写っているのは病変か、偽像か―胸部CTでアーチファクトを生む「金属」と「動き」
第120回医師国家試験 C問題 第59問
国試問題にチャレンジ
82歳の男性。脳梗塞による左片麻痺,脳血管性認知症のため入院中である。寝たきりの状態で経口摂取が困難であり,①経鼻経管栄養を行っている。右胸部違和感を訴え,今朝血痰を認めた。既往歴に慢性閉塞性肺疾患,脂質異常症,高血圧症および完全房室ブロックがある。過去の胸部単純CTでは②気腫性変化が著明であった。また③大動脈の石灰化を指摘されており,④心臓ペースメーカ植え込み術を受けている。喫煙は20本/日を52年間。意思疎通は可能であるが,⑤絶えず右半身を動かしておりじっとしていられない。胸部エックス線写真で右肺野に結節影が疑われる。原因検索のため,胸部単純CTを行うこととした。 下線部のうち,この患者の胸部単純CTで,アーチファクトの原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
CTのアーチファクトとは、実際には存在しない偽像や撮影・再構成に伴う画像の乱れのことで、肺気腫の低吸収域や大動脈石灰化のように病変そのものを反映した所見とは区別する必要があります。代表的な原因は、ペースメーカなど金属によるメタルアーチファクト(放射状のストリーク)と、撮影中の体動や呼吸、心拍動によるモーションアーチファクト(ボケや二重像)です。樹脂製の経鼻栄養チューブは、問題となるアーチファクトを通常生じません。軽減策として、撮影前の説明や固定、短時間撮影、必要時の鎮静、心電図同期、金属アーチファクト低減再構成などがあり、ペースメーカ患者ではMRIの適否にも注意が必要です。画像の成り立ちを理解しておくことは、検査を適切にオーダーし、画像所見を正しく読み取るための基盤となります。
解答・解説
正解はd, eです
症例の整理
82歳男性。脳梗塞後の左片麻痺と脳血管性認知症で寝たきりとなり、経鼻経管栄養を受けている。重喫煙歴(20本/日×52年=ブリンクマン指数1,040)とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)があり、右胸部違和感と血痰が出現し、胸部エックス線写真で右肺野に結節影が疑われている。肺癌を含む結節性病変の精査のため胸部単純CTを行う場面である。既往に完全房室ブロックがあり、そのためにペースメーカが植え込まれている。また意思疎通は可能だが、右半身(麻痺のない側)を絶えず動かしてじっとしていられない。
CTのアーチファクトとは
アーチファクトとは、実際の被写体には存在しないのに画像上に現れる偽像、または撮影・再構成の過程で生じる画像の乱れのことである。CTは多方向から照射したエックス線の減弱(投影データ)を集め、計算によって断面像を再構成する。そのため、①投影データの収集中に被写体が動く、②エックス線をほとんど通さない高吸収物質(金属など)が存在して投影データが極端に欠落・歪む、といった状況では再構成に誤差が生じ、画像に筋状の線(ストリーク)やボケ、ずれが現れる。
設問の考え方
下線部それぞれについて、「患者自身の病変として画像に写る真の所見」なのか、「撮影の障害となり偽像を生じる要因」なのかを区別する。気腫性変化や大動脈石灰化は前者であり、病変そのものが映っているにすぎない。一方、金属を含む植込み機器(ペースメーカ)と撮影中の体動は、それぞれメタルアーチファクトとモーションアーチファクトの典型的な原因である。
選択肢考察
- ×a. ①
経鼻経管栄養チューブは、ポリ塩化ビニル、シリコーン、ポリウレタンなどの樹脂でできており、金属は含まれない。位置確認用にエックス線不透過のライン(造影性のある素材)が入っている製品もあるが、細く少量であるため問題となるアーチファクトは生じない。なお、挿入時に用いる金属製のガイドワイヤー(スタイレット)は留置後に抜去されている。CTでもチューブは単に細い管状構造として描出されるだけである。
- ×b. ②
肺気腫では肺胞壁が破壊されて含気が増えるため、CTで肺野の吸収値が低下し、周囲の正常肺より黒い低吸収域(LAA:low attenuation area)として描出される。これは病変そのものを反映した真の所見であり、画像の偽像(アーチファクト)ではない。COPDの重症度評価にはむしろCTが有用である。
- ×c. ③
大動脈の石灰化は、血管壁へのリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)の沈着であり、CTでは高吸収の病変として実際の所見が描出されるにすぎない。骨と同程度の吸収値で、金属に比べてエックス線の減弱ははるかに小さく、体積も限られるため、ストリーク状のアーチファクトを生じることは通常ない(非常に高度な石灰化では辺縁が実際より大きく見えるブルーミングを生じることはあるが、本設問で問われる撮影上の障害とはいえない)。
- ○d. ④
心臓ペースメーカは、本体(ジェネレータ)がチタン製のケースに電池・回路を収めたものであり、リード先端の電極などにも金属が使われている。金属はエックス線を強く減弱させるため、その方向の投影データが極端に不足したり、ビームハードニング(透過する間に低エネルギーのエックス線が選択的に吸収され、平均エネルギーが上がる現象)が強く起きたりして、金属から放射状に伸びる白黒の筋状陰影(メタルアーチファクト)が生じる。胸部CTでは撮影範囲に必ず含まれ、さらに心拍動に伴ってリードが動くため、モーションアーチファクトも加わりやすい。アーチファクトの原因となる。
- ○e. ⑤
投影データの収集中に被写体が動くと、異なる位置の情報が混在したまま画像が再構成されるため、像のボケ、二重像、ストリーク状の陰影などのモーションアーチファクトが生じる。本例は意思疎通は可能であるが右半身を絶えず動かしてじっとしていられないため、撮影中の体動が避けにくい。肺結節の評価では小さな病変や辺縁の性状がボケによって不明瞭になり、診断精度が低下する。撮影前の十分な説明、体位の固定、短時間撮影などの工夫が必要となり、場合によっては鎮静も検討される。アーチファクトの原因となる。
CTで生じる主なアーチファクト
・被写体(患者)に起因するもの モーションアーチファクト:体動、呼吸、心拍動、腸管蠕動など。ボケ、二重像、ストリーク メタルアーチファクト:ペースメーカ、人工関節、歯科金属、手術用クリップ、塞栓コイルなど。放射状のストリーク ビームハードニングアーチファクト:骨など高吸収構造の間に生じる暗い帯状陰影(後頭蓋窩の錐体骨間など) ・撮影条件・再構成に起因するもの 部分容積効果(パーシャルボリューム効果):1つの画素(ボクセル)に異なる組織が混在し、吸収値が平均化される 被写体が撮影視野外にはみ出すことによるアーチファクト 線量不足による量子ノイズ(体格の大きい患者、肩周囲など) ・装置に起因するもの リングアーチファクト:検出器の不良による同心円状の偽像
アーチファクトの軽減策
・体動:撮影前の説明、固定具の使用、息止めの練習、高速撮影(多列検出器CT)、必要に応じて鎮静 ・心拍動:心電図同期撮影 ・金属:撮影角度の工夫、高管電圧での撮影、金属アーチファクト低減再構成(MAR)、デュアルエナジーCTによる仮想単色X線画像
ペースメーカと画像検査
CTは原則としてペースメーカ植込み患者でも施行可能だが、本体に連続して強いエックス線が当たると誤作動の報告があるため、本体部分への照射時間を短くする配慮がされる。MRIは条件付きMRI対応機種以外では原則禁忌であり、対応機種でも設定変更などの決められた手順が必要である。
POINT
・CTのアーチファクトは「実際には存在しない偽像・画像の乱れ」であり、病変そのもの(気腫、石灰化)とは区別する ・メタルアーチファクト:ペースメーカなど金属による放射状のストリーク ・モーションアーチファクト:体動・呼吸・心拍動によるボケや二重像 ・経鼻胃管は樹脂製で問題となるアーチファクトを生じない ・ペースメーカ患者のMRIは条件付き対応機種以外は原則禁忌
