抗体が語る臓器の運命―筋炎特異的自己抗体と膠原病の「名刺」を読み解く
第119回医師国家試験 C問題 第26問
国試問題にチャレンジ
自己抗体と臓器障害の組合せで正しいのはどれか。
- a.抗MDA5抗体 ―― 間質性腎炎
- b.抗Mi-2抗体 ―― 蝶形紅斑
- c.抗SS-A抗体 ―― 皮膚硬化
- d.抗TIF1-γ抗体 ―― 硬化性胆管炎
- e.抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体〈抗ARS抗体〉 ―― 間質性肺炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
多発性筋炎・皮膚筋炎では、筋炎特異的自己抗体の種類によって合併する臓器障害や予後がある程度予測できます。抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など)は間質性肺炎を高頻度に合併し、筋炎・関節炎・機械工の手・Raynaud現象とともに抗ARS抗体症候群を形成します。抗MDA5抗体は無筋症性皮膚筋炎と急速進行性間質性肺炎、抗Mi-2抗体は典型的皮疹を伴う予後良好な皮膚筋炎、抗TIF1-γ抗体は成人での悪性腫瘍合併と関連します。蝶形紅斑はSLE、皮膚硬化は全身性強皮症、抗SS-A抗体はSjögren症候群や新生児ループスと結びつくことも整理しておきましょう。抗体と臓器障害の対応を理解することは、肺病変の監視や悪性腫瘍検索など、診断後の診療方針を立てるうえで重要です。
解答・解説
正解はeです
テーマ
膠原病では、検出される自己抗体の種類によって、出現しやすい症状や合併する臓器障害、予後がある程度予測できる。本問の選択肢のうち4つ(抗MDA5抗体、抗Mi-2抗体、抗TIF1-γ抗体、抗ARS抗体)は、多発性筋炎・皮膚筋炎〈PM/DM〉に特異的に出現する「筋炎特異的自己抗体〈MSA:myositis-specific autoantibodies〉」である。MSAは原則として1人の患者に1種類しか出現せず、それぞれが特徴的な臨床像(間質性肺炎、皮膚症状、悪性腫瘍合併など)と結びついている。
考え方
各抗体について「どの疾患で陽性になるか」「どんな臓器障害と関連するか」を対応させればよい。 ・抗ARS抗体:間質性肺炎の合併が高頻度(抗ARS抗体症候群) ・抗MDA5抗体:急速進行性間質性肺炎(腎炎ではない) ・抗Mi-2抗体:典型的な皮膚筋炎の皮疹(蝶形紅斑はSLEの所見) ・抗TIF1-γ抗体:悪性腫瘍の合併(硬化性胆管炎ではない) ・抗SS-A抗体:Sjögren症候群、SLEなど(皮膚硬化は全身性強皮症の所見) したがって正しい組合せは抗ARS抗体と間質性肺炎である。
選択肢考察
- ×a. 抗MDA5抗体 ―― 間質性腎炎
抗MDA5〈melanoma differentiation-associated gene 5〉抗体は、筋症状がほとんどない皮膚筋炎(臨床的無筋症性皮膚筋炎〈CADM〉)で検出されることが多い抗体である。関連する臓器障害は間質性腎炎ではなく、数週から数か月で呼吸不全に至りうる急速進行性間質性肺炎であり、予後不良である。血清フェリチン高値は病勢や予後の指標となり、皮膚潰瘍や手掌の丘疹(逆Gottron徴候)を伴うことがある。治療は副腎皮質ステロイド、カルシニューリン阻害薬、シクロホスファミド静注を組み合わせた早期の強力な免疫抑制療法が行われる。なお、膠原病で間質性腎炎(尿細管間質性腎炎)をきたす代表はSjögren症候群である。
- ×b. 抗Mi-2抗体 ―― 蝶形紅斑
抗Mi-2抗体は皮膚筋炎に特異的な抗体で、ヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑)、Gottron丘疹・Gottron徴候(手指関節伸側の角化性紅斑)、Vネック徴候、ショール徴候など典型的な皮膚症状を伴う古典的皮膚筋炎でみられる。間質性肺炎や悪性腫瘍の合併は少なく、ステロイドへの反応も良好で予後は比較的良い。蝶形紅斑(頬部から鼻背にかけての紅斑で鼻唇溝を越えない)は全身性エリテマトーデス〈SLE〉の特徴的な皮疹であり、抗二本鎖DNA抗体や抗Sm抗体と結びつく。
- ×c. 抗SS-A抗体 ―― 皮膚硬化
抗SS-A(Ro)抗体はSjögren症候群で高頻度に陽性となるが、特異性は高くなく、SLEなど他の膠原病でもしばしば検出される。関連する病態は乾燥症状(口腔乾燥・眼乾燥)、亜急性皮膚エリテマトーデス、そして母体から胎盤を通過して起こる新生児ループス(先天性完全房室ブロックなど)である。皮膚硬化は全身性強皮症の所見であり、関連する自己抗体は抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体である。
- ×d. 抗TIF1-γ抗体 ―― 硬化性胆管炎
抗TIF1-γ〈transcriptional intermediary factor 1-γ〉抗体は皮膚筋炎に特異的な抗体で、成人例では悪性腫瘍の合併が高率であることが最大の特徴である(がん関連筋炎)。広範囲で強い皮疹を伴うことが多い一方、間質性肺炎の合併はまれである。陽性例では全身の悪性腫瘍検索が必要となる。なお小児の皮膚筋炎でも陽性となるが、小児では悪性腫瘍との関連はない。硬化性胆管炎は原発性硬化性胆管炎やIgG4関連硬化性胆管炎などで生じるが、抗TIF1-γ抗体とは関係がない。
- ○e. 抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体〈抗ARS抗体〉 ―― 間質性肺炎
抗ARS抗体は、アミノ酸をtRNAに結合させる酵素(アミノアシルtRNA合成酵素)に対する自己抗体の総称で、抗Jo-1抗体(ヒスチジルtRNA合成酵素)、抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗OJ抗体、抗KS抗体などが含まれる。多発性筋炎・皮膚筋炎で検出され、陽性例では間質性肺炎を高頻度に合併する。筋炎、間質性肺炎、多関節炎、機械工の手(手指側面・掌側の角化・亀裂)、Raynaud現象、発熱などを特徴とする病態は抗ARS抗体症候群(抗合成酵素症候群)と呼ばれる。間質性肺炎は慢性経過のことが多く、ステロイドに反応するが再燃しやすい。組合せとして正しい。
筋炎特異的自己抗体と臨床的特徴
・抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など):慢性間質性肺炎、関節炎、機械工の手、Raynaud現象。ステロイド反応は良いが再燃が多い。 ・抗MDA5抗体:臨床的無筋症性皮膚筋炎、急速進行性間質性肺炎、フェリチン高値。予後不良で、早期からの多剤併用免疫抑制療法を要する。 ・抗Mi-2抗体:典型的皮疹を伴う古典的皮膚筋炎。間質性肺炎・悪性腫瘍は少なく、治療反応性良好。 ・抗TIF1-γ抗体:成人では悪性腫瘍合併が多い。重い皮疹。 ・抗NXP2抗体:小児皮膚筋炎で皮下石灰化、成人では悪性腫瘍合併の報告もある。 ・抗SRP抗体、抗HMGCR抗体:免疫介在性壊死性ミオパチー。高度の筋力低下とCK著明高値。抗HMGCR抗体はスタチン使用との関連がある。
他の膠原病の主な自己抗体と所見
・SLE:抗核抗体(スクリーニング)、抗二本鎖DNA抗体(ループス腎炎・活動性と相関)、抗Sm抗体(特異性が高い)。蝶形紅斑、ループス腎炎。 ・全身性強皮症:抗トポイソメラーゼI抗体(びまん皮膚硬化型、間質性肺炎)、抗セントロメア抗体(限局皮膚硬化型、肺高血圧症、原発性胆汁性胆管炎合併)、抗RNAポリメラーゼIII抗体(急速な皮膚硬化、強皮症腎クリーゼ、悪性腫瘍)。 ・Sjögren症候群:抗SS-A抗体、抗SS-B抗体(SS-Bの方が特異性が高い)。乾燥症状、尿細管間質性腎炎、遠位尿細管性アシドーシス。 ・混合性結合組織病〈MCTD〉:抗U1-RNP抗体。肺動脈性肺高血圧症。
POINT
・抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など)→ 間質性肺炎の高頻度合併(抗ARS抗体症候群:筋炎・間質性肺炎・関節炎・機械工の手)。 ・抗MDA5抗体 → 無筋症性皮膚筋炎+急速進行性間質性肺炎(予後不良)。 ・抗Mi-2抗体 → 典型的な皮膚筋炎の皮疹、予後良好。 ・抗TIF1-γ抗体 → 成人で悪性腫瘍合併。 ・蝶形紅斑はSLE、皮膚硬化は全身性強皮症、抗SS-A抗体はSjögren症候群・SLE・新生児ループス。
