StudyMed医師国家試験

内視鏡で異常なし、それでも続く残便感―慢性便秘症は「生活」と「浸透圧」から立て直す

第120回医師国家試験 C問題 第58問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第58問

58歳の男性。残便感を主訴に来院した。6か月前から残便感を自覚し,持続するため受診した。便は兎糞状であり,排便回数は3日に1回程度である。毎回強くいきんで排便しているが,排便後も残便感が持続する。既往歴に特記すべきことはない。腹部は平坦,軟で,圧痛を認めない。直腸指診で異常を認めない。下部消化管内視鏡検査で異常を認めない。  適切な対応はどれか。2つ選べ。

  1. a.安静指示
  2. b.抗菌薬投与
  3. c.定期的な浣腸
  4. d.浸透圧性下剤投与
  5. e.食物繊維摂取の推奨

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長く続く便通の悩みにどう対応するかを考える問題だ。ポイントは2つ。まず器質的な病気がきちんと除外されているかどうか、次に除外されたあとの治療の第一歩は何か。症状の中身から整理していこう。
医学生医学生
兎のフンみたいなコロコロ便で、回数も少なくて、いきんでも出し切れない感じがある……典型的な便秘ですね。
ドクタードクター
そうだね。ガイドラインでは便秘を、便が大腸に滞って硬くなったり回数が減ったりする状態と、快適に出せなくて強いいきみや残便感が出る状態の両方を含めて定義している。この人はその両面を持っていて、半年以上続いているから慢性便秘症と考えられる。
医学生医学生
でも58歳で新しく出てきた便通異常なら、まず大腸癌を疑うべきだと消化器内科の講義で習いました。
ドクタードクター
その感覚はとても大事だ。50歳以上での新規発症、血便、体重減少、貧血などはアラームサインで、内視鏡で器質的疾患を除外する必要がある。この症例では直腸指診も大腸内視鏡も異常なし、既往歴にも特記事項がない。つまり癌などの狭窄性の病気や、薬剤性・症候性の便秘を示す手がかりはなく、機能性の慢性便秘症と判断できるわけだ。
医学生医学生
腹痛がないので、便秘型の過敏性腸症候群ともちょっと違いますね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。過敏性腸症候群は腹痛が主役で、排便によって症状が変化するのが特徴だ。では治療に進もう。機能性便秘症の治療の土台は何だと思う?
医学生医学生
生活指導ですか。食物繊維をとって、水を飲んで、運動して……。
ドクタードクター
その通り。食物繊維は便の水分を保ち、かさを増やして腸を刺激し、排便を促す。水溶性の食物繊維は便を軟らかくし、腸内細菌の発酵を通じて腸内環境の改善にも役立つ。日本人は目標量に届いていないことが多いから、食事の見直しは最初に勧めるべき対応だ。水分を一緒にとることも忘れずに。
医学生医学生
それでも出ないときに薬、という順番ですね。下剤というとセンノシドのイメージが強いのですが。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。センノシドなどの刺激性下剤は効果は確実だけれど、連用すると耐性が生じやすいので頓用や短期使用が基本。慢性便秘症の薬物療法で第一選択とされるのは浸透圧性下剤だ。酸化マグネシウムやポリエチレングリコール、ラクツロースなどがあって、腸管内に水分を引き込んで便を軟らかくする。習慣性が少なく、この人の硬い便を軟らかくして、いきみや残便感の改善が期待できる。
医学生医学生
薬理学の講義で、酸化マグネシウムは高マグネシウム血症に注意と習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。特に腎機能が落ちている人や高齢者では要注意で、長く使う場合は血清マグネシウムの確認も考える。では残りの対応も確認しよう。安静指示はどうかな。
医学生医学生
体を動かさないと腸の動きも鈍りそうなので、逆効果だと思います。
ドクタードクター
正解。身体活動の低下は便秘を悪化させる要因で、むしろウォーキングなど適度な運動が勧められる。抗菌薬はどう?
医学生医学生
熱も下痢も炎症所見もないので、感染症を考える理由がありません。
ドクタードクター
そう。適応がないうえに、腸内細菌叢を乱してClostridioides difficile感染症などを招くおそれすらある。最後に定期的な浣腸だ。
医学生医学生
臨床実習で、便が詰まって出ない入院患者さんにグリセリン浣腸をしているのを見ました。あれを毎回やるのはだめなんでしょうか。
ドクタードクター
浣腸は直腸にたまった便を一時的に出す手段で、便塊が詰まったときなどに頓用で使うものだ。定期的に常用すると、直腸が便意を感じる感覚が鈍って自力で出しにくくなるし、直腸粘膜の損傷や穿孔のリスクもある。維持療法としては不適切だね。
医学生医学生
まず器質的疾患を除外して、生活習慣を整え、薬は浸透圧性下剤から、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、浸透圧性下剤で不十分な場合には、腸管への水分分泌を促すルビプロストンやリナクロチド、胆汁酸の作用を利用するエロビキシバットといった新しい薬も選択肢になる。また、排便時に肛門括約筋がうまく緩まない骨盤底筋協調障害が背景にある排便困難型では、バイオフィードバック療法が検討されることもある。朝食後に胃結腸反射を利用してトイレに行く習慣づくりも、外来でぜひ伝えたい指導だ。
医学生医学生
便秘は軽く見られがちですが、アラームサインの確認から薬の選び方まで、意外と奥が深いですね。
ドクタードクター
そうなんだ。患者さんの生活の質に直結する症状だから、丁寧に向き合いたいね。

まとめ

硬便や排便回数の減少、強いいきみや残便感が長く続く状態は慢性便秘症であり、中高年の新規発症ではまず大腸内視鏡などで大腸癌をはじめとする器質的疾患を除外することが重要です。器質的疾患や薬剤性・症候性の原因がなければ機能性便秘症と考え、食物繊維と水分の摂取、適度な運動、排便習慣の確立といった生活習慣の改善が治療の土台となります。薬物療法の第一選択は、習慣性が少ない浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど)で、腎機能低下例や高齢者では高マグネシウム血症に注意が必要です。安静は便秘を悪化させ、抗菌薬には適応がなく、浣腸や刺激性下剤の常用は便意の低下や耐性につながるため避けます。アラームサインの確認から段階的な治療選択までを押さえることは、日常診療で頻繁に出会う便秘への適切な対応の基本となります。

解答・解説

正解はd, eです

所見の整理

・58歳男性。6か月前から残便感が続いている(慢性の経過)。 ・便は兎糞状(コロコロとした硬い便)で、排便は3日に1回程度と回数が減っている。 ・毎回強くいきむ(過度の怒責)必要があり、排便後も残便感がある。 ・既往歴に特記事項はなく、腹部所見は正常、直腸指診でも腫瘤や狭窄などの異常はない。 ・下部消化管内視鏡検査で異常がなく、大腸癌などの器質的疾患は否定されている。

診断の考え方

便通異常症診療ガイドライン2023(慢性便秘症)では、便秘を「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便・排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義している。本例は硬便・排便回数減少(排便回数減少型の要素)と、怒責・残便感(排便困難型の要素)の両方を持ち、6か月以上症状が続いていることから慢性便秘症と診断できる。 慢性便秘症は、明らかな原因疾患のない一次性(機能性便秘症、便秘型過敏性腸症候群など)と、原因のある二次性(大腸癌などによる器質性便秘、抗コリン薬・オピオイドなどによる薬剤性便秘、糖尿病・甲状腺機能低下症・Parkinson病などによる症候性便秘)に分けられる。中高年で新たに出現した便通異常では大腸癌の除外が最も重要だが、本例では内視鏡で器質的疾患が否定され、既往歴にも特記事項がないことから、機能性の慢性便秘症と考えられる。なお、腹痛を伴わない点は便秘型過敏性腸症候群よりも機能性便秘症を支持する。

設問の考え方

機能性の慢性便秘症の治療は、まず生活習慣の改善(食物繊維・水分の十分な摂取、適度な運動、排便習慣の確立)を行い、効果が不十分であれば薬物療法を加える。薬物療法では、習慣性が少なく安全性の高い浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ポリエチレングリコールなど)が基本となる。安静や抗菌薬、浣腸の定期使用は慢性便秘症の標準的な対応ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  安静指示

    身体活動の低下は腸管運動を弱め、便秘を悪化させる要因となる。慢性便秘症では、ウォーキングなどの適度な運動が排便を促す生活指導として勧められており、安静を指示する根拠はない。不適切である。

  2. ×b.  抗菌薬投与

    発熱や下痢、炎症所見などの感染症を示す所見はなく、本例の便秘は機能性のものである。抗菌薬を投与する適応はなく、むしろ腸内細菌叢を乱し、Clostridioides difficile感染症などの有害事象を招くおそれがある。不適切である。

  3. ×c.  定期的な浣腸

    浣腸(グリセリン浣腸など)は直腸に貯留した便を一時的に排出させる手段であり、便塊による直腸の閉塞(便塞栓)などで頓用的に用いられる。定期的に常用すると、直腸の便意を感じる感覚が鈍くなり自力での排便が難しくなるほか、効果の減弱や直腸粘膜の損傷・穿孔のリスクもある。慢性便秘症の維持療法として定期的に用いるものではなく、不適切である。

  4. ○d.  浸透圧性下剤投与

    浸透圧性下剤は、腸管内の浸透圧を高めて腸管腔へ水分を引き込み、便を軟らかくして排便を促す。塩類下剤(酸化マグネシウム)、ポリエチレングリコール製剤、糖類下剤(ラクツロースなど)があり、刺激性下剤と異なり連用による耐性や習慣性が少ないため、慢性便秘症の薬物療法の第一選択として推奨されている。本例の兎糞状の硬便を軟化させ、怒責や残便感の改善が期待できる。なお酸化マグネシウムは、腎機能低下例や高齢者で高マグネシウム血症をきたすことがあるため注意が必要である。適切である。

  5. ○e.  食物繊維摂取の推奨

    食物繊維は便の水分保持と容積増加をもたらし、腸管を刺激して排便を促す。水溶性食物繊維は便を軟らかくし、腸内細菌による発酵を通じて腸内環境の改善にも寄与する。慢性便秘症では、日本人の食物繊維摂取が目標量(成人でおおむね1日20g前後以上)に届いていないことが多く、食事内容の見直しは生活指導の基本である。十分な水分摂取と組み合わせることが重要である。適切である。

慢性便秘症の分類(便通異常症診療ガイドライン2023)

・一次性便秘症  機能性便秘症:器質的異常がなく、排便回数減少型と排便困難型に分けられる  便秘型過敏性腸症候群:腹痛を伴い、排便で症状が変化する  非狭窄性器質性便秘症:巨大結腸、直腸瘤、直腸重積など(狭窄を伴わない形態異常) ・二次性便秘症  薬剤性:抗コリン薬、オピオイド、抗精神病薬、カルシウム拮抗薬、鉄剤など  症候性:糖尿病、甲状腺機能低下症、Parkinson病、強皮症、高カルシウム血症など  狭窄性器質性:大腸癌、炎症性腸疾患やその他の原因による腸管狭窄

警告症状(アラームサイン)

50歳以上での新たな発症、体重減少、血便、貧血、発熱、腹部腫瘤、大腸癌の家族歴などがある場合は、大腸内視鏡などで器質的疾患を除外する。

慢性便秘症の治療

1.生活習慣の改善:食物繊維・水分の摂取、適度な運動、朝食後など決まった時間に排便を試みる習慣づくり(胃結腸反射の利用) 2.薬物療法  浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ポリエチレングリコール、ラクツロース):第一選択  上皮機能変容薬(ルビプロストン:クロライドチャネル活性化薬、リナクロチド:グアニル酸シクラーゼC受容体作動薬):腸管内への水分分泌を促す  胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット):大腸内に流入する胆汁酸を増やして水分分泌と大腸運動を促す  刺激性下剤(センノシド、ビサコジルなど):効果は確実だが連用で耐性を生じやすく、頓用・短期使用が基本  プロバイオティクス:腸内環境の改善 3.排便困難型で骨盤底筋協調障害(排便時に肛門括約筋が弛緩しない)がある場合はバイオフィードバック療法も選択肢となる。

POINT

・慢性便秘症=兎糞状便・硬便・排便回数減少、怒責・残便感などの症状が6か月以上続く状態 ・中高年の便通異常ではまず大腸癌などの器質的疾患を除外する ・治療の基本は生活習慣の改善(食物繊維・水分・運動) ・薬物療法の第一選択は浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど)。高マグネシウム血症に注意 ・刺激性下剤や浣腸の常用は避ける。安静や抗菌薬は不要

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。