膨らむみぞおち、反応しないCO2検出器―「疑わしければ抜け」食道挿管への即断
第113回医師国家試験 E問題 第23問
国試問題にチャレンジ
急性呼吸不全をきたした成人患者に対して,バッグバルブマスク換気の後に気管挿管を行った。用手的に送気を行い,聴診による気管チューブの位置確認を行ったところ,心窩部が膨隆してきた。装着していたCO2検出器ではCO2が検出されなかった。 適切な対応はどれか。
- a.直ちに気管チューブを抜去する。
- b.バルーンカフへ空気を追加注入する。
- c.気管チューブへの送気を2分間継続する。
- d.気管チューブを更に3cm挿入して送気する。
- e.気管チューブ内にカテーテルを挿入して吸引する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
気管挿管後に送気で心窩部が膨隆し、呼気CO2が検出されない場合は、チューブが食道に入った食道挿管と判断します。食道挿管のままでは肺が換気されず、低酸素血症から心停止に至る危険があるうえ、胃の膨満による嘔吐・誤嚥や胃破裂も招きうるため、直ちにチューブを抜去し、バッグバルブマスクで酸素化してから再挿管するのが原則です(When in doubt, take it out)。カフへの空気追加は送気の漏れ、チューブの深さ調整は浅すぎや片肺挿管、チューブ内吸引は分泌物による閉塞に対する処置であり、位置の誤りそのものは解決しません。位置確認では身体所見に加えて波形カプノグラフィによる持続的な呼気CO2の確認が最も信頼でき、心停止中は気管内でもCO2が低値になりうる点や、食道挿管でも初回数回はCO2が出うる点に注意が必要です。トラブルの原因ごとに適切な処置を対応づけて理解しておくことは、救急や麻酔の現場で患者の命を守る判断の土台になります。
解答・解説
正解はaです
気管挿管直後にチューブの位置確認で異常が見つかった場面での対応を問う問題である。
所見の整理
・用手的に送気(バッグで換気)すると心窩部(みぞおち)が膨らんできた。 →送り込んだ空気が肺ではなく胃に入っていることを示す。聴診では、胸部で呼吸音が聞こえず、心窩部でゴボゴボという送気音が聞こえる状況が想定される。 ・CO2検出器でCO2が検出されない。 →呼気中の二酸化炭素(CO2)は肺から排出されるので、チューブ先端が気管内にあれば通常は呼気のたびにCO2が検出される。検出されないことは、チューブが気道内に入っていないことを強く示す。
判断
この二つの所見から、気管チューブは誤って食道に挿入されている(食道挿管)と判断できる。
考え方
食道挿管のままでは肺がまったく換気されず、急性呼吸不全の患者はただちに重篤な低酸素血症に陥り、心停止に至りうる。さらに送気を続けると胃が膨満し、嘔吐による誤嚥、横隔膜の挙上による換気障害、ひいては胃破裂の危険も生じる。したがって、誤挿入と判断したら、チューブにこだわらずすぐに抜去し、バッグバルブマスク換気で酸素化を回復させてから再挿管を試みるのが原則である("When in doubt, take it out":疑わしければ抜去せよ)。 なお、心停止中の患者では肺血流が乏しいため、正しく気管内に挿管されていてもCO2が検出されにくいことがある。しかし本問は心停止ではない急性呼吸不全の患者であり、心窩部膨隆という所見も合わせれば食道挿管と判断してよい。
選択肢考察
- ○a. 直ちに気管チューブを抜去する。
心窩部の膨隆とCO2が検出されないことから食道挿管と判断される。食道に入ったチューブからいくら送気しても肺は換気されず、時間がたつほど低酸素が進み、胃の膨満による嘔吐・誤嚥の危険も高まる。したがって直ちにチューブを抜去し、バッグバルブマスクで十分に換気・酸素化を行ったうえで、改めて喉頭展開(必要ならビデオ喉頭鏡などを用いて)を行い再挿管する。膨らんだ胃は、必要に応じて胃管を挿入して減圧する。
- ×b. バルーンカフへ空気を追加注入する。
カフは気管チューブ先端付近の風船で、膨らませることで気管壁との隙間を塞ぎ、送気の漏れや誤嚥を防ぐ役割をもつ。カフに空気を追加するのは、チューブが正しく気管内にあって送気が漏れる場合の対処であり、チューブの位置そのものの誤りは解決しない。食道内でカフを過剰に膨らませれば食道粘膜を傷つけるおそれもある。
- ×c. 気管チューブへの送気を2分間継続する。
チューブは食道内にあるため、送気を続けても肺には酸素が届かない。その間に患者は高度の低酸素血症に陥り、心停止に至る危険がある。さらに胃への送気が続くことで胃が膨満し、嘔吐・誤嚥、横隔膜挙上による換気障害、胃破裂を招きうる。送気を続けることは時間の浪費であり、有害である。
- ×d. 気管チューブを更に3cm挿入して送気する。
チューブを深く進めるのは、チューブが浅すぎて先端が声門付近にある場合などの調整である。本問ではチューブが食道に入っているので、さらに進めても食道や胃の奥に入るだけで気管には入らない。逆に、正しく気管挿管されている場合でも深く入れすぎると片肺挿管(多くは右主気管支)となるため、挿管後の深さは成人で口角から男性約22〜23cm、女性約21cmが目安とされる。
- ×e. 気管チューブ内にカテーテルを挿入して吸引する。
チューブ内の吸引は、気管内に正しく留置されたチューブが痰や血液、分泌物で詰まり、換気が妨げられている場合の対処である。本問の問題はチューブ内の閉塞ではなく、チューブが食道に入っていることであるため、吸引をしても換気は改善しない。
気管挿管後のチューブ位置確認法
・身体所見:送気に合わせた胸郭の左右対称な挙上、両側胸部(左右の前胸部・腋窩)での呼吸音の聴取、心窩部で送気音が聞こえないこと、チューブ内壁の呼気による曇り。いずれも単独では確実ではない。 ・呼気CO2の確認:比色式CO2検出器(呼気CO2があると色が変わる)や、波形を連続表示するカプノグラフィ(呼気終末二酸化炭素分圧:EtCO2の測定)。特に波形のあるカプノグラフィは、気管内にあることを確認する最も信頼性の高い方法とされ、挿管後の位置確認と、搬送中などのチューブ逸脱の監視に推奨される。 ・食道挿管検知器(EDD):シリンジや球状のバルブで吸引し、食道内なら壁が虚脱して吸引できないことを利用する。 ・画像:胸部X線写真でチューブ先端の深さ(気管分岐部の上方数cmが目安)を確認する。ただし食道挿管と気管挿管の区別にはあまり役立たない。
食道挿管の注意点
・認識されないまま放置されると、低酸素による脳障害・心停止に直結する、避けるべき重大な合併症である。 ・食道挿管でも、直前のマスク換気で胃に入った空気に由来するCO2が最初の数回だけ検出されることがある。数回の呼吸のあとも持続してCO2が検出されることを確認する。 ・心停止中は肺血流が少ないため、気管内でもCO2が低値・未検出となることがあり、解釈に注意を要する。
その他の挿管合併症
片肺挿管(右主気管支への深すぎる挿入)、歯牙損傷、喉頭・咽頭の損傷、誤嚥、挿管操作による低酸素や徐脈・不整脈など。
POINT
・送気で心窩部が膨隆し、呼気CO2が検出されなければ食道挿管である。 ・食道挿管と判断したら、直ちにチューブを抜去し、マスク換気で酸素化してから再挿管する(疑わしければ抜去)。 ・挿管位置確認には聴診・胸郭の動きに加え、呼気CO2の確認(特に波形カプノグラフィ)が最も信頼できる。 ・心停止中は気管内でもCO2が検出されにくいことがある。
