「息をしない患者」をCT室へ―移動前に必ず整えるべき気道と換気
第120回医師国家試験 E問題 第4問
国試問題にチャレンジ
循環は保たれているが,自発呼吸がみられない患者に緊急頭部CTを行う場合の呼吸管理で適切なのはどれか。
- a.酸素マスク
- b.経口エアウェイ挿入
- c.気管挿管による人工呼吸
- d.非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉
- e.緊急気管切開による人工呼吸
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
自発呼吸のない患者では、気道を開通させるだけでなく陽圧で換気を代行する必要があり、CT室への移動や撮影を伴う場合は気管挿管による人工呼吸で確実な気道確保・誤嚥防止・安定した換気を保証してから向かうのが原則です。酸素マスクや経口エアウェイは換気を行わず、NPPVは自発呼吸と意識・協力が前提のため呼吸停止例には禁忌です。緊急の外科的気道確保は気管切開ではなく輪状甲状膜穿刺・切開であり、気管切開は主に待機的に行います。CT室は急変対応が難しい場所であるため、ABCDEアプローチに沿って初療室で安定化させてから検査に進むという考え方は、救急診療全般の安全の基本となります。
解答・解説
正解はcです
救急初療ではABCDEアプローチ(A: 気道、B: 呼吸、C: 循環、D: 中枢神経、E: 脱衣と体温)に沿って、生命に直結する問題から順に安定化させる。本問の患者は循環(C)は保たれているが、自発呼吸がない、つまり呼吸停止の状態である。自発呼吸がないということは、気道を開通させるだけでは肺に空気が出入りせず、外から陽圧で換気を代行しなければ低酸素血症と高二酸化炭素血症が進行し、やがて心停止に至る。 さらに本問では、救急外来からCT室へ移動し、検査中は医療者が患者のそばを離れたり、頭部や体位を自由に動かせなかったりする。バッグバルブマスク(BVM)による用手換気は一時的な換気手段として有効だが、移動や撮影の間に確実に続けることは難しく、胃への送気による嘔吐・誤嚥の危険もある。 したがって、①気道を確実に確保し、②誤嚥から気道を守り、③人工呼吸器で安定した換気を保証できる方法として、気管挿管による人工呼吸を行ったうえでCTに向かうのが適切である。自発呼吸のない昏睡患者は意識障害も高度(例えばGCS 8以下)であり、その点からも気管挿管の適応となる。挿管までの間はBVMで換気・酸素化を維持する。
選択肢考察
- ×a. 酸素マスク
酸素マスクは吸入気の酸素濃度を高める器具であり、患者自身が呼吸していることが前提となる。自発呼吸がなければ酸素は肺に送り込まれず、換気も酸素化も得られないため不適切である。
- ×b. 経口エアウェイ挿入
経口エアウェイは舌根沈下による上気道閉塞を防ぐ補助器具で、気道の開通を助けるだけで換気そのものは行えない。BVM換気の補助として用いることはあるが、単独では自発呼吸のない患者の呼吸を保証できない。また誤嚥を防ぐ効果もない。
- ○c. 気管挿管による人工呼吸
気管チューブを気管内に留置し、カフで気道を密閉することで、確実な気道確保・誤嚥防止・陽圧換気がすべて可能になる。人工呼吸器に接続すれば、搬送中やCT撮影中も設定した換気量・回数で安定した換気を維持でき、呼吸停止患者を検査に移動させる際の標準的な対応である。挿管後はカプノメトリ(呼気CO2モニター)などでチューブ位置を確認してから移動する。
- ×d. 非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉
NPPVはマスクを介して陽圧換気を補助する方法で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪や心原性肺水腫などで用いられる。自発呼吸があり、意識が保たれて気道を自分で守れ、マスクの装着に協力できることが前提であり、呼吸停止・高度意識障害は禁忌である。気道が保護されないため誤嚥の危険も高い。
- ×e. 緊急気管切開による人工呼吸
気管切開は手技に時間がかかり出血などの合併症もあるため、緊急時の第一選択ではない。まず経口気管挿管を行う。挿管もマスク換気もできない状態(CICO: cannot intubate, cannot oxygenate)での外科的気道確保としては、より迅速に行える輪状甲状膜穿刺・切開が選ばれる。気管切開は長期人工呼吸が必要になった場合などに待機的に行う。
気道確保・呼吸補助の手段と前提条件
・酸素マスク・鼻カニューラ: 自発呼吸があり、気道が開通していることが前提。酸素化の改善のみ。 ・頭部後屈あご先挙上、下顎挙上、経口・経鼻エアウェイ: 上気道の開通を助ける。換気はしない。 ・バッグバルブマスク(BVM): 自発呼吸がなくても用手的に陽圧換気ができる。一時的手段で、胃膨満・誤嚥の危険がある。 ・声門上器具(ラリンゲアルマスクなど): 挿管困難時の代替。誤嚥防止効果は気管挿管より劣る。 ・気管挿管: 確実な気道確保、誤嚥防止、陽圧換気が可能。気道確保の最も確実な方法。 ・NPPV: 自発呼吸・意識・協力があることが前提。 ・輪状甲状膜穿刺・切開: 挿管不能かつ酸素化不能(CICO)時の緊急外科的気道確保。 ・気管切開: 主に長期人工呼吸管理などで待機的に行う。
気管挿管の主な適応
・呼吸停止、心停止 ・気道閉塞またはその危険(顔面外傷、気道熱傷、アナフィラキシーによる喉頭浮腫など) ・高度意識障害(GCS 8以下が目安)で気道防御反射が失われている場合 ・酸素投与やNPPVでも改善しない低酸素血症・高二酸化炭素血症 ・不穏などで安全な検査・処置ができない場合
CTなどへの移動時の原則
「死のトンネル」とも言われるように、CT室は急変時の対応が難しい場所である。ABCが安定していない患者は、まず初療室で安定化させてから検査に向かう。
POINT
・自発呼吸がない患者には「気道確保」だけでなく「換気の代行」が必要。 ・CTなど移動・検査を伴う場合は、気管挿管による人工呼吸で確実な気道と換気を確保してから行う。 ・酸素マスク・エアウェイは換気をしない。NPPVは自発呼吸と意識があることが前提。 ・緊急の外科的気道確保は気管切開ではなく輪状甲状膜穿刺・切開。
