笑わなくなった赤ちゃんの「おじぎ」―シリーズ発作と発達退行が示すWest症候群
第118回医師国家試験 A問題 第62問
国試問題にチャレンジ
7か月の男児。頭部を前屈する動作を心配した両親に連れられて来院した。在胎40週,体重3,020gで仮死なく出生した。追視・固視を1か月,あやし笑いを2か月,定頸を3か月で認めた。2週間前から両上肢を伸展挙上し,頭部を前屈する動作が出現した。約10秒間隔で10回以上反復し,次第に毎日みられるようになった。同時期からあやし笑いが乏しくなり,寝返りと坐位保持ができなくなった。 可能性が高いのはどれか。
- a.West症候群
- b.欠神てんかん
- c.Lennox-Gastaut症候群
- d.先天性筋強直性ジストロフィー
- e.福山型先天性筋ジストロフィー
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
正常に発達していた乳児に、頭部・体幹を前屈し両上肢を伸展挙上するてんかん性スパズムが数秒〜数十秒間隔でシリーズ状に繰り返し、同時期に発達の停止・退行がみられる場合はWest症候群を考えます。脳波のヒプスアリスミアを加えた三主徴が特徴で、治療はACTH療法が中心、結節性硬化症に伴う例ではビガバトリンが有効です。欠神てんかんは学童期、Lennox-Gastaut症候群は幼児期に発症し、先天性の筋疾患は出生時からの筋緊張低下で始まるため、発症年齢と発達の経過で区別できます。治療の遅れが発達予後を左右するため、乳児の繰り返す前屈運動を見逃さず、早期に脳波検査へつなげることが重要です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・周産期:在胎40週、出生体重3,020g、新生児仮死なし。周産期の脳障害を疑わせる背景はない。 ・発症前の発達:固視・追視1か月、あやし笑い2か月、定頸3か月はいずれも正常範囲(定頸は通常3〜4か月で完成)。乳児期前半の発達には問題がなかったと考えられる。 ・発作の性状:7か月時、2週間前から両上肢を伸展挙上すると同時に頭部を前屈する動作が出現した。これが約10秒間隔で10回以上連続し、毎日起こるようになっている。短い同じ動きが一定の間隔で何回も続いて一つのまとまり(シリーズ)になるのが特徴である。 ・発作出現後の変化:あやし笑いが減り、それまでできていたはずの寝返り(通常5〜6か月)と坐位保持(通常6〜7か月)ができなくなった。これは発達の停止・退行を示す。
診断へのプロセス
乳児期に無熱性の発作を繰り返す場合、てんかん、脳奇形、代謝異常(低血糖、高アンモニア血症など)を考える。本例のように、①乳児期(4か月〜1歳ごろ)に、②頭部・体幹を瞬間的に屈曲し四肢を伸展挙上する短い発作(てんかん性スパズム、いわゆる点頭発作)が、③数秒〜数十秒間隔でシリーズになって繰り返し、④発症と前後して精神運動発達が停止・退行する、という組合せはWest症候群(点頭てんかん)の典型像である。確定には脳波で、高振幅の徐波と棘波が無秩序に混在するヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を確認する。 選択肢の残り4つのうち、欠神てんかんとLennox-Gastaut症候群は好発年齢が幼児期〜学童期で、発作の型も本例と合わない。先天性筋強直性ジストロフィーと福山型先天性筋ジストロフィーは出生直後から筋緊張低下(フロッピーインファント)を示すため、定頸まで正常に発達した本例とは経過が合わない。また、どちらもてんかん性スパズムのシリーズ形成を主症状とする疾患ではない。
設問の考え方
「正常に発達していた乳児」に「シリーズ形成する点頭発作」と「発達退行」が加われば、West症候群と判断できる。好発年齢と発作の型の組合せで、他のてんかん症候群と区別する。
選択肢考察
- ○a. West症候群
生後4〜7か月ごろの発症が多く、ほとんどが1歳までに(遅くとも2歳までに)発症する。頭部と体幹を瞬時に前屈し、両上肢を伸展・挙上するてんかん性スパズムが5〜30秒ほどの間隔で繰り返し、シリーズを作る。寝入りや寝起きに起こりやすい。てんかん性スパズム、脳波のヒプスアリスミア、精神運動発達の停止・退行を三主徴とする。本例は好発年齢、発作の性状とシリーズ形成、発症後の発達退行がすべて当てはまる。周産期歴に異常がなく、発症前の発達が正常であることから、原因が特定できない(非症候性、かつては潜因性と呼ばれた)タイプと考えられるが、原因検索として頭部MRIや代謝・遺伝学的検査などは行う。
- ×b. 欠神てんかん
小児欠神てんかんは4〜10歳ごろ(ピークは5〜7歳)に発症し、女児に多い。突然意識が途切れて動作が止まり、数秒〜十数秒で元に戻る欠神発作を1日に何回も繰り返す。過呼吸で誘発されやすく、発作時脳波は3Hzの全般性棘徐波複合を示す。知的発達は保たれることが多く、思春期ごろまでに寛解することが多い予後良好なてんかんである。乳児の前屈発作や発達退行とは合わない。
- ×c. Lennox-Gastaut症候群
1〜8歳(ピークは3〜5歳)に発症する難治性てんかんである。睡眠中に多い強直発作を中心に、非定型欠神発作、脱力発作、ミオクロニー発作など複数の型の発作がみられる。脳波では覚醒時に約1.5〜2.5Hzの遅い棘徐波複合(slow spike-and-wave)、睡眠時に速波律動を認め、知的障害を伴うことが多い。West症候群から移行する例があるため関連は深いが、発症年齢が本例(7か月)より遅く、シリーズ形成する点頭発作が主体という本例の像には当てはまらない。
- ×d. 先天性筋強直性ジストロフィー
筋強直性ジストロフィー1型は、DMPK遺伝子のCTGリピートが異常に伸びることで起こる常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。世代を経るごとにリピートが伸びて重症化しやすく(表現促進現象)、主に罹患した母親から生まれた児が先天型となる。出生直後から重度の筋緊張低下、哺乳困難、呼吸不全(人工呼吸を要することもある)、顔面筋力低下(テント状の上口唇)、内反足などの骨格変形を示し、知的発達の遅れも伴う。本例は定頸まで正常に発達しており、出生時からの筋緊張低下はみられないため合わない。
- ×e. 福山型先天性筋ジストロフィー
フクチン(fukutin)遺伝子の異常による常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、日本人に多い先天性筋ジストロフィーである。新生児期〜乳児早期から全身の筋力低下・筋緊張低下、哺乳不良、運動発達の遅れを示し、関節拘縮を伴うことがある。脳の形成異常(多小脳回など)による知的障害を合併し、てんかんを伴うこともある。血清CK値は高い。最初から運動発達が遅れる経過をとるため、定頸が3か月で完成するなど正常に発達した後に退行した本例とは合わない。
West症候群(点頭てんかん)の概要
・2022年の国際抗てんかん連盟(ILAE)分類では「乳児てんかん性スパズム症候群(IESS)」という枠組みにまとめられ、West症候群はその代表的な病型として位置づけられている。 ・好発年齢:生後3〜12か月(特に4〜7か月)。男児にやや多い。 ・三主徴:①てんかん性スパズム(点頭発作)、②脳波のヒプスアリスミア、③精神運動発達の停止・退行。 ・発作:頭部・体幹の瞬間的な屈曲と、四肢の伸展挙上(屈曲型が多いが伸展型・混合型もある)。数秒〜数十秒ごとにシリーズで繰り返し、寝起きに多い。発作の直後に泣くことがあり、乳児の腹痛(コリック)や驚き反応と間違われることがある。 ・病因:原因が特定できる例(構造的・遺伝的・代謝性など)が多い。代表的なものは周産期の低酸素性虚血性脳症、結節性硬化症、脳形成異常、先天代謝異常(フェニルケトン尿症など)、染色体異常(Down症候群など)である。原因が特定できない例もある。 ・治療:ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法が中心である。結節性硬化症に伴う例ではビガバトリンの効果が高い。副腎皮質ステロイドや、ビタミンB6、バルプロ酸などが使われることもある。治療開始が遅れると発達予後が悪くなるため、早期の診断と治療が重要である。 ・予後:発作が治まっても知的障害を残す例が多く、Lennox-Gastaut症候群など他の難治性てんかんへ移行することがある。
小児のてんかん症候群と好発年齢
・新生児〜乳児早期:大田原症候群(早期乳児てんかん性脳症) ・乳児期:West症候群、Dravet症候群(発熱で誘発されやすい) ・幼児期:Lennox-Gastaut症候群(3〜5歳がピーク) ・学童期:小児欠神てんかん、中心・側頭部に棘波を示す自然終息性てんかん(旧称:中心側頭部棘波を示す良性小児てんかん) ・思春期:若年ミオクロニーてんかん
出生時から筋緊張が低い乳児(フロッピーインファント)の鑑別
先天性筋強直性ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症1型、Prader-Willi症候群、先天性ミオパチーなどがある。いずれも「出生時から」の筋緊張低下であり、正常に発達した後の退行とは経過が異なる。
POINT
・乳児(4〜7か月ごろ)+シリーズを作る点頭発作+発達の停止・退行 → West症候群 ・確定診断は脳波のヒプスアリスミア ・治療はACTH療法が中心で、結節性硬化症に伴う例ではビガバトリン ・Lennox-Gastaut症候群は幼児期(3〜5歳)発症で、強直発作と遅棘徐波複合が特徴。West症候群から移行することがある ・小児欠神てんかんは学童期の女児に多く、3Hz棘徐波複合を示す ・先天性の筋疾患は出生時からの筋緊張低下(フロッピーインファント)で発症し、正常発達後の退行とは経過が異なる
