まぶたが語る筋肉の病気―ヘリオトロープ疹で見抜く皮膚筋炎と膠原病の「皮膚の顔」
第120回医師国家試験 E問題 第2問
国試問題にチャレンジ
皮膚筋炎の患者にみられるのはどれか。
- a.口腔潰瘍
- b.指尖潰瘍
- c.上眼瞼の紫紅色の浮腫
- d.蝶形紅斑
- e.網状皮斑
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
皮膚筋炎は近位筋優位の筋力低下を来す炎症性筋疾患のうち特徴的な皮膚症状を伴うもので、上眼瞼の紫紅色の浮腫性紅斑であるヘリオトロープ疹と、手指関節背側のGottron丘疹・Gottron徴候が特異性の高い所見です。蝶形紅斑や無痛性口腔潰瘍はSLE、指尖潰瘍は全身性強皮症、網状皮斑は血管炎や抗リン脂質抗体症候群を代表する所見として、疾患ごとの「皮膚の顔」を整理しておくと鑑別に役立ちます。皮膚筋炎では自己抗体により臨床像が異なり、抗MDA5抗体陽性例の急速進行性間質性肺炎や、抗TIF1-γ抗体陽性例に多い悪性腫瘍の合併に注意が必要です。筋症状が乏しい無筋症性皮膚筋炎もあるため、皮膚所見から疾患を想起し、肺や悪性腫瘍まで検索を広げる姿勢が実臨床での早期診断につながります。
解答・解説
正解はcです
皮膚筋炎(dermatomyositis: DM)は、近位筋優位の筋力低下を来す特発性炎症性筋疾患のうち、特徴的な皮膚症状を伴うものである。診断上、皮膚所見の比重が大きく、筋症状がほとんどない「無筋症性皮膚筋炎(clinically amyopathic DM: CADM)」も存在する。 膠原病の皮膚所見は疾患ごとに「顔」となる所見があり、本問はそれを区別できるかを問うている。皮膚筋炎に特異性の高い所見は、上眼瞼の紫紅色調の浮腫性紅斑であるヘリオトロープ疹と、手指関節背側の角化性丘疹・紅斑であるGottron丘疹・Gottron徴候の2つである。一方、蝶形紅斑や口腔潰瘍は全身性エリテマトーデス(SLE)、指尖潰瘍は全身性強皮症、網状皮斑は血管炎や抗リン脂質抗体症候群を代表する所見として整理しておくとよい。
選択肢考察
- ×a. 口腔潰瘍
口腔潰瘍はSLE(硬口蓋などに生じ、痛みに乏しいことが多い)やBehçet病(有痛性の再発性アフタ性潰瘍で、主症状の一つ)を代表する所見である。皮膚筋炎の典型的な皮膚・粘膜所見ではない。
- ×b. 指尖潰瘍
指尖潰瘍は、Raynaud現象と末梢小血管の器質的狭窄を来す全身性強皮症の代表的所見で、指尖の陥凹性瘢痕を残すこともある。皮膚筋炎でもRaynaud現象は一部にみられるが、潰瘍に至ることは少ない。ただし、急速進行性間質性肺炎を合併しやすい抗MDA5抗体陽性例では、手指の皮膚潰瘍を生じることがある点は知っておくとよい。
- ○c. 上眼瞼の紫紅色の浮腫
ヘリオトロープ疹を指している。上眼瞼を中心に、紫紅色(ヘリオトロープという植物の花の色にちなむ)の浮腫を伴う紅斑が両側性に出現する。Gottron丘疹・Gottron徴候とともに皮膚筋炎に特異性の高い皮膚所見で、診断基準の皮膚症状の項目にも含まれる。
- ×d. 蝶形紅斑
両頬から鼻背にかけて蝶が羽を広げたように分布する紅斑で、SLEの代表的な皮膚所見である。皮膚筋炎でも顔面に紅斑がみられることはあるが、SLEの蝶形紅斑は鼻唇溝を越えないのに対し、皮膚筋炎の顔面紅斑は鼻唇溝を越えて広がりやすいという違いがある。皮膚筋炎を特徴づける所見として問われるのはヘリオトロープ疹である。
- ×e. 網状皮斑
網状皮斑(リベド)は皮膚の細動脈・細静脈の循環障害を反映した網目状の紫紅色斑である。結節性多発動脈炎などの中~小型血管の血管炎、抗リン脂質抗体症候群、SLE、クリオグロブリン血症性血管炎、コレステロール塞栓症などでみられる。皮膚筋炎の典型的所見ではない。
皮膚筋炎の皮膚所見
・顔面: ヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑)、顔面の紅斑(鼻唇溝を越えることがある) ・手: Gottron丘疹(手指関節背側の角化性丘疹)、Gottron徴候(肘・膝・指関節伸側の角化性紅斑)、逆Gottron徴候(手指関節掌側の紅斑、抗MDA5抗体陽性例に多い)、機械工の手(mechanic's hand: 手指側面の角化・亀裂、抗ARS抗体症候群に多い)、爪囲紅斑、爪上皮出血点 ・体幹: V徴候(前胸部V字型の紅斑)、ショール徴候(肩~上背部の紅斑)、むち打ち様紅斑(線状の掻破痕様紅斑)、多形皮膚萎縮(ポイキロデルマ)
皮膚筋炎の全身像
・筋症状: 近位筋(頸部屈筋、上腕・大腿)の対称性筋力低下。CK・アルドラーゼ上昇、筋電図で筋原性変化、MRIで筋の浮腫性変化。 ・間質性肺炎: 予後を左右する。抗MDA5抗体陽性例は筋症状が乏しくても急速進行性間質性肺炎を来しうる。 ・悪性腫瘍の合併: 成人例で頻度が高く、特に抗TIF1-γ抗体陽性例に多い。診断時に悪性腫瘍検索を行う。
膠原病の皮膚・粘膜所見の対応
・SLE: 蝶形紅斑、円板状皮疹、無痛性口腔潰瘍、光線過敏症 ・全身性強皮症: 手指の皮膚硬化、指尖潰瘍・陥凹性瘢痕、Raynaud現象、毛細血管拡張 ・Behçet病: 有痛性口腔内アフタ、結節性紅斑、毛嚢炎様皮疹 ・血管炎、抗リン脂質抗体症候群: 網状皮斑、紫斑
POINT
・皮膚筋炎に特異的な皮疹はヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑)とGottron丘疹・Gottron徴候。 ・蝶形紅斑・口腔潰瘍はSLE、指尖潰瘍は全身性強皮症、網状皮斑は血管炎・抗リン脂質抗体症候群。 ・皮膚筋炎では間質性肺炎(抗MDA5抗体)と悪性腫瘍(抗TIF1-γ抗体)の合併に注意する。
