StudyMed医師国家試験

まぶたが語る筋肉の病気―ヘリオトロープ疹で見抜く皮膚筋炎と膠原病の「皮膚の顔」

第120回医師国家試験 E問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第2問

皮膚筋炎の患者にみられるのはどれか。

  1. a.口腔潰瘍
  2. b.指尖潰瘍
  3. c.上眼瞼の紫紅色の浮腫
  4. d.蝶形紅斑
  5. e.網状皮斑

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚筋炎でみられる皮膚・粘膜所見を選ぶ問題だ。選択肢はどれも膠原病や血管炎でよく出てくる所見ばかりなので、「どの疾患の顔なのか」を一つずつ対応づけられるかが勝負になる。まず、皮膚筋炎とはどんな病気だったかな。
医学生医学生
近位筋優位の筋力低下を来す炎症性筋疾患で、皮膚症状を伴うものが皮膚筋炎、伴わないのが多発性筋炎、と講義で習いました。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。ただ皮膚筋炎は診断上、皮膚所見の比重がとても大きくて、筋症状がほとんどない無筋症性皮膚筋炎というタイプもある。つまり、筋肉より先に皮膚から診断にたどり着くことも珍しくないんだ。では、皮膚筋炎に特異性の高い皮疹を2つ挙げられるかな。
医学生医学生
ヘリオトロープ疹とGottron丘疹です。ヘリオトロープ疹は確か、まぶたの紫っぽい腫れでしたよね。
ドクタードクター
正解。上眼瞼を中心に、紫紅色で浮腫を伴う紅斑が両側に出る。ヘリオトロープという植物の花の色にちなんだ名前だ。選択肢の「上眼瞼の紫紅色の浮腫」はまさにこれを指していて、これが正解になる。もう一方のGottron丘疹は、手指の関節の背側にできる角化性の丘疹や紅斑だね。
医学生医学生
CBTの勉強のときは名前だけ丸暗記していましたが、色と場所をセットで覚えると具体的にイメージできます。
ドクタードクター
それが大事。では他の選択肢を見ていこう。まず蝶形紅斑。顔の紅斑という意味では皮膚筋炎とも紛らわしいけれど、どうだろう。
医学生医学生
蝶形紅斑はSLEの代表的な所見ですね。でも皮膚筋炎でも顔が赤くなることはあるんですか。
ドクタードクター
あるよ。見分けるヒントとして、SLEの蝶形紅斑は両頬から鼻背にかけて広がり、鼻唇溝を越えないのが典型。一方、皮膚筋炎の顔面紅斑は鼻唇溝を越えて広がりやすい。それでも皮膚筋炎を特徴づける所見として問われるのはヘリオトロープ疹のほうだ。
医学生医学生
口腔潰瘍もSLEのイメージがあります。Behçet病でも出ますよね。
ドクタードクター
その通り。SLEでは硬口蓋などに痛みの乏しい潰瘍ができることが多く、Behçet病では有痛性の再発性アフタが主症状の一つになる。痛みの有無が両者の違いとして役に立つ。皮膚筋炎の典型所見ではないね。
医学生医学生
指尖潰瘍は全身性強皮症ですよね。膠原病内科の実習で、Raynaud現象と指先の小さな陥凹した傷跡がある患者さんを診察しました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。強皮症では末梢の小血管が器質的に狭くなるので、指尖潰瘍や陥凹性瘢痕を生じる。皮膚筋炎でもRaynaud現象が一部にみられるけれど、潰瘍まで至ることは少ない。ただし例外として、抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎では手指に皮膚潰瘍を生じることがあるので、頭の片隅に置いておこう。
医学生医学生
網状皮斑は、網目状の紫っぽい模様ですよね。血管炎で出るものだったと思います。
ドクタードクター
そう。皮膚の細い血管の循環障害を反映した所見で、結節性多発動脈炎などの中〜小型血管の血管炎、抗リン脂質抗体症候群、SLE、コレステロール塞栓症などでみられる。皮膚筋炎の典型ではない。
医学生医学生
まとめると、蝶形紅斑と口腔潰瘍はSLE、指尖潰瘍は強皮症、網状皮斑は血管炎や抗リン脂質抗体症候群、そしてまぶたの紫紅色の浮腫が皮膚筋炎、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。ここからは発展知識。皮膚筋炎の皮膚所見は他にもたくさんあって、前胸部のV徴候、肩から上背部のショール徴候、引っかいたような線状のむち打ち様紅斑、爪囲紅斑などがある。手指の側面が硬く荒れる機械工の手は抗ARS抗体症候群に、手指関節の手のひら側の紅斑である逆Gottron徴候は抗MDA5抗体陽性例に多い。
医学生医学生
自己抗体によって臨床像が違うんですね。抗MDA5抗体は間質性肺炎と関係があったはずです。
ドクタードクター
よく覚えているね。抗MDA5抗体陽性例は、筋症状が乏しくても急速進行性の間質性肺炎を来すことがあり、予後を左右する。皮膚所見だけで筋力低下が目立たないからと安心せず、呼吸器症状や胸部画像を必ず確認することが大切だ。
医学生医学生
成人の皮膚筋炎では悪性腫瘍の合併にも注意が必要だと習いました。
ドクタードクター
その通り。成人例では悪性腫瘍の合併頻度が高く、特に抗TIF1-γ抗体陽性例に多い。だから診断時には悪性腫瘍の検索を行う。まぶたの小さな変化から、筋肉、肺、そして隠れた腫瘍まで視野を広げられるかどうかが、臨床では問われるんだ。

まとめ

皮膚筋炎は近位筋優位の筋力低下を来す炎症性筋疾患のうち特徴的な皮膚症状を伴うもので、上眼瞼の紫紅色の浮腫性紅斑であるヘリオトロープ疹と、手指関節背側のGottron丘疹・Gottron徴候が特異性の高い所見です。蝶形紅斑や無痛性口腔潰瘍はSLE、指尖潰瘍は全身性強皮症、網状皮斑は血管炎や抗リン脂質抗体症候群を代表する所見として、疾患ごとの「皮膚の顔」を整理しておくと鑑別に役立ちます。皮膚筋炎では自己抗体により臨床像が異なり、抗MDA5抗体陽性例の急速進行性間質性肺炎や、抗TIF1-γ抗体陽性例に多い悪性腫瘍の合併に注意が必要です。筋症状が乏しい無筋症性皮膚筋炎もあるため、皮膚所見から疾患を想起し、肺や悪性腫瘍まで検索を広げる姿勢が実臨床での早期診断につながります。

解答・解説

正解はcです

皮膚筋炎(dermatomyositis: DM)は、近位筋優位の筋力低下を来す特発性炎症性筋疾患のうち、特徴的な皮膚症状を伴うものである。診断上、皮膚所見の比重が大きく、筋症状がほとんどない「無筋症性皮膚筋炎(clinically amyopathic DM: CADM)」も存在する。 膠原病の皮膚所見は疾患ごとに「顔」となる所見があり、本問はそれを区別できるかを問うている。皮膚筋炎に特異性の高い所見は、上眼瞼の紫紅色調の浮腫性紅斑であるヘリオトロープ疹と、手指関節背側の角化性丘疹・紅斑であるGottron丘疹・Gottron徴候の2つである。一方、蝶形紅斑や口腔潰瘍は全身性エリテマトーデス(SLE)、指尖潰瘍は全身性強皮症、網状皮斑は血管炎や抗リン脂質抗体症候群を代表する所見として整理しておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  口腔潰瘍

    口腔潰瘍はSLE(硬口蓋などに生じ、痛みに乏しいことが多い)やBehçet病(有痛性の再発性アフタ性潰瘍で、主症状の一つ)を代表する所見である。皮膚筋炎の典型的な皮膚・粘膜所見ではない。

  2. ×b.  指尖潰瘍

    指尖潰瘍は、Raynaud現象と末梢小血管の器質的狭窄を来す全身性強皮症の代表的所見で、指尖の陥凹性瘢痕を残すこともある。皮膚筋炎でもRaynaud現象は一部にみられるが、潰瘍に至ることは少ない。ただし、急速進行性間質性肺炎を合併しやすい抗MDA5抗体陽性例では、手指の皮膚潰瘍を生じることがある点は知っておくとよい。

  3. ○c.  上眼瞼の紫紅色の浮腫

    ヘリオトロープ疹を指している。上眼瞼を中心に、紫紅色(ヘリオトロープという植物の花の色にちなむ)の浮腫を伴う紅斑が両側性に出現する。Gottron丘疹・Gottron徴候とともに皮膚筋炎に特異性の高い皮膚所見で、診断基準の皮膚症状の項目にも含まれる。

  4. ×d.  蝶形紅斑

    両頬から鼻背にかけて蝶が羽を広げたように分布する紅斑で、SLEの代表的な皮膚所見である。皮膚筋炎でも顔面に紅斑がみられることはあるが、SLEの蝶形紅斑は鼻唇溝を越えないのに対し、皮膚筋炎の顔面紅斑は鼻唇溝を越えて広がりやすいという違いがある。皮膚筋炎を特徴づける所見として問われるのはヘリオトロープ疹である。

  5. ×e.  網状皮斑

    網状皮斑(リベド)は皮膚の細動脈・細静脈の循環障害を反映した網目状の紫紅色斑である。結節性多発動脈炎などの中~小型血管の血管炎、抗リン脂質抗体症候群、SLE、クリオグロブリン血症性血管炎、コレステロール塞栓症などでみられる。皮膚筋炎の典型的所見ではない。

皮膚筋炎の皮膚所見

・顔面: ヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑)、顔面の紅斑(鼻唇溝を越えることがある) ・手: Gottron丘疹(手指関節背側の角化性丘疹)、Gottron徴候(肘・膝・指関節伸側の角化性紅斑)、逆Gottron徴候(手指関節掌側の紅斑、抗MDA5抗体陽性例に多い)、機械工の手(mechanic's hand: 手指側面の角化・亀裂、抗ARS抗体症候群に多い)、爪囲紅斑、爪上皮出血点 ・体幹: V徴候(前胸部V字型の紅斑)、ショール徴候(肩~上背部の紅斑)、むち打ち様紅斑(線状の掻破痕様紅斑)、多形皮膚萎縮(ポイキロデルマ)

皮膚筋炎の全身像

・筋症状: 近位筋(頸部屈筋、上腕・大腿)の対称性筋力低下。CK・アルドラーゼ上昇、筋電図で筋原性変化、MRIで筋の浮腫性変化。 ・間質性肺炎: 予後を左右する。抗MDA5抗体陽性例は筋症状が乏しくても急速進行性間質性肺炎を来しうる。 ・悪性腫瘍の合併: 成人例で頻度が高く、特に抗TIF1-γ抗体陽性例に多い。診断時に悪性腫瘍検索を行う。

膠原病の皮膚・粘膜所見の対応

・SLE: 蝶形紅斑、円板状皮疹、無痛性口腔潰瘍、光線過敏症 ・全身性強皮症: 手指の皮膚硬化、指尖潰瘍・陥凹性瘢痕、Raynaud現象、毛細血管拡張 ・Behçet病: 有痛性口腔内アフタ、結節性紅斑、毛嚢炎様皮疹 ・血管炎、抗リン脂質抗体症候群: 網状皮斑、紫斑

POINT

・皮膚筋炎に特異的な皮疹はヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑)とGottron丘疹・Gottron徴候。 ・蝶形紅斑・口腔潰瘍はSLE、指尖潰瘍は全身性強皮症、網状皮斑は血管炎・抗リン脂質抗体症候群。 ・皮膚筋炎では間質性肺炎(抗MDA5抗体)と悪性腫瘍(抗TIF1-γ抗体)の合併に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。