StudyMed医師国家試験

乾いた口がむし歯を呼ぶ―Sjögren症候群の症候を「唾液の役割」から読み解く

第120回医師国家試験 D問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第13問

Sjögren症候群に特徴的な症候はどれか。

  1. a.う歯
  2. b.兎眼
  3. c.難聴
  4. d.胸鎖関節炎
  5. e.爪部点状陥凹

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Sjögren症候群に特徴的な症候を選ぶ問題だ。ポイントは、病態の中心である「外分泌腺の障害」から、どんな症状が生じるかを順番にたどれるかどうか。まず、Sjögren症候群はどんな病気だったかな。
医学生医学生
涙腺や唾液腺にリンパ球が浸潤して壊される自己免疫疾患で、中年女性に多いと免疫の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。結果として涙と唾液が減り、ドライアイとドライマウス、いわゆる乾燥症状(sicca症状)が中心になる。ここから選択肢を考えてみよう。眼の症状に関係していそうなものがあるね。
医学生医学生
兎眼です。眼が乾くという点ではSjögren症候群と結びつきそうに思えました。
ドクタードクター
そこが引っかけなんだ。兎眼はまぶたを完全に閉じられず、眼球が露出したままになる状態のこと。顔面神経麻痺で眼輪筋が動かなくなったときや、甲状腺眼症で眼球が突出したときに起こる。確かに角膜は乾いて傷むけれど、原因は「まぶたの閉鎖不全」だ。Sjögren症候群の角膜障害は「涙液の分泌低下」によるもので、まぶたは普通に閉じられる。
医学生医学生
角膜が乾くという結果は同じでも、メカニズムがまったく違うんですね。では、口のほうはどうなりますか。
ドクタードクター
ここで唾液の役割を思い出してほしい。唾液には口の中を洗い流す自浄作用、リゾチームやラクトフェリン、分泌型IgAによる抗菌作用、歯垢の酸を中和する緩衝作用、そして歯の表面を修復する再石灰化作用がある。
医学生医学生
生理学で習いました。それが全部失われるなら、むし歯ができやすくなりますね。
ドクタードクター
正解。う歯こそがSjögren症候群に特徴的な症候だ。しかも、歯と歯ぐきの境目や歯の先端など、普通はむし歯になりにくい部位に多発しやすい。歯科で「最近むし歯が急に増えた」と言われたことがきっかけで診断に至る人もいるんだ。
医学生医学生
歯科口腔外科を回ったとき、口唇の小唾液腺生検を見学しました。あれもSjögren症候群の検査でしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。リンパ球浸潤を組織で確認する大事な検査だ。唾液量はガム試験やSaxon試験、涙液量はSchirmer試験で評価する。では残りの選択肢も見ておこう。難聴はどうかな。
医学生医学生
耳下腺が腫れることはあっても、耳そのものの症状はあまり聞かないような……。
ドクタードクター
そうだね、難聴は特徴的とはいえない。難聴を伴う膠原病類縁疾患としては、中耳炎を起こす多発血管炎性肉芽腫症などのANCA関連血管炎、角膜炎と内耳障害を起こすCogan症候群、耳介軟骨炎を起こす再発性多発軟骨炎が代表的だ。
医学生医学生
胸鎖関節炎と爪の点状陥凹は、関節や皮膚の所見なので、脊椎関節炎や乾癬の仲間のように思えます。
ドクタードクター
いい推論だ。胸鎖関節炎は掌蹠膿疱症性骨関節炎、つまりSAPHO症候群の一型で特徴的にみられる。爪の点状陥凹は爪の表面に小さなくぼみが多数できる所見で、乾癬や乾癬性関節炎の代表的なサインだ。全身性強皮症の指尖陥凹性瘢痕は指先の皮膚の虚血性の瘢痕で、爪の所見とは別物だから混同しないようにしよう。Sjögren症候群でも関節炎は起こるけれど、多くは手指の非びらん性の多関節炎だ。
医学生医学生
乾燥症状から、う歯という「結果」まで一歩進めて考えるのがコツなんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床で大事な点をまとめておこう。自己抗体では抗SS-A抗体と抗SS-B抗体が重要で、抗SS-B抗体のほうが特異度が高い。抗SS-A抗体陽性の妊婦さんでは、抗体が胎盤を通過して新生児ループス、特に先天性完全房室ブロックを起こすことがある。
医学生医学生
腺以外の症状もありましたよね。尿細管性アシドーシスで低カリウム血症になると聞きました。
ドクタードクター
よく知っているね。間質性腎炎による遠位尿細管性アシドーシスのほか、間質性肺炎、Raynaud現象、環状紅斑、末梢神経障害などもある。そして特に注意したいのが悪性リンパ腫、とくにMALTリンパ腫の合併だ。唾液腺の腫れやリンパ節腫脹が持続するときは、リンパ腫を念頭に精査が必要になる。

まとめ

Sjögren症候群は涙腺・唾液腺などの外分泌腺がリンパ球浸潤で障害される自己免疫疾患で、中年女性に多く、ドライアイとドライマウスが中心症状です。唾液が減ると自浄・抗菌・緩衝・再石灰化の作用が失われるため、通常むし歯になりにくい部位にもう歯が多発し、これが本症候群に特徴的な症候となります。兎眼は顔面神経麻痺や甲状腺眼症によるまぶたの閉鎖不全、胸鎖関節炎は掌蹠膿疱症性骨関節炎、爪の点状陥凹は乾癬に特徴的であり、難聴はANCA関連血管炎やCogan症候群などで考えます。抗SS-A・SS-B抗体、新生児ループス、MALTリンパ腫の合併もあわせて押さえておくべき事項です。病態から症状を「結果」までたどって考える習慣は、似た所見の鑑別に強くなるための土台になります。

解答・解説

正解はaです

テーマ

Sjögren(シェーグレン)症候群は、涙腺・唾液腺などの外分泌腺にリンパ球が浸潤して腺組織が破壊される自己免疫疾患である。中年女性に多く、中心となる症状は涙液減少による眼の乾燥(ドライアイ)と、唾液減少による口の乾燥(ドライマウス)である。これを「乾燥症状(sicca症状)」と呼ぶ。

考え方

唾液には、口腔内を洗い流す自浄作用、細菌の増殖を抑える抗菌作用(リゾチーム・ラクトフェリン・分泌型IgAなど)、歯垢中の酸を中和する緩衝作用、歯の表面を修復する再石灰化作用がある。唾液が減るとこれらが失われ、う歯(むし歯)が増えて進行しやすくなる。歯頸部(歯と歯ぐきの境目)や歯の先端など、通常むし歯になりにくい部位にも多発するのが特徴である。したがって、乾燥症状の帰結として生じるう歯が、本症候群に特徴的な症候である。 その他の選択肢は、眼の乾燥と関係があるように見える「兎眼」や、関節・皮膚の所見など、別の疾患に特徴的な症候である。それぞれ何の疾患で典型的にみられるかを整理しておくとよい。

選択肢考察

  1. ○a.  う歯

    唾液腺が障害されて唾液分泌が減ると、口腔内の自浄・抗菌・緩衝・再石灰化の作用が低下するため、う歯が多発しやすくなる。口腔乾燥のほか、乾いた食べ物を飲み込みにくい、味覚異常、口角炎、口腔カンジダ症なども生じる。多発性・再発性のう歯は本症候群を疑うきっかけとなる重要な所見である。

  2. ×b.  兎眼

    兎眼とは、まぶたを完全に閉じられず、眠っているときも眼球の一部が露出したままになる状態である。顔面神経麻痺(眼輪筋の麻痺)や、甲状腺眼症(Basedow病など)による眼球突出、眼瞼の瘢痕などで生じる。露出した角膜が乾燥して障害される(兎眼性角膜炎)。Sjögren症候群でも角膜の乾燥・障害は起こるが、原因は涙液の分泌低下であり、まぶたの閉鎖不全ではない。

  3. ×c.  難聴

    Sjögren症候群では耳下腺の腫れがみられることはあるが、難聴は特徴的な症候ではない。難聴を伴う膠原病・類縁疾患としては、多発血管炎性肉芽腫症などのANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎による中耳炎、Cogan症候群(角膜炎と内耳障害)、再発性多発軟骨炎(耳介軟骨炎・内耳障害)などが代表的である。

  4. ×d.  胸鎖関節炎

    胸鎖関節炎は、掌蹠膿疱症に伴う骨関節炎(掌蹠膿疱症性骨関節炎、SAPHO症候群の一型)で特徴的にみられ、前胸部の痛みや腫れとして現れる。脊椎関節炎でも生じることがある。Sjögren症候群でも関節痛・関節炎はみられるが、多くは手指などの非びらん性の多関節炎であり、胸鎖関節炎は特徴的ではない。

  5. ×e.  爪部点状陥凹

    爪の表面に小さな点状のくぼみが多数できる所見(nail pitting)であり、尋常性乾癬や乾癬性関節炎で特徴的である。円形脱毛症でもみられることがある。Sjögren症候群ではみられない。なお、全身性強皮症でみられる指尖陥凹性瘢痕は、指先の皮膚にできる虚血性の小さな瘢痕であり、爪の点状陥凹とは別の所見である。

Sjögren症候群の概要

・中年女性に多い(男女比はおよそ1:10以上)。 ・単独で起こる一次性(原発性)と、関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・全身性強皮症などの膠原病に合併する二次性(続発性)に分けられる。

腺症状

・涙腺障害:涙液減少による乾燥性角結膜炎。眼の異物感・乾燥感・かゆみ・充血・まぶしさ。検査はSchirmer試験(涙液分泌量)、蛍光色素やローズベンガルなどを用いた角結膜上皮障害の評価。 ・唾液腺障害:口腔乾燥、う歯の増加、嚥下困難、味覚異常。耳下腺・顎下腺の腫れを繰り返すこともある。検査はガム試験・Saxon試験(唾液分泌量)、唾液腺造影、唾液腺シンチグラフィ、口唇小唾液腺生検(リンパ球浸潤の確認)。

腺外症状

関節痛・関節炎、Raynaud現象、リンパ節腫脹、環状紅斑や高γグロブリン血症性紫斑などの皮膚症状、間質性肺炎、尿細管間質性腎炎(遠位尿細管性アシドーシスによる低カリウム血症)、末梢神経障害など。

合併しやすい疾患

橋本病(慢性甲状腺炎)、原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎などの自己免疫疾患。また悪性リンパ腫(特にMALTリンパ腫)の発生率が高く、持続する唾液腺腫脹やリンパ節腫脹には注意が必要である。

自己抗体

抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体(後者はより特異的)、リウマトイド因子。抗SS-A抗体陽性の母体からは、胎盤を通過した抗体により新生児ループス(先天性完全房室ブロックなど)が起こり得る。

鑑別に使える「特徴的な症候」の整理

・兎眼:顔面神経麻痺、甲状腺眼症 ・胸鎖関節炎:掌蹠膿疱症性骨関節炎(SAPHO症候群) ・爪の点状陥凹:乾癬・乾癬性関節炎 ・難聴:ANCA関連血管炎、Cogan症候群、再発性多発軟骨炎

POINT

・Sjögren症候群の中心は乾燥症状(ドライアイ・ドライマウス)であり、唾液減少の結果としてう歯が多発する。 ・ドライアイの原因は涙液減少であり、まぶたが閉じない兎眼(顔面神経麻痺・眼球突出)とは区別する。 ・抗SS-A抗体・抗SS-B抗体、悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)の合併、新生児ループスはあわせて覚える。 ・胸鎖関節炎→掌蹠膿疱症性骨関節炎、爪の点状陥凹→乾癬。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。