。 ・まず本人の病気・治療への理解度を本人に直接確認し、怠薬の原因を把握したうえで教育・支援を行う。 ・怠薬を叱責しない。いきなり全面的に自己管理させることも、いつまでも親に任せることも不適切。 ・医師法第20条:無診察での治療や処方箋の交付は禁止されている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。