下痢でも便秘でもない―過敏性腸症候群に「必ず要る」ただ一つの症状
第120回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
過敏性腸症候群の診断に必須なのはどれか。
- a.下痢
- b.腹痛
- c.便秘
- d.食欲不振
- e.腹部膨満
対話形式の解説
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ドクターまとめ
過敏性腸症候群は、腹痛と便通異常が慢性に続くにもかかわらず器質的疾患を認めない機能性消化管疾患です。Rome IV基準では、最近3か月間に平均週1日以上の繰り返す腹痛があり、排便との関連・排便頻度の変化・便形状の変化のうち2項目以上を満たすことが求められ、腹痛が唯一の必須症状です。下痢や便秘はBristol便形状スケールに基づく病型分類の要素であり、腹部膨満や食欲不振は基準に含まれず、特に体重減少や血便、50歳以上での発症などは器質的疾患を疑う警告徴候となります。治療は生活・食事指導を土台に病型別の薬物療法や心理的アプローチを組み合わせます。「必須症状」と「病型を決める症状」を区別して理解することは、診断基準の読み方と除外診断の姿勢の両方を身につけるうえで重要です。
解答・解説
正解はbです
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)は、腹痛と便通異常(下痢・便秘)が慢性に続くにもかかわらず、それを説明する器質的疾患(炎症・腫瘍など)が見当たらない機能性消化管疾患である。病態には消化管運動異常、内臓知覚過敏、脳腸相関(ストレスなど心理社会的因子)、感染性腸炎後の変化、腸内細菌叢の変化などが関与する。 診断には国際的なRome IV基準が用いられる。その中核は「腹痛が繰り返し起こること」であり、最近3か月間に平均して週1日以上の腹痛があり、それが①排便に関連する、②排便頻度の変化を伴う、③便形状(外観)の変化を伴う、の3項目のうち2つ以上を満たすことが求められる(症状は診断の6か月以上前に始まり、最近3か月間基準を満たしていること)。 つまり、下痢・便秘は病型を決める要素ではあるが、どちらか一方がなくても IBS と診断できる。どの病型にも共通して欠かせないのは腹痛だけである。かつてのRome III基準では「腹痛または腹部不快感」とされていたが、Rome IVで「不快感」は曖昧として削除され、腹痛が必須となった。
選択肢考察
- ×a. 下痢
下痢は下痢型IBS(IBS-D)や混合型(IBS-M)でみられる便通異常で、病型分類に用いる所見である。便秘型IBS(IBS-C)では下痢を伴わないこともあり、診断に必須ではない。
- ○b. 腹痛
Rome IV基準では、最近3か月間に平均して少なくとも週1日以上、繰り返す腹痛があることが診断の前提条件である。そのうえで、排便との関連・排便頻度の変化・便形状の変化のうち2項目以上を伴うことが求められる。病型にかかわらず腹痛は全例に必要であり、必須の症状である。
- ×c. 便秘
便秘は便秘型(IBS-C)や混合型(IBS-M)でみられ、病型を決める要素である。下痢型(IBS-D)では便秘を伴わないことがあり、診断に必須ではない。
- ×d. 食欲不振
食欲不振は腹痛や腹部の張りに伴って生じることはあるが、Rome IV基準の項目には含まれない。むしろ著明な食欲不振や体重減少がある場合は、悪性腫瘍などの器質的疾患を疑うべき警告徴候として扱う。
- ×e. 腹部膨満
腹部膨満感(お腹の張り)はIBS患者で高頻度にみられ、日本の臨床ではガス症状が主体の病態が意識されることもあるが、Rome IV基準の必須項目ではない。腹部膨満が主体で腹痛の基準を満たさない場合は、機能性腹部膨満(functional abdominal bloating/distension)など別の機能性腸疾患として扱われる。
Rome IV基準(IBS)
最近3か月間、平均して少なくとも週1日以上の繰り返す腹痛があり、次のうち2項目以上を満たす。 ①排便に関連する ②排便頻度の変化を伴う ③便形状(外観)の変化を伴う ※症状は診断の6か月以上前に出現し、最近3か月間は基準を満たしていること。
病型分類(Bristol便形状スケールで判定)
・便秘型(IBS-C): 硬便・兎糞状便(Bristol 1~2)が25%超、軟便・水様便(6~7)が25%未満 ・下痢型(IBS-D): 軟便・水様便が25%超、硬便が25%未満 ・混合型(IBS-M): 硬便・軟便がともに25%超 ・分類不能型(IBS-U): いずれにも当てはまらない
除外すべき器質的疾患と警告徴候(アラームサイン)
大腸癌、炎症性腸疾患、感染性腸炎、甲状腺機能異常などを除外する。次の所見があれば大腸内視鏡検査などで精査する。 ・50歳以上での発症 ・発熱、体重減少 ・血便、貧血 ・夜間に目覚めるほどの腹痛・下痢 ・大腸癌など大腸器質的疾患の既往・家族歴 ・腹部腫瘤、直腸指診の異常
治療の概要
生活・食事指導(規則正しい食事、刺激物や脂肪の多い食品を控える、FODMAPを減らす食事など)、消化管運動調整薬、高分子重合体、プロバイオティクス、病型に応じた薬物(IBS-Dにラモセトロン、IBS-Cにリナクロチドやルビプロストンなど)、必要に応じ抗不安薬・抗うつ薬や心理療法を組み合わせる。
POINT
・IBSの診断に必須なのは繰り返す腹痛(Rome IV: 最近3か月、平均週1日以上)。 ・腹痛に加えて、排便との関連・排便頻度の変化・便形状の変化のうち2項目以上。 ・下痢・便秘は病型(IBS-D、IBS-C、IBS-M、IBS-U)を決める要素で、必須ではない。 ・警告徴候(50歳以上、体重減少、血便、夜間症状など)があれば器質的疾患を精査する。
