卵管は通っている―原因不明不妊で「しなくていい手術」を見抜く
第120回医師国家試験 C問題 第57問
国試問題にチャレンジ
35歳の女性(0妊0産)。挙児を希望して来院した。1年前に結婚してから避妊はしておらず,1か月に1回程度の性交があり,軽度の性交痛がある。初経12歳。月経周期は30~40日型,整,持続6日間。月経痛は認めない。基礎体温は2相性である。身長162cm,体重55kg。内診で子宮は正常大で,両側付属器は触知しない。血液生化学所見(月経3日目):LH 5.2mIU/mL(基準1.8~7.6),FSH 8.2mIU/mL(基準5.2~14.4),プロラクチン〈PRL〉8.6ng/mL(基準15以下),エストラジオール42pg/mL(基準25~75),テストステロン60ng/dL(基準30~90)。夫の精液検査は正常である。子宮卵管造影像(A,B)を下に示す。 治療で適切でないのはどれか。

- a.人工授精
- b.卵管形成術
- c.性交時期の指導
- d.クロミフェン療法
- e.ゴナドトロピン療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
不妊症の評価では、排卵因子、子宮・卵管因子、男性因子を順に確認し、いずれにも異常がなければ原因不明不妊(機能性不妊)と考えます。基礎体温2相性で排卵があり、ホルモン値・精液検査が正常で、子宮卵管造影で両側卵管が描出され腹腔内へ造影剤が流出していれば、卵管の疎通性は正常であり卵管形成術の適応はありません。原因不明不妊ではタイミング法から始め、クロミフェンやゴナドトロピンによる排卵誘発、人工授精、生殖補助医療へとステップアップし、性交痛などの性交障害は人工授精の適応にもなります。35歳以上では早めのステップアップを検討し、性交痛から子宮内膜症の可能性にも目を向けることが大切です。検査結果に基づいて「必要な治療」と「不要な治療」を区別する姿勢は、不妊診療全体の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・35歳、0妊0産。結婚後1年間、避妊せずに性生活があるが妊娠しない。日本産科婦人科学会の定義(妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交しているにもかかわらず、一定期間(一般に1年)妊娠しない状態)から不妊症と考えられる。35歳以上であり、原因検索と治療を速やかに進めるべき年齢である。 ・性交は月1回程度と少なく、軽度の性交痛がある。性交の機会が排卵期と重ならない可能性や、性交痛のために性交が十分に行えない可能性がある。 ・月経周期は30~40日型とやや長めで幅があるが、基礎体温は2相性であり排卵は起きている。ただし周期の幅が大きいため排卵日の予測が難しく、性交のタイミングがずれやすい。 ・BMI(体格指数)は約21で、やせや肥満による排卵障害は考えにくい。 ・内診で子宮は正常大、付属器は触知せず、子宮筋腫や卵巣腫瘍などの腫瘤性病変はない。 ・月経3日目のLH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、プロラクチン、エストラジオール、テストステロンはいずれも基準範囲内であり、高プロラクチン血症、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:LH高値やアンドロゲン高値を伴いやすい)、卵巣機能低下(FSH高値)は示唆されない。 ・夫の精液検査は正常で、男性因子は否定的である。 ・子宮卵管造影(HSG:子宮内に造影剤を注入し、子宮腔の形と卵管の通り具合をX線で確認する検査)では、Aで子宮腔は正常な逆三角形を示し、両側卵管が拡張なく描出されて腹腔内へ造影剤が流出している。Bの翌日撮影像では造影剤が骨盤腔内に均一に広がっており、卵管周囲癒着を疑わせる局在した貯留像はない。卵管の疎通性は保たれ、子宮因子・卵管因子は認められない。
診断の考え方
女性側の排卵因子・子宮因子・卵管因子、男性因子のいずれにも明らかな異常がなく、原因不明不妊(機能性不妊)に相当する。ただし、性交回数の少なさや性交痛(子宮内膜症の存在も念頭に置くべき症状)、排卵日の予測しにくさといった、妊娠成立を妨げうる要素は存在する。
設問の考え方
原因不明不妊では、一般不妊治療としてタイミング法(性交時期の指導)から始め、必要に応じて排卵誘発(クロミフェン、ゴナドトロピン)、人工授精とステップアップし、それでも妊娠しなければ体外受精などの生殖補助医療(ART)へ進む。本例の年齢を考えればステップアップを早めに検討する必要もある。一方、卵管の疎通性が確認されている本例に、卵管の狭窄・閉塞を治療する手術を行う意味はない。
選択肢考察
- ×a. 人工授精
人工授精(配偶者間人工授精:AIH)は、洗浄・濃縮した精子を排卵期にカテーテルで子宮腔内に注入する方法である。適応は性交障害、精液所見の軽度低下、頸管粘液不全、原因不明不妊でタイミング法が奏効しない場合などである。本例は性交痛があり性交回数も少ないため、排卵期に確実に精子を子宮内へ届けられる人工授精は有効な選択肢となる。卵管の疎通性が保たれていることも人工授精の前提条件を満たしている。適切な治療である。
- ○b. 卵管形成術
卵管形成術は、卵管の狭窄や閉塞(特に子宮に近い卵管間質部・峡部の病変)に対し、卵管鏡下にバルーンカテーテルで狭窄・閉塞部を押し広げて再開通させる治療(卵管鏡下卵管形成術:FT)などを指す。卵管性不妊が適応である。本例の子宮卵管造影では両側卵管が描出され腹腔内への造影剤流出も確認でき、卵管の通過性は正常であるため、卵管形成術を行う理由がない。したがって適切でない治療である。
- ×c. 性交時期の指導
性交時期の指導(タイミング法)は、超音波による卵胞径の計測や尿中LHの測定などで排卵日を推定し、最も妊娠しやすい排卵の2日前頃から排卵日までに性交をもつよう指導する方法である。精子は女性の生殖管内で数日間受精能を保つ一方、卵子の受精可能時間は排卵後およそ1日以内と短いため、排卵前の性交が重要となる。本例は排卵はあるものの月経周期が30~40日と幅があって排卵日を予測しにくく、性交も月1回程度と少ないため、排卵期と性交がずれている可能性が高い。原因不明不妊の第一段階として適切な治療である。
- ×d. クロミフェン療法
クロミフェンは経口の排卵誘発薬で、視床下部のエストロゲン受容体に結合してエストロゲンのネガティブフィードバックを遮断し、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)分泌、ひいてはFSH・LH分泌を増加させて卵胞発育を促す。主な適応は排卵障害(第1度無月経、無排卵周期症、希発月経など)であるが、排卵のある原因不明不妊でも、排卵時期を予測しやすくし、タイミング法や人工授精の精度・妊娠率を高める目的で用いられる。本例は排卵があっても周期が不安定であり、適応となりうる。
- ×e. ゴナドトロピン療法
ゴナドトロピン療法は、FSH製剤やhMG(ヒト閉経期ゴナドトロピン)製剤を注射して卵胞を直接発育させ、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)などで排卵を誘起する方法である。第2度無月経やクロミフェン無効例が主な適応だが、タイミング法・人工授精で妊娠しない原因不明不妊において、卵胞発育を促し排卵時期を管理する目的でも用いられる。本例でもクロミフェンで効果が得られない場合の次の段階として選択肢となりうる。卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多胎妊娠のリスクがあり、超音波で卵胞をモニタリングしながら行う。
不妊症の主な原因
・女性因子:排卵因子(視床下部・下垂体性、PCOS、高プロラクチン血症、甲状腺機能異常、早発卵巣不全など)、卵管因子(クラミジア感染症後の閉塞・癒着、子宮内膜症など)、子宮因子(子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮奇形、子宮腔癒着症)、頸管因子、免疫因子(抗精子抗体) ・男性因子:造精機能障害(精索静脈瘤など)、精路通過障害、性機能障害 ・原因不明不妊(機能性不妊):一般的な検査で異常が見つからないもの
基本的な検査
基礎体温測定、月経周期に合わせたホルモン検査(LH、FSH、エストラジオール、プロラクチン、テストステロンなど)、経腟超音波、子宮卵管造影、精液検査、クラミジア抗体検査など。子宮卵管造影は卵管の疎通性を評価するとともに、検査後に一時的に妊娠しやすくなる治療的効果もあるとされる。
一般的な治療のステップ
タイミング法 → 排卵誘発(クロミフェン、レトロゾールなど経口薬 → ゴナドトロピン注射)→ 人工授精(AIH)→ 生殖補助医療(ART:体外受精・胚移植、顕微授精) 女性の年齢が高い場合や、両側卵管閉塞・高度の男性不妊などでは早期にARTを検討する。2022年からは一般不妊治療・ARTともに保険適用となっている。
卵管性不妊への治療
近位部の狭窄・閉塞には卵管鏡下卵管形成術(FT)、遠位部の閉塞・卵管留水症には腹腔鏡下卵管開口術などが行われる。病変が高度な場合や手術後も妊娠しない場合は体外受精の適応となる。
POINT
・子宮卵管造影で卵管が描出され腹腔内へ造影剤が流出していれば卵管の疎通性は正常であり、卵管形成術の適応はない ・基礎体温2相性=排卵あり。ホルモン値正常、精液所見正常、子宮・卵管正常なら原因不明不妊 ・原因不明不妊の治療はタイミング法 → 排卵誘発 → 人工授精 → ARTの順にステップアップ ・性交障害(性交痛など)は人工授精の適応となりうる ・35歳以上では年齢を考慮し早めのステップアップを検討する
