StudyMed医師国家試験

下痢でも便秘でもない―過敏性腸症候群に「必ず要る」ただ一つの症状

第120回医師国家試験 E問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第3問

過敏性腸症候群の診断に必須なのはどれか。

  1. a.下痢
  2. b.腹痛
  3. c.便秘
  4. d.食欲不振
  5. e.腹部膨満

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は過敏性腸症候群、いわゆるIBSの診断基準を問う問題だ。IBSは下痢や便秘のイメージが強いけれど、診断の「入口」になる症状は何か、という点に注目してほしい。まず、IBSがどんな病気か説明できるかな。
医学生医学生
腹痛や便通異常が続くのに、内視鏡などで調べても炎症や腫瘍が見つからない機能性の腸疾患ですよね。
ドクタードクター
その通り。消化管運動の異常や内臓知覚過敏、ストレスを介した脳腸相関、感染性腸炎の後の変化、腸内細菌叢の変化などが関わると考えられている。では、診断に必須なのはどの症状だと思う?
医学生医学生
IBSといえば下痢のイメージが強いので、下痢かなと思ってしまいました。消化器内科の講義でも、通勤電車でトイレに駆け込む人の話が印象的で。
ドクタードクター
よくある思い込みだね。でもIBSには便秘が主体のタイプもある。診断は国際的なRome IV基準で行うんだけど、その中核は「繰り返す腹痛」なんだ。最近3か月間に平均して週1日以上の腹痛があり、それが排便に関連する、排便頻度の変化を伴う、便の形状の変化を伴う、の3つのうち2つ以上を満たすこと。症状は診断の6か月以上前から始まっている必要がある。
医学生医学生
つまり腹痛が前提条件で、そこに排便との関連がくっつく構造なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。だから正解は腹痛。では、下痢と便秘はどういう位置づけになるかな。
医学生医学生
下痢型や便秘型という分類があったはずなので、病型を決めるための要素でしょうか。
ドクタードクター
正解。Bristol便形状スケールで硬い便と軟らかい便の割合をみて、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分ける。便秘型では下痢がないこともあるし、下痢型では便秘がないこともある。だからどちらも「必須」にはならないんだ。
医学生医学生
CBTの勉強でBristolスケールの絵を見ました。コロコロ便から水様便まで7段階のやつですね。
ドクタードクター
そう、それだ。次に腹部膨満はどうだろう。
医学生医学生
IBSの患者さんはお腹が張ると訴えることが多いと聞きます。必須に入っていそうな気もしますが……。
ドクタードクター
確かに高頻度にみられる症状だけど、Rome IVの必須項目ではない。腹痛の基準を満たさず、張りが主体なら、機能性腹部膨満という別の機能性腸疾患として扱われる。ちなみに旧Rome III基準では「腹痛または腹部不快感」だったけれど、不快感は曖昧だということでRome IVで削除され、腹痛が必須になったんだ。
医学生医学生
食欲不振はどうですか。腹痛があれば食べたくなくなりそうですが。
ドクタードクター
腹痛に伴って生じることはあっても、基準には含まれない。むしろ著明な食欲不振や体重減少があれば、大腸癌などの器質的疾患を疑う警告徴候として扱うべきなんだ。
医学生医学生
IBSは除外診断の面もあるから、危ないサインを見落とさないことが大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床の要点だ。50歳以上での発症、発熱、体重減少、血便や貧血、夜間に目が覚めるほどの腹痛や下痢、大腸癌の既往や家族歴、腹部腫瘤や直腸指診の異常。こうしたアラームサインがあれば大腸内視鏡などで精査する。炎症性腸疾患や甲状腺機能異常も除外しておきたい。
医学生医学生
臨床実習の外来で、若い人の腹痛と下痢をすぐIBSと決めつけず、指導医の先生が血便や体重の変化を丁寧に聞いていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい場面を見ているね。治療は、規則正しい食事や低FODMAP食などの生活・食事指導が土台で、消化管運動調整薬、高分子重合体、プロバイオティクスを使う。病型に応じて、下痢型にはラモセトロン、便秘型にはリナクロチドやルビプロストンなどを選ぶ。心理社会的因子が強ければ抗不安薬や抗うつ薬、心理療法も組み合わせるんだ。
医学生医学生
腹痛で診断して、便の性状で病型を決め、病型で薬を選ぶ、という流れで整理しておきます。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。患者さんにとってはつらい症状だから、「異常がない」で終わらせず、病態を説明して一緒に治療を考える姿勢も忘れないでほしい。

まとめ

過敏性腸症候群は、腹痛と便通異常が慢性に続くにもかかわらず器質的疾患を認めない機能性消化管疾患です。Rome IV基準では、最近3か月間に平均週1日以上の繰り返す腹痛があり、排便との関連・排便頻度の変化・便形状の変化のうち2項目以上を満たすことが求められ、腹痛が唯一の必須症状です。下痢や便秘はBristol便形状スケールに基づく病型分類の要素であり、腹部膨満や食欲不振は基準に含まれず、特に体重減少や血便、50歳以上での発症などは器質的疾患を疑う警告徴候となります。治療は生活・食事指導を土台に病型別の薬物療法や心理的アプローチを組み合わせます。「必須症状」と「病型を決める症状」を区別して理解することは、診断基準の読み方と除外診断の姿勢の両方を身につけるうえで重要です。

解答・解説

正解はbです

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)は、腹痛と便通異常(下痢・便秘)が慢性に続くにもかかわらず、それを説明する器質的疾患(炎症・腫瘍など)が見当たらない機能性消化管疾患である。病態には消化管運動異常、内臓知覚過敏、脳腸相関(ストレスなど心理社会的因子)、感染性腸炎後の変化、腸内細菌叢の変化などが関与する。 診断には国際的なRome IV基準が用いられる。その中核は「腹痛が繰り返し起こること」であり、最近3か月間に平均して週1日以上の腹痛があり、それが①排便に関連する、②排便頻度の変化を伴う、③便形状(外観)の変化を伴う、の3項目のうち2つ以上を満たすことが求められる(症状は診断の6か月以上前に始まり、最近3か月間基準を満たしていること)。 つまり、下痢・便秘は病型を決める要素ではあるが、どちらか一方がなくても IBS と診断できる。どの病型にも共通して欠かせないのは腹痛だけである。かつてのRome III基準では「腹痛または腹部不快感」とされていたが、Rome IVで「不快感」は曖昧として削除され、腹痛が必須となった。

選択肢考察

  1. ×a.  下痢

    下痢は下痢型IBS(IBS-D)や混合型(IBS-M)でみられる便通異常で、病型分類に用いる所見である。便秘型IBS(IBS-C)では下痢を伴わないこともあり、診断に必須ではない。

  2. ○b.  腹痛

    Rome IV基準では、最近3か月間に平均して少なくとも週1日以上、繰り返す腹痛があることが診断の前提条件である。そのうえで、排便との関連・排便頻度の変化・便形状の変化のうち2項目以上を伴うことが求められる。病型にかかわらず腹痛は全例に必要であり、必須の症状である。

  3. ×c.  便秘

    便秘は便秘型(IBS-C)や混合型(IBS-M)でみられ、病型を決める要素である。下痢型(IBS-D)では便秘を伴わないことがあり、診断に必須ではない。

  4. ×d.  食欲不振

    食欲不振は腹痛や腹部の張りに伴って生じることはあるが、Rome IV基準の項目には含まれない。むしろ著明な食欲不振や体重減少がある場合は、悪性腫瘍などの器質的疾患を疑うべき警告徴候として扱う。

  5. ×e.  腹部膨満

    腹部膨満感(お腹の張り)はIBS患者で高頻度にみられ、日本の臨床ではガス症状が主体の病態が意識されることもあるが、Rome IV基準の必須項目ではない。腹部膨満が主体で腹痛の基準を満たさない場合は、機能性腹部膨満(functional abdominal bloating/distension)など別の機能性腸疾患として扱われる。

Rome IV基準(IBS)

最近3か月間、平均して少なくとも週1日以上の繰り返す腹痛があり、次のうち2項目以上を満たす。 ①排便に関連する ②排便頻度の変化を伴う ③便形状(外観)の変化を伴う ※症状は診断の6か月以上前に出現し、最近3か月間は基準を満たしていること。

病型分類(Bristol便形状スケールで判定)

・便秘型(IBS-C): 硬便・兎糞状便(Bristol 1~2)が25%超、軟便・水様便(6~7)が25%未満 ・下痢型(IBS-D): 軟便・水様便が25%超、硬便が25%未満 ・混合型(IBS-M): 硬便・軟便がともに25%超 ・分類不能型(IBS-U): いずれにも当てはまらない

除外すべき器質的疾患と警告徴候(アラームサイン)

大腸癌、炎症性腸疾患、感染性腸炎、甲状腺機能異常などを除外する。次の所見があれば大腸内視鏡検査などで精査する。 ・50歳以上での発症 ・発熱、体重減少 ・血便、貧血 ・夜間に目覚めるほどの腹痛・下痢 ・大腸癌など大腸器質的疾患の既往・家族歴 ・腹部腫瘤、直腸指診の異常

治療の概要

生活・食事指導(規則正しい食事、刺激物や脂肪の多い食品を控える、FODMAPを減らす食事など)、消化管運動調整薬、高分子重合体、プロバイオティクス、病型に応じた薬物(IBS-Dにラモセトロン、IBS-Cにリナクロチドやルビプロストンなど)、必要に応じ抗不安薬・抗うつ薬や心理療法を組み合わせる。

POINT

・IBSの診断に必須なのは繰り返す腹痛(Rome IV: 最近3か月、平均週1日以上)。 ・腹痛に加えて、排便との関連・排便頻度の変化・便形状の変化のうち2項目以上。 ・下痢・便秘は病型(IBS-D、IBS-C、IBS-M、IBS-U)を決める要素で、必須ではない。 ・警告徴候(50歳以上、体重減少、血便、夜間症状など)があれば器質的疾患を精査する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。